激動の中東情勢:中東各国への影響と展望中東の物流ハブ、問われるUAEのレジリエンス
2026年7月21日
2026年2月28日のイスラエル・米国とイランの開戦以降、ペルシャ湾のホルムズ海峡は実質的な封鎖状態に陥った。これにより、中東最大の港湾であるドバイのジュベル・アリ港は外洋航路からの着岸ができなくなり、オペレーションに混乱が生じた。このような環境下で、アラブ首長国連邦(UAE)政府や民間部門は、ホルムズ海峡の外側にあるオマーン湾側の港湾を戦略的代替ルートとして機能させ、陸送や鉄道網を組み合わせて供給網の維持を図っている。本稿では、現在の物流の混乱下における代替港湾の役割や、マルチモーダル輸送の実態について概説する。
東岸の港湾が代替港湾として台頭
2月末に勃発したイスラエル・米国とイランの軍事衝突直後、ドバイのジュベル・アリ港はイランからの攻撃対象となり、飛来物による被害が発生したほか、ペルシャ湾内という地理的制約から、外洋からの大型コンテナ船が直接入港できない状況となった。同港への接岸を希望する貨物船の洋上での滞留時間が長引いたことで、一部の海運会社は対象航路の航路打ち切り(Abandon a Voyage)を決定し、日本発の貨物船が目的地を変更して、スリランカやインドなど他国の港湾での陸揚げを余儀なくされるケースもみられた。
そこで、代替港として機能しているのが、UAE東岸にある港湾だ(図参照)。シャルジャ首長国のコールファッカン港とフジャイラ首長国のフジャイラ港は、ホルムズ海峡の外側であるオマーン湾側に位置している。コールファッカン港はコンテナ対応港で、ジュベル・アリ港向けの消費財や食品などの主要な陸揚げ拠点として機能している。フジャイラ港には内陸からパイプラインが敷設され、石油タンク施設が設置されており、以前から船舶給油・エネルギー拠点として機能してきた。両港湾もイランによる攻撃対象となり、一時的に損害を受けたが、オペレーションそのものに甚大な影響を与えるものではなかった。
注:計画段階・建設中のプロジェクトを含む。点線で示したルートは計画・工事中のもの、 また既存ルートの改修を含む。地図上の都市やルートはおおよその位置を指す。
出所:ジェトロ「中東・北アフリカ地域における物流・インフラプロジェクトの動向」(2026年1月)
行政の特例措置とマルチモーダルの加速化が奏功
しかし、ジュベル・アリ港単体の処理能力に対し、これらの港湾が対応できるキャパシティーは限られている。そのため、混乱が発生した当初はクレーンの数が不足していたことから、クレーン付きの船を招集して積み替えによる荷揚げを行ったほか、医療品や食品などの必需品を優先して荷揚げする対応が取られていた。
また、こうした状況を受け、行政側は弾力的な制度運用を展開した。東岸で陸揚げされた貨物を、消費の中心地であり既存の物流インフラが集積するドバイやアブダビなどの主要都市へ迅速に運ぶため、UAE当局と民間は一体となって対応している。ジュベル・アリ港を運営する港湾運営会社のDPワールドは、2026年2月28日の有事発生直後から、サプライチェーンの機能を維持するための緊急緩和措置を発動した。コールファッカン港などで陸揚げしたコンテナについては、到着港で通関せず、未通関のままジュベル・アリ港までトラックで保税輸送する特例運用を実施している(注1)。この措置は「グリーンコリドー」という名称で、2026年3月上旬に運用が開始された。グループ傘下のDPワールドロジスティクスが、各船会社からの要請に基づき、トラックの配車・運行を一元管理し、東岸港からジュベル・アリ港への移動を24時間体制で提供している。これにより、設備と人員が充実したジュベル・アリ港で通関・検査を一括して処理し、手続きの滞留を最小限に抑えている。また、アブダビのハリーファ港を運営するアブダビ・ポーツ(ADポーツ)も、グリーンコリドーを経由した陸上輸送ルートを活用してオペレーションしている(2026年4月17日付ビジネス短信参照)。しかし、全ての貨物について陸路移動が伴うようになった結果、トラック不足が発生している。
そこで新たな輸送手段として注目を集めるのが、UAEの国営鉄道網「エティハド鉄道(Etihad Rail)」の活用だ。エティハド鉄道は先行して産業用途での運用がされており、硫黄や石油製品といった産業貨物を輸送していた(注2)。しかし、今回の危機を受け、DPワールドはジュベル・アリ・レール・ターミナル(駅)のオペレーションを前倒しで開始した。フジャイラ港などの東岸港から内陸を通り、ジュベル・アリ港の鉄道ターミナルへと直結するルートでコンテナ輸送を実施している。二段積み(ダブルスタック)列車での運行も一部実施されている。ADポーツも同様に、エティハド鉄道を活用した輸送ルートを確立している(2026年4月17日付ビジネス短信参照)。この有事により、UAEにおいて港湾、鉄道、トラックを組み合わせたマルチモーダル輸送が本格的に運用されるようになったと言えよう。
また、DPワールドは、RTA(ドバイ道路交通局)やドバイ警察などと連携し、通常は時間帯制限のある大型トラックのドバイ市内道路の通行制限を一時的に全面撤廃して24時間通行可能とし、港湾からの貨物の搬出入を加速させた。そのほか、ペルシャ湾内に入れない船に対して、ジュベル・アリ港からサウジアラビアのダンマン港など、中東域内のほかの主要ハブ都市へコンテナを直接陸送する代替網も提供している。
UAEの新たな物流網構築は物流ハブとしての試金石
現在も、ホルムズ海峡を巡る混乱は続いており、有事前の完全な正常化は見通せない状況にある。しかし、UAE政府はこれを機に、ホルムズ海峡への依存度を低下させることを見据えた戦略に乗り出した。具体的には、フジャイラ港経由の原油輸出能力を倍増させる第2および第3パイプライン建設の加速に加え、東岸港湾の大規模な拡張、そしてそれらを支えるエティハド鉄道のさらなるネットワーク拡充を目指すとしている。また、DPワールドは2026年中に約30億ドルのキャパシティー拡張投資を計画しており、ジュベル・アリ港自体の高度化だけでなく、サウジアラビアのジッダ港などホルムズ海峡外の自社ネットワークの向上を目指している。ADポーツはフジャイラ港のターミナルを運営しており、一般貨物の取り扱い能力の拡大を目的としたターミナル開発に5億ディルハム(約217億5,000万円、1ディルハム=43.5円)を投資している。2030年までに100万TEU(20フィートコンテナ換算)の取り扱い能力達成を目指している。
UAEは、ジュベル・アリ港やアブダビのハリーファ港が従来持つ貿易ハブとしての優位性を維持し、玄関口を外洋側の東岸へ機能移管することで、完全代替ではなく補完・拡張という戦略を取った。こうした「海・陸・鉄」を活用した新たな物流網の構築は、中東最大の物流ハブとしてのUAEのレジリエンスを巡る試金石となるだろう。
- 注1:
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グリーンコリドーのオペレーションなどによる特例措置について、ドバイ税関の通達第03/2026号で詳細な手続きを規定している。詳しくは、ドバイ税関の公式通達
(292KB)を参照。 - 注2:
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乗客を乗せる商用運行は2026年6月30日より開始(2026年7月9日付ビジネス短信を参照)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか) - 2010年、ジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、ジェトロ埼玉などを経て、2023年9月から現職。





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