分断危機下の最適なグローバルサプライチェーンとは貿易統計から見る堅固な国際分業体制
世界の半導体産業(1)

2026年5月20日

半導体産業は、高度に専門化された工程が国境を越えて結びつくことで成立してきた。回路設計から製造工程(前工程、後工程)まで、特定の国や企業が全てを担うのではなく、技術力、人件費、産業集積といった比較優位に応じて国際分業が進展している。この分業体制は、東アジア、米国、欧州を中核に、複雑なサプライチェーンと貿易フローを形成してきた。

一方で近年、米中摩擦の激化や地政学リスクの高まり、新型コロナウイルス禍(以降、コロナ禍)に端を発した供給制約などを背景に、この構造が揺らぎつつあるとの見方も強い。本シリーズでは、実際にサプライチェーンは変化しているのかを探るため、貿易統計からアプローチする。前編となる本稿ではまず、半導体産業の国際分業体制をマクロな視点から概観し、製造工程の地域分布と貿易統計からその基本構造を整理する。その上で、コロナ禍前後の貿易フローの変化を確認する。

国際分業体制が支える半導体産業

半導体産業では、回路設計、プロセス開発・研究開発、前工程(ウエハー製造)、後工程(組み立て・テスト・パッケージング)といった工程が国際的に分業されており、国境を越えてあらゆる中間財や製造装置、設計データなどが複雑に移動する。図1は半導体産業のアクティビティ(付加価値創出が行われる工程・機能の区分)別の付加価値を国・地域のシェアで示したものだ。これを見ると、アクティビティによって強みを有する国・地域は異なるものの、全てのアクティビティにおいて米国、東アジア(中国、台湾、韓国、日本)、欧州の役割が非常に大きいことが分かる。とりわけ製造工程(前工程・後工程)では、アジア地域が中核に位置することが分かる。前工程(ウエハー製造)では中国(27%)、台湾(18%)、韓国(16%)、日本(15%)の4カ国・地域で全体の8割弱の生産能力を占めている。後工程の生産能力は施設の所在地ベースで、中国(28%)が首位、台湾(20%)がこれに続く。その他(26%)のシェアも大きいが、ほとんどが東南アジア諸国とインドだと考えられる。特にマレーシアやフィリピン、シンガポール、タイなどに垂直統合型デバイスメーカー(IDM)(注1) の後工程施設や、後工程を専門で請け負うOSAT企業が多く集積している。こうした地域ごとの役割分担は長年を経て構築され、国際分業体制の堅牢さを支える基盤となっている。

図1:2024年の半導体産業の付加価値分布(アクティビティ、国・地域別)
2024年の半導体産業における付加価値の国・地域別分布を示した横向きの100%積み上げ棒グラフで、単位はパーセント。アクティビティ別に8本の棒が並び、各棒は左から米国、中国、台湾、韓国、日本、欧州、その他の順で色分けされている。IP・EDAでは米国が66%と過半を占め、欧州が29%で続き、中国と台湾は各2%、日本は1%、韓国とその他はほぼ0%である。次の3つが設計を表す。ロジックの設計では米国が73%と突出して高く、台湾が8%、中国が6%、欧州が7%、日本が3%、韓国が2%、その他が1%である。メモリーの設計では韓国が63%で最大、米国が22%、中国と日本が各6%、台湾が2%、欧州が1%、その他は0%である。ディスクリート・アナログなどの設計では米国が38%、日本が20%、欧州が19%、中国が14%、台湾と韓国が各5%である。製造装置では米国が41%、日本と欧州が各24%、中国が5%、韓国が2%、その他が4%である。材料では台湾が30%、中国が20%、韓国が15%、日本が10%、その他が10%、米国が8%、欧州が7%である。ウエハー製造(前工程)では中国が27%、台湾が18%、韓国が16%、日本が15%、米国が10%、欧州が8%、その他が6%である。組み立て・テスト・パッケージング(後工程)では中国が28%、その他地域が26%、台湾が20%、韓国が9%、日本が8%、欧州が7%、米国が2%である。

注1:IPは設計に必要な回路ブロック、EDAは電子設計自動化を指す。
注2:EDA、設計、装置、材料については、企業の売上高および本社所在地に基づく。前工程・後工程については、設備の稼働能力および施設の所在地に基づく。
出所:米国半導体工業会(SIA)(原 出所はIPnest、Wolfe Research、Gartner、SEMI、BCG analysis) のデータを基にジェトロ作成

集積回路(IC)、高性能化に伴い輸出額は右肩上がり

前述の半導体製造工程におけるアジア依存の高さは、貿易統計を見ても明らかだ。ここからは、半導体デバイスの貿易動向を概観する。

本稿では、半導体デバイスを貿易統計で捉えるために、中核的な品目として「HS8541」と「HS8542」を取り上げる。HS8541は、ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、LEDなどの個別半導体素子や光電素子、圧電結晶を分類する項だ。基本的に単一機能を果たす素子(以降、ディスクリート半導体)が対象となる。これに対しHS8542は、半導体基板上に多数の素子を集積し、演算・制御・記憶など複数機能を一体化したICに当たる。つまり、単体素子か、回路として集積されたものかが両者の本質的な違いだ。いずれも判断基準は「電子的機能が完成しているか」によるため、完成品としての半導体デバイスだけでなく、前工程完了時点や後工程の途中段階など、さまざまな状態の物品が同じHSコードに分類される点は留意が必要だ(注2)

前述を踏まえ、まずは半導体デバイスの輸出動向を長期的推移から確認する。図2はディスクリート半導体とICの輸出総額と輸出国・地域のシェアを推移で示したものだ。まず折れ線グラフに注目すると、ICはディスクリート半導体に比べて圧倒的に金額規模が大きく、近年の伸びも顕著であることが分かる。この背景には、(1)演算・制御・通信・記憶といった高度な機能がICに集約され、付加価値が非常に高いこと、(2)スマートフォン、データセンター、車載・人工知能(AI)向けなどで高性能・高集積ICへの需要が急拡大しており、数量だけでなく単価も上昇していることがある。一方、ディスクリート半導体は用途が限定的で単価も相対的に低く、金額規模の差として表れている。

棒グラフに目を移し、ディスクリート半導体とICを合わせた半導体デバイス全体の主要な輸出国・地域を見ると、図1で見た前工程・後工程集積地が上位に名を連ねることが分かる。なお、香港については同地域内での半導体製造能力は極めて限定的だ。輸出の実態はほぼ全てが、中国本土や周辺地域から集積された半導体の再輸出だ。輸出先は2024年の輸出額ベースで8割強が中国向けであり、低関税・制度的中立性・航空貨物網を背景に、香港は中国本土と世界市場の取引を結ぶ商流ハブとなっている。

図2:半導体デバイス(ディスクリート半導体・集積回路)の輸出総額と
輸出国・地域シェア推移
2005年から2024年までの半導体デバイス(ディスクリート半導体および集積回路)の世界輸出動向を示した複合グラフ。横軸は年(2005年から2024年)、左縦軸は輸出総額(10億ドル)、右縦軸は世界輸出額に占める国・地域別シェア(%)を表す。折れ線グラフは輸出総額を示し、オレンジ色の折れ線がディスクリート半導体(HS8541)、赤色の折れ線が集積回路(HS8542)である。ディスクリート半導体の輸出総額は2005年の約548億ドルから増減を繰り返し、2022年に約1,819億ドルでピークを迎えた後、2024年には約1,494億ドルに低下している。集積回路の輸出総額は長期的に拡大傾向にあり、2005年の約3,132億ドルから2022年に約1兆1,093億ドルまで増加し、2024年は約1兆916億ドルとなっている。棒グラフは積み上げ表示で、ディスクリート半導体と集積回路を合算した輸出額の世界計に占める国・地域別シェアを示す。対象は2024年時点の上位8カ国・地域(香港、中国、台湾、シンガポール、韓国、マレーシア、米国、日本)と「その他」である。香港と中国のシェアは2000年代後半以降拡大し、2024年には香港が約19%、中国が約16.8%を占める。台湾は期間を通じておおむね1割強で推移し、2024年は約13.6%である。シンガポールは2000年代には15%前後だったが、徐々に低下し、2024年は約10.5%となっている。韓国は2017年以降シェアを高め、2024年は約10%である。米国と日本のシェアは長期的に低下傾向にあり、2024年は米国が約4.6%、日本が約3.2%である。「その他」地域の合計は2005年の約26%から2024年には約15%まで低下している。

注1:折れ線グラフはHS8541(ディスクリート半導体)、HS8542(集積回路)それぞれの輸出総額。
注2:棒グラフは、HS8541+8542の輸出額世界計に占める各国・地域の輸出額(HS8541+8542)シェア。2024年の上位8カ国・地域とその他を掲載。
出所:ジェトロ推計値(Global Trade Atlasから作成)から作成

中国内製化とサプライチェーン分散が進むディスクリート半導体

ここまでは、半導体デバイスの貿易について、長期的な推移を確認した。次に、主要な輸入国・地域と掛け合わせたマトリクスを用いて、コロナ禍前後の貿易フローの変化を見る。

表1はディスクリート半導体について、主要国・地域間の貿易フローが世界貿易額に占めるシェアを2019年から2024年の変化幅で示したものだ。凡例のとおり、寒色の網掛けは2019年のシェアから0.1ポイント以上の上昇、暖色は0.1ポイント以上の低下を表す。まず着目したいのは、東アジア域内での貿易が相対的に減退したことだ。特に日本、香港、韓国、台湾の中国向け輸出で、0.5ポイント前後のシェア低下がみられる。その結果中国の輸入シェアは2ポイント超低下している。これは、中国のディスクリート半導体における内製化の進展が最大の要因と考えられる。HS8541に含まれるパワー半導体や汎用(はんよう)素子は、最先端のICほど技術障壁が高くなく、中国企業が成熟プロセス(注3)を中心に生産能力を拡充してきた領域だ。同時に、中国は市場の多角化を進めてきた。中国の輸出シェアは2.74ポイント上昇している。東アジアやASEAN向けの輸出は相対的に減少する中、インドや中南米、EU、中東向けなどでシェアが上昇し、明暗分かれる結果になった。シェアが上昇した地域では、家電や再生可能エネルギー、自動車(特に電気自動車)などでディスクリート半導体需要が拡大しており、中国製品は価格競争力と供給安定性を強みに市場を拡大してきたとみられる。

中国に競り合うかたちで輸出シェアが伸びているのがASEAN(2.97ポイント増)だ。とりわけタイ、カンボジア、ベトナムから米国への輸出シェアが1ポイント前後上昇した。インドから米国への輸出も0.9ポイント増となっている。後工程の集積地としてASEANやインドの比重が高まってきたことを反映していると考えられる。さらに、米国が戦略的に「China+1」として中国以外からの調達を増やしてきた可能性も示唆される。表1では中国の対米輸出シェアはほぼ横ばいだが、このフローを取り出してみると、変化がより明らかになる。図3を見ると、2019年第1四半期を基準として、米国の輸入総額は時期によって金額の差はあれ、全体として増加傾向だ。他方、中国からの輸入額は減少を続けていることが分かる。

総じて、ディスクリート半導体は中国の内製化進展と輸出市場の多角化、ならびに米国主導のサプライチェーン再編を背景に、東アジア一極集中から多極・分散型の貿易構造へと移行しつつある分野だといえる。

図3:米国の世界および中国からのディスクリート半導体(HS8541)輸入額推移
米国のディスクリート半導体(HS8541)輸入額について、中国からの輸入と中国を除く世界からの輸入を比較した折れ線グラフ。2019年第1四半期を100とした指数で表示されている。横軸は2019年第1四半期から2025年第4四半期までの四半期、縦軸は輸入額指数で、0から400の範囲を示す。青色の折れ線が「中国からの輸入」、オレンジ色の折れ線が「世界(中国除く)からの輸入」を表す。中国からの輸入指数は、2019年を基準に上下しつつも長期的には低下傾向にある。2020年初頭には一時的に140前後まで上昇するが、2021年には70~80程度まで低下する。2022年から2023年にかけて一時的に120前後まで回復した後、再び下落し、2025年にはおおむね50~60台で推移している。一方、中国を除く世界からの輸入指数は全体として大きく増加している。2020年から2021年にかけて150前後で推移した後、2022年以降に急伸し、2023年から2024年にかけては300を超える水準に達する。2024年後半から2025年にかけては変動しつつ低下するが、それでも基準年の約1.7~2倍程度の水準を維持している。

注1:2019年第1四半期を100として指数化。
注2:米国の輸入統計ベース。
出所:Global Trade Atlas(S&P Global)からジェトロ 作成

既存サプライチェーン下で安定推移するIC貿易

続いて、ICの貿易フローに目を移したい。表2は表1と同様、主要国・地域間の貿易額が世界貿易額に占めるシェアについて、2019年から2024年の変化幅を示している。

輸入側を見ると、ベトナムやインド、米国の輸入が対世界貿易額シェアを1ポイント前後拡大した。ベトナムやインドでは、スマートフォンや電子機器の最終組み立て拠点化が進み、最終工程で大量に投入されるIC輸入が急増した(2026年5月14日付地域・分析レポート「ASEAN・インドに生産再編進むPC・スマホ」参照)。米国では、AI、データセンター、車載向けなど高付加価値ICの需要拡大により、台湾やマレーシアからの輸入が大きく伸びたとみられる。

次に注目したいのは、各国・地域の対中輸出だ。世界貿易額に占めるシェアが上昇した国・地域と低下した国・地域が明白に分かれている。韓国、日本、北米、EUでシェアが低下(減少幅は順に0.66ポイント、0.34ポイント、0.43ポイント、0.57ポイント)しているのに対し、香港、ASEANなどではシェアが上昇(上昇幅は順に0.75ポイント、0.73ポイント)。中国向け需要の増勢について、香港を経由する再輸出や、ASEANからの供給増が相対的に上回ったことが分かる。ASEANで後工程や最終製品への組み込みが拡大していることや、香港の再輸出ハブ機能の強化などを反映したものと考えられる。

このように、IC貿易には輸入国・地域の広がりや、対中輸出フローの変化がみられた。ただし、表1(ディスクリート半導体)では2ポイントを超えるシェアの変化も多数みられたのに対し、表2(IC)では変化のあったフローでも変化幅は1ポイント前後と限定的だ。つまり、ICはコロナ禍前後での貿易フローの変化が相対的に乏しいといえる。これは、HS8542に含まれる製品の先端~準先端プロセスへの依存度が高く、生産拠点やサプライヤーの代替が容易でないことを反映していると考えられる。また、スマートフォンやデータセンターといった主要用途で、既存のグローバルな生産・調達体制が維持されたまま需要が拡大したといえる。

半導体サプライチェーンはじわり変化も、国際分業体制の構図は維持

本稿では、半導体産業の国際分業体制を製造工程別の地域分布と貿易統計から整理し、半導体デバイスの貿易フローについて、コロナ禍前後の変化を概観した。その結果、半導体デバイスの貿易は一定の重心移動がみられたものの、明確な「分断」「再編」といった劇的な変化は確認できなかった。要因の1つに、HS8541やHS8542には前工程を完了した製品や後工程途中の製品などが混在し、単純な生産拠点移転が貿易フローの変化として表れにくい点が挙げられる。何より、半導体サプライチェーンは切り替えるのに相応の時間を要することが最大の要因といえよう。例えば前工程で新規に工場を建設する場合、量産立ち上げまで約3~5年の時間を要するとされる(注4)。中でも先端ICは高度な微細化技術、大規模な設備投資、設計力を必要とし、参入障壁が極めて高いため、量産と輸出を担う主要プレーヤーが固定化しやすい。半導体産業が長年かけて構築してきた複雑な国際分業体制は、容易には変化しないことが示唆される。

しかし、主要国・地域の産業政策や米中摩擦など、半導体産業を取り巻く環境変化は著しい。本稿で再確認した国際分業体制の堅牢さを考慮しても、こうした動きは、将来的に貿易フローの変化をもたらし得ると考えられる。そこで続編となる(2)では、従来の国際分業体制を揺るがす近年のイシューを取り上げ、今後の貿易構造の再編可能性を掘り下げていく。


注1:
米国のインテルや韓国のサムスン電子に代表される、半導体の開発・設計から製造、販売までの全工程を自社で一貫して行う企業。 本文に戻る
注2:
例えばHS8542では、回路形成(前工程)が完了し、独立したICとして機能するものであれば、ウエハー状のもの(ダイシング前)、ベアダイ(ウエハーから切り出されたダイ)、パッケージ品、テスト前後を問わず原則として該当する。回路形成や素子構造が未完成のシリコンインゴット、ブランクウエハー、フォトマスクなどは材料・製造資材の段階にとどまるため、HS8541およびHS8542には含まれない。また、半導体デバイス(ディスクリート半導体やIC)が基板や他部品と一体化し、モジュールや装置として認識される段階に至ると、半導体単体としての範囲を超えるため、HS8541・HS8542から外れ、別のHSコードに分類される。 本文に戻る
注3:
最先端ロジックICに用いられる数nm(ナノメートル)世代の微細加工技術ではなく、一般に回路線幅が28nm程度以上、あるいはそれ以前から量産実績のある比較的成熟した世代の製造工程を指す。パワー半導体や汎用素子では、微細化よりも信頼性や耐圧特性が重視され、このような工程が広く用いられている。 本文に戻る
注4:
マッキンゼーの分析では、工場建設から立ち上げまでに最大2年半、歩留まりの改善と量産の立ち上げまでに半年以上かかるとされている。「McKinsey on SemiconductorsPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.8MB)」(Number 8, November 2021)を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ)
2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。