分断危機下の最適なグローバルサプライチェーンとは家具サプライチェーンの見えない重心(世界)
2026年4月28日
家具と木材に関するサプライチェーンでは、パンデミック後の需要変動や関税政策により再編が進んだ。米国の家具輸入は、中国一極からベトナムを中心とするASEANへシフトする一方、中間財レベルでは中国由来の付加価値が残る構造だ。本稿では、米国の政策変化が世界の輸出構造をどう変え、企業が調達分散や物流最適化にどのように応じているかを、統計と事例で描く。焦点は、中国からの脱却ではなく、間接的な中国由来の付加価値が残る実態だ。
最大市場米国での地殻変動
世界の家具貿易は堅調な増加基調にある。需要動向を見るため、輸入額で家具(注1)の貿易を見ると、2024年までの10年間で世界の家具輸入は年平均2.9%で増加し、826億ドルに到達した。最大の輸入国である米国は、輸入総額の31.4%を占める圧倒的な市場で、次点のドイツ(シェア8.1%)を大きく引き離している。米国の輸入は、世界総額のスピードを上回る年平均4.7%で拡大したが、市場への供給構造には明確な転換が起こった。第1次トランプ政権下の2018年以降に導入された追加関税を主因に、米国の対中輸入シェアが大きく低下した一方、調達拠点がベトナムへ移転した様子が分かる(図1)。その後、2020年以降の新型コロナ禍における在宅需要拡大により家具需要はさらに拡大し、ベトナムがこれに対応した。転換した供給構造はそのまま定着し、2025年にはさらに中国との差を広げた。
出所:Global Trade Atlas(S&P Global)から作成
最大市場である米国での変化は、世界の家具輸出構造にも大きく影響する。2024年時点でもなお中国が最大の輸出国ではあるものの、その比重は2010年代後半にピークアウト。代わってベトナムが2018年頃から拡大し、明確な第2極に成長してきたことが分かる(図2)。また、イタリアやドイツなど欧州先進国が横ばい傾向を維持する中、ポーランドやメキシコといった新興国の漸増も特徴的だ。結果として「その他」の比率が縮小し、上位国への集中が進む一方、中国の一極依存が緩和されつつある。
出所:「Trade Map」(International Trade Centre)から作成
安全保障を背景とした家具への関税、部材にも波及
家具の貿易構造にさらなる変化をもたらすのが、米国による関税措置だ(表1)。2025年9月に米ドナルド・トランプ大統領は、木材・製品とその派生品に対し、1962年通商拡大法232条に基づく追加関税を課す大統領布告(Proclamation 10976)を発出し、木材や家具、キャビネット類への関税を設定(2025年10月1日付ビジネス短信参照)。木材・製材には10%、カウチ・ソファ・椅子などの布張り木製品には25%、キッチンキャビネット・洗面化粧台およびそれら部品には25%の関税が、10月14日以降賦課された。
| 時期 | 措置の概要 | 対象品目 | 関税率 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年7月22日 | 日米枠組み合意による関税枠設定 | 日本製品全般(家具含む) | 一律15% | 日本に対する予定関税25%を軽減 |
| 2025年9月29日 | 通商拡大法232条に基づく大統領布告 | 木材、家具、キャビネット | ソフトウッド10%、家具・キャビネット25% | 2027年1月1日以降、家具30%、キャビネット50%に段階的引き上げ。日本・EUは15%、英国は10%に上限設定 |
| 2025年10月14日 | 関税措置発効 | ソフトウッド、木製家具、キャビネットなど | ソフトウッド10%、家具・キャビネット25% | 米国時間10月14日13時1分に発効 |
| 2027年1月1日 | 段階的関税率引き上げ開始 | 布張り家具、キッチンキャビネット、洗面化粧台 | 布張り家具30%、キャビネットなど50% | 二国間合意未締結国に適用。 |
出所:米国政府資料から作成(2026年2月時点)
大統領布告は関税賦課の背景として、木材や家具の輸入増加による国内サプライチェーンや重要産業への悪影響があると説明。具体的には、木製品が米国の国防、重要インフラ、経済安定、産業の回復力を下支えする複数の分野にわたり不可欠に機能する一方、国内には十分な原材料と生産能力がありながら、輸入増や外国製品への依存が国内産業の脆弱(ぜいじゃく)性を招いたと指摘した。さらに2027年1月以降、家具に対し30%、キャビネットに対しては50%へと税率が引き上げられる見込みで、輸入制限は強化の一途をたどる。
日本企業にとっては、日米合意に基づく上限税率15%の設定が一定の緩和措置である一方、輸出戦略の見直しが迫られる状況だ。2024年以降の日本から米国向けの家具輸出を月次で見ると、2025年9月にピークに到達した後、10月以降は急落を続け、12月には9月比で42.5%減に縮小した。
調達分散や在庫効率化に奔走する企業
米国家具産業連合(AHFA)は2025年4月時点の声明
で、関税賦課に明確に反対する姿勢を打ち出した。国家安全保障と措置との関連性が合理的でなく、国内メーカーへの損害に加え、供給網の混乱や国内小売価格の押し上げが懸念されるためだ。しかし、232条関税は同10月には予定通り導入され、この前後で各国・地域の家具メーカーや小売業者は、生産の国内回帰、調達先の多角化、価格設定の見直し、物流網の再構築などを通じ、対策を講じている(表2)。
例えば米国では、アシュレイ・ファニチャーやRH(旧 Restoration Hardware)などが価格改定や調達多角化をいちはやく表明。欧州でも、全世界に大規模な販売網を持つスウェーデンの大手イケアが、米国市場向けキッチンキャビネットの一部を米国内生産に切り替えるとともに、輸入依存度を下げるべく北米サプライヤーとの契約を拡大し、欧州やアジアからの輸送を抑制すると表明。中国、ポーランド、イタリア、ドイツ、スウェーデンがイケア家具の主な製造を担う中、現状で約15%(2014年の19%から低下)とされる米国の国内製造比率を引き上げたい考えだ。
日本企業でも多角化を検討する向きがある。ジェトロが2025年11~12月に実施した日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査によれば、回答した木材・木製品および家具・建材企業57社のうち33.3%が、中国を仕入れの主な調達先として挙げた。こうした状況下で、今後1~2年の間にサプライチェーン見直しや再編を実施あるいはそれに向けて検討する企業は24.6%と約4分の1に上り、調査対象企業全体(26.8%)と同様の傾向を示した。同業種からの具体的なコメントとして、「中国からの国内回帰を目指している」「中国から仕入れている単板を別のところから輸入することを検討」(いずれも木材・木製品/小規模企業者)など脱中国の方向性や、「調達ルートを複数持つように検討中」(家具・建材/小規模企業)、など分散・多様化が示唆された。
| 発表時期 | 企業名 | 本社所在地 | 概要 | 詳細 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年9月 | アシュレイ・ファニチャー(Ashley Furniture Industries) | 米国 |
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| 2025年9月 | RH(旧Restoration Hardware) | 米国 |
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| 2025年10月 | ハバーティーズ(Havertys) | 米国 |
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| 2025年12月 | レイジーボーイ(La‑Z‑Boy) | 米国 |
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| 2025年8月 | 欧州家具産業連盟(EFIC) | 欧州 | 供給再編 | 供給網の再配置や生産・物流計画の見直しを検討 |
| 2025年9月 | イケア | スウェーデン | 米国内生産強化 | 米国の関税引き上げ、輸送コスト、高まる物流不確実性を受け、米国内での生産比率を拡大へ。米国向け商品の国内調達割合は現行15%からの拡大をめざし、ノースカロライナ州新工場(年間製造能力200万点)を擁するリトアニア家具大手エスビーエー・ホーム(SBA Home)との協業を強化 |
| 2025年4月 | コーポレート・スペシャリスト | マレーシア | 出荷見直し | 90日間の関税猶予期間を活用し、米国向け出荷を前倒し。通常月出荷量を上回る30コンテナ超を4日間で出荷 |
| 2025年10月 | ムア家具協会(MFA) | マレーシア | 代替市場の限界指摘 | 米国依存が大きく短期での供給多角化が困難と表明。政府支援や新市場開拓の必要性を強調 |
| 2025年10月 | 木材・森林製品協会(VIFOREST)ほか | ベトナム |
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10月14日発動の25%は許容も、50%案の回避を政府に要請。米国は丸太・製材の大口供給先であると強調 |
出所:各社プレスリリース、報道などから作成
第三国経由と中間財の残存で見えづらい中国
一方で、関税措置は完成品だけでなく、キッチンキャビネット部品などの部材にも及ぶため、完成品の組み立て地が移転しても供給網の上流では中国の影響が残る。家具サプライチェーンの変化を把握するには、完成品と同様に原材料・部材の流れを確認する必要がある。2019年と2024年時点の木材・木製品貿易を比較すると、米国向け輸入は金額ベースで32.8%の伸びを示し、世界全体の需給を大きく左右している(表3)。米国は、「中国を除く」ほぼ全ての地域から輸入を増やしており、とりわけカナダ(31.4%増)とASEAN(97.4%増)が牽引した。他方で、ロシアの対世界輸出の減少が顕著だ。
こうした需給の変化は、いくつかの要因が複合的に作用した結果と考えられる。まず需要側の要因として米国では、新型コロナ禍における在宅需要の急拡大を背景に木材輸入が増加した。この需要を取り込んだのが、最大の供給国カナダだった。次に、ASEANの台頭も、中国を巡るサプライチェーン再編に起因する。米国が2020年に、中国製木製キャビネットなどへアンチダンピング税・相殺関税を課したことで、中国の加工貿易がASEANに移転する動きを誘発。その結果、例えばベトナムでは外資を中心とした加工能力が拡大し、2024年には木材・木製品輸出の約48%を外資企業が占めるまでに成長した。一方ロシアでは、EUが2022年7月に同国の木材製品輸入を全面禁止したことなどから、世界市場でのプレゼンスを落とした。
組立地が変わっても部材レベルで中国由来が残る実像は、表3で中国の対ASEAN、特にベトナム向け木材・木製品の輸出シェアが上昇したことからも見て取れる。中国からベトナムへの木材・木製品の輸出も継続的に拡大し、フレームなどに使う製材(HS4407)、家具を構成する単板・べニア(HS4408)、キャビネットや扉などの建具・構造材(HS4418)といった主要部材は、いずれも年平均で15~20%台の伸びを示した。ベトナム側統計で見ても、木材・木製品の最大の供給国は約28.8%を占める中国で、2024年には輸入総額(24.9%)を大幅に上回る前年比40.7%のスピードで拡大した。ベトナムの木材輸入総額に占める中国のシェアも、同年までの5年間で1.7倍に膨らんだ。このように、部材レベルで中国由来の投入が残る状況は、米商務省が2024年7月、ベトナムから輸出された木製ドアやフレームを中国起源と判定した事例からも裏付けられる(商務省判断に関する官報
)。
中国→ASEAN→米国といった間接的な供給構造の拡大は、2025年10月6日付地域・分析レポートでも示したとおりで、家具においても部材レベルでは中国由来の投入財が残る可能性が示唆された。ASEANの家具メーカーが使用する主要な木材・部材は中国依存が大きく、域内での加工拡大も中国由来の財に実質的に支えられている。OECDによれば、ASEANの家具関連製品(注2)の輸出に含まれる中国由来の付加価値比率は、2016年の7.5%から統計が取得できる直近の2022年には10.7%まで徐々に拡大した(図3)。完成品の生産がASEANに移る一方、部材に代表される付加価値が引き続き中国を源泉とする構図がある。
出所:Trade in Value Added(TiVA)2025(OECD)から作成
フレーム材やキャビネット部品など上流の部材段階では中国依存が依然として大きく、米国の関税強化は完成品のみならず原材料・部材の調達構造にも影響を及ぼし得る。家具産業の供給網においても、各工程における投入財の原産地管理が重視される傾向が強まり、政策面でもサプライチェーンの透明性確保に対する要請が高まる可能性がある。どの工程でどの国の材料が使われているかを丁寧に把握しながら、仕入れ先や生産地の組み合わせを必要に応じ再検討することで、価格や納期の安定につながり、家具市場の変化にもより柔軟に向き合えると考えられる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
吾郷 伊都子(あごう いつこ) - 2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人日本経済研究センター出向(2011~2012年)、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2021~2025年)を経て、2025年12月から現職。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』(ジェトロ)、共著『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)、編著『FTAの基礎と実践-賢く活用するための手引き-』(白水社)など。





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