特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞くアルゴリズムを活用し、農業用水を効率的に管理(チュニジア)

2019年9月25日

理系技術者を多く輩出し、エンジニアを中心に起業家の宝庫のチュニジア。アグリテックの分野でも、ユニークな起業例が見られる。その中のひとつ、アイ・ファーミング(iFarming)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、独自アルゴリズムの活用とクラウド型一元管理システムで、農家に効率的な農業用水管理サービスを提供している。最高経営責任者(CEO)のラベブ・フェルシ氏に、起業の経緯や事業内容について聞いた(8月29日)。


ラベブ・フェルシCEO(アイ・ファーミング提供)
質問:
起業の動機と経緯は。
答え:
チュニジアにおいて農業は重要な産業で、GDPの8.5%、雇用の15%を占める。一方で、恒常的に水不足が発生し、その解決が重要な課題となっている。また、世界的な人口増加に伴って食糧需要が拡大する中、水資源の有効利用を促す効率的な灌漑(かんがい)システムのニーズが高まっている。この2つの問題意識から、2017年3月に元指導教授のシェビル博士と共同で、チュニス郊外のボルジ・セドリア・バイオテクノロジー研究所でアイ・ファーミングを設立した。
質問:
事業内容は。
答え:
長年のデータ収集と研究の成果を活用し、独自のアルゴリズムを構築。これに基づき、作物の成長段階や気候状況などに対応し、リアルタイムで作物への散水地点や回数、分量を予測する革新的プログラムを開発した。これが、「フィト(Phyt’eau)」と呼ばれる自社開発製品だ。灌漑システムを活用すると、自動散布もできる。このシステムの利用で水消費量の40%を削減することが可能だ。
質問:
貴社の強みは。
答え:
独自のアルゴリズムを開発したこと。また、IBMとの提携で人工知能(AI)「ワトソン」を用いている。これによりクラウド型の灌漑、種まき、肥料の分量・投入時期、収穫など、農業の一元管理システムを提供できることが強み。

自社開発製品「フィト」:農地に設置するセンサー(左写真)と、
PC、タブレット、スマホ上のデータ画面(アイ・ファーミング提供)
質問:
アイ・ファーミング設立後の発展状況と今後の展望は。
答え:
チュニジア最大の起業家コンクール「BLOOMMASTERS2018」のスタートアップ部門で優勝したことで知名度が向上した。これを契機に「ワトソン」の利用を始め、IBMとの提携にもつながった。IT産業に特化した投資会社ソフィア・ホールディングスから資金調達し、同社ビルに入居したことで技術や人材面での支援を受けている。ソフィア・ホールディングは2019年にチュニジア最大IT企業ワンテックに買収され、商品化プロセスが加速した。スタッフは、エンジニアを含めすべてチュニジア人だ。
2018年夏から、パリにある世界最大のインキュベーター「Station F」にマグレブ諸国初のスタートアップ企業として入居し、フランス法人の立ち上げ支援を受けている。チュニジアではすでに顧客を獲得しているが、続いて北アフリカ諸国(モロッコ、アルジェリア、エジプト)に照準を定め、現在モロッコ企業と交渉中だ。また、フランスに法人を設立中で、EU市場への拡大も視野に入れている。
質問:
日本企業との連携の可能性は。
答え:
日本企業との提携には、高い関心を持っている。具体的には、センサー、クラウドサービス、IoT(モノのインターネット)通信、無人航空機・農業用ロボット、灌漑システム・機器といった部門が対象となる。ハイレベルの製品サプライヤーやITコーディネーターとして、期待できる。当社の地中海やアフリカ市場に関する知見を融合し、農業IoTの推進を一緒に目指したい。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。