世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うマダガスカルでSAF原料ポンガミアを栽培
フランス新興企業の挑戦

2026年6月16日

航空分野の脱炭素化に向けて、近年持続可能な航空燃料(SAF)が注目を集めている。SAFは廃食油やサトウキビなどのバイオエタノールを主な原料として製造された燃料で、従来使われている化石燃料由来のジェット燃料と比較して、二酸化炭素(CO2)の削減効果があるとされる。国際民間航空機関(ICAO:国連の専門機関の1つ)は2050年までのカーボンニュートラルを目指す目標を掲げており、世界経済フォーラム(WEF)が主導するイニシアチブ、Clean Skies for Tomorrow(CST)連合は、2030年までに世界の航空燃料の10%をSAFに置き換えるという目標を示し、航空会社が自主的にSAFの利用を推進している。

SAFには、バイオ燃料由来のものや、水素とCO2による合成燃料由来のものなど、複数の製造技術がある。そのうち商業化され、製造コストの低さから全体の8~9割近くを占めているのが、水素化処理エステル脂肪酸(HEFA)経由の製法(植物油などの油脂類に水素化処理を施してHEFAを製造し、さらに追加処理を経て燃料を製造する方法)だ(2025年12月11日付地域・分析レポート参照)。HEFAの原料には廃食油や微細藻類などいくつかの種類があるが、近年注目を集めているのがポンガミアだ。ポンガミアはマダガスカルや東南アジア、オセアニアに分布するマメ科の植物で、種子から搾る油を用いてバイオ燃料が製造できる。食用に適さないことから食料と競合しないこと、また、干ばつなど過酷な環境下でも栽培が可能であることから、SAF原料としてのポンガミア活用の取り組みが各地で進んでいる。

ジェトロは、マダガスカルでポンガミアの栽培を手掛けるフランス企業、キャノピー・エナジーズ(Canopy Energies)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのギヨーム・フシェール副最高経営責任者(Deputy CEO)に話を聞いた(取材日:2026年5月13日)。


キャノピー・エナジーズ フシェール副最高経営責任者(右側、本人提供)

キャノピー・エナジーズは2008年にフランスで設立され、当初は太陽光発電所の開発事業を手掛けていたが、その後、エネルギー転換の促進を目標として方針を転換。再生可能エネルギーの生産と、温室効果ガスの削減および排出抑制に関わる事業を行っている。

ポンガミアの生産・輸出で循環経済の実現を目指す

キャノピー・エナジーズは、SAFのサプライチェーンのうち、原材料であるポンガミアのプランテーションの開発運営と、ポンガミアの種子の加工および輸出の部分を手掛ける。同社は2016年、マダガスカルに現地法人を設立。マダガスカル東部のファニャコ(Fagnako)に約1万2,500ヘクタールの農園を持ち、植林も行っている。栽培したポンガミアは、さやと種子に分け、種子は乾燥させる。その後、種子は輸出され、搾油企業へ販売される予定だ。生産量が商業規模に達すれば、油はSAFの原料として利用される。また、種子を利用した後のさやも活用する。フシェール氏によれば、マダガスカルでは調理炭の使用が一般的で、同国内で調理用燃料として活用するため、ポンガミアのさやから炭や固形燃料を製造する方法を模索している。そのほか、搾油後の種子の搾りかすも、家畜飼料やバイオマス発電の原料として販売・活用する見込みだ。このように、ポンガミアの生産と種子輸出の過程で、マダガスカルへの植林による炭素隔離(注1)の実現を図る。副産物を無駄なく活用することで、複数の再生可能資源を生み出すビジネスモデルを構築している。ポンガミアは400万本以上の植栽を目指し、事業を拡大中だ。2028年に大量生産・出荷の開始を見込む。


キャノピー・エナジーズのポンガミア農園(同社提供)

ポンガミアの種子(同社提供)

マダガスカルに展開する理由

ポンガミアのプランテーション事業の展開先として、同社がマダガスカルを選んだ理由は、(1)ポンガミアが熱帯・亜熱帯地域原産の植物であり、現地の環境に自然に適応していること、(2)プランテーション用地や人材を確保しやすいこと、(3)アフリカの中でも比較的治安が良く安全な環境であることなどがある。(2)について同社は、マダガスカルの人件費が比較的低いため、ポンガミアの生産コストの削減に寄与し、事業実施上の大きな利点であるとしている。特に、魅力的な土地価格の低さと相まって、マダガスカルは大規模なポンガミアの栽培において、世界で最も競争力のあるコスト構造を有する国の1つであるという。同社は世界の「最貧国」の1つとされる同国で、700人規模の雇用を創出している。一方、いまだ経済発展の途上にあることから、ビジネス展開において熟練労働者の不足や輸送面の課題もある。

脱炭素と人権関連の取り組み

キャノピー・エナジーズは、事業活動を通じて、脱炭素や人権関連の取り組みを積極的に行っている。

脱炭素分野では、カーボンクレジット認証に関して、ボランタリー認証(注2)のVerra(Verified Carbon Standard)(注3)を取得済みだ。同認証は、ネットゼロや炭素排出削減を目標に掲げる企業への販売を目的としており、同社もフランスの通信会社にカーボンクレジットを販売した。その収益は、ポンガミアの本格的な生産開始前に、マダガスカルにおける大規模植林地の初期開発段階を支える重要な資金源となる。また、マダガスカルでは焼き畑により森林が荒廃していたが、同社の植林の取り組みで森林が回復しているという。

人権関連では、マダガスカルの地域社会に向けた教育、医療、交通に関する取り組みを行うことで、企業としての社会的影響力の創出を重視している。また、事業活動においては、ジェンダー平等を積極的に推進している。

EUのSAF導入目標とビジネスチャンス

EUでは、航空燃料供給業者に対し、域内の空港で供給される従来の航空燃料に混合するSAFの割合を段階的に引き上げる「ReFuelEU Aviation外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」規則が2024年1月に適用された。最低混合義務は、2025年の2%から、2050年には70%と、高い目標が掲げられている(2026年3月27日付地域・分析レポート参照)。欧州ではSAF製造に関する民間企業の取り組みが進んでいるが、フシェール氏も同規則により、今後は持続可能な燃料の需要が大幅に高まり、同社にとってもビジネスチャンスになると考えている。さらに同氏は、低カーボンフットプリントの燃料は今後、徐々に価格が上昇すると予想される中、マダガスカルで生産されるポンガミア油は、入手可能な植物油原料の中で最も炭素強度(注4)の低いものの1つとなる可能性がある、と述べた。また、このビジネスモデルには高い拡張性があると見込んでおり、マダガスカルでは同社の農業手法と環境基準に適した土地として180万ヘクタールが特定されているという。

日本企業とのビジネスに商機

同社は日本企業とのビジネスに商機を見いだしている。日本はSAFの利用に関して、2030年までに国内航空会社が使用する航空燃料の10%をSAFに置き換えるという目標を掲げている。一方で、日本におけるSAF導入はまだ立ち上がり段階であるため、SAF向けの持続可能な原料生産の拡大を支える上で、日本企業は重要な役割を果たすと確信しているという。フシェール氏は、日本企業からの投資や長期的な取引契約のほか、共同研究などの協業の余地があるとして、日本のSAFエコシステムとの今後の連携に期待を示している。


注1:
樹木が大気中のCO2を光合成によって吸収し、炭素として蓄積すること。 本文に戻る
注2:
発行主体がNGOなどの民間事業者によるカーボンクレジット。 本文に戻る
注3:
ボランタリークレジット市場の代表的な自主的炭素基準であるVCS(Verified Carbon Standard)の運営団体。 本文に戻る
注4:
ある活動に伴って生み出されるCO2排出量を、その活動の規模(生産量、提供量、エネルギー指標など)で割った指標。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチマネージャー
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 課長代理
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現部署に所属。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
冨岡 亜矢子(とみおか あやこ)
フランス民間企業、国際NGO勤務を経て、2024年から現職。

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今後記事を追加していきます。

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