特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞くハエを活用して食料問題と環境問題の解決へ(南アフリカ共和国)

2019年9月25日

南アフリカ共和国では、ユニークなビジネスモデルを武器に国内外の関心を集め、資金調達に成功するスタートアップが次々と現れている。ジェトロはこのうち、食料不足と環境問題解決のため、昆虫からタンパク質製品を製造・販売するアグリプロテイン(AgriProtein外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )の最高経営責任者(CEO)のジェイソン・ドリュー氏にインタビューした(8月27日)。


アグリプロテイン最高経営責任者(CEO)
ジェイソン・ドリュー氏(アグロプロテイン提供)
質問:
起業の経緯と事業概要は。
答え:
当社は食用昆虫を栽培している。ビジネスの原点は、環境に深刻な影響を与える食品廃棄物の問題を解決すること、同時に、世界に新たな食料源を提案することにある。世界人口の急増に伴い、将来的に食料不足が予測されている。また、地球上の漁獲量の約3割は魚粉に加工され、農作物の肥料として使用されている。その大部分は漁場である南半球から北半球の農地に輸送されるため、その過程で大量の温室効果ガスの排出を伴う。加えて、世界で生産される食品の約3割は廃棄物として埋め立てられ、土壌環境問題の原因ともなっている。
このような食品生産・廃棄物処理の在り方は持続的ではないと考え、食品廃棄物を分解しながら、それ自体が食料にもなりうるハエの幼虫に着目した。私は欧州のビジネススクールを修了後、世界的な大企業を渡り歩いたのち、南アに移住し、2008年に同国で最も農業が盛んな西ケープ州に兄弟で会社を設立した。成長は著しく、現在は本社を英国に移し、約200人を雇用。これまでに1億3,000万ドルの資金を集めている。
質問:
ビジネスの概要は。
答え:
地域の食品廃棄物を工場に集めている。廃棄物は工場内の大量のハエの幼虫により分解され、そのハエの幼虫自体から以下の3つの製品を生産している。
  1. マッグミール:ハエの幼虫から抽出されたタンパク質を用いた養鶏・水産養殖用飼料。
  2. マッグオイル:ハエの幼虫から抽出された油で、健康に良い亜麻仁油に似た性質を持つ。マッグミールと同様に家畜の飼料用に利用可能なほか、ペットフードにも利用。化粧品業界向けの生産も計画中。
  3. マッグソイル:ハエの幼虫の残りかすとコンポストを混合し、窒素を多く含む土(super soil enricher)を生産・販売。
マッグミールとマッグオイルの値段は市中の魚粉の価格を参考にして随時調整しており(魚粉より高めに設定)、マッグソイルも地域の需要に応じて価格を変動させるなどの工夫を加えている。
環境に優しく持続可能な当社製品の売れ行きは好調で、増加する需要を満たす生産量を確保できないことが悩みだ。既に新工場の設計は完了しており、完成すれば約85億匹のハエを飼育することができるようになる。

工場内の様子(アグリプロテイン提供)

マッグミール(アグリプロテイン提供)
質問:
ビジネスの特徴は。
答え:
食品廃棄物を利用して食用昆虫を栽培するビジネスには競争相手もいるが、他の企業は醸造所からの廃棄物など単一のソースを利用しているのに対し、アグリプロテインは地域の食品廃棄物を一手に引き受け、工業的な規模でリサイクルを行っている点で差別化を図っている。
質問:
今後の展望、日本企業との協業の可能性は。
答え:
現在、オランダや米国カリフォルニア州など世界中に同様の工場建設を計画しており、投資家に資金を求めている。ターゲットとする市場は南アや英国のみならず、北米、ベネルクス3国、シンガポール、インド、香港だ。日本市場にも関心があり、そのためには現地のパートナー候補発掘が何よりも重要だと思う。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。