世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うプロジェクト推進者に聞く市場動向
英国のSAF動向(2)
2026年7月8日
前編「政策による需要喚起と生産支援」では、持続可能な航空燃料(SAF)の普及や製法の多様化を目指す英国政府の政策を概説した。後編では、英国で水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA)以外のSAF生産プロジェクトを進めるベロシス(Velocys)のアンディ・ベンスリー最高執行責任者(COO)と、シェフィールド大学のモハメド・プールカシャニアン教授へのインタビューを通して、取り組みや英国SAF市場の動向、日本企業への期待を紹介する(取材日:2026年1月22~23日)。
ベロシス:高効率FT合成による廃棄物由来SAF

- 質問:
- 貴社のSAF生産プロジェクトの概要は。
- 答え:
- ベロシスはSAFに限らず、合成燃料全般や再生可能ディーゼルなど多様な持続可能燃料を手掛けており、現時点では、支援制度により製品単価が相対的に高いSAFに重点を置いている。2025年3月までは、プロジェクト開発者と技術ライセンサーという本質的に異なる2つの役割を同時に担っていたが、これらは全く異なるリソースとキャッシュフロー構造が求められる。そのため、今後はライセンシング事業に集中する予定だ。
- ベロシスの技術基盤は、オックスフォード大学が開発した高活性触媒と、放熱管理に優れた高度なマイクロ・フィッシャー・トロプシュ(FT)(注1)・リアクターだ。この組み合わせは単一パスで70%、テールガス(注2)の再利用も含めると98%の一酸化炭素(CO)転化率を実現する。
- 英国では、廃棄物を原料としてSAFを生産する商用プロジェクト、アルタルト(Altalto)を東部イミンガム(Immingham)で進めている(注3)。SAF生産においてどの原料が主流となり得るかは場所により異なるが、東京やロンドンのように人口密度が高く、かつ大規模空港を擁する大都市圏の近傍は、廃棄物を原料とするのに完璧な環境だ。通常であれば原料の収集には費用がかかり、競合する消費先との競争も生じる。しかし廃棄物は、英国では受け取りに当たり報酬が支払われ、プロジェクトの経済性に好影響を与える。他方木質バイオマスの場合は、森林の少ない英国においては輸入コストも合わせて検討する必要がある。
- 質問:
- 貴社事業の課題は。
- 答え:
- 英国はSAFプロジェクトにとっておそらく最も投資適格な環境で、かつアルタルトの全技術は技術成熟度レベル(Technology Readiness Levels: TRL)が最低8、一部は9と極めて成熟している。しかしそれにもかかわらず、投資獲得には苦労もある。2025年にアルタルトの資金調達を図った際、マーケットからはこうしたプロジェクトへの投資は初めてとの認識から、投資額は最大でも10億ドル以下でなければならないとの指摘を受け、プロジェクトの規模を調整した。周囲を見ても、投資家や開発者の約半数は小規模な実証プロジェクトを試みている。
- 英国を含む多くの国がSAFの義務化を決定したのは素晴らしいことだが、それだけでは投資は集まらない。どれだけSAFのオフテイク契約を積み上げても義務の履行に見合う供給力が確保できない状況では、政府が企業を罰することは難しいだろう。生産を支援する政策が必要だ。既存の政策では先端燃料基金(AFF)(注4)があるが、業界の知見に基づくと、期待される時期の生産開始が難しいプロジェクトにも資金提供されている点は課題だ。焦点を絞る必要があるが、政府としては特定の企業に偏らず公平であるよう注意を払わねばならず、非常に難しい議論となる。現在導入が検討されている収益確実性メカニズム(RCM)は、リスクを限定し先駆的なプロジェクトに投資を集める上で優れた仕組みだ。義務付けがあっても生産を支援する仕組みが伴わない国ではプロジェクトは進まない。なぜなら、前例のない(First of a Kind)プロジェクトであるという文脈において非常に厳しい課題に直面しているからだ。以前私が石油・ガス業界で働いていた頃、内部収益率(IRR)10%の液化天然ガス(LNG)プロジェクトがあれば即座に投資を決定したと思うが、SAFのような先進的なプロジェクトの場合は20%を要求されるのが現実だ。
- 質問:
- 日本企業との協業への期待は。
- 答え:
- 現時点でSAFには政策的支援が必要だが、それに加えて、当然ながら企業が自ら課題に対処する必要がある。そのためには強固なパートナーシップの構築が必要だ。従来はプロジェクト単位で、投資家、運営者、開発者、EPC(設計・調達・建設)事業者などが明確な責任分担で関与することが一般的だったが、この構造を変革し、コンソーシアムのような長期的で一貫した共同体制を構築する必要がある。最初のプロジェクトで多くを学び、2つ目で効率が向上し、3つ目では非常に高い効率が実現する。将来の投資・収益・技術バランスを見据えた非伝統的なリスクプロファイルや共有モデルを構築しなければならない。
- 当社は既に複数の日本企業と協業(注5)しており、その技術力を高く評価している。アルタルトにおける日本企業の機会は、投資、開発、EPC、広範なサプライチェーンなど多岐にわたる。さらにフォーカスを広げて東アジアでの協業となれば、原料供給者も必要となる。日本は廃棄物管理に豊富な専門知識を有しており、このノウハウはグローバルに活用できる。
シェフィールド大学:プロセス統合でPtLのコストを低減

- 質問:
- 貴機関のSAF生産プロジェクトの概要は。
- 答え:
- 温室効果ガスの排出低減に加えてコスト削減を目指し、パワー・ツー・リキッド(PtL)(注6)でSAFを生産するネクストジェンSAF(NEXTGEN-SAF)プロジェクトに取り組んでいる。結局のところ、航空燃料の費用は乗客が負担することになるため、受け入れ可能な水準に抑えることが必要だ。シェフィールド大学の意義は、技術開発をもって全ての関係者の商業化を後押しすることにある。その理念のもと英国政府にアプローチし、技術的優位性が認められ資金提供を受けた(注7)。これは第1段階に過ぎず、今後は第2段階、第3段階の申請を予定している。2029年までに実証プラントを稼働させ、1日当たり約2万5千~3万リットルのSAFを生産することを目指す。これが成功すれば商業段階へ移行し、商業段階では1日当たり200トンの生産を目指す。
- 本プロジェクトのコンソーシアムには、フューエル・セル・エナジー(米国)、グリーン・リザード・テクノロジーズ(英国)、ドラックス・パワー(英国)、IMI(イタリア)、ガードナー・コンサルティング(英国)、リーズ・ブラッドフォード空港(英国)が含まれ、エアバス(フランス)からも支援を受けている。
- 質問:
- プロジェクトの技術的優位性は。
- 答え:
- このプロジェクトの特徴は、溶融炭酸塩燃料電池(MCFC)(注8)を用いて、二酸化炭素(CO2)回収、発電、水素製造を同時に行うことにある。こうしたプロセス統合により、既存の製法より約40%のコスト低減が可能だ。
- 使用しているコンポーネントのほとんどは既製品で、MCFCは米国から購入したもので、CO2電解槽は東芝製だ。既に実用化されたものを使用しているため、資本コスト(CAPEX)は低廉で、かつ技術成熟度レベル(TRL)は総じて高い。非常に近い将来に商業的に利用可能となる。
- 質問:
- 英国政府の政策に対する受け止めは。
- 答え:
- SAFのコストは依然として高く、投資家が関心を示すには補助が必要だ。そして、SAFマンデート(SAF供給義務)に続く最良の選択肢の1つが収益確実性メカニズム(RCM)だ。投資家は投資決定に当たり、事業に必要な原料(フィードストック)確保の確実性や、政策支援の有無を考慮する。その際に必ず、「EUや米国に投資した場合と比べてどうなのか」と尋ねる。この点に関して、英国はSAFマンデートとRCMによって非常に魅力的な市場であり、ネクストジェンSAFについても多くの投資家から関心が寄せられている。そのため、現時点では投資獲得に大きな問題は生じていない。
- 質問:
- SAFの商業的普及に向けた課題は。
- 答え:
- RCMの契約期間は有限(注9)であるため、期間満了後も必要な投資を獲得し継続可能な事業とすることが重要となる。そのために考えるべきことの1つとして、共処理(Co-Processing)(注10)を行うかを検討する必要がある。SAF生産において、FT合成などで生成した炭化水素をSAFへ転換する必要があるが、このプロセスは石油由来の炭化水素を航空燃料に転換する既存の製油所でも行うことができる。従って共処理を行えばこの部分への投資を省略し、炭化水素のみに設備投資することができる。さらに、ヒースローやマンチェスターといった空港は既に製油所から空港へのパイプラインを保有しており、共処理を行う場合はその流用も可能だ。こうした点から、英国では共処理について議論が進められている。
- また、電力価格の高さや、SAFの認証も課題となる。電力価格が極めて重要な理由は、設備の稼働に加えて、SAFの原料となる水素の製造にも電力を消費するためだ。だからこそ、水素製造、CO2回収と合わせて発電を行い、電力消費量を大幅に削減できるネクストジェンSAFには優位性がある。認証については、持続可能性の証明に加え、ASTM認証(注11)で既存航空燃料との代替性が証明されていなくては、市場では見向きもされない。未認証の新たなSAF生産ルートを提案する場合はASTMに資料を提出し承認を得る必要があるが、承認プロセスの全工程を終えるには3~4年かかる。シェフィールド大学は、英国運輸省がSAFの試験、認証、生産の支援を目的として立ち上げたSAFクリアリングハウスの運営機関に選定されており、企業の認証取得をサポートする立場も務めている。
課題を踏まえて進む事業環境整備
両氏へのインタビューを通して、HEFA以外のSAF普及の課題として、コスト、前例の少なさ、認証といったワードが浮かび上がった。ただし、課題を踏まえた議論や取り組みは進展しており、特にコストに対する英国政府の政策は市場からも好意的に受け止められ、必要な投資を獲得できる状況になりつつあるようだ。SAFは多様な製造ルートがあることに加え、輸送や貯蔵、認証支援といった周辺分野も含めるとその裾野は広い。政策に左右される点に留意は必要だが、今後も英国のSAF市場にはビジネスの芽がありそうだ。
- 注1:
-
合成ガスと触媒を用いて液体燃料を製造する技術。
- 注2:
-
主たる生成物抽出後に残存するガス。
- 注3:
-
ベロシスは、英国ではアルタルトに加えてPtL・SAFのeアルト(e-Alto)プロジェクトを手掛けるほか、ウルグアイ、日本、米国でもプロジェクトを進めている。
- 注4:
-
ベロシスは、アルタルトについてAFFのウィンドウ1および3、eアルトについてAFFのウィンドウ1にて資金提供先として採択されている。
- 注5:
-
(1)東洋エンジニアリングと、再生可能燃料の製造技術の分野で商業化プロジェクト推進に向けて包括協定書を締結(東洋エンジニアリングプレスリリース
、ベロシスプレスリリース
)。
(2)積水化学工業と、CO₂を原料としたSAFの製造技術構築に向けた戦略的提携のため基本合意書を締結(積水化学工業プレスリリース
、ベロシスプレスリリース
)。
(3)日本創業のグローバル企業森松ホールディングスと、FTリアクターおよび関連機器の製造・エンジニアリング支援に係る契約を締結(ベロシスプレスリリース
)。 - 注6:
-
再生可能エネルギーなどの低炭素電力に由来する水素とCO2からSAFを精製する手法。
- 注7:
-
ネクストジェンSAFはAFFのウィンドウ3にて資金提供先として採択されている。
- 注8:
-
溶融した炭酸塩を電解質として用いる、燃料電池の一種。
- 注9:
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2026年1月12日、RCMの契約期間を15年間とする政府案が示され、意見公募(公募期間:2026年4月3日まで)が行われている。
- 注10:
-
従来の石油系原料と低炭素原料とを既存の製油所で共同処理すること。
- 注11:
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世界最大規模の標準化団体である米国試験材料協会(American Society for Testing and Materials: ASTM、現在はASTM International)が策定する規格。 SAFについては、従来のジェット燃料との代替性が既に認められた製造ルートはASTMのD7566に記載されている。
英国のSAF動向
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ロンドン事務所
齊藤 圭(さいとう けい) - 2015年、東北電力入社。2025年4月からジェトロに出向し、調査部欧州課勤務を経て、2026年4月から現職。





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