特集:動き出したアジアのスマートシティ構想100のスマートシティ建設掲げるインド

2019年8月30日

約13億の人口の過半が農村に暮らすインドでは、今後都市化と都市部への人口流入の拡大が見込まれ、持続可能な都市基盤整備が求められている。政府が同国内に100のスマートシティを建設する計画を掲げてから4年が経過した。インドにおけるスマートシティの構想と、主なプロジェクトについて3回シリーズで報告する。

モディ首相が第1次政権発足後に構想発表

インドでは、第1次モディ政権が発足した直後の2014年6月、モディ首相は地方から都市部への人口流入を吸収し、拡大する中間層の受け皿となるスマートシティを国内100ヵ所に設ける「スマートシティ・ミッション」計画を発表した。同計画では、スマートシティを「先進技術を用い、利便性と公共性の高いインフラを整備し、持続可能で質の高い生活をもたらす都市」と定義している。これを構成するインフラは、上下水道、電力、ごみ処理、交通網、住宅、ITおよびデジタルネットワークの整備、治安、教育など多岐にわたる。

同計画を実現するため、政府は2015年6月に4,800億ルピー(約7,680億円、1ルピー=約1.6円)に上る予算を確保しており、都市開発省の傘下に、スマートシティ・ミッションをプロジェクト実施機関として立ち上げた。各事業実施に当たっては、中央政府と州政府が予算を充当し、設立された特別目的事業体(SPV)が都市計画、開発、管理などに当たる。各事業はJV(共同企業体)、子会社、官民連携(PPP)、一括請負契約などによって実行される。SPVは、州と都市ローカル開発局(ULB)が50:50の比率で出資するが、マジョリティーにならない形で企業や金融機関が参画する場合もある。資金は、州によっては財務仲介機能を設立する場合や、利用料などの徴収、スマートシティ以外の中央政府のファンドやスキームの活用などを通じて調達する。

2016年1月には第1ラウンドとして20都市が選定され、その後、第4ラウンドまでの100都市が選定された。これら都市は、新都市の開発のみならず、既存都市の再開発が含まれる。第1ラウンドの都市は、2019~2020年度の完工が目標に掲げられている。

日本政府のみならず日本企業も複数都市で事業参画

日本政府は2017年1月に、西部グジャラート州アーメダバード市、南部タミル・ナドゥ州チェンナイ市、中部ウッタル・プラデシュ州バラナシ市のスマートシティ開発への協力を約束した。このうち、500万超の人口を抱えるアーメダバードと、インドの商都ムンバイを結ぶ区間では、日本方式の高速鉄道が2022年までに部分開通する予定で、アーメダバードにはそのターミナル駅が設置される。また、人口約465万のチェンナイは、チェンナイ、カマラジャなどの大規模港を有し、インドからの製造輸出拠点としても注目が高まる。同市のチェンナイメトロの建設では円借款を通じ、日本政府が技術的・金融的な支援を実施する。また、タミル・ナドゥ州では、日本政府が主導し、投資促進プログラムも実施しており、投資申請プロセスや用地取得制度の見直し、産業人材育成促進といった州の政策・制度の改善を促すなどの事業を実施している。さらに、ガンジス川が流れ、ヒンズー教の聖地としても知られるバラナシでは、「ガンジス川流域都市衛生環境改善事業」を通じて、下水道やごみの収集・処理システム整備支援を実施していくほか、観光分野の振興を目指した国際協力・コンベンションセンターの建設事業などが進められている。

日本企業も数々のスマートシティ事業に参画している。NECテクノロジーズは、統合管理センターやIoT(モノのインターネット)関連システムなどの構築などの分野で、インド国内の複数都市で事業に参画しており、2019年1月にはインド工科大学ボンベイ校(IITB)とスマートシティ実現に向けた共同研究を開始することを発表した。また、日本工営は2018年12月、ポンディチェリ連邦直轄領におけるスマートシティ開発に係る設計、マネジメント、実施監理に係るコンサルティング業務の共同受注を発表した。横河電機は2018年7月、ラジャスタン州の州都ジャイプールにおけるスマートシティ構想の一環となる、上下水道情報中央管理システムの受注を発表した。システムの設置、その後の調整などを経て、5年間にわたりオンサイトでの24時間体制の施設管理サービスを提供するという。

他方、米国通信機器大手シスコシステムズは、南部アンドラ・プラデシュ州ビジャヤワダ、南部テランガナ州ハイデラバード、グジャラート州の「グジャラート国際金融テックシティ(GIFTシティ)」で、公共Wi-Fiや交通、治安対策、eガバナンスなどの分野でシステム・ソリューションを提供している。また、シンガポール政府系の都市計画コンサルタント会社スルバナ・ジュロンは2018年7月、マハーラーシュトラ州ピンプリ・チンチワッドをスマートシティとして開発するため、プロジェクト・マネジメントとデザインをKPMGと共同で受注したと発表しているなど、多くの外資企業がインドのスマートシティ計画に参画しようと試みている。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課を経て、2015年7月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。