激動の中東情勢:中東各国への影響と展望航空旅客輸送
中東情勢悪化が国際航空網に与えた影響(1)

2026年7月29日

2026年2月末以降の米国・イスラエルとイラン間の軍事衝突に伴う中東情勢の悪化は、イランによる湾岸諸国への攻撃や空域利用上の制約を通じて、中東の主要ハブ空港を中心とした国際航空ネットワーク全体に大きな影響を及ぼした。情勢悪化を受け、3月には中東地域の一部空港で運航制限や閉鎖が発生し、国際航空ネットワークに混乱が生じた(2026年3月4日付ビジネス短信参照)。

本連載では、こうした中東情勢の悪化が空路に与えた影響について、旅客輸送と航空貨物輸送の両面から整理する。今回の特徴は、旅客需要の減少だけでなく、中東の主要ハブ空港の機能低下が世界の航空ネットワーク全体に波及した点にある。前編となる本稿では、湾岸地域の主要ハブ空港や航空会社への影響を中心に、航空旅客輸送の動向や日本との人流への影響を概説する。後編では、航空貨物輸送への影響や主要貨物ハブ空港の動向、日本への影響を取り上げる。

本稿は2026年6月末時点までの情報に基づいている。その後の運航状況や空港・航空会社の対応については、各空港および航空会社の最新情報を確認されたい。また、中東情勢の最新動向については、ビジネス短信特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」も参照されたい。

主要ハブ空港の機能低下で旅客需要が急減

国際空港評議会(ACI)ワールドが4月に発表したランキングでは、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ国際空港が2025年の空港別国際線乗降客数部門で世界首位となり、トルコのイスタンブール国際空港も6位にランクインした。また、国内線・国際線乗降客数にトランジット客数を加えた総旅客数ではドバイ国際空港が2位、航空機の離着陸数ではイスタンブール国際空港が10位となった(注1)。国際線乗降客数部門で10位にランクインしたカタールのハマド国際空港も含め、これらの空港は欧州・アジア・アフリカを結ぶ結節点として、国際航空輸送網において極めて重要な役割を担っている。

とりわけ、ドバイに拠点を置くエミレーツ航空やドーハを拠点とするカタール航空、イスタンブールに拠点を構えるターキッシュエアラインズといった航空会社は、広域ネットワークと高い接続性を強みにトランジット需要を取り込み、各空港のハブ機能を支えてきた。このため、これらの空港・航空会社の運航状況は、中東域内にとどまらず、世界の航空ネットワーク全体にも影響を及ぼす。

2026年2月以降の中東情勢の悪化は、こうしたハブ機能に大きな打撃を与え、航空旅客輸送に深刻な影響を及ぼした。国際航空運送協会(IATA)によると、2026年3月の世界の国際線航空旅客輸送需要は、2021年3月以降初めて前年同月比で減少(0.6%減)を記録した。この減少の主因は、中東(注2)の航空会社の輸送需要の急減(60.8%減)であり、空域閉鎖や運航制限により同地域の航空ネットワークが大幅に寸断されたことが背景にある。

中東地域の航空会社は、情勢悪化に伴い域内空域の大部分が閉鎖されたことで、国際線の旅客輸送需要と輸送能力が前年同月比で大きく減少した(図1、図2、2026年6月1日付ビジネス短信参照)。

図1:航空旅客輸送需要(国際線)の前年同月比(%)の推移
IATAによると、世界および中東の航空会社の国際線航空旅客輸送需要は2025年1月から2026年2月にかけておおむね前年同月比0~10%増を維持していたが、2026年3月以降、中東の航空会社は前年同月比20~70%の大幅減となっている。

出所:国際航空運送協会(IATA)を基にジェトロ作成

図2:航空旅客輸送能力(国際線)の前年同月比(%)の推移
IATAによると、世界および中東の航空会社の国際線航空旅客輸送能力は2025年1月から2026年2月にかけて前年同月比0~10%増を維持していたが、2026年3月以降、中東の航空会社は前年同月比20~60%の大幅減となっている。

出所:国際航空運送協会(IATA)を基にジェトロ作成

加えて、中東情勢の悪化は航空会社の経営にも影響を及ぼしている。IATAは、軍事衝突に伴う運航の混乱と燃料価格の高騰を背景に、2026年の世界の航空業界の純利益が230億ドルと、2025年の450億ドルからほぼ半減すると予測している。また、中東地域については、空域閉鎖や欠航、運航上の混乱に加え、燃料価格の上昇やトランジット需要の減少により、地域全体で赤字に転落するとの見通しを示している。さらに、2026年のジェット燃料価格は1バレル当たり平均152ドルと、前年の90ドルから約70%上昇する見込みであり、航空業界全体の燃料費も前年の2,520億ドルから2026年には3,500億ドルへ増加すると予測されている。

IATAは6月30日に公表した5月の報告で、中東地域の航空会社における旅客輸送需要の減少幅が、4月の前年同月比46.6%減から5月には同28.8%減へ縮小したことについて、「地域の回復力を示す兆候」と評価した。一方で、ホルムズ海峡を通過する原油供給を巡る不確実性は依然として残っており、足元で原油価格が下落しているものの、その効果が燃料価格に反映されるまでには時間を要するとの見方も示している。

中東地域では搭乗率も大幅低下、5月は改善の兆し

搭乗率の推移からも、中東地域への影響の大きさが確認できる。世界全体の搭乗率が紛争勃発後の3月に84.1%、翌4月も83.1%と高水準を維持したのに対し、中東地域の航空会社の搭乗率は3月が67.8%、翌4月も70.1%にとどまった。過去1年間80%前後で推移していた中東地域の搭乗率が、情勢悪化に伴う需要減少と運航制約を背景に大きく低下したことから、同地域の航空ネットワークへの影響の大きさがうかがえる。

一方、5月には中東地域の航空会社の搭乗率は76.1%まで回復した。依然として前年同月を4.8ポイント下回る水準であるものの、旅客輸送需要の減少幅が4月から大きく縮小したことを反映し、回復傾向がみられる。IATAは、中東情勢悪化の影響により前年との比較では依然として大幅なマイナスが続いているものの、月次ベースでは影響が徐々に和らいでおり、減少率は4月のほぼ半分の水準まで改善したと指摘している(図3参照)。

図3:搭乗率(%)の推移
IATAによると、世界の航空会社の搭乗率は2025年1月から2026年5月にかけておおむね80%以上を維持しているが、中東地域の航空会社の搭乗率は2026年3月、4月に約70%まで落ち込んだ。

出所:国際航空運送協会(IATA)を基にジェトロ作成

ドバイ国際空港の旅客数は減少、イスタンブール国際空港は堅調

今回の地域情勢の特徴として、ドバイ国際空港やハマド国際空港といった主要ハブ空港自体がイランの攻撃の影響を受け、運航停止や制限を余儀なくされた点が挙げられる。実際に、5月4日のドバイ政府メディアオフィスの発表によると、ドバイ国際空港の3月の旅客数は前年同月比で65.7%減、第1四半期も前年同期比20.6%減となった。

これに対し、同じくハブ空港として機能しており、湾岸地域の外に位置するイスタンブール国際空港の3月の旅客数は前年同月比8.0%増、第1四半期も前年同期比5.8%増(トルコ運輸・インフラ省国家航空管理総局を基にジェトロ算出)と堅調に推移した。こうした違いは、湾岸地域の主要ハブ空港が大きな影響を受けたことで航空輸送網の結節機能が大きく低下した一方、域外に位置するイスタンブール国際空港が代替ハブとして機能した結果とみられる。今回の事例は、ハブ空港への依存度が高い航空ネットワークの構造的特徴をあらためて示したともいえる。

日本との人流にも影響、5月は回復へ

こうした航空ネットワークの混乱は日本との人流にも影響を及ぼしている。日本政府観光局(JNTO)によると、3月の中東地域〔湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国(サウジアラビア、UAE、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート)、イスラエル、トルコの8カ国〕からの訪日外客数は前年同月比30.6%減、4月は同21.4%減となった(図4参照)。JNTOは、その要因として中東情勢の悪化に伴う航空便の運休や減便を挙げている(注3)

その後、5月には回復の動きもみられた。中東地域からの訪日外客数は前年同月比67.8%増の3万9,000人となり、単月として過去最高を記録した。国・地域別では、トルコが2万4,300人と前年同月比約2.6倍に増加した。イスラエルも同28.7%増となり、3月、4月の減少から一転し、5月は3カ月ぶりに増加へ転じた。一方、GCC加盟6カ国からの訪日外客数は前年同月比31.8%減の3,600人と引き続き減少したものの、減少幅は前月から大きく縮小しており、回復の兆しもうかがえる。JNTOは、継続する訪日需要に加え、イスラム教の祝日の時期や一部路線の運航再開などが押し上げ要因になったとしている(注4)

図4:訪日外客数の前年同月比増減率の推移(世界全体・中東地域)
JNTOによると、訪日外客数の前年同月比増減は、世界全体でみると2025年1~12月は0~40%増、2026年は微増もしくは微減。中東地域では、2025年は20~120%の増加だったが、2026年3月、4月は20%以上の大幅減少、逆に5月に60%以上の大幅増となった。

注:中東地域:湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国(サウジアラビア、UAE、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート)、イスラエル、トルコの8カ国。
出所:日本政府観光局(JNTO)を基にジェトロ作成

航空会社は段階的に運航再開

他方、湾岸地域の航空会社は、こうした情勢下にあっても積極的な復旧・拡大の姿勢を示している。エミレーツ航空は5月4日、グローバルネットワークの96%が回復し、72カ国、137都市に就航している(混乱前の運航能力の約75%に相当)と発表した。カタール航空も4月16日、運航ネットワークの段階的な回復方針を示し、5月中旬までに120以上の都市への運航を再開するとともに、6月16日以降には150以上の都市へ拡大すると発表している。さらに、カタール航空は5月12日、日本路線についても、7月15日から羽田国際空港への週4便の運航を再開し、8月1日からは週7便に増便する予定を発表した。こうした動きから、中東地域の航空ネットワークが回復に向かっているともみることができる。

まとめ

2026年2月末以降の中東情勢の悪化は、湾岸地域の主要ハブ空港の機能に大きな影響を及ぼし、中東地域の航空ネットワークに混乱をもたらした。今回の影響は旅客需要そのものの減少というよりも、世界の航空ネットワークを支えるハブ空港の結節機能が一時的に低下したことに特徴がある。ドバイ国際空港やハマド国際空港では運航停止や制限が発生し、特に、直後の3月、4月には航空会社の旅客需要や輸送能力が大幅に低下したほか、日本との間でも訪日客数の減少や直行便の運休が発生し、人流への影響が確認された。一方で、湾岸地域外のハブ空港であるイスタンブール国際空港は比較的堅調に推移しており、航空ネットワークの代替的な結節点としての役割を果たした可能性も考えられる。また、中東地域の旅客需要は依然として前年水準を下回るものの、5月には減少幅が縮小するなど回復の兆しもみられた。

今回の中東情勢悪化は、湾岸地域の主要空港・航空会社が世界の航空旅客ネットワークにおいて極めて重要な役割を担っていることをあらためて示した。一方で、湾岸地域の主要ハブ空港で発生した混乱が、世界の航空ネットワークに幅広い影響を及ぼし得ることも確認された。

IATAは2026年の世界の航空業界について、旅客数が51億人(前年比2.4%増)に達すると見込んでおり、需要そのものは底堅く推移すると予測している。一方で、中東情勢の悪化に伴う運航上の混乱や燃料価格の高騰などを背景に、航空業界全体の純利益は230億ドルと、2025年からほぼ半減する見通しを示している。

また、今回の中東情勢悪化は旅客輸送だけでなく航空貨物輸送にも大きな影響を及ぼしている。主要ハブ空港への依存度が高い航空ネットワークほど地政学リスクの影響を受けやすいことを示しており、企業にとっても移動・物流ルートの多様化を検討する重要性を示唆している。後編では、航空貨物輸送に与えた影響について概説する。


注1:
2026年5月14日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注2:
IATAではトルコは欧州に分類されており、特に記載がない場合、本稿における「中東地域」にはトルコは含まれない。 本文に戻る
注3:
2026年5月25日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注4:
2026年7月1日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと)
2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。