特集:動き出したアジアのスマートシティ構想ホーチミン市を中心とした南部のスマートシティ建設(ベトナム)

2019年8月30日

ベトナム南部ホーチミン市は、国内最大の約860万人(2018年)を有しており、人口は直近5年間で約10%増加した。急速な都市化に伴い、交通渋滞、ごみ処理含む環境問題など社会課題への早急な対応が必要となる中、ホーチミン市は、こうした課題に対して、官民により、情報技術などを活用し、人々の生活の質向上、新たなビジネス機会を創出する「スマートシティ建設」に取り組んでいる。

ASCNに参画するホーチミン市

ホーチミン市人民委員会は2017年11月、「2017~2020年のホーチミン市スマートシティ建設計画2025」を策定し、(1)共有データウェアハウスおよびオープンデータ・エコシステム、(2)スマートシティ管理センター、(3)経済社会シミュレーション・予測センター、 (4)情報セキュリティセンター、という4つの柱で構成される計画を推進する。

また、ホーチミン市は2018年4月、ハノイ市、ダナン市とともに「ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)PDFファイル(214KB) 」へ参画することが決まった。ホーチミン市は、スマートシティ化に向け取り組む主な分野として、公共サービスの改善、政策意思決定への応用、行政の透明性確保、情報アクセスの向上、環境および災害対策、交通インフラの向上などを挙げている。

スマートシティに関連する取り組み事例

ホーチミン市は2019年6月までに、ASCNにおける優先プロジェクトの「インテリジェントオペレーションセンター(IOC)」と「統合緊急対応センター」を設置した。IOCは市内1区および12区に設置されたCCTV(監視カメラ)や政府オペレーションセンターで収集されたデータを統合、分析する機能を持ち、市当局はこれらデータを基にさまざまな社会課題に対応するとしている。IOCでは1度に50台のカメラによる分析で、顔認証、交通事故対応、治安状況の確認が可能なほか、地理空間情報システム(GIS)により、郵便、電力、下水に関する情報を管理する。統合緊急対応センターでは、警察、消防、救急の各サービスを統合することで、コールセンターと派遣部隊との間でコミュニケーションが緊密にとれるようになった。同センターは、通話者の場所の自動検知、統合ビデオ監視システムなどの機能を有する。

また、交通分野では2019年2月、渋滞および事故を減らすための「スマート交通オペレーションシステム計画」の第1フェーズとして、国内初となる「新スマート交通管制センター」が稼働した。交通モニタリングカメラ762台、車両カウントカメラ136台などを備え、信号の切り替わるタイミングを管理する。事故発生時に警察に通知するほか、運転手に対して継続的に交通案内を行う。

外資主導による都市開発計画も

同市では、外資企業による2つの都市開発が計画されている。1つは、2017年7月にホーチミン市人民委員会の投資承認を得た韓国大手ロッテグループが、市内1区からサイゴン川をはさんで東に位置する2区のトゥーティエム新都市エリアに、近代的複合施設を建設する。同計画の投資規模は8億8,400万ドルで、7万4,000平方メートルの敷地にショッピングモール、オフィス、ホテル、サービスアパートなどを建設する。また、5万平方メートルの土地に15~40階建ての住宅タワー11棟を建設する予定である。

もう1つは、シンガポール大手ケッペルランド・グループが市内2区に64ヘクタールの広さで開発を行う。約4,300戸のプレミアム住宅、スポーツ、エンターテインメントに加え、ショッピングなどの複合施設を建設する。投資金額は5億ドルで、スマートセキュリティ管理、スマート交通、環境インフラソリューションなどの最新技術を投入する。段階的に建設される予定で、フェーズⅠは総床面積9万平方メートルの商業スペース、住宅1,220戸(うち620ユニットは2019年第2四半期に販売の予定)を建設する。

ホーチミン市のスマートシティ建設の課題

ホーチミン市経済大学の研究結果によれば、ホーチミン市におけるスマートシティ開発のポテンシャルは大きいが、アジアの他都市よりかなり遅れているという。また、政策や計画の非効率性、策定された計画の執行の遅れに加え、限られた予算と人材不足が問題と指摘されている。このうち、人材不足については、大学、研究機関、企業間の連携強化が重要という。また、人工知能(AI)の活用に当たっては、専門家、学識者、政策立案者が不足し、国および産業界による投資や人材育成が必要となる。そのほか、市による「行政手続きの遅れ」も指摘しており、前述のトゥ―ティエム新都市や、都市生活とスポーツなどの健康的なライフスタイルを併せ持つ都市開発を目指したサイゴンスポーツシティなどの主要事業では、その影響が出ている。ホーチミン市人民委員会は関係当局に対し、手続きを急ぐよう要請している。

ビンズオン省のスマートシティの取り組み

ホーチミン市近郊で、北側に位置するビンズオン省でも2016年11月、スマートシティ建設案が同省人民委員会により承認された。同案は、オランダのアイントホーフェン市のスマートシティ建設モデルを参考にしたもので、同市の支援を受け、進められている。社会課題が多く実行が進まないホーチミン市とは対象的に、同省では、東急電鉄とベトナムの公営デベロッパーのベカメックスIDCによる合弁会社として設立された、ベカメックス東急などが都市開発を推進している。スマートシティ計画の一部としては、半導体工場の建設、高度人材の育成のほか、大学でのイノベーション支援、スタートアップ企業と大企業の交流などを促進している。そのほか、主要な国際イベントの誘致、スタートアップ支援センターの設立、科学技術工業団地の建設、スマートロジスティクスと鉄道ルートの可能性調査も行う予定だ。

また、NTT東日本は2018年3月、ベカメックスIDCと覚書を締結し、ビンズオン省のスマートシティ化の早期実現に向け、情報通信技術(ICT)分野において協力している。子会社のNTTベトナムは、同覚書によりベトナム・テクノロジー・アンド・テレコミュニケーションズ(VNTT)と事業協力契約に基づく共同事業を行う。ベカメックスIDCグループがベトナム国内で開発・運営する工業団地とその周辺エリアを主要な対象地域とし、法人向けクラウドWi-Fiサービス、光回線設備の構築サービス、各種ICTソリューションを提供する。

執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
小林 亜紀(こばやし あき)
1997年、財務省東京税関入関。2017年よりジェトロ・ホーチミン事務所勤務(出向)。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
ダン・ティ・ゴック・スオン
2011年よりジェトロ・ホーチミン事務所に勤務。