激動の中東情勢:中東各国への影響と展望中東危機が変える地中海港湾勢力図
MENA主要港湾動向(2)

2026年9月1日

重層化する紅海危機、ホルムズ海峡危機が中東・北アフリカ(MENA)地域の物流ネットワークに与える影響について、各国の主要港湾とその勢力図変化に焦点を当てながら論じる連載(図1参照)。第1回では、ホルムズ海峡情勢の影響が大きいペルシャ湾沿岸諸国について論じた。続編となる本稿では、紅海情勢の影響をより強く受ける地中海沿岸諸国について考察する。紅海危機やホルムズ海峡情勢の不安定化は地中海港湾に一様な影響を与えておらず、モロッコやトルコの主要港湾が存在感を高める一方、エジプトやイスラエルの地中海側港湾も堅調なコンテナ取扱量を維持している。

本稿は2026年7月末時点までの情報に基づいている。その後の運航状況や港湾、船社の対応については、各港湾および船社の最新情報を確認されたい。また、中東情勢の最新動向については、ビジネス短信特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」も参照されたい。

図1:本稿で触れる港湾および中東主要港湾の位置関係
本稿で触れる港湾の位置関係を図示。ジブラルタル海峡に面するタンジェMED港や、東地中海のアンバーリ港、イズミット港は喜望峰経由の船舶の積替港として需要を伸ばす。スエズ運河を抱えるエジプトや、紛争当事国イスラエルも、地中海側の港湾の需要は堅調だ。

注:地図上の港湾はおおよその位置を示す。
出所:GlobalDataを基にジェトロ作成

紅海情勢の影響受けるも、引き続き重要な地中海港湾

紅海では、イエメンのフーシ派による船舶攻撃が2023年11月以降続き、世界の海運に影響を及ぼしている(2026年5月13日付地域・分析レポート参照)。2026年7月には、サウジアラビアとフーシ派の攻撃の応酬が再燃したことを背景に、フーシ派がイスラエル関連船舶への攻撃やサウジアラビア向け海上輸送の禁止を表明した。これに対し、湾岸協力会議(GCC)は非難声明を発表し、米国のトランプ大統領も軍事的対応の可能性に言及した。英国海事機関(UKMTO)の公表資料を基にジェトロが集計したところ、同月だけでも紅海およびアデン湾で発生した船舶に対する攻撃と分類された事案が2件となる。

地中海の港湾は紅海情勢の影響を受けつつも、ジブラルタル海峡に面するモロッコのタンジェMED港や、東地中海に位置するトルコのアンバルリ港、コジャエリ(イズミット)港では、南アフリカ共和国の喜望峰経由の船舶による積み替え需要が増加している。スエズ運河を擁するエジプトや、紛争当事国であるイスラエルでも、地中海側港湾のコンテナ取扱量は堅調だ(表1参照)。

表1:地中海沿岸諸国主要港湾と紅海情勢、ホルムズ海峡情勢の影響注:評価は、危機前後の貨物取扱動向、代替港としての利用状況、混雑、航行・制裁リスクを総合して筆者が判定した。取扱量の変化には設備増強や船社のネットワーク再編など、情勢以外の要因も含まれる。
所在国 2024年世界順位 2024年取扱量
(TEU、20フィートコンテナ換算)
紅海情勢の影響評価(注) ホルムズ海峡情勢の影響評価
(注)
理由(注)
タンジェMED モロッコ 17位 10,241,392 ◎大きな追い風 ○追い風 喜望峰経由船の中継・積み替え需要増。ホルムズ海峡情勢を受けた中東航路見直しに伴い寄港増加を見込む。
ポートサイード エジプト 53位 3,905,266 ▲マイナス ○中立~やや追い風 スエズ運河通航減少は逆風。中東情勢悪化による航路再編の影響を受けるが、東西航路の基幹ハブとして積み替え需要維持が期待される。
アンバルリ トルコ 72位 3,009,700 ○追い風 △限定的 積み替え需要増加の恩恵。ホルムズ海峡情勢は寄港数への直接影響は限定的。
コジャエリ(イズミット) トルコ 86位 2,322,100 ◎大きな追い風 ▲間接的にマイナス 喜望峰迂回とEU ETS導入により積み替え需要増。石油化学産業が原油高・原料高の影響を受ける可能性。
アレクサンドリア エジプト 90位 2,211,851 △限定的 △限定的 内需型港湾のためコンテナ取扱量への影響 は比較的小さい。
アリアガ トルコ 91位 2,119,200 ◎大きな追い風 ▲マイナス 喜望峰迂回とEU ETS導入により積み替え需要増。石油、LNG取扱比率が高いためホルムズ海峡危機で貨物量・寄港数が減少。
テキルダー(アスィヤポート) トルコ 94位 2,032,700 ◎大きな追い風 △限定的 喜望峰迂回とEU ETS導入により積み替え需要増。ホルムズ海峡情勢は寄港数への直接影響は限定的。
メルスィン トルコ 98位 1,889,900 ▲マイナス ○中立~やや追い風 スエズ運河通航減少は逆風。ホルムズ海峡情勢でイラク向け貨物の代替港  として機能。
アシュドッド イスラエル 99位 1,848,000 △限定的 ▲ややマイナス 地中海側港湾として稼働継続。地政学リスク上昇、保険料上昇などは負担。ただし港湾機能は維持。

注:評価は、危機前後の貨物取扱動向、代替港としての利用状況、混雑、航行・制裁リスクを総合して筆者が判定した。取扱量の変化には設備増強や船社のネットワーク再編など、情勢以外の要因も含まれる。

出所:ロイズ・リスト「One Hundred Ports」(2025年8月19日公表)を基にジェトロ作成

戦略的重要性が高まるモロッコ

紅海およびホルムズ海峡の情勢悪化により、モロッコの戦略的重要性が高まっている。ジブラルタル海峡に位置するタンジェMED港は、2024年時点で世界17位のコンテナ取扱量を誇る、地中海沿岸およびアフリカ大陸最大の港だ(2024年10月15日付地域・分析レポート参照)。紅海におけるフーシ派の船舶攻撃の影響で、アジアと欧州間を航行する多くの船舶がスエズ運河経由から喜望峰経由へと航路を変更した(図2参照)。タンジェMED港は大西洋と地中海の結節点に位置し、迂回航路上の重要ハブとなった。複数の超大型船を同時に受け入れ可能なターミナル容量に加え、周辺に広がる大規模な物流拠点や工業団地、マルチモーダル輸送(注1)ネットワーク、倉庫インフラ、運営・ガバナンス体制も評価されている。世界コンテナ港効率評価2024(CPPI2024、世界銀行)では、世界第5位にランク付けされた。2025年のタンジェMED港のコンテナ取扱量は1,110万TEUで、前年比8.4%増加したと報じられている。

図2:バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河および喜望峰の通過隻数1日当たりの推移(2023年1月1日~2026年7月26日)
バブ・エル・マンデブ海峡およびスエズ運河の1日あたり通貨隻数は、2023年11月までは60~80隻程度だったが、2023年末に急減し、その後2026年7月に至るまで20~40隻程度で推移している・喜望峰は2023年末までは50隻程度で推移していたが、2023年末以降増加、100隻近い数値になっている。

注:本統計はAIS(船舶自動識別装置)に基づいており、AISを停止して航行している船舶は含まれない。
出所:IMF「ポートウォッチ」を基にジェトロ作成 

2026年には、米国・イスラエルとイランの軍事衝突に伴うホルムズ海峡の通航制限や、紅海やバブ・エル・マンデブ海峡の安全上の懸念を背景に、中東航路の見直しが進んだ。タンジェMED港の港湾当局は、これを受けて同港への寄港船舶数の増加を見込み、混雑を回避するための運営管理を実施しているという。同港はジブラルタル海峡という立地を生かし、積み替えや燃料補給といった寄港需要を取り込むことで、地中海およびアフリカを代表する物流ハブとしての地位を一段と強化しているといえる。

喜望峰迂回および欧州規制がトルコ港湾の追い風に

東地中海に位置するトルコの港湾も、重要性を増している。ロイズ・リストの分析によれば、同国2位の規模を持つコジャエリ港の2024年1~9月の積み替え貨物量は前年同期比4倍の15万6,000TEU、同3位のイズミル近郊のアリアガ港では同8倍の37万TEUに上った。同4位で、トルコ最大の積み替え港とされるテキルダー・アスィヤポートでも、2024年2月に20万6,000TEUを取り扱い、トルコの港湾における月間取り扱い記録を更新したと報じられている。こうした動きの背景には、紅海におけるフーシ派の船舶攻撃を受けた喜望峰迂回ルートへの航路変更に加え、EUの排出量取引制度(EU ETS)(注2)導入に伴う船社の積み替え戦略の見直しがある。2024年1月にEU ETSが国際海運に適用されると、船社がEU域内の港への寄港を減らし、域外港で積み替えを行うことでEU ETSのコストの回避を図る動きが懸念された。これに対しEUは近隣積み替え港制度を導入し、指定された港湾への寄港は中継ではなく規制回避目的とみなされ、EU ETSの対象から逃れられないとした。近隣積み替え港には、前述のタンジェMED港とエジプトの東ポートサイード港が指定されたが、トルコの港湾は指定されなかった。結果的に、EU ETSコストを回避する積み替え需要がコジャエリ港をはじめとするトルコ港湾に流入したと、ロイズ・リストは分析している。トルコ港湾の事例は、船社の寄港地選択が安全保障上のリスクだけでなく、EU ETSなどの規制コストにも左右されることを示している。今後の地中海港湾間の競争では、立地や処理能力に加え、各港を取り巻く規制環境も重要な競争条件になると考えられる。

トルコ最大の港湾であるアンバルリ港も同様に、積み替え需要増の恩恵を受けるという。一方、同港のコンテナ取扱量は2024年に約300万TEUで、前年の約317万TEUから微減している。これは、同港がイスタンブール都市圏を背後に持ち、国内向け貨物の取扱比率が高いことが影響していると考えられる。2024年のトルコの貿易について見ると、輸入は前年比4.1%減、輸出も0.9%増にとどまり、大きな増加はみられなかった(トルコの貿易投資年報参照)。トルコ経済の鈍化が、アンバルリ港のコンテナ取扱量にも影響したといえる。また、同港は黒海と地中海の結節点に位置しており、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うボスポラス海峡周辺の物流混乱の余波も受けている。さらに、前述のコジャエリ港をはじめとする近隣港への貨物の分散も影響していると考えられる。

東地中海に位置するトルコの港湾はホルムズ海峡に直接依存しておらず、同海峡の混乱が直接波及する可能性は限定的と考えられる。ただし、コジャエリ港はトルコの主要な石油化学クラスターに位置しており、後背地には同国最大級のエネルギー施設であるテュプラシュ・イズミット製油所が立地する。ホルムズ海峡情勢の悪化は、コジャエリ港については港湾荷動きへの影響よりも、原油価格や化学原料コストの上昇を通じて、後背地の石油化学産業への影響が大きいと考えられる。実際に、原油や石油製品、LNGなどを多く取り扱うアリアガ港では、2026年第1四半期に貨物取扱量と船舶寄港数の減少が報じられている。一方、シリア国境近くに位置するメルスィン港では、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、一部の船社がイラク向け貨物を同港経由で陸路輸送するルートを利用しており、ウンム・カスル港をはじめとするペルシャ湾内のイラク港湾の代替港として機能していると報じられている。

スエズ運河通航量減少も、エジプト港湾の需要は堅調

スエズ運河を擁するエジプトは、フーシ派の活動による航路変更の影響を大きく受けた。2023年末以降、スエズ運河の通航船舶数は急減し、エジプト政府の主要外貨収入源の1つである運河の通航料収入も大きく減少した。現地報道では、同国のアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領が2024年9月、過去7~8カ月間でスエズ運河の収入が50~60%、金額にして60億ドル以上減少したと発言したと報じられた。

エジプトの主な港湾は、スエズ運河の地中海側出入り口に位置するポートサイード港と、同じく地中海沿岸に位置するアレクサンドリア港だ。2024年のコンテナ取扱量は、ポートサイード港が約391万TEU、アレクサンドリア港が約221万TEUで、いずれも地中海地域有数の規模を誇る。

ポートサイード港は、スエズ運河を通過する船舶向けのトランジット貨物を取り扱う積み替え港として整備されてきた。世界銀行のCPPI2024では、世界第3位のコンテナ港効率と評価されている。コンテナ取扱量の推移を見ると、同港の主要コンテナターミナルであるスエズ運河コンテナターミナル(SCCT)の取扱量は2023年から2024年にかけて約2.5%減少したが、2025年には約41%の大幅増に転じた(表2参照)。増加の要因としては、5億ドルを投じたターミナル拡張工事による220万TEUの処理能力増強(総容量は約700万TEU)に加え、海運大手のA.P.モラー・マースク(A.P. Moller - Maersk)とハパック・ロイド(Hapag-Lloyd)が展開する東西基幹航路の運航協力「ジェミニ」のネットワークにおいて、オマーンのサラーラ港などと並ぶ地中海有数の積み替え拠点として主要ハブに位置付けられたことが挙げられる。バブ・エル・マンデブ海峡やスエズ運河の通航量が低調な中でもコンテナ取扱量が増加したことを踏まえると、2026年以降も、中東情勢の不安定化に伴う喜望峰ルートの継続や船社によるさらなる航路見直しの影響を受けながらも、SCCTの拡張投資を追い風に、港湾単体としては一定のコンテナ取扱量を維持すると見ることができるだろう。

表2:ポートサイード港(SCCT)のコンテナ取扱量推移
コンテナ取扱量(TEU)
2021 約364万
2022 約378万
2023 約404万
2024 約394万
2025 約557万

出所:Ports Europe報道(COSCO Shipping Ports公表値を引用)を基にジェトロ作成

アレクサンドリア港は、エジプトの輸出入の約60%を担っており、1億人超の人口を抱える同国の国内経済を支える港としての側面が大きい。世界7位の都市人口を誇る同国最大消費地である首都カイロ(人口2,557万人)までの陸路が整備され、ナイルデルタの工業地帯や農業地帯に近いことから、国内向けの輸出入貨物が集中している。2024/25年度(注3)のコンテナ取扱量は230万TEUで、前年度比15%増加した。エジプトの主な貿易相手国は、2024年時点で中国、米国のほか、サウジアラビア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の中東湾岸諸国、ロシア、ドイツ、イタリアなど欧州各国である(エジプトの貿易投資年報参照)。このうち、フーシ派の活動の影響を相対的に受けにくいとされてきた中国、ロシアを除くと、アレクサンドリア港で取り扱われる貨物の多くは、紅海やホルムズ海峡情勢の影響が少ない航路に関連していると考えられる。そのため、紅海やバブ・エル・マンデブ海峡の通航量が減少する中でも、同港のコンテナ取扱量は内需に支えられ、底堅く推移しているとみられる。

イスラエルも地中海側港湾は稼働を維持

紛争当事国であるイスラエルの港湾庁は、同国の2025年の港湾コンテナ取扱量が前年比約12.6%増の344万5,000TEUとなり、過去最高を記録したと発表した(表3参照)。同国最大のアシュドッド港は、ガザ地区における軍事行動が始まった2023年に取扱量が減少したが、翌2024年は微増し、2025年には124万8,000TEUまで回復している。同じアシュドッド地区にある新港HCTも、過去5年間にわたり順調に取扱量を伸ばしている。2025年5月にフーシ派の攻撃対象とされたハイファ港は、2023年、2024年と取扱量の減少が続いたものの、2025年には67万6,000TEUで微増に転じた。ハイファ地区の新港SIPGも、2024年に取扱量が減少したが、2025年にはハイファ港に迫る63万6,000TEUまで回復している。一方、紅海側のエイラット港のコンテナ取扱量は、2024年以降、年間を通じてほとんどなかった。

表3:イスラエル主要港のコンテナ取扱量推移
コンテナ取扱量(TEU)
アシュドッド地区 ハイファ地区 エイラット港
アシュドッド港 アシュドッド
南港(HCT)
ハイファ港 ハイファ湾
新港(SIPG)
2021 1,612,000 24,000 1,636,000 1,463,000 33,000 1,496,000 400
2022 1,431,000 166,000 1,597,000 1,071,000 450,000 1,521,000 300
2023 1,122,000 475,000 1,597,000 732,000 813,000 1,545,000 200
2024 1,155,000 693,000 1,848,000 648,000 563,000 1,211,000 0
2025 1,248,000 885,000 2,133,000 676,000 636,000 1,312,000 0

出所:イスラエル中央統計局(CBS)を基にジェトロ作成


注1:
トラック・鉄道・船・航空など複数の輸送手段を組み合わせて、荷物を目的地まで運ぶ輸送方法 本文に戻る
注2:
EU ETSの国際海運への適用により、海運会社は欧州経済領域(EEA)の港に寄港または同港から出港する総トン数5,000トン以上の船舶から排出されるCO2について、排出量1トンごとに対応するETS排出枠を購入することが義務付けられた。EU ETSの詳細は、調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第2回)政策パッケージ「Fit for 55」におけるカーボン・プライシングと再生可能エネルギー関連政策」(2022年2月)」および「EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書(2024年5月)」を参照。 本文に戻る
注3:
エジプトの会計年度は7月始まり。2024/25年度は2024年7月~2025年6月の期間を指す。 本文に戻る

MENA主要港湾動向

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(1)ホルムズ海峡危機に揺れる湾岸諸国

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチ・マネージャー
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)、ジェトロ・カイロ事務所を経て、2026年7月から現職。中東・アフリカ地域の調査・情報発信を担当。

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