激動の中東情勢:中東各国への影響と展望湾岸地域の航空貨物が急減
中東情勢悪化が国際航空網に与えた影響(2)

2026年8月24日

2026年2月末以降の米国・イスラエルとイランの間での情勢悪化は、イランによる湾岸諸国への攻撃や空域の制限を通じて、中東(注1)を結節点とする国際航空ネットワーク全体に大きな影響を及ぼした。これに先立ち、2023年11月以降はイエメンの武装組織フーシ派の活動活発化により海上輸送が混乱し、航空貨物需要が拡大してきた経緯がある(注2)。今回の中東情勢悪化においても、特にホルムズ海峡の事実上の封鎖(注3)を受け、航空輸送は海上輸送の代替輸送手段として注目されたが、湾岸地域の主要ハブ空港で運航制限や空域閉鎖などの混乱が生じたことで、中東の航空貨物量は大幅に減少した。

日本では成田空港全体の輸出入額は過去最大水準を維持した一方、中東地域との輸出入額は大幅に減少した。

本連載では、中東情勢悪化が空路に与えた影響について、航空旅客輸送と航空貨物輸送の両面から整理した。前編では、航空旅客輸送の需要動向や主要ハブ空港への影響を分析した。後編となる本稿では、航空貨物輸送への影響に焦点を当て、中東地域の貨物ハブ空港の動向や日本への影響について概説する。

本稿は2026年6月末時点までの情報に基づいている。その後の運航状況や空港・航空会社の対応については、各空港および航空会社の最新情報を確認されたい。また、中東情勢の最新動向については、ビジネス短信特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」も参照されたい。

欧州・アジア・アフリカを結ぶ航空貨物ハブ

中東地域には、欧州・アジア・アフリカを結ぶ航空貨物ハブとして重要な役割を果たす空港が多数存在する。特にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイやトルコのイスタンブールなどの主要空港は、広範な路線網を通じて国際物流を支える結節点となっている(図1参照)。

図1:中東地域の主な空港
中東地域の主な国際空港の位置を示した地図。トルコのイスタンブール国際空港、サビハ・ギョクチェン国際空港、エジプトのカイロ国際空港、イランのイマーム・ホメイニー国際空港、サウジアラビアのキング・ハーリド国際空港とキング・アブドゥルアズィーズ国際空港、カタールのハマド国際空港、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ国際空港、ザーイド国際空港、アル・マクトゥーム国際空港、オマーンのマスカット国際空港とサラーラ国際空港の位置が示されている。湾岸地域に主要空港が集中していることが分かる。

注:地図上の空港はおおよその位置を示す。
出所:GlobalDataを基にジェトロ作成

湾岸ハブの機能低下で世界の貨物量も減少

こうした空港は広範な航空ネットワークを通じて国際物流を支えているものの、2026年2月末以降の中東情勢悪化に伴い、運航制限や空域閉鎖の影響を受けた。国際航空運送協会(IATA)によると、3月の世界の総航空貨物量(貨物トンキロベース)は、中東情勢悪化による湾岸地域の主要ハブ空港での深刻な混乱の影響で前年同月比4.8%減となった。その発生源である中東地域の航空会社による航空貨物量は同54.3%減となり、全地域で最大の落ち込みを記録した(IATAはトルコを欧州に分類)。また、輸送容量についても、世界全体では前年同月比4.7%減となり、ハブとしての接続性やネットワークの信頼性の低下が影響した中東地域では同54.2%減を記録した。中東地域では4月にやや回復したものの、総航空貨物量が前年同月比18.2%減、輸送容量が同22.9%減と、情勢悪化の影響がなお残る状況にあった。

IATAのウィリー・ウォルシュ事務局長は、「中東地域での軍事衝突による湾岸諸国の主要空港の混乱は、貿易ルートの再構築と主要回廊の輸送能力の制約となっている」とした上で、「貨物専用機が需要増加の大部分を担っているため、航空貨物は貿易の混乱の中でもサプライチェーンの維持に貢献している」と述べた。加えて、「今後数カ月は、航空業界が地政学的な不確実性と高騰する運営コストに対処できるかが試される」と指摘した(注4)2026年5月29日付ビジネス短信参照)。

5月に世界市場は回復、中東の輸送能力は戻らず

もっとも、5月には世界の航空貨物市場全体で回復の動きもみられた。IATAによると、5月の世界の総航空貨物量は前年同月比6.0%増、輸送容量も同1.9%増となった。世界貿易の拡大や製造業生産の増加を背景に、アジア太平洋、北米、欧州、アフリカでは需要が増加しており、IATAは航空会社がサプライチェーンや需要動向の変化に適応しながら運航を維持していると分析した。

一方、中東地域の航空会社による航空貨物量は前年同月比8.9%減、輸送容量も同9.2%減となり、引き続き全地域で最も低い水準となった(図2、3参照)。IATAは、中東情勢を巡る不確実性が依然として業界の下押し要因となっている一方、世界全体では堅調な需要と航空会社の回復力が確認できるとしている。

このように、旅客輸送だけでなく航空貨物についても、中東地域は世界平均を大幅に上回る落ち込みを記録しており、航空ネットワークの中核を担う湾岸地域の機能低下が国際物流に広範な影響を与えたと考えられる。

図2:総航空貨物量の前年同月比(%)の推移
総航空貨物量の前年同月比の推移をみると、2025年は世界全体がおおむね0~6%台のプラス成長で推移した。一方、中東地域は年初にマイナスが続いたものの、10月以降は上昇し、2026年2月には16.5%増となった。しかし、中東情勢の悪化を受けて2026年3月には中東地域が前年同月比53.4%減と急落し、4月と5月もマイナスが続いた。一方、世界全体は2026年3月に4.8%減となった後、5月には6.0%増まで回復している。

注:国際航空運送協会(IATA)はトルコを欧州に分類。
出所:IATAの発表を基にジェトロ作成

図3:輸送容量の前年同月比(%)の推移
輸送容量の前年同月比の推移をみると、2025年は世界全体、中東地域ともおおむね増加基調で推移した。中東地域は2025年10月以降に伸びが高まり、2026年2月には13.5%増を記録した。しかし、中東情勢の悪化を受けて事態は一転し、2026年3月には52.4%減と大幅なマイナスに転じ、4月と5月も前年割れが続いた。一方、世界全体は2026年3月に4.7%減となったものの、その後は持ち直し、5月には1.9%増となった。

注:国際航空運送協会(IATA)はトルコを欧州に分類。
出所:IATAの発表を基にジェトロ作成

ドバイの貨物取扱量は減少、イスタンブールに代替輸送の可能性

また、旅客同様に中東の主要な空港で見ると、ドバイ国際空港の2026年第1四半期の貨物取扱量が前年同期比で22.7%減であったのに対し、イスタンブール国際空港は同7.6%増となった(トルコ運輸・インフラ省国家航空管理総局を基にジェトロ算出)。イスタンブール国際空港は中東湾岸の外に位置するため、湾岸地域での情勢悪化の直接的な影響を受けにくかったものと考えられる。また、同空港はターキッシュカーゴが積極的に事業拡大を進めている空港でもある(注5)。湾岸地域の主要なハブ空港が影響を受ける中、ターキッシュカーゴによるネットワーク拡充も相まって、イスタンブール国際空港が貨物の迂回・代替輸送を支える役割を果たした可能性も考えられる。ドバイとイスタンブールの動向の差は、空域制限の影響や航空会社のネットワーク戦略によって貨物流動が変化し得ることを示した。湾岸ハブの機能低下時には、周辺地域のハブ空港が代替的な役割を果たす可能性がある。

日本全体は堅調、中東向けは大幅減

日本への影響を確認するため、国内最大級の国際航空貨物ハブである成田空港の動向を見る。東京税関の貿易概況によると、5月時点で成田空港は日本の航空貨物輸出額の65.8%、同輸入額の71.6%を占めており、日本の航空貨物輸送を支える重要な拠点となっている。

東京税関によると、成田空港における3月の輸出額と輸入額はいずれも過去最大を記録した。また、4月と5月も輸出入ともにその月として過去最大となり、航空貨物需要は全体として堅調に推移している(図4、5参照)。なお、5月の主要輸出品目は半導体など製造機器(シェア6.3%)や科学光学機器(同5.8%)、輸入品目は医薬品(同16.1%)や通信機(同12.7%)が多かった。

成田空港全体の輸出入が好調な中で、中東地域との航空貨物輸送には影響がみられた。成田空港から中東地域向けの輸出額は3月に前月比69.8%減、輸入額も同24.8%減となった。中東地域との貨物輸送は、運航制限や空域閉鎖による物流網の混乱の影響を受けたとみられる。ただ、4月以降は回復もみられている。

図4:成田空港の輸出額の推移(単位:100万円)
成田空港の輸出額の推移をみると、輸出総額は2025年を通じて150万~190万百万円台で推移し、2026年3月に203万6,446百万円と期間中の最高額を記録した。この中で、中東地域向け輸出額は2025年12月に2万4,553百万円でピークとなった。しかし、中東情勢の悪化を受けて2026年3月には5,393百万円まで減少した。その後は5月に1万1,892百万円と持ち直しているものの、2025年後半の水準には回復していない。

出所:東京税関資料(貿易概況)を基にジェトロ作成

図5:成田空港の輸入額の推移(単位:100万円)
成田空港の輸入額の推移をみると、輸入総額は2025年を通じて150万~210万百万円台で推移し、2026年3月には231万4,968百万円と期間中の最高額を記録した。一方、中東からの輸入額は2025年12月の1万8,119百万円をピークに減少し、2026年3月には中東情勢の悪化を受けて1万377百万円まで落ち込んだ。その後は回復に転じ、5月には1万5,004百万円となったが、2025年末の水準には届いていない。

出所:東京税関資料(貿易概況)を基にジェトロ作成

航空ネットワークの回復の行方に注目

2026年2月末以降の中東情勢悪化は、中東地域の航空貨物ネットワークにも大きな影響を及ぼした。湾岸地域の主要ハブ空港で運航制限や空域閉鎖が発生したことで、航空貨物量と輸送容量は大幅に減少し、国際物流網にも混乱が広がった。

一方で、世界全体では航空貨物需要が持ち直しており、5月には前年同月比で増加に転じた。中東地域の航空会社では引き続き需要の減少が続いているものの、航空会社はサプライチェーンや需要動向の変化に対応しながら運航を維持しており、世界の航空貨物市場は底堅さを示している。

また、ドバイ国際空港の貨物取扱量が減少する一方で、イスタンブール国際空港は堅調に推移しており、湾岸地域外に位置するハブ空港が補完的な役割を果たし得る可能性も示された。東京税関の貿易統計を見る限り、日本の航空貨物輸送全体には大きな影響は確認されていないものの、中東向け貨物輸送は大きく変動している。今後も動向を注視する必要がある。

IATAは2026年の世界の航空貨物量が7,170万トン(前年比0.2%増)に達すると見込んでおり、需要そのものは維持されると予測している。一方、中東情勢を巡る不確実性や高止まりする燃料コストは、引き続き航空業界のリスク要因となっている。

今回の中東情勢悪化は、湾岸地域の主要ハブ空港や航空会社が、旅客輸送・貨物輸送の両面で国際航空ネットワークにおいて重要な役割を担っていることをあらためて示した。また、主要ハブ空港で発生した運航制限や空域閉鎖が、人流や物流に影響を及ぼしたことも確認された。今後、中東地域の航空ネットワークがどのように回復していくのか注目される。


注1:
IATAではトルコは欧州に分類されており、特に記載がない場合、本稿における「中東地域」にはトルコは含まれない。 本文に戻る
注2:
2024年9月26日付地域・分析レポートを参照。 本文に戻る
注3:
2026年3月4日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注4:
2026年5月29日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注5:
2025年11月12日付地域・分析レポートを参照。 本文に戻る

中東情勢悪化が国際航空網に与えた影響

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(1)航空旅客輸送

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと)
2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。