特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞く小規模農家と提携し林業の流通プラットフォームを開発(ケニア)

2019年9月25日

コマザ(Komaza)は、ケニアで林業の流通に取り組むスタートアップだ。アフリカで木材需要に対して供給が不足していることに着目し、インパクト投資を受けて非営利の植樹活動を始めた。収穫までの長いプロセスやトレーニングについては電子化などの効率化を進めた。安定した収穫と生産が見込めるようになったことから、スタートアップ企業に転身し、現在は事業拡大のため資金調達を行っている。今回はCEOのテビス・ハワード氏に加え、大手総合商社で新興国投資などを経験したのち同社に参画した熊平智伸氏、小澤慧氏の3人に話を聞いた(8月21日)。


左から小澤氏、ハワード氏、熊平氏(コマザ提供)
質問:
コマザの事業概要は。
答え:
当社は林業のサプライチェーン構築を目指すスタートアップで、ビジネスモデルはシンプルだ。まず、小規模農家に対して苗木の提供とトレーニングを実施する。その後、小規模農家から適正価格で生木を買い取り、加工して製品化・販売する。これまでに2万戸を超える小規模農家の情報を自社データベースに集約し、農家の登録から植林、収穫までの管理プラットフォームを自社開発した。直接雇用の現地スタッフ300人がこのシステムにアクセスし、農家の情報をスマートフォン端末で逐一アップデートする。世界最大規模の森林投資ファンドなどから業務提携について引き合いがある。
質問:
創業の経緯は。
答え:
CEOのテビス・ハワードがマラリアの研究のため、東アフリカ最大規模のマラリア研究施設のケニア医学研究所(KEMRI)があるケニア沿岸部の小都市キリフィを訪れたのが創業のきっかけだ。研究の傍ら、貧困がマラリア被害を拡大させる一因になっていることに着目し、2006年に農家の所得向上を目的に苗木を提供する非営利事業を開始した。
質問:
なぜ森林事業に目を付けたのか。
答え:
アフリカでは経済発展と人口増加を背景に、今後20年間で木材需要が現在の6倍に達する見込みだ。また、2030年までに需要は1億ドルに拡大するという予測もある。一方、アフリカで調達できる木材の93%が天然資源といわれており、需要に供給が追い付いていない。アフリカ全体で年間3,000万立方メートルの木材を輸入している。金額にすると、2030年に供給赤字が3,000万ドルに上る計算になる。アフリカでは林業自体が盛んではない。例えばケニアでは、農業のGDP構成比は3割強なのに対して、林業は1%を上回る程度で経済成長への貢献は小さい。
植樹には膨大な初期投資が必要な上、木材として販売できるようになるまで少なくとも10年はかかる。ひとたび山火事や疫病が発生すれば、一度にアセットが失われるリスクとも常に背中合わせだ。また、プランテーションの経営においては、土地確保という難題もある。
質問:
そうしたリスクにどう対処しているのか。
答え:
当社は従来のプランテーションによる林業ではなく、小規模農家と提携することで土地買収のコストやリスクを削減した。農家へのトレーニングなどのプロセスを標準化し、自社システムで管理することで、これまで2万世帯の小規模農家と300万本の苗木を5,000ヘクタールに植樹してきた。活動を拡大させるため、インパクト投資家や開発銀行などを中心にこれまで約20億円を資金調達した。2019年以降は生木の生産量が大幅に増加する見込みで、木材加工場の拡張や施設の新設、対象エリア拡大が見込まれる。このため、現在、シリーズB段階で資金を調達中だ。

植林、収穫の様子(コマザ提供)
質問:
日本企業との連携可能性は。
答え:
2018年から収穫を開始した。2019年から安定供給が可能になる見込みで、加工施設の拡張と物流の改善が課題だ。日本企業に対しては、施設への投資、バイクやトラック事業、バイオマス技術分野での連携を期待している。また、2020年以降には、日本や東南アジアで高級家具材として注目されているセンダンの製品化も予定しており、開発・販売の両面でパートナーを探している。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか)
2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。