特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞く小規模農家向けに家畜を金融商品とするプラットフォームを開発(南アフリカ共和国)

2019年9月25日

アフリカの農家にとって、家畜の所有は重要な換金手段だ。一方で、多くの小規模農家は資金や技術的制約のために、家畜という資産を生かせずにいる。こうした問題に対して、ユニークなビジネスモデルで解決を図るスタートアップがある。家畜を金融商品とし、集団で家畜経営を行うプラットフォームサービスを提供するライブストック・ウェルス(Livestock Wealth外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )だ。同社の事業内容と今後の展望について、ントゥトゥコ・シェズィ最高経営責任者(CEO)に話を聞いた(8月28日)。

質問:
起業の経緯と会社概要は。
答え:
私は南アの南東部に位置するクワズールーナタール州の小さな農村で生まれ育った。この地域で多く栽培されているサトウキビよりも、家畜のほうが重要な換金手段であることを幼いころに学んだ。その後、ケープタウン大学に進学し、電気工学を専攻。卒業後はコンサルタントのほか、自動車部品関連のサービスを提供する会社を起業した。その後、多くの人々が家畜を資産として所有したいと希望する一方で、時間や技術的な制約から機会を逸していることに着目し、この分野の起業を考えるようになった。
具体的には、クラウド上で畜産・家畜の集団所有(crowd-farming)を可能にするプラットフォームを提供することで、このために2015年にライブストック・ウェルスを設立した。当初は自己資金と個人ローンを元手に、26頭の牛と11人の従業員で小規模に事業を開始したが、その後急速に成長した。わずか4年で、南ア国内の11の農場を通じて、2,200頭の牛を金融商品として飼育。現在は1,500人を超える国際投資家に670万ランド(約4,824万円、1ランド=約7.2円)を配当するに至っている。

ライブストック・ウェルス最高経営責任者(CEO)の
ントゥトゥコ・シェズィ氏(ライブストックウェルス提供)
質問:
現在展開しているサービスは。
答え:
当社のプラットフォームを介して扱っている金融商品は以下の3つ。
  1. イージー・カウ(The Easy Cow):投資家は当社のプラットフォームを利用する農家が所有する牛を資産として部分的に購入することができる。1頭の牛は通常20の資産に分割され(肉としてではなく生きた牛)、1部分当たり約576ランドの少額の金融商品として購入できる。投資家は満期となる6カ月後に平均5~7%の収益が得られる仕組みだ。
  2. フル・フリーレンジ・オクセン(Full free-range oxen):1.と異なり、牛1頭丸ごと金融商品として投資家に販売するもの。約1万1,500ランドと1.に比べ大きな投資が必要となる。こちらも満期6カ月後に平均収益は掛け金の5~7%ほど。
  3. プレグナント・カウ(Pregnant Cow):妊娠しているメス牛1頭を約1万9,000ランドで販売。12カ月後の平均収益は10~14%。
投資家はプラットフォームを通じて、クレジットカードや電子決済(EFT)で簡単に上記の金融商品を購入することができる。また、所有した牛を「My Cows」として、当社アプリを通じて確認することができる。
質問:
サービスの特徴は。
答え:
プラットフォームを利用する農家は、大部分が経済的に恵まれない小規模農家だ。また、畜産を専業とする農家は少なく、農作物も併せて生産しているが、作付けから収穫までの間は現金収入がない。さらに成長に時間がかかる家畜の場合、15~24カ月間にわたって収入を得られない上に、餌などの飼育費用を負担し続ける必要があるため、資金難に陥りやすい。さらに、そうした小規模農家は担保の不足から市中銀行などからの借り入れが困難だ。小規模農家にとっては、最短で6カ月後には利息を上乗せした金額で投資家から牛の所有権を買い戻す必要があるものの、1年を通して現金を調達できることで資金流動性が確保され、経営の安定化を図れるというメリットがある。同時に、当社は農家と牛のバイヤー(食肉卸など)との橋渡しも行っており、このプラットフォームを利用すれば、個人でバイヤーに牛を販売するよりも高値で取引できるという利点もある。南アの高級スーパーチェーン・ウールワースも提携先の1つだ。ライブストック・ウェルスの収益源は登録する農家からのプラットフォーム・フィーと、農家とバイヤーとをつなぐマーケティング・フィーの徴収によって成り立っている。

ライブストック・ウェルスの提供するアプリ
(ライブストック・ウェルス提供)
質問:
今後の展望は。
答え:
南ア最大の通信事業者MTNと中国の華為技術(ファーウェイ)と共同で、投資家が所有する牛の位置情報や健康状態を追跡できる専用アプリの開発を進めている。既に南ア国内でビジネスの基盤を固めたことから、このモデルを世界的に広めるべく、向こう1年以内にさらなる資金調達をしたい。
質問:
日本企業との連携の可能性は。
答え:
海外の農家との提携に関心がある。日本は新たなパートナー先としても、当社製品の販売先としても関心がある。特に、南ア国内でも生産が広がりつつある和牛の金融商品を将来的にプラットフォームで扱いたい。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。