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特集:動き出したアジアのスマートシティ構想IoT、ソサエティ5.0などで日本の技術に高い関心(オーストラリア)

2019年8月30日

オーストラリアでは自然増、移民増の両面から今後も人口増加が期待されるが、その多くは都市部へ集中している。シドニーやメルボルンなどの都市中心部での住宅価格は高騰し、市内の混雑や交通渋滞を引き起こしている。こうした状況を改善するとともに、オーストラリアが目指すイノベーティブな経済への移行を実現するため、同国ではスマートシティを含めたインフラ開発が喫緊の課題となっている。


高層ビルの建設がすすむシドニー(ジェトロ撮影)

国家インフラ開発としてのスマートシティ計画

オーストラリアでは、2016年にターンブル政権(当時)によって、「スマートシティ計画」が策定され、政府、企業、地域社会の連携によるスマートシティ開発の基本的な方向性が示された。同計画は、イノベーションの促進や雇用の創出により、豊かで住みやすい都市を目指すもので、スマート投資、スマート政策、スマート技術の3本の柱で構成される。

参考:3本の柱における政府の取り組み内容

スマート投資
長期的な経済成長や就業機会を生み出すプロジェクトを優先させる。
民間セクターと協業して資金調達をし、目玉となるインフラプロジェクトに投資する。
資金提供などを通じ、計画、開発など早期の段階から重要なインフラプロジェクトに関与する。
スマート政策
都市協力協定(シティ・ディール)を通じて、政府や自治体が連携して計画を実行する。
州および地域横断的な規制改革を主導する。
スマートシティプラン、特に都市協力協定の成果を測定する。
スマート技術
課題解決の手法としてデジタルソリューションズを優先させる。
ビックデータを州政府等へ提供する。
エネルギー効率化技術を活用する。

出所:連邦政府資料よりジェトロ作成

政府は「スマートシティ計画」を実行するために、第1段階として1.インフラ計画および開発推進のために5,000万オーストラリア・ドル(約35億5,000万円、豪ドル、1豪ドル=約71円)の資金を投入、2.インフラ資金調達部門を設立、3.地方・州政府との連携に取り組む予定だ。地方・州政府との連携おいては、都市協力協定(注)と呼ばれる枠組みを活用し、既に9つの州・都市と具体的なプロジェクトを進めている。また、2017年には、都市機能のパフォーマンスをはかる「パフォーマンス・フレームワーク」が策定された。オーストラリア国内の21都市(8つの首都および州都と13の主要都市)および西シドニーを対象とし、雇用、教育、住居、インフラ、持続可能性やイノベーションなどの各種指標を毎年更新し、3年ごとにレビューが実施される。

日系企業も参入するシドニー近郊の都市開発計画

オーストラリア南東部に位置するニューサウスウェールズ州(NSW)政府はシドニーへの一極集中を緩和するために、シドニー大都市圏第3の都市として「西部パークランドシティー」の開発を計画している。2018年には連邦政府、州政府、8つの自治体が西シドニー都市協力協定を締結し、20万人の雇用創出や「30分圏内に職場がある都市(30 minute cities)」などの目標達成のための実施計画が策定された。

同計画の代表的な事業は、西シドニー空港周辺に都市を開発するという「西シドニー空港都市(エアロトロポリス)計画」(2019年4月24日付ビジネス短信参照)だ。2026年に完成を予定する新空港は、最新のデジタル技術や自動化技術を用いた24時間稼働の国際空港となる。都市は1万1,200ヘクタールの広さで、基礎インフラの整備、雇用確保のための産業誘致が進められている。また、空港へのアクセスや周辺都市との連結性を高めるため、鉄道の新設と延長や、高速バスサービスの導入が計画されている。

空港の開業、周辺地域の開発においては、医療、教育、環境など多くの分野で最新技術が活用される予定であり、日本が技術的優位性を持つ分野での参画が期待される。日系企業では、三井住友銀行、三菱重工業、日立製作所、UR都市機構などがNSW州と覚書(MOU)を締結した。 また、ジェトロとオーストラリア貿易投資促進庁は2018年11月に「日豪スマートシティ・ラウンドテーブル」をシドニー市内で開催し、同計画への参入機会を探る日系企業が、通信、重工業、IT、住宅、建設などの分野で活用されている各社技術を紹介した。オーストラリア側からは、日本におけるIoT(モノのインターネット)プラットフォームの事例や日本政府が取り組むソサエティ5.0などへ多くの質問が寄せられ、日本の技術に関する高い関心がうかがえた。

南西クィーンズランドでは同国最大の協力協定を推進

北東部に位置するクィーンズランド(QLD)州の南西クィーンズランド地区では、既に都市レベルでの取り組みが進んでいる。州都ブリスベンでは、スマートに世界とつながるというビジョンの下、イノベーション促進、エネルギー効率化、メトロ開発やWi-Fiネットワークなどのインフラ整備、デジタル教育の推進、スタートアップ支援を進めている。

また、QLD州南部沿岸部に位置するサンシャインコーストは、オーストラリアの中でスマートシティ開発に先進的に取り組んでいるとして評価されている。公共施設に必要な電力を太陽光発電でまかなっているほか、ごみ収集の自動化、スマート駐車場(センサーによる駐車場の効率化)、自動運転バスの導入などが始まっている。

連邦政府とQLD州政府は2016年11月、人々の生活の質の向上、持続可能な経済成長のために、雇用、住宅供給、移動時間の短縮などの取り組みにフォーカスした都市協力協定に関する覚書に署名した。スコット・モリソン首相は2019年2月、連邦政府、QLD州政府、市議会が連携してオーストラリア最大の南東クィーンズランド(SEQ)都市協力協定を支援することを表明した。また3月には、「インフラの連結性」「雇用とスキル」「住みやすさと持続可能性」「住宅と計画性」「デジタル」「ガバナンスとリーダーシップ」を6つの優先分野とする趣旨表明書に署名した。

スマートシティ構築には産官学での協力が不可欠

各都市が抱える課題を解決し、スマートシティへと移行するためには、政府のみならず民間企業や学術機関との協業が不可欠である。中央南部に位置する南オーストラリア州の州都アデレードでは、スマートシティ分野での産官学連携に積極的なアデレード大学と、無線センサーネットワーク、認証技術、都市インフラの監視システム、クラウドサービスなどの技術に強みを有するNECが連携し、2016年にスマートシティ分野で協力するMOUを締結した。

アデレードを世界で最も先進的なスマートシティの1つとすることを目的に、IT企業のシスコは南オーストラリア州政府との合弁事業で「アデレード・スマートシティ・スタジオ」を設置した。同スタジオは、スマートシティ分野でグローバル展開を目指す起業家を育成するためのコミュニティーとなっている。シスコは地元企業と連携し、公共Wi-Fiサービスの提供、センサー付きLED街灯やスマート駐車場などを展開する。

ほかにも、アデレード市ではショッピングエリアにおける消費者の行動分析や、廃棄物収集の最適化などが進められている。廃棄物の最適化においては、ごみ収集所に太陽電池式センサーを取り付け、回収が必要なタイミングを計測するとともに、圧縮機能により、ごみをコンパクトにまとめることが可能だ。

日本とオーストラリアは、資源・エネルギー分野を中心に投資や貿易が拡大するなど、長年にわたり良好な経済関係を維持しており、スマートシティ、インフラ・地域開発などの新たな分野においてもさらなる可能性を秘めている。


注:
都市協力協定とは、連邦政府、州(または特別地域)政府、地方政府の3者が、豊かで住みやすい都市づくりを目指し、当該地方政府の管轄地域における都市開発の方向性や実行計画について合意したもの。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。

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