特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞くアフリカ初の超臨界二酸化炭素技術導入で有機原料を生産(チュニジア)

2019年9月25日

チュニジアのアグリランド(Agri-Land)は、現地で収穫したローズマリーやトマト、オリーブの葉、ブドウの種などを用いて、有機の食品添加物や香水・医薬品の原料を生成している。アフリカで初めて「超臨界二酸化炭素」技術を導入し、有機原料を生成に成功した。バイオテクノロジーを通じて、伝統産業のエッセンシャル・オイル製造に革新がもたらされつつある。同社の共同創業者アイェット・アラー=ハライエム氏に、話を聞いた(1月31日)


アグリランド(Agri-Land)共同創業者
アイェット・アラー=ハライエム氏(同社提供)
質問:
2011年の起業の動機は。
答え:
チュニジアは、ローズマリーの生産量で世界一を誇る。フランス植民地時代から、エッセンシャル・オイルの製造が盛んで、半工業的に作られてきた。1970年代から、家業としてエッセンシャル・オイルの製造を行い、有名香水ブランドと香水の原料工場の開設に携わった経験がある。自身としては、海外の下請けに甘んじるのではなく、自社ブランド製品の開発と海外展開を志向している。
自然素材の抽出プロセスには、バイオテクノロジーが必要だ。一方、チュニジアの伝統的企業には、抽出、分離、精製 、微粒化の過程における技術が不足していた。このため、この分野での研究開発(R&D)を進めようと、バイオテクノロジーのエンジニアとともに、3人で会社を設立した。設立した2011年は革命の年に当たる。チュニジアの経済復興は、われわれのような中小の発展を通してのみ実現可能と認識している。今まで製造されてこなかった製品を国内で作っていくことで、この経済的危機から脱出できると確信した。
質問:
その後の事業の進展は。
答え:
2014年ごろからフランスや米国の多国籍企業が、ローズマリーに含まれるポリフェノールを食品用酸化防止剤として使用できることに着目するようになった。これらの多国籍企業は、モロッコやチュニジアからローズマリーを輸入し、中国(80%以上)などで酸化防止成分を抽出して世界各国に販売してきた。こうして世界的需要が拡大したことと、チュニジアの地場産業の将来を担うという使命を達成するため、国際基準に適応したハイクオリティーな製品を生産する必要に迫られた。そうした中、国の研究開発計画において、その遂行を担う企業として当社が選ばれ、モナスティール大学薬学部、チュニジア科学技術センター、そして海外パートナーとして民間企業やアヴィニョン大学が加わり、研究を進めることになった。
研究資金として、最初に投資を行ったのが投資会社UGFS-NAだ。15万チュニジア・ディナール(約540万円、1ディナール=約36円)の融資を得た。2年間の研究開発期間を経て、アフリカで初の超臨界二酸化炭素による抽出プロセスを完成させた。従来は化学物質を必要としていたが、同技術の導入により、有機の原料を生成することが可能になった。試作品を生産し、国際基準の認証を受けた。2018年11月に完成した新工場で、2019年1月から現地で収穫したローズマリー、ネロリ(ビターオレンジ)、トマト、唐辛子、オリーブの葉、アプリコット、ブドウの種などから、有機の食品添加物(食品用酸化防止剤)、香水・医薬品の原料の本格的な生産を開始した。すでに、多国籍企業からの引き合いもある。
質問:
貴社の強みは。
答え:
地域活性化に有効であるとしてチュニジア農業省が当社の計画を推薦した結果、世界銀行のパイロット事業として認定された。これにより、4万ヘクタールの資源(森)の開発管理権の20年間保証を得て、将来的に原材料の確保が可能になった。他の多国籍企業にはその保証がない中で、これは当社の強みと言える。また、農業開発組合(GDA)との連携により、「自然にも労働者にも優しい」生産モデルを構築したことも強みだ。具体的には、手作業に頼るローズマリーの収穫に携わる女性を中心とした労働者に、収入の安定と環境保全を考慮に入れた採集職業訓練を保証している。当社の製品を求める多国籍企業にとっては、この社会貢献という要素が非常に重要となる。また、研究開発も、チュニジア人材で賄えることも強みだ。競合は中国とインド企業だが、これらの要素から、品質と価格で十分競争できる自信がある。
質問:
現在の規模と今後の展望、そして日本企業との連携の可能性は。
答え:
設立当初、従業員は3人しかいなかった。現在では、開発のためのエンジニア(化学博士取得者が3人)を含め、熟練労働者80人を雇用している。多国籍グループ(特にフランス企業)が資本参加していることもあり、当初は共同事業のかたちも検討していたが、原材料が確保されたことで、自社単独での経営による発展を目指すことにした(図参照)。自然素材の抽出セクターは、8割を中国が寡占している状況だ。超臨界二酸化炭素による抽出の設備は世界40カ所にあるが、うち30カ所は中国だ。しかし、中国で生成された製品の多くは、中国国内市場向けに販売されている。例えば、日本では欧州産のモノが好まれる傾向がある。そのため日本と米国市場対応のため、パリに販売事務所を設置した。日本企業との連携に対しては、高い関心を持っている。
図:調達・生産サイクル
現地の収穫物や近隣の食品加工工場で余った野菜などを活用。 アグリランドの自社工場で原材料を乾燥、必要成分を抽出し、有機の食品添加物や香水・医薬品の原料を生成。外国企業に販売している。 余った原材料のカスは肥料として農家へ。

出所:インタビューに基づきジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。