高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは重要鉱物リサイクルの新機運
日豪連携で強める重要鉱物供給網(3)

2026年3月30日

オーストラリアは、豊富な資源を採掘して輸出するだけの従来型ビジネスモデルからの転換を進めている。連邦政府は国家戦略として、国内での精製・加工能力の強化と付加価値創出を重点的に推進中だ。

オーストラリア連邦政府の戦略において、リサイクル分野に関する言及は限定的だが、重要鉱物のリサイクルは「二次供給源の確立」という観点から極めて重要であり、国際エネルギー機関(IEA)などは、サプライチェーンを強化する上で欠かせない要素として位置付けることができると指摘している。

本稿では、2025年11月末に実施した現地取材を基に、重要鉱物サプライチェーン強靭(きょうじん)化を進める上での日豪連携の課題と展望を追う。今回は鉱業廃棄物を「価値ある高純度材料」へ変える能力を持つオーストラリア企業に焦点を当て、同国における重要鉱物サプライチェーンのリサイクルの可能性について報告する。

鉱山採掘国から加工・製造国への転換を目指す

オーストラリア連邦政府が2023年6月に発表した「重要鉱物戦略(2023年~2030年)」(2023年7月10日付ビジネス短信参照)では、鉱物資源の採掘に係る投資誘致だけでなく、下流の加工・精製工程までを国内で行う能力の獲得が目指されている。それに加えて、基盤となる熟練労働者の育成、インフラやサービス(注1)への投資促進、鉱山廃棄物からの重要鉱物などの回収可能性など、オーストラリアから産出される資源から、より多くの価値を抽出する再処理などの取り組み方針が記載されている(注2)

従来型の目標である、外国パートナーが求める重要鉱物資源の採掘を進めるための投資誘致という観点に加えて、中流~下流に係る言及が強調される背景には、オーストラリアには、依然として原材料を輸出し、その加工品を輸入する「掘って、出荷(dig and ship)」から脱却できていない、という課題があるからにほかならない(注3)

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)によると、重要鉱物戦略などのビジョンや、鉱物資源に関する国際パートナーシップ(2026年1月20日付地域・分析レポート参照)は存在するものの、資金の大半は採掘に集中しており、加工や精錬といった中流~下流分野への投資は少ない。同研究所は「もしオーストラリアが『サプライチェーンの主権』に本気で取り組むのであれば、採掘国としての発想から脱却し、製造国としての行動様式に転換しなければならない」と提言する。

オーストラリア連邦政府は2024/2025年度の連邦予算にて「Future Made in Australia(FMIA)」を発表し、その一環として国内で付加価値化を促進するための「重要鉱物生産に伴う租税優遇措置(Critical Minerals Production Tax Incentive:CMPTI)」により、国内で重要鉱物を精製・加工する企業に対し、経費の一部(10%)を税制優遇で付与する制度を設けた(2026年1月8日付地域・分析レポート参照)。しかし、同国鉱物産業に詳しい関係者は「環境許認可取得の難しさや労働コストの高さといった要因があり、オーストラリアで中流~下流の第2次産業を行うことは本質的に難しい。他方、採掘に近い部分には資金がつきやすい」という(注4)。別の関係者も、「FMIAは大きな枠組みで、主な目的はグリーン・エネルギー事業の支援であり、その一部で重要鉱物を支援するかたちとなる。FMIAの発表により、すぐに(重要鉱物の精製・加工事業の)新規プロジェクトが増大するといった目に見える変化が起こるわけではなく、時間がかかるだろう」という(注5)

こうした背景から、オーストラリアの重要鉱物産業では、上流側の鉱山開発に関心や資金が集中する傾向になりやすい。ただ、同国の課題感を念頭に置けば、日本企業(特に中小企業)との連携が期待できる部分として、中流~下流での精錬・加工能力、リサイクルに係る技術・協力、それらに必要な冶金(やきん)や化学技術者、熟練労働者の育成といったところの可能性は高そうだ。

鉱山廃棄物(Mine Waste)からの資源回収

本稿では、鉱山廃棄物からの重要鉱物などの回収の機会を紹介したい。オーストラリアには過去に採掘された鉱山の残渣(ざんさ)が大量に存在し、当時は価値が認識されていなかった重要鉱物(レアアース、リチウム、コバルトなど)が含まれている。鉱山廃棄物そのものを「資源」として捉え、循環型資源として再評価する取り組みが急速に進展しているのだ。

オーストラリア連邦政府のオーストラリア地球科学機構(Geoscience Australia/産業・科学・エネルギー資源省傘下)は全国レベルの廃棄物マッピング事業を実施し、オーストラリア全域の鉱山廃棄物(テーリング、廃石、製錬残渣など)を網羅的に可視化した初の全国地理データベース「Atlas of Australian Mine Waste」を2023年に発表した。その後もアップデートを続け、現在、Atlas of Australian Re-mining Potential外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとして、連邦政府の統合地理データプラットフォーム上で公開している。同地図を確認すると、レアアース含有量が最も高い鉱山廃棄物施設の場所を特定でき、廃棄物から抽出する工程に何が必要かを検討する作業も進められる。

オーストラリア地球科学機構の研究者は「重要鉱物の多くは、銅や亜鉛などの主要鉱物に付随する微量成分として存在している。数値として残存量を把握しているわけではないが、関連性を示すことはできる。主要鉱物と副産物の関係を解明することで、例えば亜鉛やボーキサイトといった主要鉱物から、ゲルマニウムやガリウムなどの含有量が高い鉱床を予測できる」と述べる(注6)

続いて、鉱山廃棄物から高付加価値な材料を抽出するオーストラリア企業の事例を紹介する。

廃棄物から高純度アルミナを生み出す地場企業

ラバブルー(Lava Blue、本社:クイーンズランド州ブリスベン)は、2018年設立の高純度素材の製造技術開発企業で、特に99.99%以上(4N)の高純度アルミナ(HPA)の製造技術で注目されている。HPAはLED、サファイアガラス、半導体、リチウムイオン電池のセパレーター(絶縁膜)などに使用される重要素材だ。


ラバブルー社の製品(同社提供)

ラバブルーはクリーンエネルギー戦略の一環として、オーストラリア政府から2022年に524万豪ドルの助成金を獲得している。同社の強みは、カオリン粘土(注7)に加え、アルミニウムを含む鉱山廃棄物(mine waste)など幅広い原材料を受け入れ可能な独自の技術を有していることだ。クイーンズランド工科大学(QUT)とは設立当初から研究だけでなく「商業化」まで視野に入れた産学連携を行っている。同社によれば、QUTの大学院生・博士・教授レベルの研究者・アドバイザーがフルタイム換算で、約25人分規模でプロジェクトに参画している。

同社はブリスベンから南西に約30キロの郊外に、PRiSM(Centre for Predictive Research into Specialty Materials、特殊素材予測研究センター)という施設を持っている。HPA製造のスケールアップ(実証運転)を目的に建設された施設で、年間800〜1,000トンのHPAを生産することを目指している。長期計画では2030年代中頃までにライセンス生産で年間25,000トンのHPAを供給することや、2034年までに非常に高純度な素材の生産量を年間1,600トンに拡大することを目指している。


高純度アルミナ製造のスケールアップ施設内(ジェトロ撮影)

協業を求めるラバブルーの日本企業への期待

ラバブルーには世界のさまざまな国の企業から関心が寄せられている。日本にも多くの用途でHPAを使用する企業が数多く存在するため、同社は日本企業とのビジネスにも意欲的だ。しかしながら、同社幹部のマイケル・フォード氏は「日本企業は大きな企業としか話したがらない」と、オーストラリアの新興・中小企業が日本企業と関わる機会が限定的なことに懸念を示している。

フォード氏はラバブルーのような小規模企業は日本企業との信頼関係は早期のコミットメントによって築くことが重要であると指摘する。一方で、同社はライセンス提供に対して慎重な姿勢であるものの、意欲ある企業との連携には前向きである。ライセンシーとなる企業には、ラバブルーが重視する品質基準やサービスへの姿勢を共有し、それを実践できることが求められるためである。同氏は「当然ながら、志を共有し、強固で長期的な関係を構築できるパートナーとの協業を望んでいる」と強調した。

最後にフォード氏は、「ラバブルーは重要鉱物分野に関心を持つ日本企業との関係構築に強い関心を有しており、適切な場面では共同研究開発(R&D)を進め、適切な企業とは覚書(MoU)を締結し、将来的にはオフテイク契約の実現も視野に入れている」と述べて締めくくった。


注1:
鉱山開発や製錬・加工が行われる地域における、エネルギー供給や輸送能力、技術者や労働者が住む住宅などの整備。 本文に戻る
注2:
JOGMEC「豪州連邦政府の新たな重要鉱物戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2023年7月28日付) 本文に戻る
注3:
オーストラリア戦略政策研究所「Australia must process, not just dig, its critical minerals外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」『The Strategist』(2025年6月3日付) 本文に戻る
注4:
2025年11月25日にキャンベラで実施したヒアリングによる。 本文に戻る
注5:
2025年11月27日にシドニーで実施したヒアリングによる。 本文に戻る
注6:
2025年11月25日にキャンベラで実施したヒアリングによる。 本文に戻る
注7:
カオリナイトを主成分とする、白く微細な天然の粘土鉱物。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部調査企画課長
小林 寛(こばやし ひろし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ハノイ事務所、企画部事業推進室(ASEAN・南西アジア担当)、経済産業省中小企業庁出向、海外調査部アジア大洋州課長、海外展開支援部中堅中小企業課長などを経て2025年5月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。2024年10月から現職。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。