激動の中東情勢:中東各国への影響と展望UAE・シャルジャの可能性
日系企業進出事例から見る強みと課題

2026年10月2日

7つの首長国から成るアラブ首長国連邦(UAE)。このうち、国際物流・金融のハブであるドバイと、首都であり豊富な石油資源を有するアブダビが、日本企業の主要な進出先として認識されてきた。一方、UAE北東部に位置し、ドバイに隣接するシャルジャ首長国は、製造業や物流などの拠点として独自の地位を築いている。

本稿では、シャルジャの地理的・物流上の特徴を概観するとともに、実際に現地でビジネスを展開する石川県企業2社へのインタビューを通じ、その実態に迫る。インタビューからは、製造業の集積や比較的低廉な事業コストなどを背景に、シャルジャがドバイやアブダビとは異なる進出先の選択肢となり得る一方、物流環境の変化や行政手続きに課題を抱える実態も見えてきた。以下、強みと課題の両面から、シャルジャの事業環境を考察する。

ペルシャ湾、オマーン湾双方に面する立地

シャルジャ首長国はUAEの北東部に位置する(図参照)。7つの首長国のうち、面積はアブダビ、ドバイに次ぐ第3位で、人口は約181万人、そのうちエミラティ(UAE国籍保有者)は約21万人だ。経済規模でもアブダビ、ドバイに次ぐ規模を有し、2023年時点のGDPは1,452億ディルハム(約5兆9,532億円、1ディルハム=41円)となっている(表参照)。

図:シャルジャの位置
アラブ首長国連邦(UAE)の地図。シャルジャ首長国を強調表示し、ペルシャ湾側のシャルジャ市、オマーン湾側のコール・ファッカン、内陸部のアル・マダンの位置を示している。あわせて、アブダビ、ドバイ、アジュマン、ウンム・アル・カイワイン、ラス・アル・ハイマ、フジャイラなど主要都市・首長国の位置関係を示している

出所:ジェトロ作成

表:UAEのアブダビ、ドバイ、シャルジャ各首長国の比較注1:アブダビ、ドバイは2024年、シャルジャのみ2022年の数値。 注2:アブダビ、ドバイは2024年、シャルジャのみ2023年の数値。
項目 アブダビ首長国 ドバイ首長国 シャルジャ首長国
人口(注1) 413万5,985人(2024年) 424万8,200人(2024年末) 180万8,000人(2022年)
面積 6万7,340平方キロメートル 4,114平方キロメートル 2,590平方キロメートル
名目GDP
(注2)
1兆2,000億ディルハム(2024年) 5,407億ディルハム(2024年) 1,452億ディルハム(2023年)
主要産業 石油、天然ガス、再生可能エネルギー、金融 物流、金融、観光、商業、サービス 卸売・小売、自動車修理、製造業、建設

注1:アブダビ、ドバイは2024年、シャルジャのみ2022年の数値。
注2:アブダビ、ドバイは2024年、シャルジャのみ2023年の数値。

出所:UAE連邦政府および各首長国政府ウェブサイトからジェトロ作成

シャルジャの特徴は、ペルシャ湾、オマーン湾の双方に面するUAEで唯一の首長国であることだ。ドバイ、アブダビといった同国の大消費市場はいずれもペルシャ湾岸に位置するが、同じくペルシャ湾沿いに位置するシャルジャ首長国の最大都市シャルジャは、両都市へのアクセスが良い。シャルジャ中心部とドバイ中心部は30キロほどの距離にあり、高速道路も整備されているため、混雑がなければ約30分でアクセス可能だ。海運の中心はシャルジャ市中心部に近いハリド港だが、オマーン湾側に位置するコールファッカン港は、2026年2月末以降のホルムズ海峡の事実上の封鎖に伴う代替港としても活用されている(2026年7月21日地域・分析レポート参照)。

中東情勢の最新動向については、ビジネス短信特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」も参照されたい。

製造業の集積と投資インセンティブ

シャルジャの主要産業の一つが製造業だ。シャルジャFDI局(Invest in Sharjah)によれば、2025年時点で製造業がGDPの17%を占め、UAE全体の製造業生産の3分の1がシャルジャによるものだという。シャルジャには3つの港湾と1つの国際空港があり、その周囲に6つのフリーゾーンと33の工業地帯、370の工場が立地する。中小企業の数も5万5,000社を超え、その集積はシャルジャにおける製造業の裾野の広がりを反映したものと考えられる。

シャルジャの投資上の利点としては、(1)外国資本100%出資の認可、(2)フリーゾーンにおける優遇措置、(3)工業団地や港湾・空港を活用した物流利便性などが挙げられる。先に述べたようにシャルジャはUAE有数の製造業集積地であり、製造業のサプライチェーンや物流インフラを活用できる点が大きな強みだ。また、シャルジャFDI局は投資家サービスセンター(SAEED)を設立し、企業設立から操業開始までの行政手続きの簡素化を図っている。

日本企業の進出もみられる。東海光学(愛知県岡崎市)は2025年2月、シャルジャ・エアポート・フリーゾーン(SAIF)に新工場を設立し、メガネレンズの生産を開始したと発表した。SAIFには、高い技術や品質、サービスを提供する企業が集積しており、グローバルなビジネスハブとなっているという。

中東情勢悪化でシャルジャのハブ機能に変化

自動車リサイクルおよび中古自動車部品の輸出・販売を手掛ける会宝産業(石川県金沢市)は、2014年にシャルジャに子会社を設立した。同社の中東ビジネスについて、執行役員兼事業部長の鈴木大詩氏と、海外事業部海外事業課の畳谷直規氏に話を聞いた(取材日:2026年9月3日)。

シャルジャには世界最大級の中古自動車部品市場が立地している(2024年2月22日付海外発トレンドレポート参照)。シャルジャの市場は競争が激しく、取り扱われる部品の品質もばらつきがあると同社は見ていた。同社は、品質や状態の良い部品が相応に評価される市場にする必要があると考え、小売りではなく、顧客が価格を付けるオンラインオークション形式での進出を決めた。中東のバイヤーは現品を納得するまで確認したがる傾向が強く、オークション前に実際の部品をシャルジャの拠点で見せている。


廃車の解体の様子(会宝産業提供)

エンジン倉庫(会宝産業提供)

2022年より、海外バイヤー向けに中古自動車部品販売のECサイトを立ち上げた。顧客は欧州、中東、中南米など多岐にわたり、日本産でない部品の注文も増えている。当初、シャルジャについては日本の中古自動車部品を販売するマーケットとしてのみ考えていたが、世界中から部品が集まる同地では、日本では手に入らない部品を調達できることが、進出時には想定していなかったメリットだったという。行政手続きやコストにも強みがあると話す。法人登記はスムーズで、各種ライセンス更新など行政手続きもオンライン化が進んでいる。駐在にかかるコストもドバイに比べて抑えられる上、現地人材についてもドバイより低い賃金水準で問題なく採用でき、定着しているという。

そんな同社にとっても、ホルムズ海峡の実質的な封鎖は想定外だった。物流が滞ったことでシャルジャの中古自動車部品ハブとしてのポジショニングも揺らいでおり、同地の市場で手に入らない部品についての問い合わせが会宝産業のECサイトに流入している。現地の業者の中には、コールファッカン港からジュベル・アリ港まで陸送して通関し、シャルジャに再度運んでビジネスを続けている企業もあるというが、会宝産業はシャルジャ向けの出荷を停止している。日本からUAEへの輸送コストの高騰が利益を圧迫するためだ。今後のシャルジャ拠点の活用については、現地で調達した部品を第三国向けに輸出するビジネスに可能性があると話した。

市場とハブ機能は魅力、行政手続きには課題も

同じく石川県金沢市に本社を置く菓子メーカーのぶどうの森は、2025年8月にシャルジャへの工場設立を発表した。UAEでの事業展開について、代表取締役会長の本昌康氏と、マーケティング本部担当主任の近岡真弓氏に話を聞いた(取材日:2026年9月3日)。

同社の中東ビジネスのきっかけは2024年にドバイで開かれた食品見本市「Gulfood」への参加だった。現地で信頼が置けるビジネスパートナーが見つかり、米国での展開を考えていたビジネスモデルをUAEで展開することにしたという。現地パートナーによれば市場として有望なのはドバイで、本氏自身も世界有数の旅客乗降数を誇るドバイ国際空港を利用する旅行者市場に魅力を感じたが、投資・操業コストの安さと、パートナー自身に居住経験があったことが決め手となり、シャルジャへの工場建設を決めた。ペルシャ湾側、オマーン湾側の双方の港が使えることもメリットで、インフラも整っていると感じた。生産設備は日本から持ち込んだが、不調時にスペア部品をシャルジャで容易に調達できたことで、製造業のハブとしての機能を実感したという。

設立時の手続きはスムーズだったが、工場操業の許認可取得については何度も当局とのやりとりが発生した。日本であれば1週間で完了するような手続きに1カ月を要したこともあったという。また、フリーゾーン、自治体、税関など複数の省庁・機関にまたがる手続きについて、必要書類や進捗状況、標準処理時間が分かる仕組みがあると、企業側の時間管理がしやすくなると話す。同社はフリーゾーン内に立地しているが、メインランドで販売する際の通関や商品登録手続きが不明瞭で、時間がかかる場合があることも課題だという。

当初はドバイに集まる観光客向けに、ピスタチオやラクダの絵柄など現地のテイストを取り入れた商品の展開を検討していたが、2026年2月以降の観光客の減少もあり、日本らしい商品の方が商機があると考えるようになった。現在は金箔(きんぱく)加工を施したチョコレート製品の展開を目指している。同社によれば、食用金箔の市場としてはインドと日本が大きく、日本産の金箔は品質面で評価されているという。その日本の中でも金沢は金箔製品の産地として名高く、「KANAZAWA」という名前が世界で金箔の別名として浸透するよう普及を目指している。実際に、現地のレセプションで金箔チョコレートをエミラティに紹介したところ、大変好評だったと同社は語った。今後は現地ネットワークを持つ商社などとの連携も視野に入れつつ、営業に力を入れたいと話した。

UAEでの展開予定商品(ぶどうの森提供)

シャルジャは、ペルシャ湾とオマーン湾の双方にアクセスできる地理的優位性や、製造業の集積、比較的低廉な事業コストなどを背景に、UAEにおいて独自の役割を果たしている。一方で、今回のインタビューでは、中東情勢の変化による物流環境への影響や、許認可・通関手続きにおける課題も指摘された。進出先としての評価は業種や事業モデルによって異なるものの、ドバイやアブダビだけでは見えにくい選択肢として、シャルジャを検討する意義はあるといえるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチ・マネージャー
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)、ジェトロ・カイロ事務所を経て、2026年7月から現職。中東・アフリカ地域の調査・情報発信を担当。

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