高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とはオーストラリアの経済安全保障、地政学的変化を背景に国際連携が進む

2026年1月20日

日本とオーストラリアは、産業構造や貿易形態が大きく異なるが、日本は資源の輸入国、オーストラリアは輸出国という補完関係にある。両国は地政学的環境の変化や経済安全保障リスクへの対応という観点で共通課題に直面している。経済の武器化による影響、国際秩序の不安定化など、同様の圧力にさらされている。オーストラリアは日本を含むパートナー国と経済安全保障関連の協力枠組みを拡充しているが、具体的プロジェクトへの落とし込みや自国利益とのジレンマなど課題もみられる。

日豪で異なる産業構造も、地政学的環境変化の中では似た立場に

オーストラリアと日本は産業・貿易構造が全く異なるが、地政学・経済安全保障リスクの観点から見ると似た立場に置かれており、パートナーとしては補完関係にある。

両国の産業・貿易構造では、資源エネルギー庁の資料によると、日本の一次エネルギー自給率(2022年推計)が12.6%とOECD38カ国中37位であるのに対し、オーストラリアは341.5%と2位であり、資源・エネルギーの純輸出国だ(注1)。日本は天然ガスの97.9%、石炭の99.7%を海外に依存しており、天然ガス総輸入量では41.6%を、石炭総輸入量では64.2%をオーストラリアから輸入している。また、鉱物資源については、例えばニッケルでは総輸入量約5.5万トンのうち32%をオーストラリアから輸入している。他方、オーストラリアのGDPに占める製造業の割合は5.6%(2024年、オーストラリア統計局)と、鉱物の需要家である製造業に乏しい。鉱物資源については、農産物と同様に、主に一次資源の形で国外に輸出している状況であり、日本のように国外から資源や中間材料を輸入して加工し、完成品まで仕上げるという産業構造にはなっていない(2026年1月8日付地域・分析レポート参照)。


オーストラリアで採取できる鉱物資源(ジェトロ撮影)

似ているのは、オーストラリアも日本も、新たな地政学的環境変化の影響を受けている点だ。オーストラリア国立大学(ANU)のシロー・アームストロング教授は(注2)、オーストラリアは5つの広範なマイナスの作用にさらされていると指摘する。すなわち(1)最大の経済パートナー(中国)が、安全保障上の最重要同盟国(米国)と戦略的競争関係にあること、(2)中国が政治的な中央集権化傾向を強め、より強硬化が進んでいること、(3)内向き志向を強める米国が、多国間貿易体制の執行者から妨害者へと変化したこと、(4)気候変動の加速に対する世界の対応が不確実であること、(5)国際フォーラムの機能不全が、ガザやウクライナでの紛争を含む多面的な危機を助長していることだ。こうした急速な環境変化への対応を迫られているという点で、日本も同様の立場に置かれているといえよう。

豪中関係の悪化で顕在化したエコノミック・ステイトクラフトの影響

日豪両国は、経済の武器化、特に中国によるエコノミック・ステイトクラフトの影響を受けた点も共通している(注3)。国家が対外関係に影響を与える手段として、軍事や外交などの「ステイトクラフト」がある中で、エコノミック・ステイトクラフトは「経済的措置を通じて対外関係における影響力を行使すること」とされる。経済制裁、輸出入制限、投資制限といった形式がとられるが、中国の日本に対するエコノミック・ステイトクラフトの代表例では、2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件に端を発し、中国政府がレアアースの管理強化を厳格化し、輸出が滞った結果、日本企業の操業に大きな影響を及ぼした事案などが挙げられる。

あらためて豪中関係を整理すると、オーストラリアにとって中国は最大の貿易相手国で、両国経済関係は深いものがある。2015年12月に中国・オーストラリアFTAが発効し、同月発足した中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に創設メンバーとして加わるなど、両国は密接な経済関係にあった。しかし、2017年に中国共産党とつながりをもつ人物が、オーストラリアの二大政党である自由党、労働党に献金していたという報道(注4)が出るなど、オーストラリア国内で中国への警戒感が高まるようになった。また、中国が鉱物資源や国家承認(台湾断交)といった観点から太平洋島しょ国への関与を強めた結果、オーストラリアの太平洋島しょ国への影響力が相対的に低下しているという危機感も、同国国内における対中警戒感を高める要因となった(注5)

オーストラリア議会で2018年6月にスパイ防止強化法案が可決され(注6)、同年8月に同国政府は華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の次世代高速通信「5G」の参入を禁止した(注7)。同年11月に香港の不動産大手である長江実業集団によるガスパイプライン最大手APAの買収を阻止するなど、オーストラリア政府は投資管理も強化した(注8)。そうしたなか、2019年に中国において、オーストラリア産石炭の輸入通関が遅延しているとの報道が散見されるようになった(2019年3月11日付ビジネス短信参照)。

決定的だったのは2020年4月、スコット・モリソン首相(当時)などが新型コロナウイルス発生源の独自調査の必要性を主張したことで、中国政府はこれに激しく反発した。同年5月に商品表示などの技術的な問題を理由に、オーストラリアの主要な食肉処理場からの牛肉輸入を停止し、同国産の大麦にアンチダンピング関税(AD)、補助金相殺関税(CVD)を課すことを決定した(合計80.5%の追加関税)。また、同年11月には同国産ワインに200%を超える追加関税を課した(2020年12月17日付ビジネス短信参照)ほか、ロブスターについても汚染を理由に新たな検疫措置を設けて実質的に輸入を停止した(注9)。こうした一連の貿易制限措置の結果、オーストラリアの輸出総額に占める中国向けの割合は、2020年の40%をピークに、2022年には29%まで減少した(図)。

図:オーストラリアからの輸出額(国別、構成比、%)
オーストラリアの輸出総額に占める中国向けの割合は、2020年の40%をピークに、2022年には29%まで減少した。24年は35%。

出所:Global Trade Atlasから作成

アルバニージー政権下で豪中関係が改善、一連の貿易制限措置が解除

2022年5月のオーストラリア総選挙で労働党が9年ぶりに政権を奪還し、アンソニー・アルバニージー首相が就任すると、同首相は「中国と協力できるところは協力し、反対しなければいけないところは反対し、国益に基づいて行動する」との方針の下、対中関係の安定化にかじを切った(注10)。2022年11月、インドネシアのバリ島で、アルバニージー首相と習近平国家主席との首脳会談が行われた。同年12月にペニー・ウォン外相が訪中し、王毅国務委員兼外交部長(当時)と会談し、経済貿易問題を含む6分野の対話の始動・再開に合意した(2022年12月28日付ビジネス短信参照)。2023年11月には、オーストラリア首相としては7年ぶりとなる訪中が実現(2023年11月22日付ビジネス短信参照)。2024年6月には李強首相がオーストラリアへ、同年9月にはジム・チャルマーズ財務相が中国へ訪問するなど、両国関係は急速に改善を見せた。そうした雪解けの流れの中で、オーストラリアからの対中主要輸出産品に対する一連の貿易制限措置は、次のように撤廃された。

現状、豪中関係は改善したが、中国に対する警戒感は崩していないとされる(注12)。前政権下に引き続き、アルバニージー政権は貿易相手国の多元化を進めており、2022年12月にインドと経済協力・貿易協定(ECTA)が、2025年10月にアラブ首長国連邦との包括的経済連携協定(CEPA)が、それぞれ発効するなど、FTAネットワークの拡充も推進している。

重要鉱物を含む経済安全保障関連の協力枠組みが拡充

前述のような経緯があるなか、オーストラリアは、経済安全保障に関連するさまざまな協定やパートナーシップを同盟国/同志国との間で締結する動きが活発化している。主に次のようなものがある(時系列順)。

  • クアッド(QUAD)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます:日本、米国、オーストラリア、インドの基本的価値を共有する4カ国の連携枠組み。2021年3月に初の首脳会合をオンラインで実施。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて協力を進める。2025年7月の日米豪印外相会合外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、重要鉱物資源に関する協力を進めていくことで一致。(2025年7月3日付ビジネス短信参照
  • オーカス(AUKUS)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.14MB):オーストラリア、英国、米国での安全保障枠組み。2021年9月に設立。主な取り組みは、オーストラリアの通常兵器搭載原子力潜水艦取得への支援のほか、自律的人工知能(AI)技術やサイバーセキュリティー、量子技術の協力も含まれる。ただし、トランプ政権の誕生後、オーストラリアの米国に対する信頼性が揺らいでおり、枠組みは岐路に立っている。なお、オーカスは、重要鉱物に関する協力枠組みではないが、対象となる各技術で重要鉱物が必要となることから、重要鉱物に関する枠組みを第3の柱として含むべきという議論がある。(注13)
  • インド太平洋経済枠組み(IPEF)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます:2022年5月にバイデン大統領訪日に合わせて、東京で立ち上げ発表。重要鉱物の対話枠組みが含まれる。2024年2月にIPEFサプライチェーン協定PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(300KB)が発効。重要分野・重要物品の特定やサプライチェーンの途絶時における具体的な連携手続を規定。(2023年11月21日付ビジネス短信参照
  • 鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(625KB):クリーン・エネルギー移行に不可欠な重要鉱物資源(ニッケル、コバルト、レアアースなど)のサプライチェーン強靭(きょうじん)化を確保するため、米国主導で2022年6月に立ち上げられた枠組み。G7とオーストラリア、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、エストニア、インド、韓国、EUの15メンバーが参加。情報共有と協力、投資ネットワーク、ESG基準の引き上げ、リサイクルとリユースの4本柱。
  • 日豪重要鉱物資源パートナーシップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます:2022年10月に発表。日豪間における重要鉱物の安定的なサプライチェーン構築に向けた枠組みをつくり、日豪のプロジェクト間での研究、投資、事業化の取り決めを含め、協力や情報交換の機会を推進するもの。
  • 米国・オーストラリア重要鉱物の安定供給に向けた枠組み外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます:2025年10月発表。米豪両国が重要鉱物・レアアースのサプライチェーンを確保するため、既存の備蓄の仕組みなどを活用するほか、重要鉱物・レアアースの採掘・分離・加工・回収のプロジェクトの推進に向けた地質調査、規制緩和、技術開発に取り組む。西オーストラリア州のガリウム精製施設建設プロジェクト、同州での双日およびアルコアによるガリウムの回収プロジェクト、北部準州でのアラフラのレアアースの採掘プロジェクトへの投融資なども含む。(2025年10月23日付ビジネス短信参照

同国シンクタンクへのヒアリング(注14)によれば、特に重要鉱物に関連する協定/覚書/協力外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが多く、2025年11月現在で27の枠組みがあるという。ただし、課題として、国際協調と自国利益の相反というジレンマもある。米国との協力において、米国のインフレ削減法(IRA)とオーストラリアのフューチャー・メードイン・オーストラリア法(FMIA)が、重要鉱物処理施設の誘致や資金調達について競合し、ディスインセンティブとなっている。(注15)

また、オーストラリア政府は協定の締結に積極的である一方、実施・運用の面では変化がみられないという指摘もある。同国シンクタンクの関係者は「重要鉱物の協力は、より具体的に掘り下げる必要がある」という。「2026年以降、重要鉱物について上空から議論をしている余裕はない。具体的にどの鉱種で、どういう形態・スペックで必要なのか、というレベルで取り組むべきだ。磁化処理が必要な製品もあれば、粉末形態が求められる製品もある。具体的に優先する製品を決めた上で、当該鉱物を加工していく体制を整える。そのために何が必要か、行動に移していく必要がある」と強調する。

ともすると、重要鉱物に関する議論は漠然としがちだが、「重要鉱物」の定義は国によって異なる。日本とオーストラリアをはじめ、パートナー国間で具体的な鉱種や仕様をすり合わせ、エコシステム、バリューチェーンを緊密に連携させるなど、双方の考えの統合作業が必要となっている。上流から下流まで、全ての関係者を同一方向に向かわせることは難しい作業だが、現在のパートナーシップにおいては具体的プロジェクトへの落とし込みが急務となっている。


注1:
資源エネルギー庁ウェブサイト「日本のエネルギー 2024年度版『エネルギーの今を知る10の質問』PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.6MB)」参照。 本文に戻る
注2:
シロー・アームストロング「Economic Statecraft in Securing Australia’s Future外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、『Policy Discussion Paper Series 24-P-012』、経済産業研究所(RIETI)(2024年12月)を参照。 本文に戻る
注3:
中国による日本やオーストラリアに対するエコノミック・ステイトクラフトについては、寺田貴編著(2023)『インド太平洋地経学と米中覇権競争』(86ページ-101ページ、彩流社)などを参照。 本文に戻る
注4:
AFP「豪政党、中国人富豪2人から巨額献金受領 スパイ関連法を検証へ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2017年6月6日付)参照 本文に戻る
注5:
畝川憲之「第3章 転換期にあるオーストラリアのメラネシア援助政策」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、黒崎岳大・今泉慎也編『太平洋島嶼地域における国際秩序の変容と再構築』、アジア経済研究所(2016年3月)参照。 本文に戻る
注6:
AFP「豪議会、スパイ防止強化の法案を可決 中国に懸念集中」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2018年6月29日付)参照。 本文に戻る
注7:
日本経済新聞「ファーウェイ、ZTE 豪が5G参入禁止」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2018年8月23日付)参照。 本文に戻る
注8:
日本経済新聞「豪政府、香港企業のパイプライン企業買収を阻止」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2018年11月20日付)参照 本文に戻る
注9:
追加関税や検疫強化などの貿易制限措置のほか、2020年6月に中国文化観光省がオーストラリアへの渡航中止を勧告した。 本文に戻る
注10:
シドニー日本商工会議所編集委員会「第3章 主要政策」『オーストラリア概要 2025/2026』、32ページ、シドニー日本商工会議所(2025年6月)参照。 本文に戻る
注11:
2024年12月5日付農畜産業振興機構「豪州政府、すべての食肉輸出施設からの中国向け輸出再開を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注12:
西原哲也「Topics9 中国をにらんだ豪安全保障政策の停滞」『オーストラリア概要 2025/2026』77ページ、シドニー日本商工会議所(2025年6月)参照。 本文に戻る
注13:
Ansel Bayly、Sarah Tzinieris「AUKUS & Critical Minerals: Countering China's Supply Chain Coercion外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、Karve - Industry Insights(2025年1月28日付)を参照。 本文に戻る
注14:
2025年11月26日にキャンベラで実施。 本文に戻る
注15:
Hayley Channer、Georgia Edmonstone、Tom Barrett「Australia’s economic security outlook: Expert perspectives on challenges facing Australia in 2025外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、United States Studies Centre(2025年1月30日付)を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。2024年10月から現職。