激動の中東情勢:中東各国への影響と展望ホルムズ海峡封鎖、日本の自動車輸出に影響
中東の自動車動向(2)

2026年7月30日

2025年の日本からの中東向けの自動車輸出は過去最高となった。一方、中国から中東向けの自動車輸出は前年比51.1%と大幅に伸び、中東向け自動車輸出国として首位に浮上した。さらに、2026年2月末以降のイスラエルと米国によるイランへの攻撃を皮切りに中東情勢は急速に悪化し、貿易や物流にも影響を与えており、先行きは不透明だ。特にホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となり、ペルシャ湾岸諸国向けの自動車輸出が減少している。代替ルートの確保が課題となる中、日本企業は輸送網の再構築を迫られている。

中東の自動車動向(1)中国が首位、日本は過去最多輸出」では中東の自動車市場概況について述べた。本稿では、近年の日本から中東向けの自動車輸出概況と、ホルムズ海峡封鎖による輸出減少および代替ルートについて述べる。

日本の対中東自動車輸出は過去最高

財務省の2025年の貿易統計を見ると、2025年の日本の世界向け輸出額は前年比3.1%増の約110兆円となった。このうち中東(注) 向け輸出額は10.6%増の4兆6,358億円だった。

品目別では、日本から世界全体への自動車輸出額が17兆6,120億円(品目別シェア16.0%)で前年比1.7%減となった(輸出台数は前年比1.7%増の約590万台)。中東向けの自動車輸出額は15.3%増の2兆4,483億円、輸出台数は約82万台だった。

自動車の中でも大半を占める乗用車の輸出金額の推移を見ると、2008年のリーマン・ショック後や2020年のコロナ禍などで急激な落ち込みもあった(図1参照)。一方で、世界向けでは2022年以降、過去最高水準が続いている。日本から中東向けでは、2025年に(統計入手可能な)1988年以降で過去最高となる2兆184億円だった。

図1:日本の乗用車輸出「金額」推移(世界、中東)
1988年から2025年の日本から世界向けおよび中東向けの自動車の輸出金額をみると増加傾向だ。2009年は、2020年は落ち込んだ。2025年は中東向けは過去最高、世界向けも過去最高水準だ。

出所:財務省貿易統計

なお、輸出台数の伸びよりも輸出金額の伸びが高いため、輸出額増加は円安の影響もあるとみられる。乗用車の輸出台数を見ると、日本から世界向けも中東向けも、2008年の最高値を超えていない(図2参照)。日本から中東向けは2025年に前年比3.5%増の65万台となり、世界向け輸出台数に占める割合は12.6%だった。

図2:日本の乗用車輸出「台数」推移(世界、中東)
1988年から2025年の日本から世界向けおよび中東向けの乗用車の輸出台数をみると増加傾向だ。2009年は、2020年は落ち込んだ。2025年は中東向けは65万台、世界向けは515万台だった。

出所:財務省貿易統計

ホルムズ海峡封鎖で輸出急減

2025年の日本からの自動車輸出は好調だったが、足元ではホルムズ海峡の事実上の封鎖により、中東向け輸出が急減している。月別の自動車の輸出台数の推移を見ると、日本から世界向けでは月40万~50万台程度で変動が少ないものの、中東向けでは3月に激減した(図3参照)。4月には、前年同月比93.5%減の4,444台、輸出額は同90.8%減の159億円まで落ち込んだ。5月は前年同月比82.0%減の1万517台、輸出額は同70.0%減の504億円となり、持ち直しの動きもみられた。

一方、船舶への攻撃や機雷の懸念もあり、船会社は輸送の安全性に懸念を示すほか、保険会社はホルムズ海峡周辺を危険地域に指定している。また、自動車メーカーも中東向け自動車の減産を発表している。

中東情勢の悪化が継続すれば、輸出が減少する見込みだ。ホルムズ海峡の動向に注目が集まるほか、代替ルートや代替市場を模索する動きもある。なお、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、各国で化石燃料の不足への懸念や燃料価格の上昇を受け、電気自動車への関心も高まっているという。

図3:日本からの自動車の輸出台数推移(月次、世界、中東)
2023年から2025年の日本から世界向けの月別お乗用車の輸出台数をみるとおおよそ40万台から50万台で一定だった。中東向け輸出台数も2023年以降は一定であったが、2026年3月以降急減し、4月、5月お落ち込んだ。

出所:財務省貿易統計

代替ルートに限界

前述のとおり、中東向け輸出はホルムズ海峡の封鎖の影響が大きいため、中東各国の位置関係や代替ルートを概観する(図4参照)。オマーンの主要港はオマーン湾やアラビア海沿いにあり、オマーンで荷揚げし、陸上輸送で湾岸諸国へ輸送する代替ルートとしての機能に注目が集まっている。

また、トルコ、イスラエルのほか、湾岸諸国とつながりの深いアラブ諸国であるエジプトやモロッコは地中海に面しており、ホルムズ海峡を通過せずに輸送が可能だ。

UAEの主要港は、ペルシャ湾内にありホルムズ海峡を通過するジュベル・アリ港だが、オマーン湾沿いにはフジャイラ港(主に原油積み出し)やコールファッカン港という代替港もある。中東の物流ハブであるUAEでは、代替港湾の活用に加え、トラックや鉄道による代替輸送も模索されている(2026年7月21日付地域・分析レポート参照)。サウジアラビアは紅海にも面しているが、ジッダ港などでの取扱量は限定的であり、代替港としての貨物取り扱いに混雑が生じているという(2026年7月16日付地域・分析レポート参照もっとも、代替港湾は平時から主要輸送ルートとして設計されているわけではなく、貨物量の急増時には港湾の処理能力や内陸輸送能力が制約となる可能性がある。

バーレーン、カタール、クウェート、イラクは海上の代替ルートがなく、ホルムズ海峡封鎖の影響が大きい。物流面での懸念のほか、イランからこれらの国に駐留する米軍基地やエネルギー関連施設などにも攻撃があった。IMFによると、バーレーン、カタール、クウェート、イラクなど代替ルートがない国々では、2026年の経済成長率はマイナスになると予測されており、需要が縮小する可能性もある。

図4:中東諸国と周辺の海峡・港湾の位置関係
ホルムズ海峡や紅海、ペルシャ湾などのイラン、イラク、サウジアラビア、UAEなど中東各国の位置関係について地図を用いて説明。また、各国の主要な港の置関係について説明。

出所:ジェトロ作成(海峡や港湾は大まかな位置を表示)

中東は依然として重要市場

日本からの国別の自動車輸出額を見ると、2025年は米国向けが前年比11.4%減だったが首位を維持し、オーストラリア、カナダ、中国と続いた。5位がサウジアラビアで22.5%増の7,533億円、6位がアラブ首長国連邦(UAE)で13.6%増の7,107億円となった。クウェート、カタール、オマーンなどの湾岸産油国も30位以内に入った。また、中東諸国では、2025年はイスラエルとイラクを除く各国で輸出額は前年を上回った。

自動車輸出台数を見ると、2025年は日本から米国向けが136万台で首位を維持した(表参照)。前年3位のUAEが約39万台でオーストラリアを抜いて2位となった。前年7位のサウジアラビア向けも22万台で5位に浮上した。なお、中東地域では需要増に加え、日系自動車メーカーの現地生産が少ないことも、日本からの輸出が多い要因の1つだ。

サウジアラビアとUAEは大きな市場だが、ホルムズ海峡の代替ルートが限定的ながら存在するものの、2026年は大きな落ち込みが予測される。代替ルートがない国においては、ホルムズ海峡の封鎖状態が解決されなければ輸出が難しい。さらに、機雷への懸念や、保険会社が海上保険を引き受けるかどうか、船会社が海峡通航のリスクを受容するかどうかといった課題もあり、通航正常化の長期化が懸念される。

なお、イランには陸路のほか、パキスタンに近いホルムズ海峡を通過しない港などの代替ルートもある。一方、米国の制裁の影響もあり、日本からの輸出実績はわずかだ。

表:2025年の日本からの国・地域別の自動車輸出と代替ルート(億円、%、台)(△はマイナス値、ーは値なし)
国・地域名 金額順 輸出額 前年比
増減率
台数順 輸出台数 備考(面する海や代替ルート)
米国 1 53,409 △ 11.4 1 1,361,119
オーストラリア 2 13,161 △ 14.7 3 366,929
カナダ 3 8,966 5.8 4 271,485
中国 4 8,917 △ 3.6 6 203,773
サウジアラビア 5 7,533 22.5 5 218,008 ペルシャ湾、紅海で一部代替
UAE 6 7,107 13.6 2 388,976 ペルシャ湾、オマーン湾で一部代替
英国 7 4,011 △ 18.6 8 123,252
台湾 8 3,622 △ 6.7 16 89,443
メキシコ 9 3,170 1.8 14 100,552
ドイツ 10 3,074 9.8 18 75,874
中東・北アフリカ諸国 (億円、%、台)(△はマイナス値、ーは値なし)
国・地域名 金額順 輸出額 前年比
増減率
台数順 輸出台数 備考(面する海や代替ルート)
クウェート 12 2,673 32.7 26 56,843 ペルシャ湾、海上代替ルート無し
カタール 19 1,660 16.4 38 28,005 ペルシャ湾、海上代替ルート無し
オマーン 22 1,466 9.0 36 31,162 アラビア海
イラク 33 1,000 △ 4.9 50 18,292 ペルシャ湾、海上代替ルート無し
トルコ 34 977 22.9 31 35,553 地中海
イスラエル 36 903 △ 29.1 34 32,722 地中海
ヨルダン 41 682 20.2 57 14,556 紅海
バーレーン 45 624 17.0 63 12,935 ペルシャ湾、海上代替ルート無し
レバノン 54 441 8.5 71 9,305 地中海
イエメン 57 394 81.9 76 7,372 紅海、アラビア海
エジプト 62 305 41.8 61 13,921 地中海
モロッコ 77 175 40.3 88 5,562 大西洋、地中海

出所:財務省貿易統計

代替市場と代替ルートを探る

代替市場の模索においては、輸出先の上位国のほか、ホルムズ海峡を通らない中東・アフリカ諸国も検討できる。人口8,747万人で自動車組み立ても行うトルコのほか、モロッコでは1人当たりGDPが4,842ドルであり、現地での組み立ても行われている。エジプトでは外貨規制などの課題もあるほか、1人当たりGDPは3,379ドルと低いものの、人口が1億1,654万人と多い。今回の事例は、販売先を切り替えるだけでは十分ではなく、物流ルートそのものの多重化を平時から検討しておく重要性を示している。

また、サウジアラビアとUAEでは、ホルムズ海峡の代替ルートでも自動車や貨物が限定的に輸入できるほか、原油価格高騰の中でも原油輸出が可能なため、IMFによると、2026年の経済成長率はサウジアラビアで1.7%(6月時点推計)、UAEで3.1%(4月時点推計)と、プラス成長が予測されている。「中東の自動車動向(1)中国が首位、日本は過去最多輸出」で示したとおり、将来的には市場が成長する見込みだ。短期的には物流制約が輸出を左右する一方、中長期的には人口増加や所得向上を背景とした需要拡大が期待されることから、中東市場自体の重要性は引き続き高いと考えられる。加えて、ジェトロの「2025年度海外進出日系企業実態調査(中東編)」においても、消費市場のうち、輸送機器を有望分野と挙げた企業もいる。ホルムズ海峡が通航可能になれば、自動車輸出が衝突前の水準に戻る可能性があるほか、さらに成長する可能性もある。

いずれにしても、中東情勢の注視が必要だ。中東の最新動向は、特集「イスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢関連情報」、物流動向などについては「激動の中東情勢:中東各国への影響と展望」を参照されたい。

また、ホルムズ海峡の封鎖は中東への完成車の輸出のみならず、自動車部品などの関連製品や、自動車を日本で生産するための原料の輸入にも影響を与える。また、これらについては連載の中東の自動車動向(3)で概況を述べる。


注:
財務省貿易統計での中東の定義は、イラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダン、シリア、レバノン、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメン、ヨルダン川西岸とガザを含む。トルコは含まれない。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。