世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うSAF製造をリードするフィンランド、次世代燃料への展望
安価な電力由来の水素と生物由来CO2活用

2026年6月19日

フィンランドは、森と湖の国として知られる北欧の国だ。豊富な森林資源を生かした製紙・パルプ・木材が伝統的基幹産業で、金属・機械産業がこれに加わる。近年では情報通信産業が主要産業の一角を成している(注1)。同国は2035年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げる(フィンランドのクリーンエネルギー・水素政策については、調査レポート「フィンランドのクリーンエネルギー・水素産業動向(2026年3月)」も参照)。

フィンランドは、EU全体での目標である2050年より15年も早いカーボンニュートラル目標を掲げている。次世代燃料製造を推し進めることができる理由の1つは、そのエネルギー源にある。フィンランドのエネルギー別発電量の構成は、半分以上が再生可能エネルギーで、4割を原子力が占める(図1)。再生可能エネルギーの内訳は、風力、水力、木質燃料などだ。そのため、同国では再エネと原子力を合わせて電力がほぼ「二酸化炭素(CO2)フリーだ」という表現をよく使い、電力価格は欧州で最も安い水準にあるという。実際、2025年のEU加盟国の国別非家庭向け電力価格で、フィンランドは最安だった(表1)。

図1:エネルギー源別発電量の割合(2024年)
全体の発電量の内訳は、再生可能エネルギー56.5%、原子力39.0%、化石燃料合計3.4%、泥炭0.9%、その他のエネルギー源0.2%。再生可能エネルギーの内訳を示す拡大円では、風力25.3%、水力17.7%、木質燃料11.6%、太陽光1.2%、その他の再生可能エネルギー0.7%となっている。単位はすべて百分率。

出所:Statistics Finland

表1:EU加盟国の国別非家庭向け電力価格(単位:ユーロ/kWh)

注:消費量バンド(500~2,000MWh)、税抜き、マルタの2025年下半期の数値は暫定値。2025年後半の値の昇順。
国名 2025年上半期 2025年下半期
フィンランド 0.0776 0.0742
スウェーデン 0.0958 0.0965
ポルトガル 0.1136 0.1133
スペイン 0.1234 0.1156
デンマーク 0.1226 0.1205
ポーランド 0.1295 0.1226
フランス 0.1449 0.1297
エストニア 0.1335 0.1305
ラトビア 0.1354 0.1335
マルタ 0.1336 0.1337
スロベニア 0.1410 0.1370
ブルガリア 0.1453 0.1402
クロアチア 0.1600 0.1410
ギリシャ 0.1658 0.1490
ベルギー 0.1590 0.1522
リトアニア 0.1598 0.1588
オランダ 0.1667 0.1609
チェコ 0.1647 0.1622
イタリア 0.1774 0.1680
キプロス 0.1643 0.1702
ルクセンブルク 0.1763 0.1709
ルーマニア 0.1560 0.1718
オーストリア 0.1782 0.1754
スロバキア 0.1638 0.1761
ドイツ 0.1828 0.1828
ハンガリー 0.1947 0.1963
アイルランド 0.2652 0.2478

注:消費量バンド(500~2,000MWh)、税抜き、マルタの2025年下半期の数値は暫定値。2025年後半の値の昇順。

出所:ユーロスタット

次世代燃料の観点から見ると、安価な電力は水電解を通じた水素製造に不可欠だ。また、製紙・パルプ産業から排出されるCO2は生物由来CO2(注2)として、水素とCO2から製造する合成燃料の合理的な原料となる。林業残渣(ざんさ)はバイオガスの原料となる。加えて、持続可能な航空燃料(SAF)の世界のリーディングカンパニーであるネステ(Neste)はフィンランド企業だ。このように、次世代燃料とフィンランドの強みとの相性は良い。フィンランドでは、比較的製造しやすいバイオガスは既に実用化され、SAFも商用化されている。同国は、水素の製造を加速し、まだ普及していないeSAF(グリーン水素とCO2から製造する合成燃料由来のSAFの通称)プロジェクトを今後進めていきたい意向だ。本稿では、現地取材(2026年3月)を基に、安価な電力と生物由来CO2をキーワードとして、フィンランドの次世代燃料の展望を読み解く。

バイオガススタンドが既に実用化

バイオガスとは、廃棄物などを発酵させて処理し、メタンを製造して、天然ガスの代替として使用する。原料は国・地域により異なり、フィンランドでは林業、製紙産業、畜産由来の廃棄物や食品廃棄物、下水汚泥などが使われる。フィンランドでは、2016年に有機ごみ埋め立てを禁止したため(注3)、ごみ埋め立て由来のバイオガスは減少している(図2)。同時に、ごみ処理施設などで発生し、消費されることなく燃焼処理(フレアスタック)されるバイオガスも減少している。他方で、バイオガス製造施設や農場内の農業廃棄物処理施設において、脱炭素目標に貢献するかたちで計画的に製造・消費されるバイオガスの生産が拡大している。

図2:フィンランドのバイオガス消費量(生産プラント別)
2017年から2024年までの生産プラント別のバイオガス消費量(単位:TJ)の推移を示したグラフ。主要項目は汚水処理プラント、ごみ埋立地、バイオガス製造(共処理)施設、農場内農業廃棄物処理施設、フレアスタック。バイオガス製造(共処理)施設は2017年の1,237から2024年の1,782へ継続的に増加し最大規模。農業廃棄物処理施設も29から206へ急増。対照的に、ごみ埋立地は876から333へ大きく減少し、フレアスタックも長期的に減少。汚水処理プラントは700前後で大きな変動はない。

注:フレアスタックとは、ガスプラントなどで余ったガスを安全に燃焼させて処理すること。単位は全てTJ。消費ではなく処理(廃棄)量であるため折れ線グラフで表記。
出所:Statistics Finland

実際のプロジェクトを挙げると、トゥルク(液化バイオガス施設、大型トラック向け)、ロヘヤ(首都圏バイオ廃棄物処理施設、輸送燃料向け)、ユヴァ(農業系、地域暖房向け)、キュメン(林業残渣、発電向け)などの都市でバイオガスを生産している。

バイオガス急拡大の背景には、フィンランド国営エネルギー企業ガスム(Gasum、本社:エスポー)の影響が大きい。農業残渣などからのバイオガスの生産量が増えたことで、同社は天然ガスとバイオガスが選択できたガススタンドで供給するガスを2024年9月から全てバイオガスに切り替えた(注4)。このように、フィンランドでは車やトラックなどの道路用輸送におけるガスのバイオ燃料への移行が急速に行われた。政策的背景には、後述のEUの再生可能エネルギー指令(RED II/RED III)の供給義務がある。

バイオガス製造(共処理)施設は2017年の1,237から2024年の1,782へ継続的に増加し最大規模。農業廃棄物処理施設も29から206へ急増。対照的に、ごみ埋立地は876から333へ大きく減少し、フレアスタックも長期的に減少。汚水処理プラントは700前後で大きな変動はない。
オウル市のガスム社バイオガスステーション(ジェトロ撮影)

2024年のフィンランドの自動車保有台数は、乗用車277万台、バン35万台、トラック8万9,000台、バス1万1,000台となっている(注5)。バイオガス車の保有台数は、2万に満たないものの、増加傾向にある(図3)。特に、バンやトラックでは近年顕著な伸びがみられる。

図3:フィンランドのガス車(保有台数)
乗用車は2014年の1,249台から2020年に1万台を超え、2024年には16,639台まで急増し、全体の中心を占める。バンも169台から1,227台へ、トラックも73台から785台へと着実に増加。バスは40〜70台程度で推移。

出所:フィンランド自動車産業情報センター

なお、ガソリンは、EUで義務化されているバイオエタノール10%混合(E10)だった。

バイオガス製造(共処理)施設は2017年の1,237から2024年の1,782へ継続的に増加し最大規模。農業廃棄物処理施設も29から206へ急増。対照的に、ごみ埋立地は876から333へ大きく減少し、フレアスタックも長期的に減少。汚水処理プラントは700前後で大きな変動はない。
オウル市のガソリンスタンド、左からE10、E5(ジェトロ撮影)

このように、バイオ由来の燃料はフィンランドにおいて既に実用化されており、拡大傾向にある。

世界最大のSAF製造企業ネステを生んだ国

ネステは、フィンランドのエネルギー企業で、持続可能な航空燃料(SAF)の世界最大手だ。もともと国営石油企業であった同社はビジネスモデルを大きく転換。フィンランド、シンガポール、オランダでSAFを製造し、既に世界の主要航空会社など70社以上にSAFを提供する。同社が現在、主に製造しているのは、廃食油由来のHEFA系SAF(2025年12月11日付地域・分析レポート参照)だ。同社のプレスリリースによると、世界でのSAF生産キャパシティーは150万トン/年(2026年2月時点)であり、2027年に220万トン/年を目指す(注6)。国際航空運送協会(IATA)によると、2025年のSAF生産量は200万トンと予測される(注7)ことを考えると、同社の生産キャパシティーの大きさがうかがえる。

eSAFは、コストや大量生産の技術的な制約などから、まだ商用化には至っていない。既存製法のSAFで圧倒的な存在感を放つネステは、eSAF製造に関心を示しているものの、水電解によるグリーン水素製造に対しては、慎重な姿勢を見せる。背景には、水素製造コストの高さや需要の不確実性があるとみられる。2024年10月、ネステは、基本設計を終えていた120メガワット(MW)の水素製造用水電解装置(フィンランド・ポルヴォー製油所)への投資を取りやめた。ポルヴォー製油所でのプロジェクトで同社は、石油精製プロセスに主に水素を使用する予定だった(注8)

プロジェクト取りやめの理由として、(1)厳しい市場環境と同社の財務状況、(2)フィンランドの燃料供給義務制度との関係を挙げた。2023年にシンガポールに建設したSAF生産工場への投資に対して、競争の激化により販売が拡大しなかったことが一つ目の主な要因と言えよう。

二つ目の理由として挙げられたフィンランドの燃料供給義務制度とは、輸送用燃料の供給事業者に対し、販売する燃料の一定割合を再生可能燃料にすることを義務付ける制度だ。EU再生可能エネルギー指令(RED II/RED III)を国内法として実装したものだが、主に道路交通へのバイオ燃料使用義務があることから、水素への需要には大きな影響を与えなかった。

水素製造を取りやめたものの、同製油所で天然ガスの代替として水素を使用することをやめるわけではなく、ネステ自体のeSAFを含むRFNBO(非生物由来再生可能燃料)供給義務の達成に貢献する意向は変わらないことが強調されている。

一定の需要が見込める石油精製などへのグリーン水素使用が進まないことで、水素のプロジェクトが頓挫することは、モビリティーなど他用途への水素の使用推進を妨げることにもなる。こういった事例は、まさに世界中で見られる。需要が先か供給が先か(「ニワトリと卵」)のジレンマのフィンランドでの実例だと言える。

EUのeSAF供給の担い手目指す

そのような状況の中でも、安価な電力と生物由来CO2を活用したeSAF製造を目指すプロジェクトがフィンランド国内で生まれている。

フィンランドでは自国の強みを生かす1つの方法として、eSAFを重点分野としている。企業のネットワークである水素クラスターフィンランドのロードマップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、フィンランドはeSAFを2030年に6万トン、2035年に25万トン生産することを目標としている。コストの高いeSAFに投資できる要因は、EUのeSAFマンデートが大きい。EUのeSAFマンデートとは、欧州の空港を離陸する航空機向けに、2025年から燃料供給事業者に対して、航空燃料におけるSAF混合割合を規定する「ReFuelEU Aviation」規則のことだ(表2)。

表2:ReFuelEU Aviation:SAF/e‑SAF混合義務(EU)(ーは記載なし)
SAF混合割合(%) eSAF混合割合(%)
2025 2
2030 6 年平均1.2
(2030~2031)
2032~2034 6 年平均2.0
2035 20 5
2040 34 15
2045 42 20
2050 70 35

出所:ReFuelEU Aviation

このEU規則は2030年には、フィンランドに1万トンのeSAF国内需要を生み出すことが予測されている(注9)。フィンランドが同年に目標とする製造量は6万トンであるため、差の5万トンはこのマンデートによりeSAFを必要とするドイツやオランダなどに輸出する前提だ。水素クラスターフィンランドのリタ・シベノイネン・マネジングダイレクターは、この目標を達成するためには、eSAFの「ブック&クレーム(証書取引)」方式の確立が不可欠で、「物理輸送を伴わない国際取引を期待する」と述べた。証書取引とは、製造したSAFを物理的に航空会社に販売するのではなく、証書(SAFによるCO2削減価値)を売買することで取引を円滑化するものだ。再エネなどで世界で広く使われている。

国内外での利用価値を見据えた水素関連燃料プロジェクト

eSAF製造を含むフィンランド国内の水素関連プロジェクトは、水素クラスターフィンランドのウェブサイトで確認できる。注目すべき点は、単なる水素製造にとどまらず、他の用途を組み合わせる前提でほとんどのプロジェクトが検討されている点だ(表3)。

表3:フィンランド国内の水素関連プロジェクト(ーは記載なし)注:初期段階はグリーン水素製造のみでも、プレスリリース上に将来の次世代燃料プロジェクトに言及がある場合は該当燃料のプロジェクトに含める。水素ステーションのみのプロジェクトは表から除く。複数の次世代燃料プロジェクトに言及ある場合は一番前に記載あるものでカウント。
プロジェクト内容 計画中
(件)
FS中など(件) 許認可中、投資決定済み、建設中など(件) 稼働中
(件)
プロジェクト例
社名 場所 状況
グリーン水素製造 8 6 4 3 P2Xソリューションズ ハルヤヴァルタ 稼働中
eメタン 8 6 1 ノルディックレンガス ポリ 許可申請中
グリーンアンモニア 3 グリーンノースエナジー ナーンタリなど FS中
eメタノール 4 4 リキッドウィンド ナーンタリ FS中
eSAF 5 1 リキッドサン エスポー 計画中
合成燃料 1 4 ヴェルソエナジー オウル ゾーニング中

注:初期段階はグリーン水素製造のみでも、プレスリリース上に将来の次世代燃料プロジェクトに言及がある場合は該当燃料のプロジェクトに含める。水素ステーションのみのプロジェクトは表から除く。複数の次世代燃料プロジェクトに言及ある場合は一番前に記載あるものでカウント。

出所:水素クラスターフィンランド「プロジェクトマップ」(2026年5月8日時点)

水素製造ともっとも多く一緒に検討されているのは、eメタンだ。製造したグリーン水素とCO2を合成し、天然ガスの主成分であるメタンを製造できる。ほかにも、船舶燃料や肥料原料として期待できるアンモニア、船舶燃料やeSAFの原料となるeメタノールのプロジェクトもある。また、水素とCO2からガソリンやディーゼルなどを製造できる高度な技術で、現時点ではコストも高い合成燃料プロジェクトのFS(Feasibility Study)も進む。eSAF製造は、スタートアップ企業リキッドサン(Liquid Sun)などが計画中だ。

このように、グリーン水素の製造に関しても、その後の国内外での利用価値を考え、プロジェクト全体が目指すレベルが高いのがフィンランドの特徴だ。燃料用途以外でも、メタンを熱分解して水素と固形炭素を製造するHycamite(ハイカマイト)というプロジェクトや水電解槽の熱利用など、水素製造と同時に副産物をいかに利用するかという視点でプロジェクトが進められているのが印象的だ。

ドイツなど近隣国への輸出を想定し、次世代燃料製造を加速

ジェトロの現地での取材では、複数の関係者が水素派生製品の輸出先として特にドイツを挙げた。ドイツは製造業の規模が大きいため、欧州では水素の需要家として期待される。本稿で述べたように、フィンランドは、安価な電力由来のグリーン水素と生物由来のCO2の強みを生かして今後水素製造を加速するとともに、eメタンやeSAF、合成燃料などの次世代燃料製造を目指す。インタビューでは、次世代燃料加速の背景として、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始以降のエネルギー自立の必要性にもたびたび言及があったが、それだけではない。小国としての自国の立ち位置を認識しつつ、高い技術レベルと安価で豊富な電力といった強みを生かして次世代燃料を進めるのは、やはり同国の脱炭素への強い意志からだ。


注1:
日本外務省「フィンランド共和国外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」参照。 本文に戻る
注2:
動物や植物に由来するCO2。化石燃料から生み出されるCO2と異なり、自然の中のCO2は増加しないと解釈される場合がある。 本文に戻る
注3:
欧州環境機関の都市廃棄物管理レポート「フィンランドPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.5MB)」(2016年10月)。 本文に戻る
注4:
ガスムプレスリリース(2024年7月31日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。 本文に戻る
注5:
フィンランド自動車産業情報センターウェブサイト「Vehicle fleet」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。 本文に戻る
注6:
ネステプレスリリース(2026年2月17日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。 本文に戻る
注7:
IATAプレスリリース(2025年6月1日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。 本文に戻る
注8:
ネステプレスリリース(2024年10月24日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。 本文に戻る
注9:
アルガスメディア記事(2026年1月15日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課海外地域戦略班(欧州担当)プロジェクト・マネージャー
板谷 幸歩(いただに ゆきほ)
民間企業などで貿易・環境の業務を経験後、2023年4月ジェトロ入構。調査部国際経済課を経て2026年4月から現職。2026年3月英国サセックス大学大学院修了、持続可能な開発学修士。

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