特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞くアグリテックで農家の所得向上と地域経済の活性化目指す(その2)(英国、タンザニア)

2019年9月25日

前回に引き続き、農家のためのプラットフォーム「オオベア・ソーコ」を開発し、アフリカの農業問題解決に取り組む、アグリインサイト(AGRIinsight)のパトリック・ガイベー氏に、事業を発展させた経験や、日本企業との連携可能性について話を聞いた (6月4日)。

質問:
アグリインサイト設立の経緯は。
答え:
私の専門は農業ビジネスだ。公的部門と民間部門の両方で働いたことがあり、1980年代には国連食糧農業機関(FAO)と国際農業開発基金(IFAD)、1990年代にはオランダの農業投資銀行ラボバンクで働いた経験がある。2001年に同行を退職後、英国で農業ビジネスアドバイス会社のプロラスティカ(Prorustica)を設立した。政府、民間部門、市民社会に対して、農業ビジネス戦略や開発についてアドバイスを提供している。この際、新興成長市場の農業ビジネスにおいて、テクノロジーをうまく活用できるのではないかと考え、2014年にアグリインサイトを設立した。
設立当初は、アフリカ全域を対象に、農業関連投資が行われている場所を特定する技術を研究していた。この類の情報が極めて少なかったからだ。一方、今までの経験からタンザニアでの農業投資の状況について知見があったため、まず同国に狙いを定め、アマゾンウェブサービス(AWS)を利用したマッピングプラットフォームを開発した。
最初の顧客はタンザニア南部農業成長化回廊(SAGCOT)プロジェクトを手掛ける団体で、投資誘致の目的で資金を提供してくれた。しかし、この団体は投資がどこで行なわれているかだけではなく、各農業機関や大農場の詳細についても情報を必要としていた。ところが、特定の地域に関する情報を明確にするためには、代理人をその地域に派遣しなければならず、それには高額のコストがかかるという問題があった。そこで2017年に方針を転換し、投資対象をマッピングするだけではなく、農場と農業機関のデータを簡単に安く収集することを可能とする技術を開発することにした。その技術が、今のアプリ「オオベア・ソーコ」だ。
質問:
タンザニアでどのように事業を発展させたか
答え:
タンザニアに、アグリインサイトの子会社を設立した。アグリインサイトと「オオベア・ソーコ」は、アフリカ・タンザニア発の会社というイメージを強化したかったため、ダルエスサラームのアクセラレータ「トウィグアルファ(Twigalpha)」と提携した。それに加え、トウィグアルファの共同設立者のミーヒヨ・ウィルモア氏を、タンザニア拠点の所長として招き入れた。ウィルモア氏は、新興諸国の通信市場で10年以上の経験を持っている。さらに最近、タンザニア工業調査開発機構(TIRDO)が、アグリインサイトを「T-Hub」インキュベータープログラムの最初の参加者の1つとして招待してくれた。
質問:
アグリインサイトを最初に英国ケンブリッジ市に設立した理由は。
答え:
理由の1つは利便性が高かったこと。私と共同創設者はケンブリッジの近くに住んでいた。また、ケンブリッジのスタートアップのプログラムや活気のある初期段階のエンジェル投資家ネットワークにアクセスしたかった。ケンブリッジで、インパクト重視のスタートアップの設立支援する事業「ケンブリッジ・社会・ベンチャー」の12カ月のインキュベータープログラムに参加し、その後、アリア・フューチャー・ビジネス・センタープログラムに参加する資格を獲得した。そこで2年間、無料のオフィススペースの提供を受け、ビジネスメンターなどの支援を受けた。こうした支援のおかげで、人生のどんな段階でもスタートアップを簡易に設立できることが分かった。
質問:
どのような企業と連携しているか。日系企業との協業の可能性は。
答え:
現在、ノルウェーの農業資材大手ヤラと連携している。ヤラは、タンザニアなどアフリカ諸国で卸売業者のネットワークを支援している。そのうち、アグリインサイトはタンザニアの卸売業者のペトロべーナー(Petrobener)と協力している。ヤラと連携した理由の1つは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を支援する最前線にいるからだ。われわれはSDGsを支援するような、CO2排出量削減や責任ある肥料使用を促進する企業と協力したい。
アフリカで取引されている日本企業との関わりに、非常に関心を持っている。特に、農家を支援するようないろいろな種類のサービス企業や小売業者、作物保護、種子、園芸など農業資材販売企業などだ。さらに農家へ、需要主導型サービスも提供したい。これは金融サービス、保険商品、ソーラーパネルが含まれ、また農家のビジネスの構築に役立つ製品・サービスなどだ。
長期的には、プラットフォームを通じて、農業用重機をレンタルまたはリースする企業との提携も考えている。他の技術を、モザンビークやエチオピアなどの市場にも展開する予定だが、そうするためには現地市場で新パートナーと協力することが必要だと考える。また、さらに新しい投資家を引き付けることで、さらなる資本調達をしなければならないと考えている。
企業情報
企業名 アグリインサイト(AGRIinsight)
所在地 Future Business Centre
Kings Hedges Road
Cambridge
CB4 2HY
UK
連絡先 patrick.guyver@agriinsight.com
ウェブサイト https://agriinsight.com/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
キャサリン・ロブルー
2015年よりジェトロ・ロンドン事務所に勤務。同事務所のアフリカデスク立ち上げに関与。主に英国・アフリカ調査に従事。