激動の中東情勢:中東各国への影響と展望ホルムズ海峡封鎖、部品輸出と原料調達に影響
中東の自動車動向(3)

2026年8月5日

中東情勢悪化に伴うホルムズ海峡の事実上の封鎖により、「中東の自動車動向(2)ホルムズ海峡封鎖、日本の自動車輸出に影響」で述べたとおり、日本や世界各国から中東への完成車の輸出が減少した。自動車部品など関連製品の輸出も減少している。加えて、中東情勢は、日本での自動車生産に必要な石油化学製品やアルミニウムなどの原料輸入にも影響を与えている。物流の混乱のほか、価格が上昇する品目もある。

このような中、ホルムズ海峡の代替ルートや、中東以外からの代替調達の模索も始まっている。日本政府も、原油やナフサなど石油関連製品の供給確保や流通円滑化に向けた支援策を打ち出している。また、政府は国内で、石油化学関連製品などの供給の目詰まりに関する支援を行っている。供給維持に向けた対応は進む一方、価格や物流への影響は続いており、企業には調達先や物流ルートの見直しが求められている。

本稿では、自動車関連製品の輸出動向や、自動車部品の原材料輸入への影響、日本政府の対策について概観する。

ホルムズ海峡封鎖、自動車部品にも影響

乗用車のほかバス・トラックなど完成車の日本からの輸出は、2025年に中東(注)向けが世界向けの13.9%を占めた。一方、「自動車の部分品」のうち中東向けは4.0%にとどまった。また、中東向け輸出額を占める自動車のシェアは52.8%と高いが、自動車部品のシェアは3.2%だった。中東や周辺国では、トルコや北アフリカを除き、日系自動車メーカーの組み立て拠点が少ないことも要因だ。2025年の日本から中東向けの「自動車の部分品」の輸出額は前年比1.7%減の1,471億円だった。なお、タイヤを含むゴム製品の輸出額は5.0%減の857億円で、中東向けシェアは1.8%だった(図1参照)。

図1:日本から中東向けの自動車関連輸出額の推移
1988年から2025年の日本から中東への自動車関連輸出推移を見ると、2021年以降は増加傾向だ。乗用車の輸出台数は過去最多だった。自動車関連輸出額は乗用車やバス・トラックと比較すると金額は小さいが、概ね増加傾向だ。

出所:財務省貿易統計

直近を見ると、ホルムズ海峡の封鎖前の2026年2月の「自動車の部分品」の輸出額は123億円だったが、3月は前年同月比77.7%減の28億円と大きく落ち込んだ。一方、4月には47億円、5月には73億円まで持ち直している。5月は前年同月比38.4%減だったものの、金額(FOB)ベースではコロナ禍の2020年を上回る水準だった。しかし、数量で見ると、3月に前年同月比87.4%減の1,948トンに急減して以降、持ち直しの動きは鈍く、ホルムズ海峡封鎖による物流の遮断に近い状況がうかがえる(図2参照)。

図2:日本から中東向け「自動車の部分品」の輸出額・数量推移(月次)
2016年から2026年5月までの日本から自動車の部分品の輸出額と数量は2025年までは概ね増加傾向だ。2026年3月以降急減した。4月、5月はわずかに回復した。5月の回復幅は数量の方が大きい。

出所:財務省貿易統計

なお、ホルムズ海峡封鎖により、完成車メーカーによる中東向け自動車輸出が困難となることで、日本国内での中東向け車種の生産が減少し、国内の自動車部品産業にも影響を及ぼす可能性がある。また、状況が長期化・深刻化すれば、経済にも悪影響を与え、中東での需要減も懸念される。

さらに、近年は脱炭素化の進展に加え、安価な中国製の電気自動車(EV)の輸出拡大やEVの現地生産の開始を背景に、世界のEV市場が拡大してきた(2026年5月22日付ビジネス短信参照)。また、IEAは5月に発表した報告書において、中東情勢悪化に伴うエネルギー危機が各国の石油輸入依存への懸念を高め、原油価格の上昇でEVの経済的優位性を押し上げると指摘した(2026年5月27日付ビジネス短信参照)。自動車部品を含めた自動車産業では、中期的に電動化による産業構造の変化が進むかどうかが注目されている。

自動車部品の原材料にも影響

世界において、ホルムズ海峡は重要な資源輸入のルートとなっている。同海峡を通航する原油海上貿易量シェアは世界の約38%を占め、石油精製品の海上貿易量のシェアも約19%と高い。また、世界のアルミニウム生産量に占める湾岸協力会議(GCC)諸国のシェアも9%だ。

さらに、日本においては、GCC諸国からの輸入依存度が高い品目も多い。2025年の日本のGCC依存度は、原油が9割以上、プラスチックや樹脂など石油化学製品の原料となる揮発油(ナフサ)が7割以上、メタノールが5割以上、アルミニウム塊が約3割を占める。

これらは自動車部品の材料となるため、直接・間接的に自動車産業に影響を与える。

代替ルートを模索

コロナ禍において、ロックダウンなどにより海上輸送費が高騰した際には、自動車部品メーカーが航空輸送での対応にも迫られたケースもあったという。自動車専用船で運搬する完成車と異なり、自動車部品は航空輸送が可能な場合もある。ただし、航空輸送は緊急時の輸送のほか、付加価値の高い商材や小型部品、少量輸送に限られる。

プラスチックや樹脂のほか、塗料・シンナーなどの原料となるナフサは、国内でも原油から精製される。原油はタンカーで輸送されるが、ホルムズ海峡を通らないUAEのフジャイラ港やサウジアラビアのヤンブー港を経由する代替ルートもある。一方、これらの代替ルートの輸送能力は限定的だ。なお、UAEアブダビ首長国の国営石油会社ADNOCがオマーン経由でナフサを輸出すると発表するなど、輸出国側でも代替ルートを模索する動きがみられる。

しかし、中東諸国における代替ルートには限りがあるため、中東諸国以外からの代替調達も検討されている。

代替調達が進展

中東の先行きが不透明な中、中東諸国以外からの原油の代替調達が進んでいる。内閣府の資料によると、原油は特に米国からの調達を急拡大しており、2026年7月は前年と同規模の調達が可能だという。

詳細は、資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」も参照。

実際に、貿易統計によると、5月の米国からの輸入量は前年同月比24.0%増の58万キロリットルだった(2026年6月26日付ビジネス短信参照)。

なお、米国産原油は成分や品質が異なるため、石油精製設備における影響も懸念される。一方で、中東情勢の先行きは不透明ながら、資源エネルギー庁によると、石油備蓄は7月14日時点で203日分を確保している。

ナフサは米国やアルジェリアなどからの代替調達も進んでいる。貿易統計によると、5月の中東産ナフサ(HS271012181:揮発油のうち石油化学製品の製造に使用するもの)の輸入量は、前年同月比95.3%減と大幅に減少したが、全体では9.1%減の143万キロリットルにとどまった(2026年7月8日ビジネス短信参照)。一方、輸入額(CIF)は前年同月比78.7%増となった。中東産の減少分を代替調達で相当程度補ったものの、輸入額の増加から調達コストが上昇したことがうかがえる。

表:日本のナフサ輸入量の比較(2025年5月、2026年5月) (△はマイナス値) 注:HS271012181:揮発油のうち石油化学製品の製造に使用するもの。

2026年5月
輸入量
(キロリットル)
増減率
米国 499,076 609.6
アルジェリア 266,843 全増
UAE 132,624 △ 71.9
ペルー 99,863 51.6
スペイン 82,758 64.9
インド 72,104 全増
オーストラリア 50,798 全増
ポルトガル 50,043 全増
イタリア 49,311 全増
シンガポール 35,449 全増
オランダ 34,469 全増
タイ 32,398 全増
マレーシア 17,263 240.8
韓国 8,464 △ 94.0
輸入量計 1,431,463 △ 9.1
輸入金額計(億円) 1,774 78.7
2025年5月注:HS271012181:揮発油のうち石油化学製品の製造に使用するもの。
国名 輸入量
(キロリットル)
クウェート 498,585
UAE 472,327
カタール 235,455
韓国 141,308
米国 70,336
ペルー 65,884
スペイン 50,192
バーレーン 36,322
マレーシア 5,065
輸入量計 1,575,474
輸入金額計(億円) 993

注:HS271012181:揮発油のうち石油化学製品の製造に使用するもの。

出所:財務省貿易統計

また、中東以外の主要生産国を見ると、メタノールはトリニダード・トバゴや米国で生産されているほか、アルミニウムはカナダやインド、マレーシアなどでも生産されている。なお、液化天然ガス(LNG)も米国で生産されている。

代替調達でも供給に課題

企業への2026年6月時点のヒアリングによると、代替調達や代替ルートの開拓を進めても、石油関連製品は品目によって不足するとの声や、これまで利用してきた問屋や小売店などでは入手できないケースも散見されるという。なお、日本では地域ごとに石油関連産業や卸売業、販売事業者が分散しているほか、産業構造も異なるため、不足する商品や供給状況にも差がみられる。このように、物流やサプライチェーンの混乱により、生産や価格、流通面での目詰まりなど多くの課題が生じている。

目詰まりに対しては、日本の各省庁が相談窓口を設けるなど、個別支援を含めた対策を進めている。

経済産業省では、供給の偏りの解消や例年並みの調達・供給の確保に努めるとともに、業界団体などを通じて他社との在庫融通を促している。また、こうした協力に賛同した団体・企業一覧外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも公開している。

また、日本政府は、現行の令和8年度通常予算および補正予算(6月3日成立、3兆円規模)を組み合わせて、原油や石油製品の供給確保と流通円滑化、エネルギー価格上昇の抑制、事業者・生活者支援を柱に政策対応を行うと発表している。このほか、各自治体でも支援や情報提供を行っている例がある。

さらに、石油化学や塗料・シンナー、塩化ビニルなどの複数の業界団体・協会も、足元の供給は安定しており、今後も継続的に供給できる見通しであると発信している。

石油化学工業協会は7月17日付の発表で、ポリエチレンやポリプロピレンなどの主要石油化学製品について、一部で製造プラントの定期修理の影響はあるものの、6月も国内市場向けに必要な生産を維持しているとした。また、在庫についても、ポリエチレンやポリプロピレンは6月末時点で国内需要の3カ月前後の水準を維持しており、直ちに供給困難となる状況ではないとしている。

価格上昇への懸念

石油関連製品の供給が維持されても、価格への影響が懸念される。前述のとおり、自動車部品は輸出量が減少する一方で輸出額は増加し、ナフサも輸入量の減少に対して輸入額が上昇した。代替調達や代替ルートの開拓が進んでも、価格が上昇する可能性はある。中東情勢悪化後、原油価格は一時1バレル当たり約120ドルまで上昇したが、6月の米国とイランの覚書合意を受け、6月末時点では1バレル当たり70ドル程度まで落ち着いた。一方、7月に入り再び攻撃の応酬が始まり、原油価格は再び上昇した。

原油価格は、原油から精製されるナフサの価格にも影響を与える。日本のナフサの価格は4月に上昇したが、6月のイランと米国の合意後、価格はやや落ち着きもみせた。しかし、7月に武力衝突が再開しており価格上昇の可能性もある。また、2月以降は各種資源価格や石油関連製品価格が上昇・乱高下しており、売買や流通のタイムラグもあることから、塗料・シンナー、樹脂、ゴム製品やその原料など川中・川下製品の価格動向は不透明だ。

さらに、海外向けの輸送費は航路によって上昇している。日銀が6月24日に発表した企業向けサービス価格指数(速報)によると、5月の外航貨物輸送は前年同月比61.8%増、国際航空貨物輸送は57.7%増だった。

なお、日本政府の激変緩和措置により、3月以降、ガソリン価格は170円程度で安定している(エネルギー庁「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。また、軽油や灯油、重油、航空燃料などの燃料に対しても政府が補助を行っている。

地政学リスクを踏まえた備え

これまで見てきたとおり、代替ルートや代替調達に注目が集まっている。日本企業への取材によると、国内では資源の再利用・回収、省エネ、材料・包装の変更や削減、調達先との契約内容の確認・見直し、価格転嫁なども検討されているという。今回の対応は、中東情勢への一時的な危機対応にとどまらず、調達先や物流ルートの見直しを通じて、サプライチェーン強靭(きょうじん)化を進める契機となっている。

ホルムズ海峡封鎖は、世界の中でも、特に中東に資源を依存するアジアの資源輸入国にとってリスクとなっており、日本企業のアジアにおける生産にも影響を与える可能性がある。

国際的なサプライチェーンの再編を検討する際には、他国の状況の確認も必要になる。調達先や物流ルートの多元化に加え、地政学リスクを踏まえた継続的な情報収集やサプライチェーンの見直しは、事業継続性の確保につながる。エネルギーや経済の安全保障、地政学リスクなどに関する情報収集にはジェトロ情報も活用いただきたい。


注:
財務省貿易統計における中東の定義は、イラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダン、シリア、レバノン、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメン、ヨルダン川西岸・ガザを含む。トルコは含まない。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理(執筆当時)
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所、調査部中東アフリカ課(中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当)を経て、2026年7月からジェトロ北海道で勤務。