激動の中東情勢:中東各国への影響と展望中東物流再編におけるサウジアラビアの制度設計
ホルムズ代替(2)

2026年5月8日

本特集では、国家戦略のもとで物流の再編が進むサウジアラビアについて概説する。前編では、ホルムズ海峡や紅海を巡る地政学リスクが常態化する中で、同国が有する地理的優位性と、代替ルートに内在する物理的制約を整理した。これを踏まえ、後編となる本稿では、サウジアラビアにおける物流再編の制度設計および実運用の側面から検証する。国家産業政策や運輸物流戦略の枠組みの下で進められている港湾、内陸輸送、制度運用の具体的な取り組みに焦点を当て、サウジアラビアの物流再編がどの段階にあり、今後どのような方向性を持ち得るのかを考察する。

国家戦略に基づく物流再編

サウジアラビア政府は2019年に「国家産業発展・物流プログラム(NIDLP)」を立ち上げ、物流をエネルギー、鉱業、製造業と並ぶ国家産業政策の中核分野に位置付けた。NIDLPの特徴は、物流を単なるインフラや支援機能としてではなく、産業集積、外資誘致、輸出競争力を左右する戦略資産として明確に位置付けている点にある(2026年1月9日付地域・分析レポート参照)。NIDLPの下では、港湾・物流分野において取り扱い能力の拡張にとどまらず、「産業拠点と市場を結び付け、物流の流動性を高めること」が重視されてきた。従来の石油・石化化学製品中心の輸出構造に加え、製造業、鉱物資源加工、消費財分野の成長を支えるために、安定的かつ柔軟な物流網が不可欠であり、物流は産業政策を実装するための重要な手段として位置付けられている。

さらに2021年以降、鉄道、道路、港湾、空港を一体として再設計する「国家運輸物流戦略(NTLS)」が本格的に実行段階へ移行した。NTLSはNIDLPを上位枠組みとしつつ、輸送インフラと物流実務を横断的に最適化することで、サウジアラビアを中東・アフリカ・欧州を結ぶ広域物流ハブとして位置付けることを目的としている。

サウジアラビアの港湾状況と貿易動向

サウジアラビア港湾局(Mawani)によれば、2025年通年のコンテナ取扱量は前年比10.58%増の831万7,235TEU(1TEUは20フィートコンテナ換算)に達し、積み替え(トランシップメント)も11.78%増と2桁成長を記録した。2026年に入っても港湾活動は堅調に推移しており、1月のコンテナ取扱量は前年同月比2.01%増の73万8,111TEUとなった。特に積み替えは22.44%増の18万4,019TEUと高い伸びを示した。こうした港湾の動向は、サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)の貿易統計とも整合する。GASTATによれば、2025年第4四半期の貿易総額は5,478億リヤル(約2兆3,008億円、1リヤル=42円)に達し、前年同期比で6.4%増加した(表1参照)。特に輸入額は2025年を通じて増加傾向にあり、国内の産業活動および設備投資需要が堅調であることを示している。

貨物重量ベースでは、液体バルク貨物が1,410万2,495トン(前年比0.28%増)となった一方、固体バルク貨物は426万3,168トン、一般貨物は83万9,987トンとなり、総貨物取扱量は1,920万5,650トンと前年比3.04%減となった。これは、付加価値の高い貨物への構成変化が進んだ可能性を示唆している。また、こうした国内要因に加え、グローバルな供給網再編の影響も考慮する必要がある。例えば、米国の大手経済・産業分析機関であるS&Pグローバルマーケット・インテリジェンスは、2026年にかけて、地政学的な対立、関税の不確実性、特定部材の供給不足が重なり、世界のサプライチェーンにおいて、遅延や航路再編が進んでいると指摘している。中東情勢を巡っては、イラン向け航路の大幅な縮小や原油輸出の減少が確認されており、これに伴う航路変更が世界の海運ネットワーク全体に波及的な影響を及ぼしつつある。実際、ホルムズ海峡を回避する動きにより、代替チョークポイント(要衝)への負荷集中や積み替え拠点の役割の変化が顕在化している。こうしたグローバルな供給網の再編は、サウジアラビアの港湾においても、積み替え需要の増加や高付加価値貨物の取り扱い比重の上昇というかたちで間接的に反映されている可能性もある。

表1:サウジアラビア貿易(金額ベース) (単位:100万サウジリヤル、△はマイナス値)
四半期 輸出額 輸入額 貿易総額 貿易収支
2020年 1Q 191,673 132,381 324,054 59,292
2Q 119,656 124,849 244,505 △ 5,193
3Q 160,579 123,033 283,612 37,547
4Q 180,044 137,228 317,272 42,815
2021年 1Q 208,032 139,392 347,424 68,640
2Q 232,179 140,424 372,602 91,755
3Q 273,593 144,756 418,350 128,837
4Q 321,868 148,613 470,481 173,255
2022年 1Q 367,104 157,905 525,008 209,199
2Q 427,803 175,354 603,158 252,449
3Q 399,056 182,811 581,867 216,245
4Q 347,978 195,968 543,946 152,009
2023年 1Q 309,460 188,954 498,414 120,506
2Q 295,054 190,355 485,409 104,699
3Q 299,616 194,986 494,602 104,630
4Q 295,939 201,730 497,669 94,210
2024年 1Q 295,164 207,615 502,779 87,549
2Q 295,410 208,297 503,707 87,113
3Q 276,958 220,539 497,496 56,419
4Q 278,091 236,573 514,664 41,518
2025年
(暫定)
1Q 287,089 226,386 513,475 60,702
2Q 274,059 238,886 512,945 35,173
3Q 303,743 239,782 543,526 63,961
4Q 300,128 247,684 547,811 52,444

出所:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)のデータを基にジェトロ作成

主要品目別の動向(表2参照)を見ると、2025年のサウジアラビアの貿易構造には、輸出と輸入で性格の異なる構造的な偏りがみられる。同年第4四半期の輸出では「鉱物資源・同製品」が全体の67.9%を占め、原油・石油製品を中心とするエネルギー関連輸出が依然として貿易の中核を成している。非石油部門の拡大が進む中でも、短中期的には資源輸出が外貨獲得の基盤であり続けている。一方、輸入では「機械類・電気機器・同部品」が30.7%と最大のシェアを占めている。国内における製造業の拡張、インフラ投資、エネルギー関連設備の更新が継続していることを反映したものとみられ、サウジアラビア経済が投資拡大・建設需要増・産業高度化の局面にあることを示唆している。特に、輸入品目の内訳を見ると、機械類および電気機器(HSコード84・85類)が最大の比重を占めており、製造設備や発電・送配電機器、ICT(情報通信技術)関連機器を中心とする輸入需要が高水準で推移していると読み取れる。このように、輸出では鉱物資源・同製品の比重が高い一方、輸入では資本財・中間財の比率が高いという構造は、サウジアラビアが短期的には資源輸出に依存しつつも、中長期的には産業基盤の強化と付加価値創出へと経済構造の転換を進めている過程にあることを示している。また、物流の観点から見ると、鉱物資源・同製品が大量輸送・定期輸送を前提とするのに対し、機械類・電気機器・同部品は高付加価値で、輸送の確実性やリードタイムが重視される貨物が多い。このため、港湾および内陸輸送網においては、単なる処理能力の拡大にとどまらず、輸送の安定性や代替性を確保する運用の重要性が一段と高まっているともいえる。

表2:2024年第4四半期および2025年第3・第4四半期の主要品目(貿易額)(単位:100万サウジリヤル)
品目 輸出 輸入
2024年 2025年(暫定) 2024年 2025年(暫定)
4Q 3Q 4Q 4Q
シェア
4Q 3Q 4Q 4Q
シェア
鉱物資源・同製品(石油、天然ガス、石炭など) 197,199 209,308 203,728 67.9% 13,199 12,769 10,124 4.1%
機械類・電気機器・同部品 12,686 25,676 22,659 7.5% 61,779 71,855 75,986 30.7%
化学製品 21,162 20,628 19,694 6.6% 19,778 20,439 19,408 7.8%
プラスチック・ゴム・同製品 18,366 17,885 16,443 5.5% 7,721 7,568 7,004 2.8%
車両・航空機・船舶等輸送機器 9,114 8,393 13,266 4.4% 35,999 33,520 35,247 14.2%
卑金属(鉄鋼、銅、アルミニウム等)・同製品 6,122 6,382 7,232 2.4% 23,010 22,532 23,148 9.3%
真珠、貴石または金属とその製品、宝飾品 3,137 4,057 6,223 2.1% 10,584 9,857 13,499 5.4%
食料品・飲料・酢・たばこ類 2,725 2,990 2,865 1.0% 10,074 10,074 9,542 3.9%
植物性生産品 1,088 761 1,200 0.4% 9,584 9,481 10,732 4.3%
生きた動物・動物性生産品 2,117 2,138 2,162 0.7% 6,648 6,689 6,972 2.8%
石、プラスター、セメント、陶磁器、ガラスの製品 739 859 834 0.3% 2,716 2,195 2,322 0.9%
光学機器、写真用機器、測定機器、医療用機器、ならびに時計、楽器 635 595 738 0.2% 6,728 7,438 7,559 3.1%
紙、板紙及びこれらの製品 699 709 644 0.2% 1,985 2,222 1,876 0.8%
紡織用繊維及びその製品(衣類など) 609 611 610 0.2% 6,205 5,856 6,479 2.6%
雑品(家具、玩具など、他のカテゴリーに含まれない製造品) 576 399 534 0.2% 5,619 4,638 4,698 1.9%
美術品、収集品及びアンティーク 224 1,412 383 0.1% 6,004 4,603 4,714 1.9%
武器、弾薬及びこれらの部分品、附属品 327 320 362 0.1% 3,359 2,933 2,916 1.2%
動物性・植物性の油脂及びその製品(ワックスなど) 360 432 315 0.1% 1,911 1,634 1,908 0.8%
木材、コルク、編物材料及びこれらの製品 132 104 139 0.0% 1,905 1,575 1,695 0.7%
皮、革及びこれらの製品、ハンドバッグなど 51 53 60 0.0% 587 646 599 0.2%
履物、帽子、傘、杖 22 32 35 0.0% 1,177 1,258 1,256 0.5%
合計 278,091 303,743 300,128 100% 236,573 239,782 247,684 100%

注:シェアについては2025年(暫定)4Qでの値。

出所:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)のデータを基にジェトロ作成

港湾別の2025年第4四半期の非石油部門貿易額(表3参照)を見ると、輸入では湾岸側のキング・アブドゥルアジーズ港(ダンマーム)が622億リヤル(約2兆6,124億円)と最大で、東部州の工業地帯向け原材料・中間財需要を支えている。一方、紅海側のジッダ・イスラム港は、輸入が537億リヤル(約2兆2,554億円)で、非石油輸出(再輸出を含む)においても112億リヤル(約4,704億円)と港湾別で最大規模を示しており、東西を結ぶ物流の要衝としての機能を強めてきている。

また、ジッダ・イスラム港およびキング・アブドゥッラー港は、従来は国内消費向け輸入拠点としての性格が強かったが、近年は地政学リスクの常態化を背景に、ホルムズ海峡を回避する「代替港」という位置付けを超え、国家物流を担う主要港の一角として再定義されつつある。その背景としては、内陸輸送網との即応性の高さ、政府による港湾政策の転換、高付加価値貨物の取り扱い比重の上昇といった点が挙げられる。アジア-紅海直航便の拡充や地域内フィーダー網の整備により、紅海側の港湾の積み替え機能は質的に向上しており、「通過型拠点」ではなく、国内経済と連動する実需連動型物流ハブを目指すNTLSの方向性を反映した動きともいえる。

表3:2024年第4四半期および2025年第3・第4四半期の税関別、非石油輸出(再輸出を含む)・輸入額(単位:100万サウジリヤル)
港湾 輸出 輸入
2024年 2025年(暫定) 2024年 2025年(暫定)
4Q 3Q 4Q 4Q 3Q 4Q
ジッダ・イスラム港 10,830 10,816 11,250 50,445 51,574 53,749
キング・ファハド工業港(ジュベイル) 10,832 9,700 8,914 2,394 2,757 2,654
ラス・アル・ハイル港 5,861 6,706 7,652 707 478 364
ジュベイル商業港 6,116 6,575 7,274 2,279 2,542 4,746
キング・アブドゥルアズィーズ港(ダンマーム) 6,866 6,638 6,571 67,768 65,167 62,231
ラス・タヌラ港 5,292 3,954 6,521 6,048 4,622 3,071
キング・アブドゥッラー港 1,670 1,415 1,269 4,125 3,407 3,196
ラービグ港 1,622 579 1,158 1,453 2,486 1,530
キング・ファハド工業港(ヤンブー) 1,046 1,079 1,056 3,189 1,892 1,936
ディバ港 826 685 799 2,703 1,992 1,572
ヤンブー商業港 605 744 302 1,109 2,685 1,878
ジャザン港 163 167 215 523 734 1,488
バイシュ港 30 16 123 2,284 2,191 1,785
アル・ハフジ(石油関連の桟橋・補給施設) 77 19 106 0 0 119
合計 51,837 49,093 53,210 145,027 142,530 140,320

出所:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)のデータを基にジェトロ作成

物流実務の現状(港湾・内陸輸送)

サウジアラビア向けの海上輸送は継続しているものの、地政学的要因を背景とする船会社の判断により、寄港地の変更や配船の調整、ブッキングの制限が頻発している。特に紅海側の港湾では、湾岸(ペルシャ湾)ルートを回避した貨物の集中により、一時的な混雑が発生している。これに対し、サウジアラビア港湾局(Mawani)は、通関プロセスの迅速化、蔵置期間の柔軟な運用、夜間オペレーションの拡張といった暫定措置を講じ、物流網の停滞を回避する対応を進めている。

こうした港湾段階での混雑や不確実性を吸収しているのが、港湾と主要消費地・工業地帯を結ぶ内陸輸送網だ。サウジアラビア物流の実務上の強みは、この内陸輸送が実用レベルで機能している点にある。スイスの海運大手MSCが示す内陸輸送スケジュールによれば、ジッダ・イスラム港およびキング・アブドゥッラー港から首都リヤドまでは約1日、東部州(ダンマーム周辺)へも2日前後での陸送が実務上可能としている。港湾での滞留を最小化し、早期に貨物を内陸へ移送する運用が、現場レベルで定着しつつあるといえる。一方で、需要増加に伴うトラック車両の不足、燃料費の上昇、国境通過に伴う待機時間の増加など、内陸物流コストの管理は今後の課題として残る。こうした実務上の制約を背景に、物流分野においては制度運用面からの下支えも重視されている。

また、サウジアラビアの事業環境については、ジェトロの「2025年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)(2025年12月)」でも指摘されているとおり、行政手続きのばらつきが課題とされてきた。しかし物流分野では、NTLSの下で、制度運用の改善に向けた取り組みが進められている。具体的には、第1に、貿易一元化プラットフォームであるファサハ(FASAH外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の導入により、通関手続きのデジタル化と標準化が進み、通関処理時間の短縮が制度上の目標として明確に位置付けられた。第2に、サウジアラビア港湾局(Mawani)は、シンガポールの港の管理・運営を行うPSA系の事業者など国際港湾オペレーターとのコンセッション(注1)を通じて、ターミナル運営を国際標準へと引き上げている。第3に、「総合物流保税区(ILBZ)」などの枠組みを活用し、外資企業が国際基準で事業を行いやすい制度環境の整備が進められている。こうした制度的な基盤を前提として、2026年初頭には、地政学リスクへの即応を目的とする具体的な物流サービス・施策が相次いで打ち出された(表4参照)。新サービスは、物流回廊や新航路、シャトル便など、制度改革を実装段階へと移行させる運用面での対応を整理したものであり、港湾機能を起点とする物流安定化の取り組みが具体化していることを示している。

表4:サウジアラビア港湾局(Mawani)による物流安定化に向けた新サービス・施策注:本表は、2026年2月以降にサウジアラビア港湾局(Mawani)および関係機関が発表した、地政学リスク対応を目的とする主要な新物流サービス・施策を整理したもの。
サービス・施策名 開始時期 運営・提携
パートナー
主な内容・目的
物流回廊イニシアチブ (Logistics Corridors Initiative) 2026年3月 Mawani
ザカート・税・税関庁(ZATCA)
ホルムズ海峡を通らず、東部州や他の湾岸協力会議(GCC)諸国の貨物を陸路で紅海側(ジッダなど)へ運び、そこから世界へ輸出する代替物流ルートの確立。
GULF SHUTTLE 2026年3月 MSC, マースク(Maersk)など 湾岸地域の緊張に対応し、域内の主要拠点を効率的に結ぶ新たなシャトル便。供給網の切断を回避。
REDEX 2026年3月 CMA CGM ジッダ港を拠点に、地中海(マルタ、エジプト)や紅海北部(ヨルダン)の主要港を直結。輸送時間を短縮。
WC1 / WC2 サービス 2026年3月 Maersk インド(ムンバイなど)と紅海(ジッダ、キング・アブドゥッラー港)を直結。5,000 TEU級の船舶を投入し、アジア・インド航路の安定化を図る。
JADE / AE19 / SE4 2026年3月 主要国際船社連合 欧州・アジア航路の再編に伴い、サウジアラビア港湾への寄港頻度を強化。ホルムズ海峡を通らない代替ネットワークの一部として機能。
RSX サービス 2026年3月 Marsa Ocean Shipping ジッダ港とイエメン(アデン、ホデイダ)、ジブチを結ぶフィーダー網。地域的な孤立を防ぐ物流網。
知識・サービスハブ (Knowledge & Service Hub) 2026年3月 Mawani(東部州港湾) 湾岸地域で航行する船舶に対し、医薬品・食料・燃料の補給、乗組員の交代を24時間体制で支援する総合サポート。
インド-中東航路 2026年4月 MSC MSCの「North India – Middle East」航路をキング・アブドゥッラー港に導入。インド主要港(ムンドラ、ナバシェバ等)と接続し、貿易フローの円滑化と港湾競争力の強化を図る。
SGX航路(中国・東南アジア・紅海接続) 2026年4月 China United Lines China United Linesの「SGX」海運サービスをジッダ港に導入。上海・南沙(中国)、マレーシア、エジプト等と接続し、紅海経由の国際物流ネットワークを強化。
Middle East Express(欧州航路) 2026年5月 MSC 欧州主要港(アントワープ、バレンシア、ブレーメン等)とジッダ港、キング・アブドゥッラー港を結ぶ新サービスを導入。さらに陸路でダンマームとも接続し、国内・域内物流の連結性を強化。

注:本表は、2026年2月以降にサウジアラビア港湾局(Mawani)および関係機関が発表した、地政学リスク対応を目的とする主要な新物流サービス・施策を整理したもの。

出所:サウジアラビア港湾局(Mawani)およびメディア発表を基にジェトロ作成

鉄道網による東西接続の強化

港湾機能の強化と並行して、サウジアラビア鉄道公社(SAR)は、国家戦略の一環として海上輸送に伴う地政学リスクに左右されにくい国内輸送網の整備を加速させている。特に、港湾と内陸、さらには周辺国を結ぶ鉄道物流の高度化は、海峡依存を低減する補完的手段として位置付けている。2026年4月にSARはペルシャ湾側の主要港湾(ダンマーム、ジュベイルなど)と、リヤド・ドライポート、さらに紅海側および北部国境地点を結ぶ複数の新たな物流ルートを正式に開始した(2026年4月16日付ビジネス短信参照)。これらのルート(図参照)は、従来のトラック輸送に大きく依存してきた長距離貨物の一部を鉄道へ転換することを目的としており、輸送の安定性向上、ドライバー不足への対応、燃料費変動リスクの抑制といった効果が期待されている。特に、石油化学製品や鉱物資源、コンテナ貨物の内陸輸送において、鉄道が実務上の選択肢として定着しつつある。

こうした動きを象徴する事例として、2026年4月にSAR、サウジアラビア港湾局(Mawani)、国営海運会社バハリ(Bahri)が連携し、ラス・アル・ハイルからヤンブー商業港まで、肥料などに使用されるリン酸二アンモニウム(DAP)を輸送する戦略的物流サービスが稼働した。ラス・アル・ハイルからハーイル(Hail)貨物ヤードまで鉄道輸送した後、道路輸送を経てヤンブー商業港から海外へ輸出するという、鉄道・道路・海上を組み合わせた複合一貫輸送が採用されている。この取り組みは、サウジアラビアの物流インフラが鉱業分野とも高度に統合され、高い運用能力を有していることを示す事例といえる(2026年4月20日付ビジネス短信参照)。

さらに、この鉄道を組み込んだ輸送モデルにより、今後3カ月間で約4,800回分のトラック輸送が代替される見込みであり、交通混雑の緩和や道路安全性の向上に加え、二酸化炭素排出量の削減にも寄与するとされている。これは、同国が掲げる持続可能な輸送政策や、三大陸を結ぶグローバル物流ハブとしての地位強化とも整合する動きである。

また、紅海とペルシャ湾を鉄道で結ぶ総延長約1,500キロメートルの「サウジ・ランドブリッジ計画」についても、2026年に入り設計段階の進展が見られる。同計画は、紅海側のジッダと湾岸側のダンマームをリヤド経由で接続する東西幹線鉄道を整備するものであり、実現すれば、両港湾間の貨物輸送時間の大幅な短縮を通じて、海上輸送への依存を補完する東西横断型の国内物流回廊の形成が期待される。一方、サウジアラビア鉄道(SAR)が2026年4月に発表した5つの物流回廊(2026年4月16日付ビジネス短信参照)は、湾岸港湾、紅海港湾、内陸拠点および北部地域を結ぶ貨物輸送ネットワークの機能強化を目的としたものであり、既存の鉄道に加えトラック輸送などを組み合わせて貨物を効率的に運ぶ仕組みとして構成されている。これらの物流回廊は、紅海港湾とリヤドを結ぶ回廊、湾岸港湾とリヤドを結ぶ回廊、湾岸港湾と北部国境を結ぶ回廊、東部港湾間の連結回廊、ならびにリヤドと北部地域を結ぶ回廊などから構成される。これらの物流回廊は、サウジ・ランドブリッジ計画とは別個の施策であるが、同計画の進展により相互接続が強化されることで、国内の港湾・内陸・国境を結ぶ広域物流ネットワークの効率化および強靭化に寄与するものと位置付けられる。

図:サウジアラビア鉄道公社(SAR)新物流回廊
サウジアラビア鉄道公社(SAR)の新しい物流回廊として、リヤドからハーイルを経由し、北部国境アル・ハディサを結ぶ「リヤド-北部地域物流回廊」、ダンマーム、ジュベイル、ラス・アル・ハイルから、アル・ジャラミドを経由し、北部ヨルダン国境のアル・ハディサへ延びる「湾岸港湾-北部国境物流回廊」、ラス・アル・ハイル、ジュベイル、ダンマームとホフーフを接続する 「東部港湾間物流回廊」、ダンマーム、ジュベイルの両工業港から、ホフーフを経由しリヤドへつながる「湾岸港湾-内陸(リヤド)物流回廊」、「キング・アブドゥッラー港」と「ジッダ・イスラム港」を起点 とする「紅海港湾-内陸(リヤド)物流回廊」がある。

注:本図は2026年4月時点のSARによる物流回廊の発表内容を基に再構成した概念図。各ルート名称は公式名称ではなく機能に基づき整理。
出所:サウジアラビア鉄道公社(SAR)発表資料を基にジェトロ作成

中東物流再編の中でのサウジアラビアの役割

サウジアラビアは、物流リスクが小さい国とは言い難い。しかし同国では、リスクを排除するのではなく、不確実性の存在を前提条件として制度やインフラに組み込み、影響を吸収しようとする取り組みが進められている。紅海側と湾岸側の港湾、内陸回廊、複数の運営主体を組み合わせた物流設計は、こうした対応の一端を示すものといえる。

これらの動向を踏まえると、サウジアラビアは単なる最終消費市場として機能しているだけではなく、中東全体を見据えた物流調整や在庫配置、事業継続計画(BCP)(注2)を含む役割を併せ持ちつつある状況にあると整理できる。同国は物流リスクを完全に回避できる環境を備えているわけではないものの、不確実性の存在を前提に制度とインフラを組み合わせることで、物流全体が停止しにくい構造を形成しつつある。この点は、中東地域における同国の物流体制の特徴を整理する上で、参考となる要素の1つともいえる。

中東情勢は流動的であり、中東と世界各国の最新動向はジェトロ特集「イスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢関連情報」、ホルムズ海峡動向は地域・分析レポート「中東情勢悪化がホルムズ海峡に与える影響」を参照。中東・アフリカのインフラや物流事情については地域・分析レポート特集「地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向」も参照。


注1:
政府または地方自治体が土地や建物の所有権を保持したまま、公共インフラの資金調達、建設、運営・維持管理を一定期間、民間企業に委託する方式。 本文に戻る
注2:
自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態において、企業が受ける損害や被害を最小限に抑え、主要ビジネスを速やかに継続・再開するための計画。本文に戻る

ホルムズ代替

執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。