特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞く効率的な農地運用を可能にするIoTソリューションを提供(モロッコ)

2019年9月25日

モロッコのスタートアップであるショートリンク(Shortlink)は、アフリカを中心にアグリテックのサービスを提供している。同社の創立者兼代表取締役社長バドル・ベヌーナ氏に、事業概要や起業の経緯について話を聞いた(7月4日)。

質問:
会社の概要は。
答え:
2015年にモロッコの首都ラバトに、自己資本で共同設立した。現在は熱意ある6人のメンバーで活動している。当社のミッションは、農業分野やその他の異なるセクターにおけるIoT(モノのインターネット)導入の促進、ショートメール(SMS)プラットフォームを通した情報アクセスやコミュニケーション手段の簡素化だ。これまでの売り上げは、年間約100万~200万モロッコ・ディルハム(約1,100万円~2,200万円、1ディルハム=約11円)で推移している。顧客数は個人や企業を含め、約450に上る。
質問:
起業に至った経緯と背景にある社会課題は。
答え:
個人や公的機関・法人間でのコミュニケーションや、モロッコ、アフリカ内での情報伝達手段が不足していることに課題を感じていた。アフリカにはインターネットへのアクセスが限られている人々もいて、メールでの伝達はあまり頼りにならない。また、モロッコの農業における課題は、農家がいまだ伝統的で、投入した労力に見合ったリターンを獲得するすべを知らないことだ。土地を耕す効率的な方法についても、十分に理解していない。

創立者兼代表取締役社長のバドル・ベヌーナ氏
(Shortlink提供)
質問:
ビジネスモデルは。
答え:
モロッコ、アフリカを主な市場とし、以下のサービスを提供している。
  1. SMSプラットフォームの提供
    インターネットへのアクセス制限を受けずに、個人・公的機関・法人間での情報伝達を促進するべく、SMSプラットフォームを立ち上げた。銀行や保険会社、保健施設などは同プラットフォームを通して、低価格かつ効率的な方法で顧客にメッセージや情報を送ることができる。企業が顧客に更新情報やニュースを送ることで、顧客との関係性維持を可能にする。
  2. 研究開発とIoTソリューションの提供
    農業分野では、研究者や農家といった農業の専門家と協力して開発したセンサーにより、農家がリアルタイムで農地の状況を把握できるシステムを提供している。これにより、農業活動の効率化や、低コストでの収穫高の増加を可能にする。また、マリの政府に農業分野におけるIoTソリューションを開発・提供している。マリ政府は、農業分野で13万人の雇用創出を目指すプロジェクトのプラットフォーム管理のためのソリューションを求めていた。同国政府は、13万人にそれぞれ2ヘクタールの農地と、肥料や種、農業分野で働き始める技術的サポートを提供。その管理を当社のプラットフォームで行っている。
    また2019年1月には、農業におけるIoTソリューションとして新しいプラットフォーム「AGRIOT」を開発し、現在、販売に向けて広報活動を展開している。これは、収穫高を向上させたいなどの各農家のニーズに基づき、農地における日照・温度・湿度などの状態をIoTセンサーで測定。その情報に基づいて人工知能(AI)やマシーンラーニングで農地の状態を分析し、改善策を導き出すプラットフォームだ。2019年4月17~19日にモロッコのメクネスで開催された国際農業見本市「SIAM」に出展し、同プラットフォームに対して多くの大手企業や農家の注目を集めた。
  3. ITコンサルティングや監査、システム構築などを提供
質問:
強みは何か。
答え:
IoTはモロッコでは始まったばかりの分野で、国内で約10のスタートアップが活躍している。モロッコには、競合はまだ少ない。また、ソフトウエア開発のように、各顧客のニーズや課題に合わせてソリューションを見つけ、柔軟なサービスを提供できることが強み。
質問:
日本企業との連携の可能性、他国との連携状況は。
答え:
プロジェクト開発のため、日本企業にはIoTやアグリテックといった技術協力を期待している。逆に、日本企業にはニーズに応じて、当社のIoTソリューションを提供することができる。例えば、IoTソリューションによって、トラクターの状況管理・メンテナンスが効率化され生産性の向上が可能になるなどだ。すでに、IoTソリューションをフランスや米国、インド、パキスタンなどの多国籍企業に提供している。
バドル・ベヌーナ氏の経歴
フランスのポリテクニークとSupinfo国際大学(パリ)のIT修士号を取得。フランス国有鉄道(SNCF)、マイクロソフト(米国)、SFR(フランスの大手通信会社)などの企業でIT関連業務の要職を経験。その後3年間、テクニカルリーダーとして投資銀行で勤務。2015年にモロッコに帰国後、共同創設者としてSHORTLINKを創立。
参照:Shortlinkのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ愛媛
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。本部にてビジネス講座やセミナーのライブ・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月からモロッコのジェトロ・ラバト事務所にて日本企業の投資促進、調査・情報発信、現地スタートアップ発掘等に携る。2019年8月から現職。