特集:動き出したアジアのスマートシティ構想都市課題に対応したスマートシティ開発が進む(スリランカ)

2019年8月30日

地政学的優位性を生かし、南西アジアの物流ハブとして存在感を増すスリランカの商都コロンボ。コロンボ大都市圏は今後さらなる発展が予想されるが、インフラの未整備による渋滞や停電、断水なども生じている。そうした問題を解決し、持続的な成長を成し遂げるため、スリランカ政府は、コロンボ・ポートシティ開発計画を中心に、150億ドルを投じてスマートシティ・プロジェクトを掲げる。

コロンボ首都圏では交通渋滞、停電・断水が主要課題

コロンボ市の人口は56万人と、一国の最大都市としては小規模であるが、通勤通学の流動人口を含めると昼間人口は100万から200万人規模に上るといわれている。国連の報告によると、2020年代以降、都市化進行の加速が予測され、同都市圏へのさらなる人口流入が見込まれる。人口増加に対して、都市インフラ整備が追い付いておらず、さまざまな課題が生じている。とりわけ顕著なのが交通インフラの未整備だ。コロンボ中心部での渋滞は深刻で、ピーク時は1キロメートルの移動に30分を要することもあるほどだ。原因は、信号システムの欠如や一方通行の多い道路網といったハード面だけでなく、運転マナーの悪さや生活の足となっている三輪タクシー(トゥクトゥク)が渋滞の引き金になっているとも言われる。(参考:加速する都市化、整備が進むコロンボの交通インフラ・住宅 前編

スリランカの西岸中央部に位置するコロンボの中で12の開発エリアを設定。 うち、後述のコロンボポートシティは西岸の中央部に位置する。
通勤ラッシュ時のコロンボ市内。
渋滞がひどく、身動きが取れなくなる(ジェトロ撮影)

頻繁に起こる停電や断水も、課題として指摘される。近年では、2019年3月中旬から約3週間にわたって停電が断続的に続き、コロンボ市内のオフィスや近郊の輸出加工区(EPZ)の事業活動に大きな影響を与えただけでなく、コロンボ郊外の住宅では計画停電と断水を余儀なくされた。スリランカでは電力供給の約4割を水力発電で賄っているが、毎年、乾季に雨量が不足すると、水力発電用ダムの貯水を飲用・灌漑用に優先配分するため、電力供給が追いつかなくなる。最終的に、ダムの貯水が底をついて水不足に陥り、断水が発生するというわけだ。安定的な電力供給に向けて、火力発電所を新設する計画はあるものの、遅々として進んでいない。

地域ハブを目指した開発マスタープランを策定

こうしたコロンボ都市圏の課題を解決し、持続的な成長を実現するため、2014年にスリランカ政府は、2030年までの都市開発マスタープランを策定した。マスタープランでは12の開発エリアを設け、エリアごとに商業/工業/交通/科学技術/観光などの区分により、都市機能の最適化を目指す。この開発計画は南西アジア最大級の規模を誇り、コロンボ首都圏を、シンガポールやドバイ(アラブ首長国連邦)のように、南西アジア地域のハブに押し上げることを大きな目標としている。

図:都市開発マスタープランマップ

出所:メガポリス西部開発省(MMWD)提供

都市開発マスタープランの構成をみると、「経済成長と繁栄」、「効率的なインフラ」、「社会的平等と調和」といった5つの柱に対して、「目標」、「重点戦略」、「戦略的働きかけを行う分野およびプロジェクト」が設定されている。このうち、「戦略的働きかけを行う分野およびプロジェクト」において、「スマートシティ開発」を進めることが位置付けられている。

表:マスタープラン構成

  1. 5つの柱
    • 経済成長と繁栄
    • 効率的なインフラ
    • 社会的平等と調和
    • 自然環境の持続性
    • 個人の幸せ
  2. 目標
    1. 西部州人口879万人
    2. 一人当たりの年間所得2万5千ドル
    3. GDP成長率16.8%
    4. 350万人の雇用
    5. 新たに計144万世帯分の住宅整備
    6. 港湾別ランキングでトップ10入り
    7. LPI(物流パフォーマンス指標)ランキング向上
    8. 南西アジアの金融ハブとなる
    9. 森林の増大と全ての湿地の保護
    10. 電気と浄水の供給率100%
    11. 固形廃棄物の削減
    12. 経済における中小企業の貢献度を80%まで上昇
  3. 重点戦略
    1. 物流、航空、観光、ハイテク技術、金融、サービス業を重点産業と定義
    2. 前述重点産業を支える裾野産業の強化
    3. 予見可能な事業創造とビジネス環境ランキング上昇によりFDIを増大させる
    4. 居住性に重点を置いた緑溢れるモデル都市の開発
    5. 公共交通と環境配慮型交通インフラの促進
    6. 適切な廃棄物/廃水管理を確立し、分散した汚染産業を集約する
    7. 経済改革に伴い、従業員の教育および能力開発を改善する
    8. 新たなモデル都市内に手頃な価格の住宅を建設する
    9. インセンティブ制度により再生可能・代替エネルギーの利用を促進する
    10. 法律で環境保護指定区域を守る
  4. 戦略的働きかけを行う分野及びプロジェクト
    1. 交通、エネルギー、水
    2. 住宅、行政機能の再配置
    3. 環境と廃棄物管理
    4. 航空海上交易のハブ
    5. 中心業務地区(CBD)
    6. 産業と観光都市
    7. 科学と技術都市
    8. エコな生態とプランテーション都市
    9. スマートシティ開発
    10. 精神的発達を促進するための計画

出所:メガポリス西部開発省公表のマスタープランを基にジェトロ作成

スマートシティとしてコロンボ・ポートシティの開発が進む

マスタープランで定められた12の開発エリアのうち、最も注目が集まっているコロンボ・ポートシティは、交通、エネルギーおよびセキュリティーの観点で、先進的な技術が導入されたスマートシティとして開発が進んでいる。同ポートシティ開発は、コロンボ市のビジネス街であるフォートの沖合に、埋め立てによる269ヘクタールの人工島を造成し、オフィスビルや商業施設、住宅などを建設するプロジェクトである。269ヘクタールのうち、116ヘクタールは中国国営企業の中国交通建設(CCCC)の所有(99年間のリース)、残りはスリランカ政府が所有する。2014年9月に着工し、2019年1月に埋め立て工事が完了した。2041年の完成に向けて、着々と建設が進んでいる。完成後には8万3,000人の雇用を生み、25万人が居住することが見込まれる。総工費は140億ドルで、全額がCCCCの直接投資によるものである。

同ポートシティ開発のマスタープランは、シンガポール企業が策定し、その特徴としてシンガポールの都市計画の経験が反映されていることが挙げられる。一例として、シンガポールではマリーナベイ・エリアまでビジネス街が広げられたように、同ポートシティ開発でも同様の構想が採り入れられている。また、公共交通指向型開発(TOD)のコンセプトが採用されていることも特徴的である。計画では敷地内にLRTが乗り入れ、5つの駅が設けられ、各駅から500メートル以内で島内全域へのアクセスできる。敷地内の乗用車やタクシーの乗り入れを制限し、島内交通量が管理される予定だ。そのほかにも、スマートメーターを用いた電力・水道の最適管理システム、AI(人工知能)による画像認識機能が備わった監視カメラが導入される。

埋め立てが完了したポートシティの現況と2041年の完成予想図(CHECポートシティ・コロンボ提供)

日本の省人化や省エネ化技術・製品にも期待

ポートシティ開発は、中国の「一帯一路」関連の重要プロジェクトとしても広く認知されているが、CCCC社傘下でプロジェクトを実行するCHECポートシティ・コロンボのタム・コック・クアン・サイモン副部長は「日系企業にもぜひプロジェクトへ参加してほしい」と話す。省人化につながるロボット技術や自動化技術、省エネ化を実現するEMS(エネルギー・マネジメント・システム)などの提案に期待を寄せる。同氏は「一般的な開発途上国向けの提案ではなく、シンガポールが日本に期待するような技術レベルと同じものを求めている」と述べ、日本の高度な技術・製品の提案を呼び掛けている。


CHECポートシティ・コロンボのサイモン氏(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ仙台
井上 元太(いのうえ げんた)
2015年、ジェトロ入構。環境・エネルギー分野(水処理、廃棄物処理、省エネ等)の日本企業の海外輸出・進出支援業務に従事した後、ジェトロ・コロンボ事務所(2018年~2019年)を経て現職。現在、スタートアップをはじめとする東北地域企業の海外展開支援、同地域への外資企業誘致(対日投資)を担当。