世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うサトウキビ国家計画を改定、SAF向けなど市場多角化へ(メキシコ)

2026年6月19日

メキシコ政府は2026年5月18日、官報で「国家サトウキビ産業計画(PRONAC)2026~2030年(以下、PRONAC2026年版)」を公布した。2021年12月に発表された前計画の後継に当たり、砂糖市場の安定化、サトウキビ利用の多角化、バイオ燃料への展開をこれまで以上に明確に打ち出した点が特徴だ。メキシコでは、2025年3月18日付官報で公布されたバイオ燃料法により、エネルギー転換や循環経済を支える制度面の枠組みが整備された。今回の計画は、農業・原料供給政策の側から、その実装を補強する位置付けにある。特に、余剰糖・余剰サトウキビをエタノールやSAF(持続可能な航空燃料)へ振り向ける方向性が強まった。

バイオ燃料法を「農業・原料供給側」の政策で補完

PRONAC2026年版は、2021年12月29日官報で公布されたPRONAC 2021-2024(以下、PRONAC2021年版)の後継に当たる。メキシコでは2025年3月18日に、旧来のバイオエネルギー促進開発法(2008年)に代わるバイオ燃料法が公布され、許認可、トレーサビリティー、品質基準、市場育成を含む新たな制度枠組みが整えられた(2026年2月17日付地域・分析レポート参照)。PRONACは本来、サトウキビ農家の持続可能な発展や砂糖・派生品市場の安定を図るための政策だが、PRONAC2026年版は、バイオ燃料法の施行を背景に、同法を農業・原料供給政策の側から支える実行計画としての性格も持つ。

PRONAC2021年版では、(1)生産者・製糖業者の所得確保、(2)生産性・競争力向上、(3)研究開発・技術移転、(4)持続可能性指標の強化という4本柱を掲げていた。これに対し、PRONAC2026年版では、(1)サトウキビ農地の持続可能性向上、(2)サトウキビ由来製品の市場安定化、(3)バイオ燃料生産に向けた活用の多角化の3目標に再編された。旧計画が「生産性」「所得」「技術」を主眼としていたのに対し、新計画では「持続可能性」「市場の安定」「バイオ燃料」が政策の中心に置かれた。サトウキビ政策の重心は、生産性改善型から構造転換型へ移ったといえる。

新計画は、持続可能な開発目標(SDGs)のうち、エネルギー、雇用、気候変動への貢献も打ち出している。これは、サトウキビ政策が従来の農業振興・所得安定政策の枠を超え、エネルギー転換や脱炭素政策の一環として位置付けられていることを意味する。PRONAC2026年版は、第8章「指標および目標」において、目標3(バイオ燃料向け多角化)に対応する指標として、2030年までにバイオ燃料向けサトウキビ栽培面積を全体の12.5%とする目標を掲げている。また、サトウキビ活用多角化による同バリューチェーン関係者数の増加として、2030年までに2005年比4%増(約2万人の直接・間接雇用創出)を目標とする。

背景には、輸入糖とHFCS流入による市場悪化

新計画でとりわけ重要なのは、砂糖市場を巡る現状把握が厳しさを増した点だ。PRONAC2021年版でも、世界的に高果糖コーンシロップ(HFCS)や高甘味度甘味料への代替が進み、余剰糖が国際市場に流出して市場価格を低下させ、採算を圧迫する構図は示されていた。しかし、PRONAC2026年版では、これをより深刻な「顕著な供給過剰」として捉えている。政府は、2023/2024農業年度(2023年10月~2024年9月)に70万トン超の砂糖、100万トン超のHFCSの輸入があり、これが2024/2025年期の国内糖価を27.6%押し下げたとの認識を示している。つまり、新計画の背景には、余剰糖の慢性化だけでなく、輸入糖・HFCSの流入による国内市場の不安定化への危機感がある。 特に、米国産トウモロコシを原料とするHFCSは価格競争力が高く、過去10年の平均では、輸入量の89.4%、国内消費量の27.0%(わずかだが国内生産分を含む)を占める(図参照)。

図:甘味料国内生産、輸入、国内消費に占めるHFCSの比率(%)(過去10年度平均)
メキシコにおける甘味料の国内生産、輸入、国内消費に占める高果糖コーンシロップ(HFCS)の比率を示した図。比率は過去10年度平均のデータ。農業年度は10月~翌年9月。国内消費は期首在庫、期末在庫、生産、輸入、輸出の各データから推定した国内の見かけ消費量。国内消費はHFCS27.0%でその他は73.0%。輸入はHFCS89.4%でその他が10.6%。生産はHFCS8.6%でその他は91.4%。

注:農業年度は10月~翌年9月。国内消費は期首在庫、期末在庫、生産、輸入、輸出の各データから推定した国内の見かけ消費量。
出所:国家サトウキビ持続的開発委員会(CONADESUCA)のデータを基にジェトロ作成

そのため、新計画は単なる増産策ではなく、市場安定化を政策目標として明示した。過去10年間で平均すると、生産量の約71.3%は国内向け、約26.6%は輸出向けとなっているが、政府によると、国際市場向け(輸出)の比率が高まると価格面で採算が悪化しやすい。加えて、供給者の小規模・分散化、契約外で自由出荷する生産者の増加、製糖工場間での原料争奪などが需給管理の精度を下げているという。新計画が市場安定と供給管理の強化を打ち出したのは、糖価の下落圧力だけでなく、産業内部の統治課題にも対応する必要が高まったためとみられる。

「余剰糖→エタノール」から「余剰糖→エタノール→SAF」へ

過去10年間(農業年度:10月~翌年9月)のメキシコにおける砂糖の需給バランスを見ると、砂糖の生産量は年間470.4~642.6万トン(平均563.8万トン)、輸入量は0.7~72.2万トン(同14.7万トン)、輸出量は71.5~241.6万トン(同150.1万トン)、国内消費は391.4~451.5万トン(同416.5万トン)だ。年によって変動が大きいが、多いときには年間58.3万トン、平均で11.9万トンの余剰が発生している(表1参照)。

表1:メキシコにおける砂糖の需給バランス(単位:1,000トン)(△はマイナス値)注:農業年度は10月~翌年9月。国内消費は期首在庫、期末在庫、生産、輸入、輸出の各データから推定した国内の見かけ消費量。
農業年度 供給量 需要量 在庫変動
(単年度)
生産 輸入 輸出 国内消費
2015/2016年 6,113.2 19.2 1,219.9 4,432.8 479.7
2016/2017年 5,957.2 48.4 1,511.3 4,515.2 △ 21.0
2017/2018年 6,009.5 132.3 1,490.4 4,228.2 423.2
2018/2019年 6,425.9 21.7 2,415.5 4,091.9 △ 59.8
2019/2020年 5,278.3 54.5 1,539.0 4,101.1 △ 307.2
2020/2021年 5,715.4 31.9 1,552.8 3,935.4 259.1
2021/2022年 6,185.0 6.9 1,989.3 4,112.6 90.0
2022/2023年 5,224.2 266.5 1,420.8 4,193.2 △ 123.3
2023/2024年 4,703.5 721.5 715.2 4,126.6 583.3
2024/2025年 4,770.5 166.9 1,157.9 3,913.5 △ 134.0
10年度平均 5,638.3 147.0 1,501.2 4,165.1 119.0

注:農業年度は10月~翌年9月。国内消費は期首在庫、期末在庫、生産、輸入、輸出の各データから推定した国内の見かけ消費量。
出所:国家サトウキビ持続的開発委員会(CONADESUCA)のデータを基にジェトロ作成

PRONAC2021年版でも、余剰糖や余剰サトウキビを原料に燃料用エタノールを製造し、ガソリン用酸素添加剤(オクタン価向上剤)として活用する発想は盛り込まれていた。ただし、当時の中心概念は燃料用「エタノール」であり、航空燃料は主役ではなかった。これに対し、2026年版では、「SAF(持続可能な航空燃料)」が略語一覧に正式に入り、目標3でも「バイオ燃料生産のためのサトウキビ活用多角化」を明示し、余剰サトウキビからエタノールを生産し、そこからSAFへ展開する構想が強調されている。PRONAC2021年版の「余剰糖→エタノール」から、PRONAC2026年版の「余剰糖・余剰サトウキビ→エタノール→SAF」へと進んだといえる。

既に、空港・補助サービス公社(ASA)が主導する案件として、サトウキビ由来エタノールを中間体とし、ATJ(Alcohol-to-Jet)製法(注1)でSAFを生産する構想がある(2026年2月17日付地域・分析レポート参照)。PRONAC2026年版は、こうした航空燃料サプライチェーンのうち、農業・原料供給側を制度的に下支えする計画といえる。メキシコが今後、陸上輸送用エタノール市場の拡大以上に、サトウキビ由来エタノールを中間体とするSAF製造に重心を置く可能性を示唆する内容だ。

PRONAC2026年版では、戦略3(サトウキビ利用の多角化)に向け、12の対策(行動項目)を示している。サトウキビの生産拡大に向けたポテンシャル調査や技術開発のための資金確保、関係機関との協力を通じたバイオ燃料やSAFの生産プログラム・ロードマップの策定、国際的な基準を満たすための人材育成、関係者の能力強化などが掲げられている(表2参照)。

表2:PRONAC2026年版におけるサトウキビ利用多角化戦略
戦略番号 内容 行動項目
3.1 サトウキビ余剰分を活用したバイオ燃料生産を促進し、産業の持続可能性と多角化を進める。
  • 3.1.1 国際的な持続可能性基準(例:CORSIA)を満たすため、生産ポテンシャルのあるサトウキビ地域の調査を行う。
  • 3.1.2 CORSIAなどの認証に必要な研究・技術支援のための資金を、金融機関との連携を通じて確保する。
  • 3.1.3 メキシコのSAF生産ロードマップ策定に、「原料(Materias Primas)」作業部会の調整を通じて協力する。
  • 3.1.4 バイオ燃料の持続可能な生産プログラムの策定に、関係機関・関係者との調整を通じて寄与する。
  • 3.1.5 バイオ燃料開発プロジェクトへの資金調達を、国内外の公募案件の特定と参加を通じて促進する。
  • 3.1.6 製糖工場併設型の蒸留設備設置を、事前実現可能性調査・実現可能性調査を通じて促進する。
  • 3.1.7 持続可能性基準に適合したサトウキビ生産のための新技術開発を、国際機関からの資金確保を通じて促進する。
3.2 国際的な持続可能性基準の下でバイオ燃料を生産できるよう、生産者・関係者の能力形成を強化する。
  • 3.2.1 サトウキビ―エタノールのライフサイクルアセスメント(LCA)に基づき、排出インベントリを作成できるよう人材を訓練する。
  • 3.2.2 バイオ燃料開発に向けた訓練・能力認証を、連邦・州・市町村政府および他国との協力協定を通じて進める。
  • 3.2.3 農家、製糖工場、バイオリファイナリー関係者の育成・認証を、会合・研修・地域ワークショップを通じて進める。
  • 3.2.4 サトウキビ余剰分を用いたバイオ燃料生産戦略を、国際会議・イベント・セミナーへの参加を通じて周知する。
  • 3.2.5 エタノール・SAF生産の条件整備を、ATJ方式の内外関係者への周知を通じて強化する。

出所:メキシコ農業地方開発省(SADER)「国家サトウキビ産業計画(PRONAC)2026~2030年」

原料確保に不確実性、政策前提の実現が課題

もっとも、SAF向けの原料確保については、なお慎重に見る必要がある。国家サトウキビ持続的開発委員会(CONADESUCA)の統計を見ると、メキシコの砂糖市場は年によって在庫の積み増しと取り崩しが入り交じっており、必ずしも恒常的な「大幅余剰」にはなっていない。PRONAC2026版自体も、サトウキビ由来エタノールを通じたSAF生産の可能性を示しつつ、その前提として、各サイクルで砂糖生産が600万トン規模を確保できることを事実上想定している。PRONACでは、サトウキビの余剰は過去に1,000万トンを超えたことがあり、これをエタノールに転換した場合には約8億リットル、さらにSAFでは約4億リットルの生産が可能と試算されている。ただし、この数量感は、足元の実績というより、サトウキビ生産の回復を前提とした中期的な構想として理解するのが適切だろう。

実際、PRONAC2026年版に記載されている10年平均の砂糖バランス(注2)で見ても、年平均生産量は567万トン、見かけ消費は418万トン、輸出は159万トンで、期末在庫は期首在庫をわずかに上回る程度にとどまる。すなわち、SAF原料(Feedstock:フィードストック)として動員可能なのは、国内需給と必要在庫を満たした上で、主として採算性の低い世界市場向け輸出などを置き換えられる範囲に限られる可能性が高い。また、CONADESUCAの2026年5月30日付2025/2026年度進捗レポート(スペイン語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(716KB)によると、直近で2025年10月~2026年5月30日までの砂糖生産が528万トンに達しており、前年度実績を上回る回復傾向がみられる。しかし、今後の気候変動や干ばつの影響などを踏まえると、これが安定的な供給余力に直結するかはなお不透明だ。したがって、PRONACが示すSAF構想は、「現時点で十分な原料が安定的に存在する」ことを意味するものではなく、生産性の回復と市場安定化が進んだ場合にフィードストックを創出していく中期戦略として捉える必要がある。

SAF市場形成に向けたインセンティブ設計が必要

他方、PRONAC2026年版は、バイオ燃料、特にSAFを含む多角化目標を掲げているものの、航空会社の高いSAF調達コストを緩和する需要面のインセンティブや、エタノール蒸留・ATJ関連設備の導入支援といった供給面のインセンティブについては、少なくとも計画本文のレベルでは具体化していない。PRONACに明記されているのは、バイオ燃料向け多角化の方向性、関係機関の連携、指標と目標であり、施策の実施も「各実施主体に承認済みの予算の範囲内」で行うとされている。このため、同計画は、サトウキビ産業政策としての政策意思を示す文書ではあるものの、SAF市場の立ち上がりを直接支える財政措置や価格支援制度までは内包しているとは言い難い。

もっとも、インセンティブ付与の法的余地そのものが存在しないわけではない。バイオ燃料法第17条は、連邦政府機関が所管範囲で税制インセンティブ、金融インセンティブ、市場インセンティブの導入を推進することを規定している。それらの具体内容は、法律施行後360日以内(2026年3月13日まで)に各主管機関が策定する「計画」に盛り込まれる予定だったが、今回公布されたPRONACでは、サトウキビ産業に限定して代替市場開拓の方向性が示されたに過ぎない。バイオ燃料としてのバイオマス利用や、その生産・持続的利用を促進する計画は、バイオ燃料法に基づきエネルギー省(SENER)が策定することになっている。しかし、同省の具体的な計画は2026年5月末時点で示されていない。今後の具体的なインセンティブの導入が待たれる。


注1:
ATJ(Alcohol-to-Jet)は、エタノールなどを原料に、化学反応を通じて航空燃料規格に適合する炭化水素を製造する技術。 本文に戻る
注2:
表1で用いたCONADESUCAが発表する最新データとは少しずれがある。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課主幹(中南米)
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月からジェトロ・メキシコ事務所長、2024年5月から調査部主任調査研究員、2025年4月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『グローバルサプライチェーン再考: 経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』、『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』など。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。

総論

北米・中南米

アジア・オセアニア

欧州

中東・アフリカ