高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは脱石油を進める湾岸諸国のアフリカ鉱物資源を巡る動向

2026年1月28日

湾岸協力会議(GCC)諸国を中心に中東諸国がアフリカとの連携を強化している(2025年4月11日付地域・分析レポート参照)。その中で鉱業での協力や投資が加速している。国際エネルギー機関(IEA)も、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)を含む中東からのアフリカへの鉱業関連の投資が増えていることを報告している。例えば、UAE政府は2023年、コンゴ民主共和国の国営鉱山会社サキマと鉱山開発のパートナーシップ協定に署名。投資額は19億ドルに上るという(2025年6月23日付地域・分析レポート参照)。また、2024年12月にはオマーンが、アンゴラから鉱山の権益を獲得する覚書(MOU)を締結した。

こうした動きは、脱石油を進める湾岸諸国の、重要鉱物資源確保のための動きと見られる。また、今後、湾岸諸国のアフリカでの鉱業関連の投資拡大が見込まれる中、湾岸諸国との協業は、日本にとっても資源確保やアフリカ市場開拓の好機となり得る。

そこで本稿では、湾岸諸国のアフリカにおける鉱業関連の取り組みに焦点を当て、概説する。

アフリカの鉱物資源と、湾岸諸国の鉱業戦略

IEAが2025年5月に発表した重要鉱物に関する報告書「Global Critical Minerals Outlook 2025外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」によると、2024年にアフリカは世界全体のリチウム生産量の11%、銅生産量の17%、コバルト生産量の7割を占めた。特に、コンゴ民主共和国は1カ国で世界のコバルト生産量の66.5%を占める。南アフリカ共和国も、プラチナなど白金族金属の世界供給のシェアが55.3%と高く、マンガンもシェア49.3%となっている(2025年5月30日付ビジネス短信参照、図1参照)。

図1:2024年のアフリカの鉱物生産シェア
アフリカ全体で世界全体のリチウム生産量の11%、銅生産量の17%、コバルト生産量の7割を占めた。特に、DRCは1カ国で世界のコバルト生産量の66.5%を占める。南アフリカ共和国も、プラチナなど白金族金属の世界供給のシェア55.3%と高く、マンガンもシェア49.3%となっている。

出所:IEAを基にジェトロ作成

また、埋蔵量のシェアを見ても、アフリカは以下のとおり白金族金属やコバルトで高い世界シェアを誇っている。

  • 白金族金属:79.3%
  • コバルト:57.0%
  • マンガン:37.3%
  • ボーキサイト:25.5%
  • グラファイト:24.1%

IEAは、風力や太陽光などの再生可能エネルギー(再エネ)技術に使用される重要鉱物について、アフリカの市場規模は2030年までに約65%拡大すると予測している。さらに、アフリカ諸国は、重要鉱物の現地加工や二国間協力、サプライチェーンの透明性確保を通して、自国資源の活用と経済効果の最大化を目指しているとした。

一方、前述のIEAの報告によると、中東諸国の重要鉱物の生産シェアは非常に低い(図2参照)。また、埋蔵量のシェアも銅が2.2%、亜鉛が2.1%、ボーキサイトが0.6%にとどまっている。IEAは、中東諸国は鉱業を経済多様化の戦略的柱と位置付け、バリューチェーン全体にわたる長期的な投資を進めているとしている。

図2:2024年の中東の鉱物生産シェア
銅の産出量シェアは2.0%、亜鉛が1.3%、ボーキサイトが1.3%、銀が0.2%となっている。

出所:IEAを基にジェトロ作成

例えば、サウジアラビアでは、金、亜鉛、ウランなど45種類以上の鉱物が確認されており、鉱業を石油、石油化学製品に並ぶ国の経済の柱とする方針を掲げている。同国は世界市場へのアクセスを活用した、鉱物のバリューチェーン構築に注力しており、主に投資機会の発掘などを行っている。さらに、2020年に新たな鉱業投資法が承認され、サウジアラビアの鉱業分野の改革と国内外からの投資促進も図っている(2020年6月12日付ビジネス短信参照)。2025年11月30日~12月1日にかけて東京で開催された投資イベント「FII Priority Asia Summit」でも、サウジアラビアの政府系投資ファンドの公共投資基金(PIF)総裁が「PIFが出資する鉱業会社マーデン(Maaden)は、原油・ガス採掘経験が豊富なアラムコとの連携と人工知能(AI)の活用で、重要鉱物やレアアースの採掘時間を大きく削減できる可能性がある」と語った(2025年12月3日付ビジネス短信参照)。サウジアラビア国営通信(SPA)によると、同国の鉱物探査のための支出は過去5年間で5倍になり(2026年2026年1月15日付SPA)、鉱業分野への投資を2024年の約450億リヤル(約1兆8,900億円、1リヤル=約42円)から、2030年には倍以上の約920億リヤルにすることを目指すという(2026年1月14日付SPA)。

また、UAEは2023年「鉱物資源戦略」を発表し、非石油部門GDPに占める鉱業部門の割合を2030年までに5%に引き上げることや、国内鉱業企業を10%増やすことを目指している。

湾岸諸国によるアフリカ向け鉱物関連の連携・投資が進む

サウジアラビアやUAEは、国内鉱業の強化にとどまらず、アフリカとの連携や投資も積極的に進めている。

サウジアラビアは、産業・鉱物資源省主催で2023年に開催された「サウジアラビア鉱物資源未来フォーラム(FUTURE MINERALS FORUM)」において、アフリカの金属鉱物資源開発に向けた投資環境も紹介した。2023年11月8日付のSPAは、同国はアフリカ11カ国(ザンビア、セネガル、ジンバブエ、コンゴ共和国、アンゴラ、南アフリカ共和国、ギニア、チャド、モーリタニア、モロッコ、エジプト)と鉱業分野のMOU締結に向けて交渉していると報じた。実際に、2024年にエジプト、モロッコ、コンゴ民主共和国と(2024年1月11日付SPA)、2025年にジブチ、ザンビアと(2025年1月14日付SPA)、それぞれ鉱業・鉱物関連のMOUを締結している。2026年1月のFUTURE MINERALS FORUMのパネルディスカッションには、コンゴ民主共和国の鉱山相も参加した(2026年1月21日付ビジネス短信参照)。

また、UAEでもエネルギー・インフラ省後援の「鉱業会議2024(Mining Show 2024)」で、同国が国内向けの投資に加え、リチウムや銅などのアフリカの重要鉱物への投資を進めていることが示された。

こうした動きは、産油国を中心とする湾岸諸国が鉱物関連でアフリカとの連携を強化し、投資を積極的に進めていることを示している。最近の事例では、2025年7月にUAEのアブダビを拠点に観光・投資・メディア事業を展開する複合企業グループのNG9がコンゴ民主共和国で銅やコバルトの精製・取引を行うブエナサ(BUENSSA)と、銅とコバルトを精製する複合施設の開発で協力していくことを発表した。そのほかにも複数の湾岸諸国機関・企業がアフリカでの鉱物関連の連携や投資を進めている(表参照)。

表:湾岸諸国企業のアフリカへの鉱物関連での連携・投資の例
年月 湾岸諸国側の企業名 国名 アフリカ側の投資先国 内容
2024年3月 International Resources Holding(IRH) UAE ザンビア ザンビアのモパニ銅鉱山の権益51%を取得。3年間で銅生産量を6万トンから20万トンに増加させることを目指す。
2024年6月 エミレーツ・グローバル・アルミ UAE ギニア ギニアのボーキサイト鉱山やアルミ精錬施設の開発への投資を発表。
2024年9月 International Resources Holding(IRH) UAE 南アフリカ共和国 南ア政府が保有する資産運用会社PICとの鉱業分野などでの協力に関する覚書締結。
2025年2月 アンブロシア・インベストメント UAE エチオピア
マリ
カナダ企業アライド・ゴールドのエチオピアとマリにおける金鉱プロジェクトの株式50%を取得。
エチオピアとマリの金生産量は、2026年半ばまでに年間29万オンス、2028年までに年間40万オンスの増加を見込む。
2025年5月 Taadeen オマーン アンゴラ アンゴラ国営ダイヤモンド会社(ENDIAMA)の株式41%を取得。
2025年6月 International Resources Holding(IRH) UAE コンゴ民主共和国 コンゴ民主共和国東部のビシエ錫鉱山を運営するアルファミン・リソーシズ(Alphamin Resources)の株式56%を取得。
2025年7月 NG9 Holding UAE コンゴ民主共和国 コンゴ民主共和国で銅やコバルトの精製・取引を行うブエナサ(BUENSSA)と、銅とコバルトを精製する複合施設での開発協力を発表。
2025年8月 オマーン投資庁 オマーン ブルキナファソ 金・鉱業分野における合弁事業の設立に関する協定に署名。
2025年11月 カタール投資庁 カタール コンゴ民主共和国 カナダのアイバンホー・マインズ(Ivanhoe Mines)とコンゴ民主共和国DRCにおける重要鉱物の探査、開発、採掘の促進に関する覚書を締結。

出所:各種報道などを基にジェトロ作成

脱石油を進める湾岸諸国とアフリカの重要鉱物、日本にも協業の機会

重要鉱物に恵まれない湾岸諸国が国内鉱業の育成と並行してアフリカとの連携や投資を加速させていることを見てきた。石油依存からの脱却を進める湾岸諸国にとって、電気自動車(EV)や半導体、再エネなどの成長分野に不可欠なリチウムやコバルト、ニッケルなどの確保は課題だ。こうした重要鉱物を豊富に産出するアフリカ諸国への投資は、重要鉱物の安定的な確保に向け、湾岸諸国が積極的にアフリカとの連携・投資を進めていることを示していると考えられる。

湾岸諸国の投資の背景には、政府系ファンドなどの豊富な資金力もある。例えばサウジアラビアのPIFやUAEのアブダビ投資庁(ADIA)は豊富な資金力を有し、鉱業やインフラ分野への長期投資が可能だ。この資金力は、アフリカでの鉱山取得や精錬施設建設、港湾整備など、巨額の初期投資を伴うプロジェクトを迅速に実行できる湾岸諸国の大きな強みとなっている。

一方、アフリカの重要鉱物を巡っては、中国をはじめ各国が投資を強化している。2025年11月にはG7が「グリーン鉱物資源の国際経済貿易協力イニシアチブ」を発表し、国際的な競争が激化している(2025年12月8日付ビジネス短信参照)。他国との競争という意味合いでも、湾岸諸国はアフリカと鉱物関連での連携の強化や投資を進めていると考えられる。

日本政府は、米国との重要鉱物に関する枠組み協定や、2025年6月の「G7重要鉱物行動計画」で、供給網の強靱(きょうじん)化と多様化を国家戦略に位置付けている。経済安全保障推進法(注)に基づき、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などが豪州や米国で調達を進めている。

こうした動きは、日本の湾岸諸国との協業の可能性を示している。日本の技術力と湾岸諸国の地理的優位性や資金力を組み合わせることで、日本はアフリカでの鉱物開発や精錬、物流網構築において持続可能性と競争力を高めることができる。日本は湾岸諸国と連携することで、アフリカでの資源確保とさらなる市場開拓が期待できるだろう。


注:
経済安全保障推進法は、国際情勢の複雑化や社会経済構造の変化を背景に、日本の経済活動に関する国家や国民の安全を害する行為を未然に防ぐことを目的とし、2022年5月11日に成立した。詳細は内閣府の経済安全保障推進法の制定経緯・趣旨を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと)
2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。