分断危機下の最適なグローバルサプライチェーンとは揺らぐ政策環境と半導体サプライチェーン
世界の半導体産業(2)
2026年5月22日
近年、半導体サプライチェーンは、地政学リスクの高まりや各国の産業・通商政策を背景に、大きな転換点にあると指摘されている。特に米中摩擦の激化や新型コロナウイルス禍(以降、コロナ禍)を経て、「半導体サプライチェーンは急速に分断されつつある」「生産の地理的再編が進んでいる」との見方が目立つようになった。本シリーズは、こうした認識が実態をどこまで反映しているのかを、貿易統計を手掛かりに検証することを目的とする。(1)の「貿易統計から見る堅固な国際分業体制」では、半導体産業の国際分業体制が短期的には堅持されていることを確認した。本稿では、主要国・地域の産業政策や米中摩擦、第2次トランプ政権下の動きを踏まえ、半導体サプライチェーンがどのように変容しつつあるのか、また今後どのような変化が生じ得るのかを考察する。
主要国・地域の産業政策が促す半導体関連投資
コロナ禍における半導体不足は、従来の国際分業に基づくサプライチェーンが効率性と引き換えに大きな脆弱(ぜいじゃく)性を抱えていたことを浮き彫りにした。これを受け、主要国・地域では半導体を経済安全保障上の戦略物資として再定義する動きが加速し、製造能力の確保やサプライチェーンの強靱(きょうじん)化を目的とした産業政策が相次いで打ち出された(ジェトロ世界貿易投資報告 2023年版〔第Ⅱ章第2節
(2.2MB)〕参照)。
とりわけ米国、EU、日本では多額の補助金を中核とする支援策が導入された。米国は設計力や半導体需要を有しながらも国内製造比率が低下していたことを課題と捉え、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)の下で、先端ロジックやメモリー量産能力の国内回帰を促す誘致型政策を採用した。EUの欧州半導体法は、最先端競争よりも自動車・産業分野で不可欠なアナログ/パワー半導体の安定供給確保を重視し、域内製造能力の底上げに政策の重点を置いている。日本も半導体の国内生産能力を強化することを目的に、外資誘致に加え、政府主導で立ち上げたラピダスを中心に、先端プロセスの量産に挑む。表1は米国、EU、日本の支援を受けた主な半導体メーカーの投資動向をまとめたものだ。
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企業名 (本社所在地) |
主な投資先 | 投資概要 | 公的支援 |
|---|---|---|---|
| 台湾積体電路製造(TSMC)(台湾) | 米国 | 2020年5月以降、米国アリゾナ州での投資計画を段階的に拡張してきた。2025年3月の発表をもって、総投資額は1,650億ドルに。6つの最先端ロジック半導体製造工場と、2つの先端パッケージング施設、研究開発センターが稼働予定(第1工場では量産開始済み)。 | CHIPSプラス法に基づく支援 |
| 日本 | 日本(熊本県)では、TSMC主導の子会社ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)が2021年に設立され、2つのロジック半導体製造工場を新設(第1工場では量産開始済み)。建設中の第2工場では3nm(ナノメートル)プロセスを導入する予定であり、この方針は2026年2月に報じられた。 | 日本政府の支援 | |
| 欧州(ドイツ) | ドイツ(ドレスデン)では、TSMC主導の子会社ヨーロピアン・セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(ESMC)が2023年に設立され、自動車・産業向け半導体工場の建設を進めている。2027年末の生産開始を目指す。 | 欧州半導体法に基づくドイツ政府の支援 | |
| サムスン電子(韓国) | 米国 | 2024年12月、370億ドル超を投じてテキサス州テイラーに2つの先端ロジック工場と1つの研究開発拠点を新設し、オースティンの既存施設も拡張すると発表。テイラーの第1工場は2026年末に稼働開始予定と報じられている。 | CHIPSプラス法に基づく支援 |
| SKハイニックス(韓国) | 米国 | 2024年4月、約38億7,000万ドルを投じてインディアナ州に先端パッケージングおよび研究開発施設を建設すると発表した。2026年に建設を開始し、2028年後半の量産開始を予定している。 | CHIPSプラス法に基づく支援 |
| グローバルファウンドリーズ(米国、注1) | 米国 | 2024年、2025年と段階的に投資拡大を発表。ニューヨーク州とバーモント州の製造工場・先端パッケージング施設拡張や高度化に総額160億ドルを投資する。アップルやスペースX、AMD、クアルコム、NXPセミコンダクターズなどの企業が提携し、米国内への半導体製造回帰を支援する。 | CHIPSプラス法に基づく支援 |
| インテル(米国) | 米国 | 2024年11月、アリゾナ州、オハイオ州、ニューメキシコ州、オレゴン州で総額1,000億ドル超の投資を推進すると発表した。最先端ロジックの開発・設計から前工程・後工程まで国内完結させることを志向している。このうちオハイオ州のみ既存拠点の拡張や高度化ではなく、新規拠点の立ち上げとなる(建設中)。 | CHIPSプラス法に基づく支援 |
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欧州(ドイツ、ポーランド) ※欧州の計画は撤回済み |
ドイツ(マクデブルク)での先端工場建設、ポーランド(ヴロツワフ)での後工程拠点整備の計画があったが、2024年以降相次いで延期され、2025年には正式に撤回された(注2)。 | 欧州半導体法に基づくドイツ政府・ポーランド政府の支援 | |
| マイクロン・テクノロジー(米国) | 米国 | 米国では、アイダホ州・ニューヨーク州・バージニア州でのメモリー製造工場新設・高度化および先端パッケージング・研究開発への投資を進めている。2022年以降段階的に表明・拡張されてきた米国内の投資計画は、累計で2,000億ドル規模。 | CHIPSプラス法に基づく支援 |
| 日本 | 日本(東広島市)では、人工知能(AI)向け次世代メモリー工場新設に向け1兆5,000億円を投資する。 | 日本政府の支援 | |
| テキサス・インスツルメンツ(米国) | 米国 | 2025年6月、テキサス州とユタ州の7つの製造工場に対し、総額600億ドル以上を投資することを発表した。成熟ノード中心の国内供給能力を強化する。 | CHIPSプラス法に基づく支援 |
| ラピダス(日本) | 日本 | 日本政府主導で2022年に設立された新興ファウンドリー。2027年の2nm量産開始を目標に北海道千歳市に最先端工場を建設。前工程・後工程を含む「国内完結型」先端サプライチェーン構築を目指す。 | 日本政府の支援 |
| キオクシアホールディングス(日本) | 日本 | 2024年2月、岩手工場(北上市)や四日市工場でのNANDフラッシュメモリー製造に7,200億円超を投資すると発表した。 | 日本政府の支援 |
| STマイクロエレクトロニクス(スイス) | 欧州(フランス、イタリア) |
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欧州半導体法に基づくフランス政府・イタリア政府の支援 |
| インフィニオン・テクノロジーズ(ドイツ) | 欧州(ドイツ) | ドイツ(ドレスデン)に新たなアナログ/ミックスドシグナルおよびパワー半導体の製造工場を建設する。2023年5月に着工し、2026年に生産開始予定。 | 欧州半導体法に基づくドイツ政府の支援 |
注1:グローバルファウンドリーズはアラブ首長国連邦アブダビ首長国の政府系ファンドの傘下にあるが、本社は米国に置かれている。
注2:インテルの欧州計画撤回は、ファウンドリー部門での顧客獲得に難航したことや需要の減速、過剰投資による財務悪化などが背景にある。
出所:各社プレスリリース、報道などからジェトロ作成
これらの動きは短期的に貿易構造を大きく変えるものではないが、量産が本格化すれば、中長期的には主要な半導体の供給元や貿易フローに変化をもたらす可能性をはらんでいる。他方で、現在の半導体需要を牽引している人工知能(AI)や高性能コンピューティング(HPC)向けの先端半導体製造については、台湾・韓国依存が継続するものとみられる。TSMCは米国向けをはじめ大規模な対外投資を進める一方、台湾でも新竹、高雄、台中で工場拡張を同時に進め、最先端から次世代プロセスまでの量産能力を台湾内に集中的に整備している。韓国では、サムスン電子とSKハイニックスが龍仁を中心とする半導体クラスターを形成し、次世代メモリーや先端ロジックといった中核分野の製造拠点を国内に維持・拡張している。
米中摩擦の深化と対中半導体規制の強化
さらに、半導体サプライチェーンの今後を考える上で見逃せないのが米中摩擦による影響だ。米国は2010年代後半以降、中国の半導体産業育成が軍事・安全保障と結び付いているとの認識を強め、ZTE(中興通訊)や華為技術(ファーウェイ)など特定企業を対象に輸出管理を強化してきた。さらに、バイデン前政権下でCHIPSプラス法によって自国の産業基盤を固めるのと同時に、中国に対する締め付けを一段階引き上げた(注1)。2022年10月、米商務省産業安全保障局(BIS)は、先端半導体および半導体製造装置の対中輸出を大幅に制限する規則を発表・即時施行(2022年10月11日付ビジネス短信参照)。個別企業を名指ししたものから包括的な規制に変わり、米国の対中強硬路線が一層明確になった出来事だった。その後も、米国は制度の実効性強化と抜け穴封鎖を目的に段階的な見直しを継続している(注2)。
この2022年10月以降の米国による対中輸出管理強化の影響は、半導体製造装置の貿易フローに一定程度反映されている。規制対象品目の中核をなす「半導体デバイスまたは集積回路の製造用装置」(HS8486.20)(注3)について、中国の輸入動向を確認する(図)。主要な半導体製造装置メーカーを擁するオランダ、日本、米国からの輸入額シェアを見ると、米国が2022年後半から低下を続けていることが分かる。
注:中国の輸入統計から3カ月後方移動平均を算出。
出所:Global Trade Atlas(S&P Global)からジェトロ 作成
なお、日本とオランダも米国に追随するかたちで半導体製造装置の輸出管理を強化している(2023年9月8日付地域・分析レポート参照)。日本は2023年7月に外国為替および外国貿易法(外為法)を改正し、先端半導体の製造装置など23項目を輸出管理の対象に加えた。オランダは同年9月から輸出管理を強化している。ただし、米国政府・議会の一部からは同盟国の輸出管理措置について不十分と問題視する声も挙がっている(2025年8月6日付地域・分析レポート参照)。なお、米国商務省は2026年4月、複数の半導体製造装置メーカーに対し、中国の半導体大手に対する出荷を停止するよう要請したとロイターが報じている(ロイターウェブサイト参照
)。
図に目を戻すと、2023年後半以降、中国のHS8486.20の輸入総額は大きく増加し、2022年以前を上回る水準で推移している。特にオランダからの輸入増加が相対的に顕著だ。この背景には、複合的な要因があると考えられる。例えば、米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートでは、中国企業による規制対象外品目の購入増加が指摘されている(注4)。同レポートによると、中国企業は「本来であれば(規制が導入されなければ)購入していたであろう先端の製造装置の購入を控え、代わりに旧式の装置をより多く購入している」という。これによって、中国が元来強みを持つ成熟プロセスにおいて、さらなる生産能力強化につなげる狙いが見て取れる。それだけでなく、規制対象外の装置を用いて先端プロセス開発を進めようとしている可能性も示唆されている。また、CSISのレポートでは、中国企業が米国などの輸出管理強化を見越して、国外からの装置購入を前倒しで行った「駆け込み需要」も指摘されている。
トランプ政権下で対中姿勢は継続、手段は変化
第2次トランプ政権(2025年1月発足)下でも、対中半導体輸出規制の基本的枠組みが大きく転換したとは言い難い。先端半導体、半導体製造装置、AI向け計算資源を中国の軍事・安全保障用途から切り離すという方針は、バイデン前政権期に形成された制度基盤が引き継がれている。一方で、その運用姿勢と政策手段には変化がみられ、トランプ政権は同盟国や米国企業への影響をより意識し、規制を選別的・実利的に用いる傾向を強めた。
その象徴が、2025年5月の「AI拡散規則」の撤回の表明だ(注5)。同規則は、中国のみならず第三国も含めて先端AI半導体の利用を広く制限する内容だったが、トランプ政権は米国企業の競争力や同盟関係への悪影響を理由に施行直前で撤回を表明した。ただし、対中輸出規制そのものが後退したわけではなく、中国向けAI半導体は引き続き個別許可制に置かれ、ファーウェイ製AI半導体の第三国での利用についても輸出管理規則(EAR)違反となり得るとの解釈が示されるなど、対中包囲の様相は実質的に維持されている。第2次トランプ政権下で発動・発表された主要な半導体関連の措置・制度については表2を参照されたい。
さらに同政権下では、輸出管理が通商関係における手札の1つとして位置付けられる色合いが強まっている。2025年夏以降、エヌビディアやAMDの中国向け仕様のAI半導体について輸出が再許可される一方、政府への手数料支払いが課される仕組みが導入された。こうした動きを受け、対中AI半導体輸出を巡るスタンスは時期や製品ごとに変動し、外形的には不透明さや一貫性の欠如として映る側面もある。他方で、これは輸出管理を含むさまざまな措置が「取引的(transactional)」(注6)に運用されるトランプ政権の特徴を示しているといえよう。
もっとも、第2次トランプ政権の対中強硬姿勢が最も明確に表れているのは輸出管理ではなく関税政策だ。トランプ大統領は関税を経済安全保障と産業政策の中核に据えており、2026年1月には1962年通商拡大法232条に基づき、先端AI半導体などに25%の追加関税を発動した。米国内の生産能力強化などに資する用途については例外が認められており、関税を通じて生産立地を米国に引き寄せる意図が明確に見て取れる。さらに、将来的な232条半導体関税の対象品目拡大の可能性もあるほか、1974年通商法301条に基づく対中追加関税も第1次トランプ政権下の2018年以降賦課され続けており、関税は中長期的な圧力手段として位置付けられている。
このように、第2次トランプ政権下では、対中規制の枠組みを維持しつつ、関税を含む通商政策の位置付けが相対的に高まっている。CHIPSプラス法によって進められてきた米国内への製造回帰やサプライチェーン強靭化の動きを踏まえると、今後の関税措置は、こうした流れを補完・後押しする政策手段として機能する可能性がある。その場合、半導体サプライチェーンは、米国市場へのアクセスと対中規制への対応が絡み合う中で、段階的に再編されていくことが想定される。
| 時期 | 政策手段 | 措置・制度 | 主な内容(半導体との関係) | ビジネス短信 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年2月 | 対内投資規制 | 「米国第一の投資政策」発表 | 対米外国投資委員会(CFIUS)に対し、中国関係者による投資の厳格審査を指示した。半導体を含む戦略分野で実質遮断方向。 | 2025年2月25日付ビジネス短信参照 |
| 2025年4月 | 輸出管理 | 中国向けAI半導体審査の一時厳格化 | エヌビディアの「H20」など、中国向け仕様品を含め許可運用を一時的に厳格化した。 | 2025年4月17日付ビジネス短信参照 |
| 2025年4月 | 追加関税 | 半導体輸入に対する232条調査を開始 | 1962年通商拡大法232条に基づき、半導体と医薬品の輸入に関する調査を開始した。調査の結果、米国の国家安全保障に脅威を及ぼすと商務長官が判断した場合、大統領が追加関税などの措置を発動する可能性がある。 | 2025年4月15日付ビジネス短信参照 |
| 2025年5月 | 輸出管理(一部緩和) | 「AI拡散規則」の撤回 | バイデン前政権下で発表されたAI半導体の包括的な輸出規制を施行直前で撤回した。 | 2025年5月15日付ビジネス短信参照 |
| 2025年5月 | 輸出管理 | ファーウェイの「Ascend」系半導体への注意喚起 | 「AI拡散規則」の撤回と同時に、ファーウェイ製AI半導体の使用については、第三国でもEAR違反となり得ると明示した。 | 2025年5月15日付ビジネス短信参照 |
| 2025年7~8月 | 輸出管理(一部緩和) | 中国向けAI半導体の限定的再許可 | 2025年4月に輸出管理が強化されていたエヌビディア・AMDの中国向け設計品について、輸出許可(ライセンス)申請が承認されると報じられた(7月)。米主要メディアによると、8月8日にライセンスの発給が開始された。 | 2025年7月18日付ビジネス短信参照 |
| 2025年7月 | 輸出管理(一部緩和)+財政措置 | 中国向けAI半導体輸出に「政府向け手数料」導入 | エヌビディア・AMDの中国向け設計品輸出に際し、ライセンス取得にあたり販売収益の15%を米政府に支払うことを条件化。 | 2025年8月18日付ビジネス短信参照 |
| 2025年8月 | 輸出管理 | インテルなどの中国拠点向け半導体製造装置などの輸出管理を強化 | インテル、サムスン電子、SKハイニックスの中国拠点向けの半導体製造装置・関連技術の輸出管理強化を発表した。 | 2025年9月2日付ビジネス短信参照 |
| 2025年12月 | 対外投資規制 | 「2026年度国防授権法(NDAA)」成立 | NDAAの中で、バイデン前政権末期に大統領令で定められた対外投資規制プログラム(OISP)を法律として明確化した。半導体などへの対外投資規制を中長期制度に格上げ。 | 2025年12月24日付ビジネス短信参照 |
| 2025年12月 | 追加関税 | 対中半導体追加関税を発表(猶予付き) | 1974年通商法301条に基づく、中国の半導体産業の調査結果を発表。中国からの半導体などの輸入に対して、実質的に2027年6月から追加関税を課すことを定めた。 | 2025年12月24日付ビジネス短信参照 |
| 2026年1月 | 追加関税 | 一部の半導体・装置への追加関税発動 | 1962年通商拡大法232条に基づき、先端AI半導体などに25%の追加関税を発動。ただし、「商務長官が米国の技術サプライチェーンもしくは半導体派生製品の国内製造能力の強化に寄与すると判断する」場合は対象外となる。 今後、広範な半導体関連品目に追加関税を課す可能性が示唆されている。 | 2026年1月15日付ビジネス短信参照 |
| 2026年1月 | 輸出管理(一部緩和) | 中国・マカオへのAI半導体輸出管理を緩和 | エヌビディアの「H200」、その同等品、これらより低性能の半導体について、中国・マカオへのライセンス申請の審査方針を「原則不許可(presumption of denial)」から「個別審査(case-by-case review)」に変更する(注)。 | 2026年1月15日付ビジネス短信参照 |
注:ただし、ライセンス申請に当たっては要件が定められている。詳細は「ビジネス短信」欄のリンク先を参照。
出所:ジェトロ「ビジネス短信」、米国政府発表からジェトロ作成
地政学と産業政策・通商政策が左右する半導体サプライチェーン
本シリーズでは、貿易統計を手掛かりに、半導体サプライチェーンが実際にどの程度変化しているのかを検討してきた。現時点では、各国の産業政策や通商措置が相次ぐ一方で、貿易フローに如実に表れるサプライチェーンの分断や地理的再編は限定的であることが確認できた。
しかし、サプライチェーンに影響を及ぼし得る要因は多層化している。米国の対中半導体規制に呼応するかたちで、中国がレアアースや重要鉱物の輸出規制を強化する動きがみられるほか、中東情勢の不安定化はエネルギー供給や物流網を通じて、間接的に半導体産業にも波及する可能性をはらむ。
また産業政策の観点では、米国やEU、日本だけでなく、ASEAN諸国やインドなどでも政策主導で半導体製造能力の強化が進んでいる。各国・地域がそれぞれの強みを生かして参入を図る中で、プレーヤーの裾野は広がり、サプライチェーンは単純な米中間の分断ではなく、より多極的な様相を呈しつつある。
こうした点を踏まえると、現在観測される変化はあくまで過渡的な段階にとどまっており、今後、地政学リスクや産業・通商政策の組み合わせ次第では、半導体サプライチェーンがより大きく変容する局面を迎える可能性も否定できない。引き続き、政策動向と実際の貿易・投資の動きを中長期的な視点で注視する必要があるだろう。
- 注1:
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CHIPSプラス法に関しても、ガードレール条項において、補助金によって強化された技術や生産能力が競合国に波及することを防ぐ仕組みが設けられた。補助金の受給者が一定期間(原則10年間)、中国を含む「懸念国」において先端半導体の製造能力を新設・増強することなどが禁止・制限された(2023年9月25日付ビジネス短信参照)。
- 注2:
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バイデン前政権下での一連の対中半導体輸出管理強化の動きは、2022年10月11日付、2023年10月18日付、2024年4月8日付、2024年12月3日付ビジネス短信参照。
- 注3:
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ただし、HS6桁レベルの貿易統計では規制対象品と非対象品を厳密に区別することが難しく、また商流や契約形態の変更が計上のされ方に影響するため、個別政策の効果を直接的に読み取るには一定の制約がある点には留意が必要だ。
- 注4:
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CSIS “The True Impact of Allied Export Controls on the U.S. and Chinese Semiconductor Manufacturing Equipment Industries
”(2024年11月26日)参照。 - 注5:
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BISは、AI拡散規則の撤回を官報で正式に公示し、代替規則を公表する意向を表明しているが、2026年4月末時点で、ジェトロはそれらの公示や公表を確認できていない。
- 注6:
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ケビン・ウルフ氏(元米国商務省次官補)が台湾のシンクタンクによるインタビュー記事の中で指摘しているほか(DSETウェブサイト参照
)、CSIS上級研究員もモンターニュ研究所によるインタビュー記事で言及している(モンターニュ研究所ウェブサイト参照
)。
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ) - 2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。





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