激動の中東情勢:中東各国への影響と展望逼迫するサウジアラビアの物流網
ジッダ港混雑と代替輸送の課題

2026年7月16日

サウジアラビア政府は、紅海とペルシャ湾に面した地理的優位性を生かし「国際物流ハブ」への転換を強力に推進している(2026年4月28日付地域・分析レポート「中東物流におけるサウジアラビアの役割」、2026年5月8日付地域・分析レポート「中東物流再編におけるサウジアラビアの制度設計」参照)。しかし、中東地域における地政学的緊張の高まりを受け、2026年7月時点では、同国の物流ネットワークは大きな構造変化に直面している。東部州キング・アブドゥルアズィーズ港(以下、ダンマン港)への主要船社の寄港制限が続く中、貨物は西部のジッダ・イスラミック港(以下、ジッダ港)へ集中しており、港湾混雑や陸送コスト高騰などのボトルネックが顕在化している。本稿では、当地物流関係者へのヒアリングを基に、2026年7月5日時点の物流市場の逼迫状況と企業活動への影響について考察する(取材日:2026年6月24日、7月1日、7月6日)。

地政学リスクで物流混乱が深まるサウジアラビア

ホルムズ海峡周辺海域における航行リスクの高まりを受け、サウジアラビアなど湾岸協力会議(GCC)諸国の物流網は混乱局面に入っている(注1)。平時であればダンマン港やアラブ首長国連邦(UAE)のジュベル・アリ港を経由していた一部貨物がジッダ港へ振り替えられており、ペルシャ湾内への寄港を見合わせる船社の増加も重なって、ジッダ港では処理能力を超える貨物が集中している。

当地物流企業によると、コンテナ船の沖待ち時間は平時の24時間以内から72時間超へ延びており、混雑状況によっては入港まで約15日を要するケースもある。完成車を輸送する自動車船についても、5日~1週間程度の待機が発生しているという。通関手続き自体は電子化により24時間程度で処理されるものの、コンテナヤードや車両置き場の混雑が深刻で、貨物を荷下ろしできない、あるいは荷下ろし後に搬出できない状況が続いている。平時であれば到着後3日程度で回収できるコンテナが、回収まで2週間以上を要した事例も報告されている。また、港湾出入り口ではトレーラー渋滞が常態化しており、「ポートイン」で5~6時間、「ポートアウト」で3~4時間を要するケースもみられる。サウジアラビア港湾局(Mawani)は保管超過料の引き上げなどを通じて貨物の早期搬出を促しているが、抜本的な改善には至っていない。

代替港湾・輸送網の現状と課題

紅海側では、ジッダ港に加えてキング・アブドゥッラー港(KAP)、ヤンブー港、ジャザーン港などが存在する。しかし、これらの港湾は代替港として十分に機能しているとは言い難い。

  1. ジッダ港:紅海側最大の商業港。 ペルシャ湾内への寄港を見合わせる船社が増加していることから、従来はUAEなどを経由していた周辺国向けトランジット貨物が流入し、港湾の混雑が続いている。物流業者によれば、コンテナヤードの利用率は約90%に達し、ターミナルの操業効率も平常時より20~25%低下している。コンテナの搬出入を行うトラックの待機列は約5kmに及び、コンテナの引き取り・返却作業については最大で6~8週間の待機が発生しているとの報告もある。また、通常であればコンテナが港に到着してから搬出されるまで約3日程度であるところ、最長で3週間を要する事例もみられる。こうした状況を受け、一部の船会社では、ジッダ港から湾岸諸国向けの越境トラック輸送サービスを停止し、東部州の港湾を経由するルートへ切り替える動きもみられる。一方、最終仕向地がサウジアラビア国内である貨物については、引き続きジッダ港で荷揚げした上で国内向けトラック輸送が行われている。船会社や物流事業者の中には、ジッダ港で荷揚げした貨物を電子通関システムも活用しながら東部州側の物流拠点と連携させ、最終的に周辺国へ陸路または海路で輸送する変則的な運用を実施する例もみられるが、貨物量の増加に対して港湾処理能力や陸上輸送インフラの対応が追いついておらず、当面は混雑が継続するとの見方が強い。
  2. キング・アブドゥッラー港(KAP):ジッダ北部のキング・アブドゥッラー経済都市(KAEC)内に位置する新興港。大手船会社MSCなどが中継港や専用岸壁として活用している。ジッダ港ほど貨物が集中していないため、相対的には安定して機能しているものの、オペレーション上の都合から、キング・アブドゥッラー港で荷揚げされた貨物は、書類処理との整合に時間を要し、2週間以上滞留する事例も報告されている。
  3. ヤンブー港:ジッダ北部に位置する。主として石油・バルク貨物を取り扱っており、コンテナの取り扱いキャパシティーは限定的だ。自動車船に関しては、完成車を保管するためのジッダ港の車両置き場の逼迫対策として、周辺国向け貨物をヤンブー港で代替荷揚げする措置が取られたが、トレーラー手配や国境越えの手続きなどの引き取り能力が十分ではないため、ヤンブー港自体も飽和状況になりつつある。
  4. ジャザーン港:イエメン国境に近い南部の港であり、サウジアラビア政府はバックアップ港として活用を促している。しかし、同地域はイエメン情勢の影響を受けやすく、物流企業の間ではミサイル攻撃や無人機攻撃などに対する警戒感が根強い。2026年現在、米国国務省はイエメン国境周辺地域の一部を最高警戒レベルの「渡航禁止(Do Not Travel)」に指定しており(注2)、安全保障リスクや保険料の上昇を懸念する企業も少なくない。そのため、一般的な国際物流ルートとして広く利用されるには至っていない。
  5. ダンマン港:ペルシャ湾側の主要港であるが、近隣海域における航行リスクの高まりを受け、一部の主要船社がペルシャ湾岸地域向けサービスの停止や新規予約の制限を実施している。このため、同港のコンテナ物流機能は大幅な制約を受けている。
  6. 工業都市「オクタゴン(旧ドゥバ港周辺)」:未来都市プロジェクトNEOMの一環として計画された港湾インフラについては、一部の建設資材などの搬入に利用されている。しかし、現在も大規模なコンテナターミナルの拡張工事が進められている途上であり、現時点で一般的な商業港としての実用的に運用されておらず、既存港湾の混雑を緩和する代替選択肢としても十分に機能していないため、民間物流における検討の俎上(そじょう)には載っていない。

海上物流の混乱とは対照的に、航空物流は比較的安定して機能している。国営航空会社リヤド航空の路線拡大(注3)も航空貨物能力を補完する要素とみられている。一方、広域鉄道網(注4)の整備は構想・建設段階にあり、当面はジッダ港から国内や周辺国への輸送の大半をトラック輸送に依存せざるを得ない。また、長距離輸送に対応可能な車両やドライバーの不足も深刻化している。

サウジアラビア国内では、医薬品や生活必需品、加工食品などは優先的に通関・配送される傾向にある一方、工場用品や一般消費財の一部では輸送量の抑制や納期遅延が発生している。また、ジッダ港の混雑を回避するため、オマーンのソハール港などで荷揚げし、陸路でUAEやサウジアラビアへ輸送するルートも活用されている(注5)。しかし、この迂回ルートでも、トラック不足や国境通関の制約により、輸送能力の限界が指摘されている。そのため、海上・航空・陸上輸送を組み合わせた代替ネットワークを構築できるフォワーダー(国際物流事業者)や物流コンサルタントへの需要が高まっている。

物流の混乱は市場競争にも影響を与えている。日本を含む東アジアからの一部輸入品は、喜望峰経由への切り替えにより輸送日数が平時の約2倍となり、製品供給や在庫水準に影響が出ている。一方、当地物流関係者によると、欧米系船社や荷主の一部が紅海航路の利用を抑制する中、中国系船社の一部はバブ・エル・マンデブ海峡経由の航路を維持しており、比較的高い輸送能力を確保しているという。このため、安定した供給体制を維持できる企業が相対的な競争優位性を高めているとの見方も聞かれる。

また、物流混乱は必ずしも貿易統計に反映されていない。サウジアラビアの貿易収支は原油輸出の影響を強く受けるためだ。サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)によると、2026年第1四半期(1~3月)の同国の貿易黒字は前年同期比43.7%増となった(注6)。しかし、同国の貿易収支は原油輸出の影響を強く受けるため、一般コンテナ貨物の混乱と貿易統計は必ずしも一致しない。その結果、貿易黒字が拡大する一方で、国内では製品や部材の物流が逼迫するという状況が生じている。

国内陸送運賃の高騰と今後の見通し

当地物流企業によると、ジッダ港から東部方面へのコンテナ陸送運賃は、平時の約3,000リヤル(約12万6,000円、1リヤル=約42円)から約8,000リヤル(約33万6,000円)へ上昇した。また、コンテナ滞留に伴い、1コンテナ当たり3,000~5,000リヤル(約12万6,000~21万円)の追加費用が発生している(表参照)。こうしたコスト上昇の背景には、ジッダ港の混雑回避需要の高まりや船社による運航調整があるとみられる。一方、キング・アブドゥッラー港では、コンテナの無料保管期間(フリータイム)がジッダ港の5日間に対して7日間と比較的長く設定されており、荷主にとっては滞留費用の発生リスクを一定程度抑制できる利点もある。さらに、航行途中でジッダ港からキング・アブドゥッラー港へ荷揚げ地の変更を求める場合には、海上運賃を上回る変更手数料が請求されるケースも報告されており、荷主の負担は一層重くなっている。IMFは、中東情勢に伴う海上輸送費や保険料の上昇が国内物価への押し上げ要因となっていると指摘している。また、ホルムズ海峡を巡る不確実性や海上交通への影響が、非石油部門の経済活動や企業マインドを下押しする可能性にも言及している(注7)

表:東京発ジッダ港、キング・アブドゥッラー港(KAP)向け海上運賃比較(2026年7月時点)(単位:米ドル)(ーは記載なし)注:本表の運賃および諸料金は、ヒアリング実施時点における参考価格。実際の適用運賃は荷主と船会社間の契約条件、品目、輸送時期および需給状況などによって変動する場合がある。輸出地諸費用には輸出通関関連費用、書類作成費用、港湾取り扱い費用などを含む。
項目 比較項目 ジッダ港 キング・アブドゥッラー港(KAP) 備考
20フィートコンテナ 海上運賃 5,500 6,900
緊急付加料金 1,500 1,500 コンテナ単位
輸出地諸費用 260 275 コンテナ単位
最終揚げ港フリータイム 5日間 7日間
40フィートコンテナ 海上運賃 6,300 9,200
緊急付加料金 3,000 3,000 コンテナ単位
輸出地諸費用 360 375 コンテナ単位
最終揚げ港フリータイム 5日間 7日間
共通費用 B/L発行手数料 40 40 船荷証券1件あたり

注:本表の運賃および諸料金は、ヒアリング実施時点における参考価格。実際の適用運賃は荷主と船会社間の契約条件、品目、輸送時期および需給状況などによって変動する場合がある。輸出地諸費用には輸出通関関連費用、書類作成費用、港湾取り扱い費用などを含む。

出所:現地物流会社提供データを基にジェトロ作成

物流正常化の見通しと企業対応

今後の見通しについて、当地物流業者の多くは、仮に地政学的緊張が早期に緩和し、航路の安全性が回復したとしても、港湾に滞留した貨物の処理や世界的な船腹供給の正常化には、さらに3~6カ月程度を要するとの見方を示している。したがって、ジッダ港を中心とした物流の逼迫は、少なくとも当面継続する可能性が高い。海上輸送の不確実性を背景とした緊急貨物の航空輸送へのシフトや、それに伴う航空運賃の高止まりも続くとみられる。サウジアラビア政府が「ビジョン2030」の柱の1つとして掲げる国際物流ハブ構想は、今回の物流混乱によって大きな試練に直面している。一方で、こうした状況は、同国の物流インフラやサプライチェーンの強靱(きょうじん)性の重要性をあらためて浮き彫りにしたともいえる。

このような不確実性が常態化する可能性がある中、サウジアラビア市場で事業を展開する企業には、従来の効率性を重視したサプライチェーンから、レジリエンスを重視した体制への転換が求められている。具体的には、安全在庫の積み増し、発注時期の前倒し、海上・航空・周辺国経由の陸送を組み合わせた輸送手段の多様化など、複数の代替手段を確保する取り組みの重要性が高まっている。また、短期的には、ジッダ港の混雑や輸送遅延に伴う追加コストを事業計画に織り込むことが不可欠となる。長期的には、同国政府による物流インフラ投資の動向や、リヤド航空による航空貨物輸送能力の拡大、高度温度管理型倉庫の整備・活用などを注視しつつ、物流環境の変化に応じて代替ネットワークを柔軟に再設計できる体制を構築することが、サウジアラビア市場における中長期的な競争力の維持・強化につながると考えられる。

中東情勢の最新情報については、特集「イスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢関連情報」、ホルムズ海峡の動向については2026年4月10日付地域・分析レポート「中東情勢悪化がホルムズ海峡に与える影響」を参照。中東・アフリカのインフラや物流事情については、地域・分析レポート特集「中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探る」も併せて参照されたい。

今回の物流混乱は、サウジアラビアが推進する『国際物流ハブ』構想において、港湾整備に加え、代替輸送ルートや広域物流ネットワークを含むサプライチェーン全体の強靱性が重要であることを改めて示した。


注1:
2026年5月13日付地域・分析レポート「紅海およびスエズ運河に関する物流動向」を参照。 本文に戻る
注2:
米国国務省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注3:
2026年6月11日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注4:
2026年6月17日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注5:
2026年5月13日付地域・分析レポート「紅海およびスエズ運河に関する物流動向」を参照。 本文に戻る
注6:
2026年7月3日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注7:
2026年6月8日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。