特集:動き出したアジアのスマートシティ構想100都市がスマートシティとして選定(インドネシア)

2019年8月30日

インドネシアでは、通信情報省や財務省など複数の省庁が連携し、「100 Smart City」計画を推進中だ。各都市がスマートシティ化のマスタープランを策定し、政府は計画遂行のための専門家派遣や予算面での補助を行う。100都市のうち、バニュワンギ市とマカッサル市は、ASEANスマートシティネットワーク(ASCN)にも選定されている。また、当地財閥がスタートアップ企業と組み、都市開発を行う例も見られる。

7省庁が連携する「100 Smart City」計画

インドネシアでは通信情報省、財務省、国家開発計画庁など7つの省庁が連携し、2017年から「100 Smart City」計画が進行中だ。同計画は、インドネシアの546市・郡のうち100市・郡を選定し、「スマートシティ」化を進めるというもの。インドネシアでは「スマートシティ」に厳格な定義はないものの、地方では所得格差を解決する手段として位置付けられている。通信情報省の担当者によると、約300都市からマスタープランの提出があり、実現可能性や財務面での健全性の観点から審査され、最終的に100都市が選定されたという(表参照)。

同担当者によれば、各都市の計画は、健康や教育に関する計画が多い。また、選定都市に対しては、専門家派遣や予算面での補助があるが、中央政府は年2回の査定を実施し、基準を満たさない場合には補助金がカットされるなど計画は厳格に運営されている。本計画の達成度を測る手段として、市民への満足度調査が実施される予定である。本計画には現地大手メディア会社KOMPASがスポンサーとして参画し、スマートシティ関連のイベント開催などを行っている。各都市の計画はウェブサイトなどで一般公開されておらず、基本的には各都市もしくはKOMPASに問い合わせる必要がある。

2019年10月28~30日にジャカルタで開催される展示会で、各都市による成果報告や企業とのマッチングが行われる予定だ。同イベントには、所定費用を支払うことで、インドネシア地場企業に加え、外国企業もブース設置、パネリストとしての登壇などにより、各都市に対して製品・技術の紹介や提案をすることができる。

なお、2018年12月にジェトロ・ジャカルタ事務所は、ジャカルタでスマートシティセミナーを開催した(2018年12月25日付ビジネス短信参照)。ASEANスマートシティネットワーク(ASCN)に加盟するジャカルタ特別州、バニュワンギ市、マカッサル市が各都市の取り組みについて、防災分野を中心にプレゼンテーションを行った。同セミナーでは、参加者から、防災分野で日本への協力に期待が示された。同資料はジェトロのウェブサイトで閲覧できる。

バニュワンギ市では地元住民のエンパワーメントが最終目標

ジェトロ・ジャカルタ事務所は、「100 Smart City」計画、ASCNに参画するバニュワンギ市を訪れ、関係者へヒアリングを3月中旬に実施した。同市は「バニュワンギ・スマート・カンプン(「カンプン」はインドネシア語で「村」の意味)」計画を策定し、公共サービスのIT化、貧困削減、教育・福祉サービスの充実を目標に掲げている。最終的な目標は、「地元住民のエンパワーメント」だと市担当者は語る。具体的な取り組みの1つとして、地域住民による産品などをオンラインで販売することを、市がサポートしている。また、「Banyuwangi-mall.com外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」は国営銀行BNIがスポンサーとなり、バニュワンギ市が設立したオンラインマーケットだ。出店者は同市の中小企業に限定され、衣類、家具、土産だけでなく、同市のツアーパッケージが販売されているという。さらに同市は、「Rumah Kreatif」(インドネシア語では「創造の家」の意味)と呼ばれる組織を設立し、中小企業の製品デザインやパッケージング、SNSを活用したマーケティングを指導している。


宣材用の写真撮影方法の指導(ジェトロ撮影)

また、配車サービス大手のゴジェックが協力し、病気の住民に対して無料で医薬品を配達するサービスを行っている。同市の担当者によれば、前述の「Rumah Kreatif」への講師派遣や、パッケージングのための印刷機導入に当たって、日本の官民に対して支援の要望があった。

地場財閥とスタートアップ企業が協業

「100スマートシティ計画」以外にも、地場財閥やスタートアップ企業が組んで、スマートシティ開発を実施する例もある。華人系財閥のシナルマス・グループ傘下の不動産開発大手、ブミ・スルポン・ダマイ(BSD)が開発する「BSDシティ」はその一例だ。BSDシティは、広さが東京ドーム1,300個弱に相当する6,000ヘクタールで、バンテン州南タンゲラン市に位置し、ジャカルタ中心部より南西に高速道路を利用して約30分の距離にある。

2019年3月に配車サービス大手のグラブ(シンガポール)とシナルマス・ランドが業務提携することを発表した。グラブのプレスリリースによると、BSDシティ内にグラブが研究開発センターを設置し、BSDシティをインドネシアにおける「シリコンバレー」へと進化させるとしている。同社のリズキ・クラマディブラタ社長は「顧客がグラブに求める高い要求をかなえられるようにするための試験場でもある」という。電気自動車の配車サービス、配車時の地図情報の精度向上などの研究を行う。5月からは電気キックボードのシェアサービス実証事業を開始するなど、環境に配慮した移動手段の開発を実施する予定だ。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
佐々木 新平(ささき しんぺい)
1992年、旧大蔵省門司税関入関。1994年に大蔵省へ出向後、国際協力銀行マニラ駐在員(2002~2004年)、インドネシア財務省(2006~2008年)、内閣官房TPP政府対策本部(2014~2017年)などを経て、2018年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
上野 渉(うえの わたる)
2012年、ジェトロ入構。総務課(2012年~2014年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2014年~2015年)、企画部企画課海外地域戦略班(ASEAN)(2015年~2019年)を経て現職。ASEANへの各種政策提言活動、インドネシアにおける日系中小企業支援を行う。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
ジュリオ フィドゥラン
2016年よりジェトロ・ジャカルタ事務所にて勤務。通関、インドネシア企業の対日投資支援、ASEANへの政策提言活動などを担当。