第2次トランプ政権下の新潮流を読み解くパッチワーク化が進む米国のAI規制
2026年1月19日
2025年1月20日に第2次トランプ政権が発足して以降、企業の投資を促進するため、さまざまな産業規制の緩和が進む。特にトランプ政権は、人工知能(AI)分野における規制緩和と同分野における投資推進を最優先課題の1つに位置付ける。その姿勢を受け、AI半導体大手エヌビディアを筆頭にAI関連銘柄が牽引し、ダウ工業株30種やスタンダード・アンド・プアーズ500種指数(S&P500)など主要株価指数は最高値を更新したほか、米国内におけるAI半導体製造施設やデータセンターへの投資も急増している。関税による物価高や失業率の上昇が懸念される中、好調なAIビジネスが米国経済の牽引役を果たしているといえる。ただし、連邦政府が推進する規制緩和の動きに対し、州ごとでは規制強化の動きが加速しており、AI関連企業のビジネス展開に大きな影響を及ぼす可能性がある。AI分野において米国進出を検討する日本企業は規制動向にも注視が必要だ。
米国のAI政策は第2次トランプ政権下で大きく転換
ドナルド・トランプ大統領は、就任日である2025年1月20日にバイデン前政権下で発令された大統領令「AI の安全、安心、信頼できる開発と利用
(428KB)」(注1)を撤回し、同月23日に「AIにおける米国のリーダーシップに対する障壁の除去
」と題する大統領令を発令した。同令では、人類の繁栄、経済競争力、国家安全保障を促進するために、AIにおける米国の世界的な優位性を維持し、強化することが米国の政策だとし、これに相反する政策、指令、規制などを直ちに見直すよう命じた。さらにトランプ政権は7月23日、AI分野における国際競争力を強化するため、(1)AIイノベーションの加速、(2)国内のAIインフラ構築、(3)AI外交・安全保障をリードの3つの柱から構成される「AI行動計画
(509KB)」を発表した(表1)。
| 柱 | 項目 | 概要 |
|---|---|---|
| AIイノベーションの加速 | 規制改革 | 官僚的で煩雑な規制・手続きを撤廃し、研究や企業活動の自由度を高める。 |
| 言論の自由を保証 | AIモデルからイデオロギー的偏見を排除し、米国人の言論の自由と価値観を守る。 | |
| オープンモデルAIの推奨 | オープンソース、オープンウエイトAIを推奨し、研究者やスタートアップ企業が大規模なコンピューティング・パワーにアクセスできるように金融市場を改善する。 | |
| AI導入の推進 | 研究者、スタートアップ、確立された企業がデータと結果のオープンな共有に努めながら、 AI ツールを迅速に導入および試験 できる規制サンドボックスまたはAIセンターオブエクセレンスを全国に設置する。 | |
| 労働者支援の拡充 | 労働者がAI主導の経済で繁栄できるよう、労働者のAIリテラシーと職業訓練を拡大。また、AIが労働市場に与える影響を継続的に評価しつつ、労働者を迅速に再訓練するための新たなイノベーションを試行する。 | |
| 次世代製造業への支援 | ドローン、自動運転車、ロボティクスなどの新興産業への投資を優先する。 | |
| AIを活用した科学への投資 | AIの応用が見込まれるさまざまな科学分野において研究施設の自動化に投資する。研究者に対し連邦政府の資金を受けた研究から得られた高品質なデータセットを公開するよう推奨する。 | |
| AI評価エコシステムの構築 | 連邦政府機関向けにAIシステムのパフォーマンスと信頼性を評価するためのガイドラインやリソースを提供。 | |
| 連邦政府におけるAI導入の加速 | AI導入に関して省庁横断的な調整を担う「最高人工知能責任者会議(CAIOC)」を設置、国防総省におけるAI導入を推進。 | |
| 合成メディアへの対策強化 | ディープフェイクなどAIが生成したメディアへの対策強化、評価プログラムの開発。 | |
| 国内AIインフラの構築 | 許可制度の合理化 | AI推進に必要となるデータセンター、半導体製造、エネルギーインフラにおいて合理化された許可制度を構築する。 |
| 電力系統の安定化 | 電力網の安定化と最適化、最先端の技術を持つ新たな発電源の導入(地熱、原子核分裂発電、核融合発電)。 | |
| 半導体製造業の復活 | CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)から半導体製造プロジェクトに対する不要な政策要件を排除し、国内半導体製造の復活を目指す。 | |
| 高セキュリティーデータセンターの構築 | 軍事および諜報機関向けの高セキュリティーAIデータセンターの新しい技術標準を作成する。 | |
| AIインフラ向けの熟練した人材育成 | AI人材開発に向けた国家イニシアチブの立ち上げ、業界主導の職業訓練プログラム、専門技術教育(CTE)(注1)、登録見習い制度(注2)などを支援。 | |
| サイバーセキュリティー強化 | AIシステムの安全性を高め、連邦政府のインシデント対応能力を強化する。 | |
| AI外交と安全保障をリード | AI輸出促進 | 米国製AIを同盟国に普及させ、世界標準化を目指す。 |
| 対中国戦略 | 国際的な外交機関や標準化機関における米国の立場を活用し、イノベーションの発展に繋がるようなガバナンスの支持、米国の価値観の共有、権威主義的な影響への抵抗 | |
| 輸出管理の強化 | AIコンピューティング・半導体の輸出管理規制を強化する。 | |
| フロンティアAIにおける国家安全保障上のリスク評価 | 専門家と協力しフロンティアAIの国家安全保障リスクを評価、バイオセキュリティーへの投資拡大。 |
注1:米国の中学・高校で導入されている学生が実践的な技術やスキルを身につけるプログラム
注2:業界主導型の教育訓練制度で、企業の将来の労働力の教育訓練、労働者の実務経験・資格取得を支援するもの。
出所:ホワイトハウス公開資料
(509KB)からジェトロ作成
バイデン前政権が推進した政策では、AIからの利益を享受するため、AIの開発と利用を安全かつ責任ある形で管理することを最優先課題とした。商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)に対し、安全かつ安心で信頼できるAI開発のガイドライン策定を指示したほか、特定のAIモデルを開発する企業に対し、AIモデル開発に関する情報や安全性テストの結果などを報告するよう義務付けた(2024年5月1日付地域・分析レポート参照)。また、連邦レベルでのAI規制の法制化に取り組んだほか、国際的な枠組み作りにおいても米国がリーダーシップを取ることを明確にした。一方、トランプ政権による「AI行動計画」では、AIの開発や展開を妨げる規制の撤廃や見直し、電力網の安定化などインフラ整備やデータセンター建設のための許可制度の合理化、中国に対抗するための国際的なAIフレームワークにおける米国のガバナンス強化、敵対国へのAI半導体の輸出管理強化などが盛り込まれた。バイデン前政権が目指したAIの安全性確立や消費者の人権やプライバシー保護からはほど遠い内容になっている。
州レベルでは独自のAI規制の導入が進む
大統領令は議会での審議を経て立法化された法律ではなく、あくまで行政命令となるため、現状米国では連邦レベルの網羅的なAI規制は存在しない状態だ。一方、州レベルでは独自のAI規制導入が進むなど、いわゆる「パッチワーク化」している。本来であれば、全国統一のルールを制定することで、企業の負担を減らし国際競争力を高めることが効果的と考えられるが、州政府としては地域の実情に見合う規制を導入することで、AIから生じるリスクを最小化したい構えだ。ユタ、テキサス、カリフォルニア、コロラド州では既に包括的なAI規制が制定されている(表2)。
表2:包括的なAI規制を導入済みの州の一例およびその内容
| 州 | コロラド | ユタ | テキサス | カリフォルニア |
|---|---|---|---|---|
| 名称 |
コロラド州AI法 「SB 25B-004」 |
AI消費者保護法「SB226」 (ユタAI法「SB149」の改正法) |
テキサス責任のあるAIガバナンス法「HB149」(TRAIGA) | AI安全開示法「SB53」 |
| 成立日 | 2025年8月28日 | 2025年3月27日 | 2025年6月22日 | 2025年9月29日 |
| 施行日 | 2026年6月30日 | 2025年5月7日 | 2026年1月1日 | 2026年1月1日 |
| 概要 |
1.「高リスクAIシステム」の定義
|
1. 開示義務
|
1. 政府機関によるAI利用の開示義務
次のようなAIの開発・使用は禁止される:
地方自治体が独自にAI規制を設けることを制限し、 州レベルで統一的なルールを適用する。これにより、企業や行政が一貫した基準でAIを運用できるようにする。 |
1.安全性枠組みの公開 大規模AI開発者は「安全性フレームワーク」を公表し、モデルが引き起こし得る「壊滅的リスク(注1)」とその緩和策を説明する。 2.重大インシデントの報告義務化
AI企業の従業員が安全上の懸念を報告した場合、法的に保護される。 |
| 対象 | 高リスクAIの開発者・利用者 | 主に消費者向けサービスや規制対象の業種(金融、医療など) | AIシステムの開発者・提供者、州および地方政府機関 | フロンティアAI開発者(注2) |
注1:対象となる「壊滅的リスク」は、50人以上の死者や10億ドル以上の損害を伴う事象を指し、化学・生物・核兵器の製造支援、大規模サイバー攻撃、AIが開発者の制御を回避する行為(欺瞞〔ぎまん〕的な行動や自己複製)などが想定される
注2:年間収益5億ドル以上、計算総量が10の26乗フロップ以上で学習された基盤モデルを開発する企業
出所:各州政府の発表を基にジェトロ作成
ユタ州では、他州に先駆けて2025年5月7日に全米初の包括的なAI法となる「ユタAI消費者保護改正法(SB226)
(34.8KB)」が施行された。2024年5月に同州で施行されたAI法(SB149)からさらに消費者保護に焦点を当てた内容になっており、消費者に対してAI使用の有無の明示義務化や誤情報により消費者が被った損害に対する企業責任が明確化された。
テキサス州で2026年1月1日より施行された「テキサス責任のあるAIガバナンス法(TRAIGA)(HB149)
(187KB)」では、州政府や地方自治体がAIを使用する際は、その目的・方法・影響について明示することが義務付けられたほか、重大なリスクをはらむ生成AIの開発・使用を禁止(例:ディープフェイクなどプライバシーや権利侵害、児童ポルノなど性描写を含むもの)する。加えて、規制サンドボックス制度の設置、州による規制の一元化が盛り込まれた。
世界のトップAI企業50のうち33社が拠点を置くカリフォルニア州では、ギャビン・ニューサム知事(民主党)が2025年9月に、最先端のAIモデルに関して「透明性」「安全性」「内部告発者保護」を柱にした「AI安全開示法(SB53)
」に署名し、同法は2026年1月1日に施行された(2025年10月3日付ビジネス短信参照)。主な対象は、大規模なフロンティアAIモデル開発者(注2)となる。2024年にニューサム知事が拒否権を行使した「最先端AIシステムのための安全で安心な技術革新法(SB1047)は企業に対しより厳格な責任を課す内容であった(2024年10月7日付ビジネス短信参照)。SB53は、透明性の確保に比重が置かれ、企業にとってより実効性の高い内容となったため、オープンAIやメタなどAI関連大手企業などからも好意的に受け止められた。
2026年6月から施行される「コロラド州AI法(SB24-205)
」は、雇用、教育、金融、医療など個人の権利や生活に大きな影響を及ぼす恐れのある高リスクAIの開発者や利用者に対し、リスク評価、影響評価、消費者への通知などを義務付けたほか、AIのアルゴリズムが特定の属性やグループ(人種、年齢、性別など)に対し差別的な結果を出さないよう義務付けた(2024年5月17日付ビジネス短信参照)。
規制のパッチワーク化で企業負担の増加が懸念
規制のパッチワーク化による企業側へのデメリットとして、(1)コンプライアンス・コストの上昇、(2)製造コストの上昇、(3)イノベーションの阻害、(4)消費者救済措置の複雑化などが考えられる。例えば、(1)については、州ごとに異なるリスク評価制度やインシデント報告義務に対応するため社内のコンプライアンス履行体制を調整する必要があり、コスト増に繋がる。(2)については、州ごとに求められる商品スペック(アルゴリズム差別防止策の適用など)が異なることから、製造ラインが複雑化・高コスト化することが予想される。(3)については、さまざまな規制への対応に人員・時間・コストを取られ、製品開発そのものに取り組むことが困難になることだ。(4)については、州ごとに消費者が享受できるAI保護のレベルが異なることで、消費者保護に格差が生じる。さらに、損害が発生した際に、どの州の法律に基づいて対処されるべきか判別が難しく、被害者救済の手続きが複雑化や長期化することが懸念される。
雇用・金融・医療などの分野でもAIの導入が進む。雇用においては、履歴書のスクリーニングや人材マッチング、金融では、与信判断や資産運用プログラムの提案、医療では、AIによる画像診断支援や患者のモニタリングなど、国民の生活に直結する重要な場面での使用も増えている。それ故に、アルゴリズムによる差別や不当判断の防止は手を抜けない課題となる。産業成長を優先させるため規制緩和が進み、イデオロギーが軽視された商品が出回ることで、企業は訴訟リスクを増大させることになりかねない。連邦レベルの規制が存在しない中で、州政府が独自規制を設立し、AIの安全な開発と利用を促す動きはある意味必然的といえる。
州ごとの規制導入を封じる動きも加速
全米州議会議員連盟(NCSL)によると、現在のところ、米国では38州において100を超えるAI規制が存在しているという。トランプ大統領は州ごとの規制封じに着手する。2025年7月4日に成立した大型の減税・歳出法である「大きく美しい1つの法案」(OBBBA)では、州政府に対し10年間は独自にAI規制を制定することを禁止する条項(モラトリアム)を盛り込んだが、上院で99対1の圧倒的多数で否決された。また、トランプ大統領は2025年12月11日、州レベルのAI関連法の抑制を目指した大統領令「AIに関する国家政策枠組みの確立」
に署名。AI訴訟タスクフォースを設置し、連邦政府の方針に相反する州法を提訴するとしたほか、それらの州に対し「ブロードバンド衡平性・アクセス・配備(Broadband Equity Access and Deployment:BEAD)プログラム」(注3)による資金拠出を制限するという厳しいものだ。これに対し、ニューサム知事は「トランプ大統領とデービット・サックス氏(注4)は政策を策定しているのではなく、詐欺を働いている。そして、彼らは日々限界に挑戦し、どこまでできるかを試している。カリフォルニア州は、米国民のために、全米で最も強力なイノベーション経済を構築し、常識的な安全策を講じ、先頭に立っている」と声明を発表するなど、強く反発した(ニューサム知事ウェブサイト参照
)。また、この大統領令に反する動きとして、ニューヨーク州では2025年12月19日に、大規模なフロンティアAIモデル開発企業に対する厳格なAI規制法「責任あるAI安全・教育法(RAISE法)
」が成立し注目を集めた。
AI規制緩和を目指す連邦政府と、規制導入により安全なAIビジネスの発展を目指す州政府との対立は今後も続くと思われる。他方、統一性に欠けるAI規制は、企業のビジネス展開や米国企業の国際競争力を低下させる恐れがある。今後どのように連邦政府と州政府が歩調を合わせていくかを含め、米国のAI規制の動向には注視が必要だ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課 課長代理
安東 利華(あんどう りか) - 2007年、ジェトロ入構。海外調査部北米課、シドニー事務所などを経て、2025年6月から現職。




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