激動の中東情勢:中東各国への影響と展望中国が首位、日本は過去最多輸出
中東の自動車動向(1)

2026年7月30日

2025年の日本から中東への自動車輸出は過去最高となった。中東は経済成長と人口増加が見込まれ、日本企業の輸出先として有望だ。一方、2026年2月末以降、イスラエルと米国によるイランへの攻撃を皮切りに中東情勢は急速に悪化した。これにより、貿易や物流にも影響が及んでおり、先行きは不透明だ。特にホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となり、ペルシャ湾岸諸国への自動車の輸出が減少している。

本稿では、2025年の世界から中東向けの自動車輸出の概況を概観する。また、「中東の自動車動向(2)ホルムズ海峡封鎖、日本の自動車輸出に影響」では、ホルムズ海峡封鎖による日本からの輸出減少について解説する。

なお、中東情勢の最新動向は、特集「イスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢関連情報」を参照されたい。

拡大が続く中東の自動車市場

世界から中東向けの自動車輸出は、2020年のコロナ禍で減少したものの、それ以降は増加傾向にある。Global Trade Atlas(GTA)によると、中東向け輸出額は2016年の368億ドルから増加し、2023年には前年から大幅増の約791億ドルとなった(図1参照)。なお、アラブ首長国連邦(UAE)が255億ドルで約3分の1を占め、最多だった。一方、2024年と2025年の同国のデータは未公表であり、地域全体の輸入額を比較できない状況だ(7月15日時点)。

図1:中東の自動車輸入額推移
2016年から2023年の中東の自動車の輸出額推移を見ると上昇傾向だ。輸出額を見ると、2016年には368億ドルだったところ、2023年には791億ドルとなった。

出所:Global Trade Atlas

中東・北アフリカ(MENA)地域の人口は2025年時点で約5億8,000万人であり、EUの人口を上回り、ASEANの人口に迫る規模だ。産油国では富裕層も多く、高級車の販売も伸びている。自動車販売の成長の背景には、地域の人口増加もある。中東・北アフリカの人口増加率は世界でもトップクラスで、若い世代も多く、今後も人口増加が見込まれる。中東情勢が沈静化すれば、大きな成長市場といえる。

UAE・サウジアラビア・トルコが輸入額上位

中東において、国別の自動車輸入額を見ると、前述のとおり2023年時点ではUAEが首位だった(表1参照)。UAEの人口は約1,100万人と比較的少ないが、国内販売に加え、地域の貿易ハブとして第三国向けの再輸出の拠点にもなっている。中古自動車ビジネスも盛んで、ドバイには中古車の輸入・再輸出に特化したフリーゾーン「Dubai Auto Zone(DAZ)」が設置されている。

2025年の輸入額は、UAEなど未公表の国もあるものの、人口約8,700万人のトルコが223億ドルで最も多かった。2023年と2024年はサウジアラビアがトルコを僅差で上回っていたが、2025年はトルコが前年比26.0%増と高い伸びを示し、首位となった。サウジアラビアも19.9%増の211億ドルで続いた。

表1:中東各国の自動車輸入額(億ドル)(△はマイナス値)
順位 国・地域 2023年 2024年 2025年 前年比増減率
1位 アラブ首長国連邦 255 未公表 未公表 n.a.
2位 サウジアラビア 182 177 211 19.0
3位 トルコ 182 177 223 26.0
4位 イスラエル 66 67 55 △ 18.0
5位 クウェート 47 44 51 16.1
6位 オマーン 22 25 未公表 n.a.
7位 ヨルダン 16 19 未公表 n.a.
8位 バーレーン 9 10 11 7.7
9位 レバノン 8 5 未公表 n.a.
10位 パレスチナ 2 未公表 未公表 n.a.

出所:Global Trade Atlas(7月15日時点閲覧)

自動車輸入額上位国は増加傾向

中東の自動車輸入額上位5カ国の過去10年間の推移を見ると、2020年以降はおおむね増加傾向にある(図2参照)。UAEではコロナ禍などの影響で減少したものの、2022年と2023年は急増した。

また、人口約3,400万人を有するサウジアラビアは、2015年時点では中東首位だったものの、2016年から2018年にかけては原油価格の低迷などを受けて経済が減速し、自動車輸入が減少していた。他方、油価の上昇や女性の運転解禁を背景に、2018年の輸入額は89億ドルだったところ、2025年までに倍以上に増加した。なお、サウジアラビアにはイスラム教の聖地メッカがあり、保守的な社会として知られてきたが、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する改革により、経済の多角化や各種規制の緩和が進められている。女性の運転は2018年6月に解禁された。

トルコにおいては、通貨安や物価の高騰を背景に、現物資産である自動車や不動産への需要が高まり、2022年以降は自動車輸入が急増している。クウェートも2021年以降、増加傾向にある。一方、イスラエルは武力衝突が経済や貿易にも影響したことなどから、2025年は減少に転じた。

図2:中東の自動車輸入額上位5カ国推移
2015年から2025年の中東の自動車輸入額の上位5カ国の輸入額推移を見ると、2020年以降はおおむね増加傾向だ。UAEでは2022年と2023年は急増していた。サウジアラビアでは2015年時点で中東首位だった。トルコは2022年以降に輸入が急増している。クウェートも増加傾向だった。一方、イスラエルは2025年は減少に転じた。

出所:Global Trade Atlas

中国が中東向け自動車輸出で首位に

次に、どの国から中東向けの自動車輸出が多いかを見ていく。2025年の世界各国から中東向けの自動車輸出額を見ると、これまで首位を維持してきた日本は2位となり、中国が首位に浮上した(表2参照)。中東では、砂漠地帯でも高い耐久性を発揮する日系自動車メーカーのスポーツ用多目的車(SUV)などが人気を集め、日本は輸出首位を維持してきた。一方で、近年は中国メーカーの存在感も高まっている。

2025年の中国から中東向けの輸出額は前年比51.1%増の176億ドルと大幅増となった。これはEUから中東向け輸出額(91億ドル)のおよそ2倍だ。また、中国からの輸出は10年前の2016年と比べて約11倍と増加している。

他方、日本も2025年は中東向けに過去最多輸出額を記録しており、前年比13.0%増の132億ドルだった。米国は前年比減となったものの、80億ドルで続いた。中国、日本、米国、EUで中東の自動車輸入額の約半数を占めた。その他、インドは2016年と比べると3.7倍に増加している。なお、日系自動車メーカーの車は、アジアなどの第三国で生産され、中東向けに輸出されているケースもある。

表2:中東向け自動車(HS8703)の輸出額の国別順位(億ドル、%)(△はマイナス値、ーは値なし)注:世界各国からUAE向けのデータは公表されているが、UAEから中東諸国含む各国向け輸出やUAEから各国の輸入のデータは2024年、2025年は未公表の部分もあり、Global Trade Atlasでは反映されていない。
金額順位 国・地域名 2024年
輸出額
2025年
輸出額
前年比
増加率(%)
2016年比
増加率(%)
1位 中国 116.5 176.1 51.1 989.3
2位 日本 117.2 132.5 13.0 23.5
3位 米国 85.7 79.6 △ 7.1 13.5
4位 ドイツ 39.0 39.7 1.7 39.5
5位 韓国 39.5 38.0 △ 3.7 △ 18.9
6位 タイ 27.9 21.7 △ 22.2 14.3
7位 インド 20.0 20.9 4.6 274.6
8位 英国 25.0 18.5 △ 26.0 2.9
9位 スロバキア 15.0 14.1 △ 6.1 110.0
10位 サウジアラビア 6.8 13.9 106.1 n.a.
11位 クウェート 9.7 12.6 29.4 417.3
12位 インドネシア 15.0 12.0 △ 19.5 84.8
13位 チェコ 12.3 9.2 △ 25.3 17.8
14位 カナダ 4.9 6.7 37.8 59.9
15位 ベルギー 7.4 6.3 △ 15.5 285.8
(参考) EU 97.9 91.0 △ 7.1 52.2
(参考) アラブ首長国連邦 2023年参考
:39.1
84.7

注:世界各国からUAE向けのデータは公表されているが、UAEから中東諸国含む各国向け輸出やUAEから各国の輸入のデータは2024年、2025年は未公表の部分もあり、Global Trade Atlasでは反映されていない。

出所:Global Trade Atlas

中東でEV市場が徐々に拡大

産油国が多い中東においても脱化石燃料の動きがあり、電気自動車(EV)の普及が徐々に進んでいる。国際エネルギー機関(IEA)が5月に公表した「世界EV見通し」によると、中東(トルコ、イスラエルを除く)における2025年のEV販売台数は約7万5,000台に達し、前年比で40%以上増加した(2026年5月27日付ビジネス短信参照)。国別ではUAEが引き続き最大で、中東全体の約50%を占めている。

トルコでは、2025年にEVが24万台販売され、世界6位(シェア1.1%)となった。脱炭素や電動化を進める欧州との貿易が多く、欧州の温室効果ガス排出関連規制が同国にも影響を与えている。トルコでは国産EVブランド「TOGG」の現地生産を開始されており、国策としても推進されている。また、サウジアラビア政府はクリーンモビリティーを推進し、EVの生産・販売・輸出に向けて積極的に企業誘致・投資を展開している。サウジアラビア初のEVブランド「Ceer」も設立され、今後販売が開始される予定だ。

イスラエルでは市営バスの電動化も進められており、2025年の新車登録台数約29万台のうち、ハイブリッド車(HEV)を含むEVが6割近くを占めたという。ヨルダンでも、EVの輸入関税が内燃機関車に比べて大幅に低いことなどから、EVの販売比率が高い。

IEAによると、中東・カスピ海地域におけるEV販売は、自動車販売全体に占める割合が2023年の約1%から、2025年には4%に上昇した。今後は、中国メーカーなどの台頭により、EV販売がさらに伸びる可能性がある。なお、EV用充電ステーションの整備も徐々に拡大しているという。

中長期では市場拡大の可能性

中東地域では、米国やイスラエルとイランの軍事衝突による治安上のリスクがある。ペルシャ湾のチョークポイントであるホルムズ海峡に加え、紅海では欧州とアジアを結ぶ海上交通の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡周辺で、2023年以降、イエメンのフーシ派による商船への攻撃が続いており、注視が必要だ。イエメンのほか、シリアやイラクなど、政治情勢が不安定な国もある。

地政学的リスクは、物流に加え、自動車の販売・生産や地域経済に影響を及ぼす可能性があり、考慮する必要がある。また、サウジアラビアでは新たに地域本社制度を開始し、UAEでは法人税が導入されるなど、制度や法令の変更に伴うビジネス環境への対応が求められる場合もある。

一方で、中東・北アフリカ地域では人口増加が見込まれており、2027年に約6億人、2041年に約7億人に達するという。トルコは人口が多いほか、製造業や農業も盛んで経済規模が大きい。また、世界有数の産油国であるサウジアラビアも大きな経済規模を有する(表3参照)。さらに、先端分野に強みを持つイスラエルや、地域の貿易拠点で産油国でもあるUAEなども、今後の経済成長が期待される。

中東・北アフリカの国別の人口規模では、エジプト、イラン、トルコ、アルジェリア、イラクの順に大きい。また、1人当たりGDPを見ると、カタール、イスラエル、UAEは世界でも上位に位置し、サウジアラビアやクウェートは日本と同水準だ。GCC諸国では自動車生産が本格化していないため、日本からの輸出機会がある。さらに、トルコでは日本企業も現地生産を行っており、製造関連のビジネス機会もうかがえる。中東市場は国ごとに人口規模や所得水準、制度、物流環境が大きく異なる。日本企業にとっては、各国市場の特性や物流リスクを踏まえ、市場ごとに販売・生産・物流戦略を組み合わせていくことが重要となる。

表3:中東・北アフリカ主要国の経済規模・人口など
国名 名目GDP
(億ドル)
2025年
1人当たり
GDP(ドル)
2025年
人口
(万人)
2024年
人口増加率
(%)
2024-2054年
備考(面する海など)
トルコ 15,973 18,611 8,747 3.6 地中海
サウジアラビア 12,769 35,464 3,396 46.3 ペルシャ湾に主要港、代替ルートも
イスラエル 6,108 60,335 939 46 地中海
UAE 5,716 50,232 1,103 45.8 ペルシャ湾に主要港、代替ルートも
イラン 3,712 4,264 9,157 11.4 ペルシャ湾に主要港、代替ルートも
エジプト 3,646 3,379 11,654 43.5 地中海、紅海
アルジェリア 2,857 6047 4,681 30.4 地中海
イラク 2,642 5,803 4,604 64.0 主にホルムズ海峡経由
カタール 2,212 69,680 305 43.1 主にホルムズ海峡経由
モロッコ 1,826 4,842 3,808 14.7 地中海
クウェート 1,578 30,877 494 33.4 主にホルムズ海峡経由
オマーン 1,061 19,996 528 55.3 オマーン湾、アラビア海に主要港
ヨルダン 617 5,355 1,155 46.8 紅海
チュニジア 576 4664 1,228 7.0 地中海
バーレーン 475 29,344 161 37.7 主にホルムズ海峡経由

出所:IMF 2026年4月データ、国連の2024年公表統計を基にジェトロ作成

本稿では、中東地域を俯瞰(ふかん)して解説した。中東主要国の自動車販売・生産動向や、日本や中国を含む自動車関連企業の動きについては、次の地域・分析レポートを参照いただきたい。

中東への自動車輸出増にあたっては、代替ルートにも注目が集まる。昨今の中東情勢や代替ルートを含む物流状況については、「激動の中東情勢:中東各国への影響と展望」特集を参照された。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。