激動の中東情勢:中東各国への影響と展望在トルコ日系企業A社に中東情勢の影響と展望を聞く
2026年6月23日
中東情勢の不安定化を受け、同地域で事業展開を行う企業を取り巻くビジネス環境は大きく変化している。そうした中、トルコはホルムズ海峡を経由した中東からの石油輸入依存度が低く、エネルギー供給や原油由来の一部の石油化学品に関しても多様な調達網があり、対応力が高いとする声もある。一方、物流遅延やコスト上昇は継続しており、トルコの国内市場が低迷する中、海外展開や規制対応が重要となっている。在トルコ日系企業の中には、高付加価値分野や農業向け提案でトルコにおける商機拡大を目指す企業もある。
そこでジェトロは、トルコにおける直近のビジネス動向や企業の対応を把握するため、在トルコ日系企業A社に対し、中東情勢の影響や現在の状況、今後の見通しについて話を聞いた(取材日:2026年6月3日)。
- 質問:
- トルコでの取り組みは。
- 答え:
- 化学品を中心とした調達および在庫販売などを行っている。トルコ進出当初は日系企業向けの調達業務を目的としていたが、近年はトルコ企業や在トルコ欧州系企業など、現地企業向けにも事業を拡大している。
- 質問:
- トルコで事業を行うメリットと課題は。
- 答え:
- 1つ目のメリットは、地政学的なハブ拠点であるとともに、国内市場に一定の需要がある点が挙げられる。現在、事業のメインはトルコへの輸入、国内販売で、日系企業向けは約半分である。現地企業は日本製品を高品質と認識している一方、依然として価格重視の傾向が強く、より安価な製品を選定するケースが多い。そのため、日本、中国、韓国、インドなどアジア地域からのベストなパートナー、商材選定が非常に重要である。特に韓国は、トルコとの自由貿易協定(FTA)により、輸入関税、追加関税なしで仕入れが可能で、コスト面で優位性がある。2つ目は、地の利を生かしたアフリカへのアクセスのしやすさだ。現在、ターゲット国の選定や具体的な需要の把握といった市場調査を行っている段階であるが、市場開拓を行いやすい拠点であると考えている。
- 一方、課題もいくつかある。1つ目は日系商社として、どのように現地代理店と差別化を図り、市場や顧客に受け入れてもらえる提案をし、関係構築できるかである。2つ目に、トルコにおける日系企業の進出数がトルコの人口規模を考えると少ないと感じている。結果として、アジアで成り立つようなビジネスモデルがそのまま適用できない場面がある。最後に3つ目は、トルコリラの変動や高インフレの影響を考慮しながら、どのように収益を確保できるかだ。対策の1つとして、トルコ国内ビジネスにおいても外貨決済を行うことなどがある。
- 質問:
- 今回の中東情勢悪化による貴社や取引先企業への影響は。
- 答え:
- 一定の影響は出ているが、トルコでは製品や原材料が入手できず、操業に重大な支障をきたすような状況には至っていない。取引先や競合企業の状況を見ると、欧州からの調達比率が高いこともあり、価格上昇や供給面での影響はアジアでの調達状況に比べ、トルコでは限定的であると認識している。また、塗料製品などについては、日本で見られるような深刻な商品不足やサプライチェーンの目詰まりは発生しておらず、その対応力には一定の強さを感じている。
- 質問:
- 物流面、コスト面への影響は。また、その要因は。
- 答え:
- 影響は明確に出ている。物流面では、調達に1、2カ月程度の遅延が発生しており、現在はその遅延を織り込んだスケジュールを提示せざるを得ない状況となっている。特に3、4月頃は混乱が大きく、スケジュールすら確定できないケースもあったが、5月以降は状況が徐々に改善し、遅延を前提とした管理が可能になっている。その要因として、日本を含むアジア諸国では原油やナフサの調達を中東に依存するケースが多いため、今回のホルムズ海峡封鎖の影響が大きいとみている。運賃、国内物流費、その他費用などのコスト面では、製品ごとの差はあるものの、小さいものでも10%程度、大きいものでは30~40%程度上昇している。不透明な先行きのため、その分も織り込まれていると考えられるものについては、6月以降、順次値戻し交渉が必要とみている。
- 質問:
- ホルムズ海峡封鎖に対し、輸送ルートの変更や代替手段の確保は。
- 答え:
- 現状、日本や東南アジアから輸送されるコンテナ貨物は既に南アフリカ共和国の喜望峰経由で輸送されているため、大きなルート変更は発生していない。
- 質問:
- ホルムズ海峡の封鎖や中東地域の空域閉鎖により、輸送にはどの程度の遅延が発生しているか。
- 答え:
- 当社の事業において、航空輸送は主にサンプル品の輸送に限定して利用しているため、大きな影響は出ていない。一方、海上輸送による商品調達に関しては、1、2カ月程度の遅延が発生している。現在はこの遅延を前提とした運用が必要となっている状況だ。
- 質問:
- サプライチェーン全体を見たとき、取引先における稼働停止リスクはどの程度あるか。
- 答え:
- 把握している限りでは、トルコの現地企業において深刻な供給不足は発生しておらず、稼働が維持されていると認識している。その背景としては、欧州からの調達比率が高く、ホルムズ海峡の影響を相対的に受けにくい点があると考えられる。実際、日本では供給不足により一部の化学製品が入手できず、価格は二の次で、製品確保を最優先とする状況も断続的に見られたが、トルコでは現時点までそのような混乱は発生していない。このことから、欧州調達を中心とするサプライチェーンは、価格面・供給面のいずれにおいても、アジア依存のケースと比較して影響が相対的に小さいと認識している。
- 質問:
- 今後、情勢安定化後のトルコの物流や市場環境をどのように見ているか。
- 答え:
- 化学品に関しては、今後、供給過剰気味の状態にある中国から、より安価な製品供給が増えることを想定している。ただし、価格については短期間で大きく下がるとは考えにくい。加えて、トルコ国内全体の景気を踏まえても、仮に価格が下がったとしても、それがそのまま需要の回復や拡大に直結するとは限らないと見ている。実際、化学品市場は国内だけでは事業拡大が当面厳しいとの声が多く聞かれており、北アフリカや欧州、ロシアなどの海外市場の開拓を志向する動きがある。一方で、法対応はますます厳格化される。欧州向けはEUの「化学物質の登録、評価、認可および制限(REACH)に関する規則」への対応は必須であるとともに、2026年夏から始まるEUの包装・包装廃棄物規則(PPWR)への対応も重要だ。また、トルコ国内においても、2026年秋からトルコREACH(通称KKDIK)の登録、対応が本格化される予定だ。
- 質問:
- 中東情勢に関連した今後の見通しや戦略は。
- 答え:
- 今後、機能性材料や高付加価値材料の分野において、トルコ政府がどの程度の規模や投資額で産業の高度化を進めていくのかに注目している。こうした動向を的確に捉え、新たな商機の創出につなげていきたい。また、トルコは農業大国でもあり、市場トレンドをしっかりと把握し、そのニーズに即した提案を行っていくことも重要な戦略の1つになると見ている。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ) - 日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。





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