高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは国産化推進に向けた産業・通商政策展開(メキシコ)

2026年2月9日

メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は2025年1月13日、国内投資計画「プラン・メキシコ」を発表した。当該計画の狙いは、国内の貧困と格差を是正しつつ、国の発展を促すところにある。そのため、2030年までの達成目標を設定した。目標の中には、メキシコ国内市場や公共調達、グローバルサプライチェーンでの国内生産品のシェア拡大を盛り込んでいる。背景には、アジアなどからの輸入品への依存度が高まって国内産業が縮小することへの危機感がある。

現政権は発足以降、国内産業強化に向け政策を次々と打ち出してきた。その政策手段は、大きく(1)国産品優遇措置と(2)投資誘致に分けることができる。本稿では、メキシコ政府が実施中または実施予定の国内産業強化に向けた政策を概観。その狙いをひもといていく。

プラン・メキシコで産業政策を規定

「国家開発計画2025-2030(Plan Nacional de Desarrollo)」は、政権の総合的な国家戦略を規定している。その中で、プラン・メキシコは長期的な産業政策という位置付けだ。

メキシコ政府の分析によると、過去数十年間で貿易の自由化が進展。国際通商環境で生産地が最適化していき、メキシコもその影響を受けている。結果として、メキシコでは自動車産業などの輸出志向型産業が発展した。しかし、部材の多くをアジアなどからの輸入に依存している。そのほか、国内市場でも国産品が輸入品に押されている。こうした点を課題に設定している。

メキシコ政府の分析結果を確認するため、メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)が発表する月間鉱工業生産指数(IMAI)(注1)を追ってみる。産業別に2000年と2024年の平均値を比べその伸び率をみると、輸送用機器製造業(自動車産業を含む)が141.2%増と大きく成長した。これに対し、一部の産品は落ち込んでいる。例えば衣服・繊維は28.6%減、革製品は36.6%減だ。自動車産業は米国向け生産が多いため、単純比較はできないが、縮小傾向の産業があることは事実だろう。

「プラン・メキシコ」には、現政権の任期が終了する2030年までに達成する目標を定めている。目標は13あり、経済や観光、貧困など多岐にわたる(2025年1月17日付ビジネス短信参照)。その中には、(1)国内外市場や公共調達、グローバルサプライチェーンでの国産品シェア拡大や(2)投資拡大を目指すものがある。

(1)としては、例えば「重点産業(繊維・履物・家具・玩具)のサプライヤーおよび国内消費の50%を国内で自給する」「自動車や航空宇宙などの分野のグローバルサプライチェーンで、シェアを拡大する」など。また、(2)としては「GDPに占める投資の割合を25%以上に高める」「投資の実行に係る手続きの簡素化や要件を緩和する」などだ。

4月には、これら目標達成に向け、18の行動計画を発表した(2025年4月11日付ビジネス短信参照)。その中には、国内産業強化の推進に関わる計画もいくつか盛り込んでいる。 次に、個々の項目や2025年に実施した施策について、詳述していく。

繊維・履物を中心に、国産品の生産・消費を推進

「プラン・メキシコ」が特徴的なのは、繊維製品や履物など、従来からある軽工業製品を保護対象にしていることだ。背景には、現・左派政権が重視する国内の雇用保護がある。輸入品の流入によって雇用が喪失するのを防ぐのが狙いと言っても良い。

そのための方法の1つとして、関税引き上げなどの貿易措置がある。具体的には現政権発足後、(1)衣類と繊維製品について一般関税率引き上げ(2024年12月25日付ビジネス短信参照)、(2)履物(完成品)の一時輸入を禁止する(2025年9月2日付ビジネス短信参照)、などの措置を行ってきた(表1)。

特に警戒感が強いのが、中国の電子商取引(EC)プラットフォームによる関税回避行為だ。国際宅配便などを利用して少額分割輸入すると、デミニミスルールが適用されるため、この仕組みが利用される。対策として2025年から、当該ルールを廃止した(米国とカナダからの輸入を除く)。このほか同年7月、簡易通関の総合税率を引き上げた(2025年7月31日付ビジネス短信参照)。

ほかにも、2026年1月1日から施行された大規模な一般関税率の引き上げ(2025年12月12日付ビジネス短信参照)では、繊維・履物に加え、家具や玩具、革製品などを対象品目に含んでいる。一般関税率の引き上げが国内産業保護を目的にしていることは、マルセロ・エブラル経済相も公言(2026年1月6日付ビジネス短信参照)。貿易措置によって廉価な輸入品の流入を防止する姿勢を強めている。ただ、こうした貿易制限的措置は基本的にWTOルールに違反しないかたちで実施されている。実際、一般関税率引き上げは、WTOで約束した譲許税率の範囲内だ(注2)

表1:国内産業保護に向けてシェインバウム政権が実施した主な貿易措置 注:IMMEXとは、輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム。製品やサービスの輸出を条件に、当該オペレーションに必要な部品・原材料、機械設備の一時輸入(保税輸入)を認める。 なお同政令の別添Iに記載の品目は、IMMEXを有していても一時輸入できない。
実施時期 対象品目・範囲 措置の内容
2024年12月 衣類・繊維製品 (1)衣類と(2)繊維製品の一般関税率を一時的に引き上げ。(1)の138品目を35%に、(2) 17品目を15%にした。
2024年12月 衣類・繊維製品 HSコード61~63類の多くをIMMEX政令の別添Iに追加。IMMEXプログラムの適用企業でも、一時輸入不可にした(注)。
2025年1月 国際宅配便 「2025年の貿易に関する一般規則(RGCE 2025)」により、  国際宅配便を通じた少額貨物に適用する輸入免税措置(デミニミスルール)を廃止した。
2025年8月 履物(完成品) HSコード6401項~6405項のうち50品目を、IMMEX政令の別添Iに追加(注)。 
2025年8月 国際宅配便 RGCE 2025を改正。国際宅配便を利用した簡易通関の総合税率を引き上げ。
2026年1月 繊維製品、履物、家具、玩具、革製品、自動車など1,463品目 一般関税率を大幅に引き上げ(最大50%まで)

注:IMMEXとは、輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム。製品やサービスの輸出を条件に、当該オペレーションに必要な部品・原材料、機械設備の一時輸入(保税輸入)を認める。
なお同政令の別添Iに記載の品目は、IMMEXを有していても一時輸入できない。
出所:メキシコ政府官報からジェトロ作成

政府は、貿易措置だけでなく、国産品の販売促進も主導している。例えば、国産品の認定制度(Hecho en México)の運用を再活性化した。事実、その登録企業数が急拡大しており、2025年5月23日時点で623社だったが、同年の11月30日時点で3,640社となっている。また、量販、百貨店、薬局、デジタルプラットフォームなどの企業22社と、店頭・ECで国産品の取扱比率を高める自発的協定を締結。さらにこのほか、政府主催の品目別商談会を開催している。

医薬・医療や半導体などに投資を誘導

メキシコでは従来、米国向けの自動車製造拠点として外資系企業の進出が相次いできた。日系企業も数多く生産拠点を構えている。一方で、現政権は自動車関連以外の産業でも、国内産業強化に向けた投資誘致に積極的だ。

プラン・メキシコに基づく施策としては、「福祉経済開発拠点(Polos de Desarrollo Económico para el Bienestar:PODECOBI)」と呼ばれる特定開発拠点がある。適用を受けると税制インセンティブを受けることができる(2025年5月27日付ビジネス短信参照)。2025年12月時点で15拠点を設置。12月15日には、うち6拠点について経済省が投資計画を発表した(表2)。

表2:2025年12月時点で承認済みの福祉経済開発拠点とその進行状況(ーは記載なし)
州(都市など) 面積(ha) 産業分野 プロジェクトの進行状況 推定投資額
カンペチェ州(セイバプラヤ) 99.9 物流、農業加工、エネルギー関連製造業、軽工業 準備中。
チワワ州(フアレス) 60.3 物流、イノベーション、自動車、電動車、医療機器、技術サービス 準備中。
キンタナロー州(チェツゥマル) 87.8 再生可能エネルギー、繊維、エレクトロニクス、自動車、農業加工 準備中。
プエブラ州(シウダ・モデロ) 217.7 自動車、エレクトロニクス、繊維、化学、プラスチック 自動車や食品企業などが投資予定。 約20億8,000万ペソ
イダルゴ州〔フェリペ・アンヘレス国際空港(AIFA)〕 910.8 医薬品・医療機器、自動車、航空機、物流、製造業 医薬品関連の研究開発プロジェクトを実施予定。 約20億ドル
ミチョアカン州(モレリア) 342.1 農業加工、消費財、医薬品・医療機器、エレクトロニクス、物流 自動車部品や製粉メーカーなどが投資予定。 約7億ドル
グアナフアト州(セラヤ) 52.4 物流、農業加工、自動車、繊維・履物、航空宇宙 州政府と物流会社による共同投資を実施予定。 約25億ペソ
イダルゴ州(トラスコアパン・アティタラキア) 275.1 循環型経済に関するプロジェクト 準備中。
メキシコ州(ネツァルコヨトル) 68.4 消費財、医薬品・医療機器、電子機器・半導体、エネルギー 準備中。
トラスカラ州(ウアマントラ) 53.0 自動車、エレクトロニクス、繊維、化学、金属加工 7社が投資を決定済み。 約5億4,000万ドル
ベラクルス州(トゥクスパン) 235.1 物流、農業加工、エレクトロニクス、化学、エネルギー 準備中。
ドゥランゴ州(ドゥランゴ) 315.4 電動車、自動車、エレクトロニクス、製紙産業 自動車製造関連プロジェクトを実施予定。 第1フェーズ:約3億ドル
第2フェーズ:約7億ドル
ソノラ州(エルモシージョ) 546.5 自動車、半導体、農業加工、エネルギー、物流、医薬品・医療機器 準備中。
タマウリパス州(アルタミラ) 1765.7 自動車、化学、エレクトロニクス、金属加工、物流 準備中。
シナロア州(トポロバンポ) 272.9 物流、化学、エネルギー、プラスチック、基本金属工業 準備中。

出所:メキシコ政府のウェブサイトや記者会見映像、現地メディアの報道などからジェトロ作成

こうした姿勢もあり、連邦政府・州政府主導で打ち出しているプラン・メキシコに対して、まだ計画段階のものも多いが、自動車関連以外でも投資計画が相次いで発表されている。

代表的な分野が医薬品・医療機器だ。政府は2025年6月、大統領令を発出。医薬品・医療資材・医療機器を公共調達するにあたり、国内に拠点(工場、研究所、倉庫など)を設置する企業を優遇する内容を盛り込んだ。8月には、医薬品・医療機器4社(注3)が投資を発表。合計投資額は120億ペソ(約1,020億円、1ペソ=8.5円)に上った。先述のPODECOBIでも、イダルゴ州に医薬品関連の研究開発プロジェクトが実施予定になっていることを発表していた。総じて、国内での医薬品・医療機器の生産能力を強化する狙いがうかがえる。

半導体・人工知能(AI)分野の投資は政策だけでなく、米国との隣接性という地理的条件も後押しする。北米域内の半導体サプライチェーンの中で、メキシコには特に後工程の拠点として期待が高まっている(2025年3月7日付地域・分析レポート参照)。ヌエボレオン州では11月、今後10年間で10億ドル規模の投資計画の発表があった。この件では、米国エヌビディア(NVIDIA)も技術パートナーとして参画するという(2025年11月20日付ビジネス短信参照)。

また投資を受け入れるには、人材面も重要だ。この件については8月、経済省とアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が連携して能力開発プログラムを開発すると発表した。このほか全国の工科大学が11月、キャンパスで学習プログラムを始動すると発表している。このように、官民で人材供給体制の構築が進んでいる。

このように自動車産業以外の強化を図るメキシコ政府だが、自動車産業の重要性が下がったわけではない。国際自動車工業連合会(OICA)によると、メキシコの自動車生産台数は世界で5番目に多い。ただ、メキシコでは組み立て工程が行われることが多く、部品の多くは国外からの輸入に頼る状況が続いてきた。事実、2024年の品目別(HSコード4桁)輸入額では、自動車部品(HS8708)が最も多い。

この状況に政府としては、自動車部品の国内生産を増加させることで、自動車のグローバルサプライチェーンでメキシコ産品のシェアを拡大させたい考えだ。先述のPODECOBIでも、多くの拠点で自動車産業が対象の産業分野に含まれている。また、米国の追加関税措置により、同産業では米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を利用する必要性が高まった(2026年1月26日付地域分析レポート参照)。こうした中、USMCAの原産地規則を満たすため、メキシコ国内で部品・原材料を調達する動きが拡大している。これは、メキシコ国内での自動車関連投資を後押しする材料となっており、政府としてもUSMCAの枠組みを維持するべく米国と交渉を続けている。

インフラや治安など、投資環境に課題

政府はこのように、積極的に投資誘致を進めている。ただし、国内のビジネス環境には課題もある。

ジェトロが2025年8~9月に実施した「海外進出日系企業実態調査(中南米編)」では、メキシコの国内ビジネス環境のデメリットとして、34.1%が「行政手続きにおける遅延や煩雑さ」を挙げた(図)。政権が進める徴税強化策によって、税務調査が厳しくなっている。そのほかにも、輸入手続きの遅延なども発生しており、課題を感じている日系企業は多い。

2番目に多かった回答は、「現地の治安状況/駐在員の生活環境」。32.9%の企業が選択した。例えば45号線D(日系企業が多く進出するグアナファト州とケレタロ州を結ぶ幹線路)で車両強盗が頻発。また、政府が麻薬組織の取り締まりを強化した副作用として、政府関係者の殺害事件などが相次いでいる。こうしたビジネス環境の不安定さは投資を鈍らせてしまう。

図:メキシコの投資環境面のデメリット(n=170)
行政手続きにおける遅滞や煩雑さが34.1%、現地の治安状況/駐在員の生活環境が32.9%、人件費や従業員の質を含む雇用環境が9.4%、土地やインフラの整備状況が5.9%、その他17.8%。

出所:「2025年度 海外進出日系企業実態調査(中南米編)」

インフラ面でも課題含みだ。主要港(マンサニージョやラサロカルデナス)では長年、混雑が続いてきた。部材輸入が遅延するようなことがあると、製造業などにとって打撃になる。そのため、政府は港湾の開発計画を発表。これによって国内港湾間輸送や輸出入の円滑化が期待される(2025年8月5日付ビジネス短信参照)。

エネルギー面でも、日系企業から停電の頻発などの指摘がある。電力部門で民間投資を制限しているメキシコでは、政府の特に送配電分野への投資不足により、慢性的な電力不足が指摘されていた。シェインバウム政権下では、民間部門の発電も取り込む動きがみられるものの(注4)、依然として政府主導の電力政策が続いている。本格的な課題解決には時間がかかりそうだ。


注1:
メキシコの産業活動の動きを短期的に把握・追跡するための指標。産業別の生産統計などから算出する。 本文に戻る
注2:
ここでいう「譲許税率」は、関税および貿易に関する一般協定(GATT)のウルグアイラウンド交渉に基づき、WTO加盟国が他加盟国に対して約束した上限税率。
関係国の合意なく譲許税率以上に一般関税率を引き上げた場合は、WTO違反になる。ただし、上限税率の範囲内なら、各国政府の裁量に基づき、最恵国待遇(MFN)税率を変更できる(引き下げはもちろん、引き上げも可能)。 本文に戻る
注3:
投資を発表した企業と投資額は、次の通り。
  • ベーリンガーインゲルハイム(ドイツ):約35億ペソ
  • アストラゼネカ(英国):20億ペソ
  • カルノット・ラボラトリオス(メキシコ):35億ペソ
  • バイエル(ドイツ):30億ペソ。本文に戻る
注4:
2025年3月に施行された新電力部門法(LSE)により、国の監督下ではあるが、民間部門が参入できる枠組みが明確化された。詳しくは2026年1月26日付地域分析レポート参照本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課中南米班
加藤 遥平(かとう ようへい)
2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。