高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とはリサイクル軸に重要鉱物確保に取り組む英国
2026年3月13日
英国政府は2025年11月に重要鉱物の自給率向上とサプライチェーン強化を目的とした新たな戦略を発表した。日本との間でも2023年10月に署名した協力覚書に基づき、連携強化を図っている。英国の重要鉱物に係る動向につき、駐日英国大使館への取材(2026年1月8日実施)も含めて整理する。
重要鉱物確保に向けて2035年の目標設定
英国の「重要鉱物」は重要鉱物資源情報センター(CMIC)が2024年に作成した「重要性評価(Criticality Assessment)
」に基づく(参考1参照)。英国政府は2025年11月に3度目となる重要鉱物戦略を公表(2025年12月3日付ビジネス短信参照)。英国ではこれまでにも前保守党政権下の2022年7月、2023年3月(改訂版)にそれぞれ同様の戦略が公表されていたが、今回労働党政権としての方針を示したかたちだ。11月に公表した戦略では、重要鉱物の確保に向け2035年までの以下の目標を掲げている。
- 年間国内需要の10%を国内生産。リチウムについては最低5万トンを国内生産。
- 同20%をリサイクルによる鉱物回収で確保。
- いずれの鉱物についても単一国への依存度を60%以下に抑制。
参考1:英国における「重要鉱物」
- 重要鉱物
- アルミニウム、リチウム、ロジウム、アンチモン、マグネサイト、ルテニウム、ビスマス、マグネシウム、シリコン、ホウ酸、マンガン、ナトリウム、コバルト、天然黒鉛、タンタル、ガリウム、ニッケル、テルリウム、ゲルマニウム、ニオビウム、スズ、ハフニウム、リン、チタン、ヘリウム、プラチナ、タングステン、インジウム、レアアース、バナジウム、イリジウム、レニウム、亜鉛、鉄
出所:英国政府
現状、英国における重要鉱物の生産量は国内需要に対して6%程度にとどまっている。サプライチェーンの強化に向けて、鉱物関連プロジェクトへの資金提供のほか、英国輸出信用保証局(UKEF)やナショナル・ウエルス・ファンド(NWF)などの政府系金融を活用した投資の促進、採掘・処理事業者への電力価格支援、採掘・加工・リサイクル分野での技能育成などの施策に取り組むとしている。この一環として、UKEFは新たな輸出保証制度を導入。同制度では英国の輸出事業者に重要鉱物製品を供給する在英企業に対し8割の資金保証を提供する。供給企業の資金調達を支援することで、生産能力拡大に向けた投資を促進する狙いだ。
重要鉱物は、現政権の産業政策の基盤となる「産業戦略」においても重要視されている。政府は同戦略の中で先端製造業や防衛産業といった「成長産業」を支える基礎産業(Foundational Industries)として重要鉱物を位置付けており、支援の対象としている(2025年6月25日付ビジネス短信参照)。今回発表された重要鉱物戦略においては、成長産業において需要拡大が見込まれる鉱物を「成長鉱物」として設定した(参考2、表1参照)。この戦略では「重要鉱物」と「成長鉱物」に対して、それぞれ異なる支援策(具体的な支援策は英国政府ウェブサイト参照
)を用意している。一部の鉱物については重要鉱物、成長鉱物の双方に設定されているが、その場合は両鉱物向けの支援が受けられる。
参考2:英国における「成長鉱物」
- 成長鉱物
- アルミニウム、リチウム、アンチモン、マンガン、ベリリウム、ニッケル、クロム、貴金属類、コバルト、レアアース、銅、レニウム、ガリウム、シリコン、ゲルマニウム、タンタル、天然黒鉛、スズ、人造黒鉛、チタン、ハフニウム、タングステン、ヘリウム、ウラン
注:太字は「重要鉱物」にも設定されているもの。
出所:英国政府
| 鉱物 | 技術・製品例 |
2027年 見通し |
2030年 見通し |
2035年 見通し |
|---|---|---|---|---|
| アルミニウム | 電気自動車(EV)、クリーンエネルギー、電力グリッド | 1,875,000 | 3,966,000 | 8,003,000 |
| コバルト | EV、航空宇宙向け合金 | 34,010 | 76,610 | 163,000 |
| 銅 | EV、駆動用電動機、電力グリッド | 922,200 | 1,953,000 | 3,619,000 |
| 黒鉛 | EV、燃料電池 | 28,610 | 137,800 | 449,100 |
| リチウム | EV、空気処理、ポータブルバッテリー | 28,680 | 113,400 | 399,200 |
| ニッケル | EV、航空宇宙向け合金、クリーンエネルギー、ポータブルバッテリー | 182,700 | 416,100 | 867,200 |
| レアアース | 駆動用電動機、産業マグネット、クリーンエネルギー、家電 | 7,788 | 18,020 | 37,940 |
| チタン | 航空宇宙向け合金、クリーンエネルギー | 177,100 | 360,700 | 684,900 |
注:詳細なリストは英国政府ウェブサイト(Table1)
を参照。
出所:英国政府
英国の強みはリサイクル、日本のマグネットメーカーに注目
重要鉱物戦略では、英国の強みとして、以下が挙げられている。
- 研究・開発・イノベーション
- 中間加工およびリサイクル
- バリューチェーンに関する専門性と鉱物資源
- 採掘に係るファイナンスと金属取引
- 地域の産業集積
- 国際開発・外交
英国政府としても国内の投資機会を示すべく、英国重要鉱物協会(CMA)と連携し「UK Critical Mineral Investment Prospectus」を作成・公表している(CMAウェブサイト参照
)。開発・採鉱、加工・リサイクル、技術サービスという、サプライチェーンの上流から中流を含めたプロジェクトや企業約40件を掲載している。
駐日英国大使館で先端製造業分野の対英投資を支援するニック・ウェスト投資担当参事官補佐と湯原優子対英投資上級担当官は、重要鉱物のサプライチェーンの中でも中流の分離、精査、リサイクルに特に強みがあると話す。英コンサルティング企業フレーザー・ナッシュ・コンサルタンシーがCMA、重要鉱物加工研究所(MPI)とともに2025年4月に作成した報告書「UK critical minerals recycling and midstream processing capability assessment
」では、特にリチウム、レアアース、貴金属類の精錬、リサイクル技術に強みがあるとしている。特にレアアースでは、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、サマリウム、ガドリニウムなどを、永久磁石からリサイクルまたは使用済み製品から回収する技術に強みがあるとのことだ。国内でも中部バーミンガムのタイズリー・エネルギー・パーク内にHyProMagとバーミンガム大学が磁石のリサイクル施設を開設。北アイルランドではアイオニック・テクノロジーズが同様の施設の設置を計画している。
両氏によれば、従来はコストの高さからリサイクルされた鉱物への関心はそこまで高くなかったものの、直近では地政学的な緊張に伴い鉱物の確保に向けた動きの一環としてリサイクル材への関心が高まってきたという。両氏は英国の優位性として、そうしたリサイクル材への需要が見込まれる自動車産業や防衛産業といった欧州の顧客への地理的近接性を挙げる。自動車に関しては、国内生産の約47.8%を占める日産自動車(国内生産シェア35.7%)とトヨタ自動車(12.0%)をはじめ、ベントレーやアストンマーチン、ロールス・ロイス、ジャガー・ランドローバーなど高級車メーカーも立地していると紹介した。
日本企業との関係では、リサイクル分野での強みを生かしレアアースのリサイクル分野で協力の可能性を模索している。特に、英国内にプレイヤーが乏しいマグネットメーカーの誘致に関心を有しているという。
なお、英国国内では重要鉱物関係企業向けに複数のイベントが予定されている(表2参照)。
| イベント名 | 日程 | 都市 |
|---|---|---|
|
UK Mining Conference |
6月10日~11日 | コーンウォール |
|
Hillhead |
6月23日~25日 | バクストン |
|
LME ウィーク |
10月19日~23日 | ロンドン |
|
ロンドンマイニングウィーク |
11月27日~12月3日 | ロンドン |
注:イベントの日程、都市は2026年1月30日時点のもので変更の可能性がある。
出所:各イベントウェブサイト、英国政府
企業に対する補助金や支援については、英国政府として5,000万ポンドを投じ重要鉱物関連の研究・開発やイノベーションの促進を図るとしている。詳細は2026年中に公表される予定だ。加えて、EV向けの研究・開発・投資支援プログラム「DRIVE35」(2025年7月17日付ビジネス短信参照)においても、先端推進システム技術センター(APC)や自動車変革基金(ATF)を通じ重要鉱物関連のプロジェクトを支援している。このほか政府系金融機関の英国ビジネス銀行も、重要鉱物を含めた英国国内のプロジェクトに対し資金供給を行っているという。
具体的な日本企業の動きもみられる。英国のリチウムイオン電池リサイクル技術を開発するアルティリウム・メタルズ(Altilium Metals)に対し、2025年1月に丸紅が、3月にみずほ銀行がそれぞれ出資を発表している。同社は2025年10月にEVバッテリーのリサイクル用のパイロットプラントの稼働を開始している。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部国際経済課
山田 恭之(やまだ よしゆき) - 2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課、欧州ロシアCIS課、ロンドン事務所を経て2025年8月から現職。






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