2026年度NDAA成立、中国のバイオテック企業や対中投資の制限を拡大

(米国、中国)

ニューヨーク発

2025年12月24日

米国のドナルド・トランプ大統領は12月18日、「2026年度国防授権法(NDAA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に署名外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、同法は成立した。NDAAは、戦争省(国防総省)の予算執行のために議会が毎年度可決しなければならない法律となっている。

2026年度NDAAに含まれる、主な措置は次のとおり。

〇バイオセキュア法(第851条):米国政府機関による、「懸念されるバイオテクノロジー企業」によって製造または提供されたバイオテクノロジー機器またはサービスの調達または取得、および新規の契約締結または既存契約の延長を禁止。また政府機関がこれらバイオテクノロジー機器の調達などのために、企業へ貸付金・助成金を支出することも禁止(注1)。

〇「2025年包括的対外投資国家安全保障法」(第8501~8531条):次の3つの措置で、中国およびその他の懸念国に関連する事業体への投資を制限。

  1. 制裁発動:中国・香港・マカオと関連する法人およびその子会社で、「防衛・関連資材または監視技術分野において重大な事業活動に故意に従事している」事業体へ投資・融資を行った米国居住者(注2)に対して、大統領が制裁を発動するよう検討することを指示(注3)。
  2. 対外投資規制プログラム(OISP)の拡大:OISPにおける懸念対象国の定義に、キューバ、イラン、北朝鮮、ロシア、マドゥロ政権下のベネズエラを追加。届け出・禁止対象技術に高性能計算・スーパーコンピューティング、極超音速システムを追加、など(注4)。
  3. 証券取引の制限:大統領に対して、財務省外国資産管理局(OFAC)が管理する「非・特別指定国民 中国軍事・産業複合企業(NS-CMIC)リスト」(注5)に、ほかの制裁対象リスト(注6)に掲載されている中国関連事業体を追加すべきか検討するよう指示。

〇対米外国投資委員会(CFIUS)の権限拡大:政府に対して、国家安全保障上重要な軍事施設などのリスト作成と定期的な更新を義務付け。掲載施設周辺の不動産取引は、CFIUSの審査対象となる(注7)。

〇防衛調達の制限:主に次の防衛調達を禁止。2030年までに特定懸念国からの光学ガラス・光学システム、コンピュータディスプレイの調達禁止、2028年から懸念対象の外国企業の先進電池サプライチェーンへの関与を段階的に禁止、特定対象国からの重要鉱物(注8)の防衛調達を制限、懸念対象の外国企業が製造する太陽光発電セル、モジュール、インバーターや特定外国企業からの積層造形装置の調達禁止、特定の中国企業が供給するコンピュータおよびプリンターの防衛調達を段階的に禁止(注9)。

通商政策に詳しい首都ワシントンの法律事務所は、「NDAAの『必ず可決される』という性質が、議員に対して、ほかの法案を付帯させる動機をもたらしている。近年のNDAAには、経済安全保障措置が頻繁に含まれている」「超党派の支持で、NDAAを通じた新たな経済安全保障政策が導入される傾向は、2026年度NDAAで一層強まった」と言う。一方、「規定の大半は、中国および中国関連企業との貿易・投資の制限が主目的で、トランプ政権が最近進めた貿易戦争の緩和努力に逆行するものだ」との指摘もある。トランプ氏自身は必ずしも「対中タカ派」ではないと指摘される一方(2025年12月9日付地域・分析レポート参照)、議会は超党派による対中強硬路線でまとまっているとみられる。

(注1)貸付金・助成金受給者も同様にこれら禁止事項に拘束される。「懸念されるバイオテクノロジー企業」には、戦争省の中国軍事企業リストに掲載されている企業などが含まれるが、具体的な対象企業の一覧は、行政管理予算局(OMB)長が同法の施行から1年以内に公開する。

(注2)米国市民、永住者、米国の法律または米国内の管轄権に基づいて組織された事業体(外国支社も含む)または米国内にいる個人が含まれる。

(注3)新たな制裁権限を創設するものではなく、制裁発動は義務的ではない。大統領には法律で提案された措置の実施方法について大幅な裁量が認められている。

(注4)OISPは懸念国の個人・事業体・政府と取引する場合に、財務省への届け出を義務付け、国家安全保障に特に深刻な脅威をもたらす場合には取引の禁止を定めている。従来の懸念国は中国(香港・マカオ含む)のみで、規制対象は半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、AIの3分野だった(2024年10月30日記事参照)。

(注5)NS-CMIC Listにリストに掲載された事業体への証券投資は禁止されている(2021年6月7日記事参照)。

(注6)軍事エンドユーザー(MEU)リスト(2020年12月25日記事参照)、戦争省の中国軍事企業リスト(2025年1月15日記事参照)、商務省のエンティティー・リスト(EL、2025年3月26日記事参照)、連邦通信委員会対象リスト(2022年3月29日記事参照)、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)のEL(2024年5月20日記事参照)。

(注7)2024年11月、審査対象に米軍施設に隣接する不動産取引も含むよう、CFIUSの権限は拡大された(2024年11月5日記事参照)。2026年度NDAAによるCFIUSの権限拡大によって、審査体制がより徹底的かつ効果的になるとされている。

(注8)モリブデン、ガリウム、ゲルマニウムが対象。

(注9)対象国や事業体の定義は規則ごとに異なるが、おおむね中国に関連する事業体や戦争省の中国軍事企業リスト掲載事業体を指す。

(赤平大寿)

(米国、中国)

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