高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは豪州重要鉱物産業の現在地
日豪連携で強める重要鉱物供給網(2)
2026年3月23日
日本が重要鉱物を安定的に確保するには、供給網(サプライチェーン)の強靭(きょうじん)化が不可欠だ。連載(1)資源大国オーストラリアの潜在可能性のとおり、オーストラリアは資源が豊富で日本と関係が深い。そのため、有力なパートナー候補になり得る。一方、現時点で、同国内の加工・精製能力に限りがあり、多くの重要鉱物を未加工のまま輸出している。日本と連携して不足する工程を補完できると、相互にとって利益があるウインウインの関係になる。
しかし、状況は一筋縄にいかない。要因の1つが、オーストラリアに内在する多様性だ。同国は、その広大な国土のほぼ全てで多種多様な重要鉱物を産出する。一方で、鉱物資源に関する政策や制度などは州・準州ごとに大きく異なる。さらに、オーストラリアの重要鉱物産業は依然として発展途上にあり、参入企業の多くが中小企業やスタートアップだ。そのため、産業全体の実態や将来性についてはまだ不透明な部分が多い。ビジネスモデルの確立や市場の形成もこれからという段階にある。
本稿では、2025年11月末の現地取材を基に、重要鉱物サプライチェーン強靭化を進める上で2国が連携する課題と展望を追う。今回は、(1)各州の重要鉱物政策などの違い、(2)関係業界団体、(3)クイーンズランド(QLD)州で聴取した重要鉱物関連企業について報告する。
州で異なる主要重要鉱物や関連政策
オーストラリアの国土は、日本の20倍ほどある。6つの州と2つの地域(北部準州とオーストラリア首都特別地域)で連邦国家が成り立っている。
同国では州の権限が強く、連邦政府と州政府は「対等に近い関係」という。例えば、資源開発や土地管理に関して、法的権限の多くが州政府などに帰属している。そうした権限の下、州などは独自の規制や政策を打ち出すことが多い。
重要鉱物も例外ではない。各州・地域は産出される鉱物を基に、それぞれが自らの強みに合わせて重要鉱物に関わる戦略を設定している(注1)。
| 州 | 主な重要鉱物 | 主な重要鉱物に関わる政策 | 備考(ポイントなど) |
|---|---|---|---|
| ニューサウスウェールズ州 (NSW) | 亜鉛、コバルト、レアアースなど | Critical Minerals and High-Tech Metals Strategy 2024–35 | 世界的に需要が高まる重要鉱物とハイテク金属の分野で、国際的な供給拠点・製造拠点としての地位を確立することを目指す。 |
| ビクトリア州 (VIC) | 金、アンチモン、鉱物砂など | Victorian Critical Minerals Roadmap | 4つの柱((1)地質データの整備、(2)迅速な規制手続き、(3)州内での加工体制の強化、(4)地域との協働)を軸に、持続可能な重要鉱物関連産業の育成を目指す。 |
| クイーンズランド州 (QLD) | 銅、黒鉛、バナジウム、コバルトなど | Critical Minerals Strategy | (1)迅速な開発、投資誘致、(2)バリューチェーン構築、(3) ESG・研究強化を柱に、採掘から製造まで州内で価値を生み出すことを目指す。 |
| 西オーストラリア州 (WA) | リチウム、ニッケル、レアアースなど | Western Australia's Battery and Critical Mineral Strategy 2024–2030 | 重要鉱物と産業基盤・加工力を生かし、州内で一貫生産体制を築く。その上で、脱炭素と経済多角化を実現することを目指す。 |
| 南オーストラリア州 (SA) | 銅、黒鉛など | 「Critical Minerals Strategy」という形で公表されてはいないが、Critical Minerals South Australiaプロジェクト(州政府主導)などがある | 探鉱から加工・供給まで、州内で完結する価値チェーンの構築を目指す。 |
| タスマニア州 (TAS) | レアアース、錫、タングステンなど | Tasmanian Critical Minerals Strategy | 4本柱((1)探鉱、(2)開発支援、(3)州内加工、(4)投資拡大)で再エネと地質資源を活かす。その上で、世界のクリーン技術に不可欠な重要鉱物の供給拠点化を目指す。 |
| 北部準州(NT) | リチウム、レアアース、銅、黒鉛など | Northern Territory Minerals Industry Plan – Pathway to 2030 | (1)鉱業を強化し、世界の脱炭素を支える重要鉱物供給地になることと、(2)地域の経済成長と先住民の参加を両立することを目指す。 |
出所:各種資料を基にジェトロ作成
中小企業やスタートアップが主流の重要鉱物業界
オーストラリアで鉱物資源開発というと、大手グローバル鉱業事業者(BHP GroupやRio Tintoなど)が頭に浮かぶ。しかし、これら企業は鉄鉱石・石炭・銅などの従来型資源に注力しており、重要鉱物分野への本格参入は限定的だ。
当地重要鉱物の多くは一般的に、探査段階または初期開発段階にとどまっている。換言するとハイリスク・ハイリターンのため、大手に向かない。特にオフテイク価格の保証(注2)がない場合、大手企業は事業リスクを株主に説明するのが難しくなる。そのため、中小企業がまず技術的・商業的な実現可能性を証明する役割を担う。大手企業は、鉱物の発見とリスク低減後に資産を取得するパターンが多い。
また、重要鉱物はEV(電気自動車)や再エネ需要拡大に伴い最近急速に注目されるようになった分野だ。そのため、スタートアップの参入もある。
さらに、重要鉱物は総称に過ぎない。つまり、単一の巨大市場ではない。鉱物ごとに細分化したニッチ市場の集合体なので、一つずつの市場は小さい。いきおい、不透明で変動が激しく、生産前の銀行融資も極めて限定的といわれる。このため、(1)長い時間軸で計画を受け入れ可能、(2)小規模、かつ(3)株式で資金を調達できる条件を備えた企業が有利になる。
なお、オーストラリア貿易投資庁(Austrade)は2026年2月6日、「Australian Critical Minerals Prospectus」の最新版(注3)を公開した。これは当連載(1)で紹介したとおり、国内の重要鉱物関連プロジェクトや実施する企業などの情報を取りまとめた資料になる。最新版では、中流工程のセクションを新たに追加。具体的には、60社による78件のプロジェクト(鉱山プロジェクト49件と、中流工程処理29件)を紹介している。
オーストラリア重要鉱物協会を新設
日本企業が当地重要鉱物業界にアプローチする際に最初の窓口となりうるのが、オーストラリア重要鉱物協会(CMA Australia)(注4)だ。当協会の設立は、2022年7月。統治重要鉱物産業の発展を支援するのが、その狙いだ。英国や米国の姉妹団体などともに、グローバルな重要鉱物協会ネットワークの一員だ。現在のアクティブな会員数は、あらゆる規模の企業を含めて100以上に上っている。
その主な活動内容は、(1)当地政府など(連邦・州政府を含む)への政策提言、政府機関との協力、(2)重要鉱物探査企業の支援(国内での鉱物処理・精製への移行支援を含む)、(3) ESG(環境・社会・ガバナンス)分野でのリーダーシップ推進、(4)国際的なネットワークの構築(CMA UK、CMA US、カナダのC2M2Aなどと連携)になっている。
同協会の創設者が、ナマリ・マッケイ氏(現・事務局長)だ。氏は、「多くのオーストラリア企業にとって、日本の安定性は大きなプラス要素」と発言。長期的な関係構築を重んじる日本企業の姿勢を高く評価している。さらに、日本にJOGMECがあることも評価。「政府がリスクマネーの供給から技術支援、探査、人材育成までを一体的に提供する専門機関が存在している。このような制度は他国にはない」という。その上で、この政府主導の包括的支援体制が資源供給国オーストラリアにとっても大きな安心材料になると指摘。「日本の魅力を一層高めている」と指摘した。
ジェトロは2025年11月25日、CMA Australiaとクイーンズランド(QLD)州政府のアレンジで意見交換の機会を持った。この機会には、日本とのビジネスに関心のある当州重要鉱物関連企業が参加。そのうちの3社を紹介する。
Li-ion電池向けアノード材料で、世界市場に風穴を
グラフィネックス(Graphinex/本社:QLD州ブリスベン)の設立は、2021年。高純度の天然黒鉛を原料に、リチウムイオン(Li-ion)電池用アノード(負極材)材料の開発と商業化を進めている(注5)。現時点では、世界のアノード生産のほぼ全てを中国が担っているのが実情だ。そうしたこともあり、世界各地が同社に大きな関心が寄せている。
同社は、「Mine-to-Anode(鉱山から負極材まで)」モデルを追求している。上流(黒鉛の採掘)から下流(アノード材料への加工製造)まで、一体化しているわけだ。初期段階から同社を支援している日本の投資家(企業)もいる(注6)。
当州は、天然黒鉛を産出する上で戦略的に重要な地域として台頭してきた。特に州北部は高品質産品の有望供給源として知られている。この地域には「火山性黒鉛(volcanic graphite)」が堆積(たいせき)。高温環境下で形成が進んできた。この地質的特徴により、結晶性が高く高性能だ。天然黒鉛を電池用途向けに利用するには、一般的に非常に高温で処理せざるを得ない。これに対し、州北部の黒鉛は加工の負荷を軽減できるという大きな利点がある。
最高技術責任者マーク・ロールバック氏は「当社の黒鉛は、結晶構造が非常に良く整っている。高い電池性能を支えることができることになる。国内の主要研究機関と共同で試験し、長期の充放電サイクルで高い安定性と性能を示している」と強調する。
州北部の港湾都市タウンズビルには、同社のBattery Anode Hubがある。2025年に、その実証プラントが稼働を開始。電池用アノード材料の生産が始まった。同社はさらに、精製・アノード材料を商業規模で製造できる施設を増設する計画を進めている。2026年以降の開発を視野に入れているという。
目指すは、電池用バナジウムの次なる供給元
クリティカル・ミネラルズ・グループ(Critical Minerals Group/本社:QLD州ブリスベン)は、新興企業。重要鉱物資源(バナジウムなど)の探査・開発から、電池原料・電解質製造に至る一貫したバリューチェーンの構築を目指している(注7)。
オーストラリアは2025年、ロシアと中国を抜いて世界最大のバナジウム資源国になった。国内のバナジウム資源の約50%が当州に集中している。州北西部(Julia Creek付近)には、世界最大級のバナジウム鉱床を持つ地域として知られている。
同社は鉱山開発と現地処理施設の開発を進めてきた。プレFS(予備的実現可能性)調査は、2026年2月に完了予定だ。さらに連邦とQLD州、両政府から助成金を受け、ブリスベン郊外ローガン市にバナジウム電解液施設を建設する計画がある。この施設の処理能力は、約100万リットル(約20メガワット時相当)と比較的小規模に過ぎない。しかし、すでに2,400万リットル規模の大型施設設置に向けた調査と設計を完了している。米国、UAE、英国で、その開発可能性について協議を進めている。
将来的には、国内で高品質の五酸化バナジウム粉末を生産。これを、需要国・地域(米国など)へ供給する。さらには、バナジウム電解液を各国・地域で製造し、バッテリーメーカーなど下流顧客向け製品として提供する計画だ。スコット・ウインター最高経営責任者(CEO)は、「世界のバナジウム市場を見ると、バッテリーメーカーは多くない。中国以外の供給元はさらに少ない。バナジウムフロー電池向け電解液の製造に向け、当社は有望で戦略的な成長サプライヤーになり得ると考えている」と語った。
鉱業用3Dマッピング技術を日本市場で他分野に応用
重要鉱物を含む鉱山開発技術が、日本で別の用途で使われているという興味深い事例もあった。
エメセント(Emesent/本社:QLD州ミルトン)は、2018年創業。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のスピンアウト企業だ。「Physical AI」(人工知能(AI)と自律ロボティクス、空間コンピューティングを融合した領域)で、先駆的な開発を進めてきた(注8)。
主力製品は「Hovermap」というレーザースキャナーとAIを搭載したハードウエア。これは元々、地下坑道やストープで安全な測量を実現するために設計したのが始まりだ。鉱山のようにGPSが届かない環境で自律マッピングするのが目的だった。同社技術を活用すると、毎秒30万ポイントでリアルタイムにスキャンするのが可能になる。ドローンや建機に搭載し、危険区域や地下鉱山を遠隔でスキャンすることもできる。
Hovermap初の販売代理店になったのが、日本の中小企業だった。その日本企業を通じて、日本市場では意外な広がりを見せた。エメセントのコナー・バウチ事業開発マネジャーは、「オーストラリアでは鉱業分野で普及率が80%。建設分野では10%程度に過ぎない。しかし、日本では建設業界がこの技術を積極的に採用している」と話す。「危険な現場でも、短時間で安全に、高精度な3Dデータを取得できる」という点が評価されているとのことだった。
- 注1:
- 各州・準州の重要鉱物政策は次のとおり。
- 注2:
-
オフテイク価格の保証とは、将来生産される鉱物について一定の価格で買い取ることを事前に保証する契約(またはその保証)。販売価格が事前に確定し、価格変動リスクを減らすことができる。
- 注3:
-
Australian Critical Minerals Prospectus(2026年2月6日更新版)のウェブサイト参照
。 - 注4:
-
オーストラリア重要鉱物協会(CMA Australia)のウェブサイト参照
。 - 注5:
-
Graphinexのウェブサイト参照
。 - 注6:
-
初期段階から支援する日本企業の例として、出光興産がある。
同社は2024年4月、グラフィネックスへの出資を発表している。2026年2月に出光興産は、丸紅、NSC、グラフィネックスと、日豪間における天然グラファイト系負極材の供給網構築に向けた協業契約を締結している(2024年4月3日付
(1.5MB)、2026年2月4日付出光興産資料参照
(901KB))。 - 注7:
-
Critical Minerals Groupのウェブサイト参照
。 - 注8:
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Emersentのウェブサイト参照
日豪連携で強める重要鉱物供給網
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部調査企画課長
小林 寛(こばやし ひろし) - 1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ハノイ事務所、企画部事業推進室(ASEAN・南西アジア担当)、経済産業省中小企業庁出向、海外調査部アジア大洋州課長、海外展開支援部中堅中小企業課長などを経て2025年5月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・シドニー事務所 マネージングディレクター
渡邉 尚之(わたなべ たかゆき) - 1996年、ジェトロ入構。 ニューヨーク事務所、対日投資部対日投資課、サンフランシスコ事務所、人事課課長代理、農林水産・食品部総括課長代理、シカゴ事務所次長、ニューヨーク事務所次長、企画部海外地域戦略主幹(北米・オセアニア)などを経て2023年7月から現職。






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