今こそ挑戦!グローバルサウス現地との協業がカギ、アクセルスペースのブラジル展開

2026年4月30日

地球観測データ市場の拡大が見込まれる中、アクセルスペース(本社:東京都中央区)は2020年頃から海外展開を加速させている。展開先の1つであるブラジルでは、現地のパートナーと組んで顧客開拓を進める。セールス&マーケティンググループ・グループリーダーの横井健人氏、ブラジルの現地コンサルタントであるシニアコンサルタントのマウリシオ・メイラ氏、セールスエンジニアのエドワルド・アラウージョ氏に、同社の海外戦略や顧客開拓のポイントなどについて聞いた(取材日:2026年2月3日および3月3日)。

拡大する地球観測データ市場

宇宙から地球を観測し取得する地球観測データは、気候変動対策、農業、都市開発といったさまざまな分野で用いられる。欧州連合宇宙計画局(EUSPA)によると、地球観測に関する市場規模は、2023年の33.7億ユーロから、2033年には59.4億ユーロへと拡大する見込みだ(注1)。最大の市場である北米に加え、アジア太平洋やEUでも拡大が予想されている(図参照)。

図:地球観測データ(Earth Observation)の市場規模
対象地域は北米、アジア太平洋、EU27、ロシア・その他欧州、中南米・カリブ、中東・アフリカ。2023年は北米が16億ユーロ、アジア太平洋が6億3,000万ユーロ、EU27が5億2,000万ユーロ、ロシア・その他欧州が2億5,000万ユーロ、中南米・カリブが1億9,000万ユーロ、中東・アフリカが1億9,000万ユーロで合計33億7,000万ユーロ。2033年の予測は北米が25億5,000万ユーロ、アジア太平洋が13億3,000万ユーロ、EU27が9億6,000万ユーロ、ロシア・その他欧州が4億8,000万ユーロ、中南米・カリブが3億2,000万ユーロ、中東・アフリカが3億2,000万ユーロで合計59億4,000万ユーロ。

出所:EU Agency for the Space Programme(EUSPA)「EO and GNSS Market Report 2024」

市場拡大の要因の1つに、観測衛星の小型化がある。従来、政府系宇宙機関や大企業は大型の衛星を運用するケースが多かった。しかし、2010年代半ばから小型衛星コンステレーションが普及し、製造や打ち上げコストが低下したことで、スタートアップをはじめとする民間企業による参入が加速した(注2)

受託開発で培ったノウハウを生かし、AG事業、AL事業を展開

そうした中、2008年に設立されたアクセルスペースは、当初、ウェザーニューズや国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの顧客に向けた小型衛星の受託開発を手掛けていた。そこで得たノウハウが強みになると考え、2018年に自社の小型衛星初号機(GRUS-1A)を打ち上げ、翌2019年からは、撮影した画像データの販売および画像データを使ったサービスを提供する「AxelGlobe(以下、AG事業)」を開始した。このサービスは例えば、農作物の活性度の可視化、災害状況の把握などさまざまな分野で利用されている。


洪水災害の状況把握での活用事例:
発災前の衛星データ
(同社提供)

洪水災害の状況把握での活用事例:
発災後の衛星データ
(同社提供)

洪水災害の状況把握での活用事例:
浸水可能性エリア(青色)を可視化(同社提供)

2022年には、小型衛星の開発、製造、打ち上げ、運用をワンストップで提供する「AxelLiner(以下、AL事業)」を開始。同事業は、日本国内の売り上げが100%で、政府系機関の研究開発プロジェクトにも採択されている(注3)。現在はAG事業、AL事業が同社事業の二本柱となっている。

ターゲットは、活用方法をともに作っていける国

同社では2020年頃からAG事業の海外展開を加速した。直近ではAG事業の売り上げ全体の36%を海外が占める。地域別に見ると、売り上げの多くを占めるのはオセアニア地域で、このほか、中東やアフリカ地域でも実証段階のプロジェクトが進んでいる。

海外戦略について、セールス&マーケティンググループ・グループリーダーの横井氏は、「当社の戦略は、単なる衛星データや技術基盤の提供にとどまらず、協創を通じて現地の宇宙産業の拡大に貢献しともに成長すること。重点地域には(最大市場の)米国は含まれず、リモートセンシング(遠隔観測)を活用する方法を一緒に作っていける国がターゲット」と話す(注4)


セールス&マーケティンググループ・グループリーダーの横井氏 (同社提供)

重点地域の1つがブラジルだ。2021年に同国でのビジネスを開始した。ブラジルでは、同国に進出した金融や保険産業に従事する日系企業向けに観測データを販売するほか、「日・ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ」の下、劣化した農地を回復するための実証調査を行う日系食品企業とも協業を進めている(注5)

なお、同社が提供しているのは、中分解能の光学衛星(注6)による観測データだ。他の企業には、より細かな観測が可能な高分解能のデータも提供しているが、広範囲で用いるにはコストが高い。また、NASAなどが提供するフリーデータは、分解能の低さに加えて撮影頻度が低く、撮影するタイミングで曇りが出ているとデータが取得できないという欠点がある。分解能、撮影頻度、コストを総合的に見ると、ブラジルで需要の大きい農業分野でのモニタリングに優位性を持つ観測方法といえる(表参照)。

表:他の光学衛星データとの比較
項目 他社
(高分解能)
アクセルスペース
(中分解能)
NASA、JAXA、ESA
(中分解能、オープンデータ)
分解能 最大25cm 2.5m 10~30m
撮影頻度 毎日撮影可 2~3日/回
※撮影日時の指定可
7~10日/回
※撮影日時の指定不可

出所:各社ウェブサイトやヒアリングなどを基にジェトロ作成

市場開拓のポイントは、それぞれの分野の専門家と組むこと

地球観測データはその汎用(はんよう)性ゆえに、顧客ニーズの明確化が重要になる。つまり、何にでも応用できるデータだからこそ、何をやるのか明確にすることが大切になるというわけだ。横井氏は、「『宇宙を使って何かやりたい』というような、宇宙や衛星が目的化した取り組みは実を結びにくい。あくまで顧客のビジネス課題をメインに、その効率化や高付加価値化のために私たちのデータをどう使うかを明らかにするのが重要」と話す。

同社では、20年以上の業界経験を持つメイラ氏が、現地コンサルタントとしてパートナー企業や代理店と組んで営業活動を行うとともに、アラウージョ氏が、データ処理の専門家として、販売後のサポートを含めたセールスエンジニアリングを担当。顧客課題の把握やソリューションの提案、アフターサポートまでを万全に行える体制を整えている。

ブラジルでの営業活動について、メイラ氏は「顧客との信頼関係を構築するためにも、ローカル代表者を置くことが何より重要。難しければ、現地のパートナー企業と組むべき。ラテンアメリカでは、信頼関係なくしては契約に至らない」と、現地市場を熟知したパートナーと組むことの重要性を強調する。ブラジルではポルトガル語や複雑な税制(注7)への対応も求められる。現地のサポートがあるかどうかは大きいだろう。

また、データ分析企業とのサービス領域のバッティングにも留意が必要だという。同社のようなデータ提供企業が、その先の分析まで手掛けることは必ずしも不可能ではない。しかし、分析には農業、鉱業、環境保全などそれぞれの分野に特化した専門的な手法が取られることが多く、データ提供企業がむやみに手を出すのは合理的ではない。むしろ各分野の専門家からのフィードバックを生かし、どのようなデータが本当に価値のあるデータなのかを考えていく方が有益だという。


左から、シニアコンサルタントのメイラ氏、セールスエンジニアのアラウージョ氏 (ジェトロ撮影)

衛星コンステレーションの拡充も追い風に、さらなる顧客獲得を目指す

同社では今後、2026年に新たな中分解能衛星(GRUS-3)、2028年5月期に高分解能衛星の打ち上げを予定している。観測範囲の拡大や観測頻度の向上が期待されるとともに、高分解能衛星を導入することで、自社衛星によるシームレスな「Tip&Cue(中分解能衛星で広域を観測し、検知した異常や変化の情報を基に高分解能衛星でピンポイントに撮影を行う)」の実現・普及を目指す。

企業基本情報
会社名 株式会社アクセルスペース
設立 2008年8月
所在地 〒103-0023 東京都中央区日本橋本町三丁目3番3号Clipニホンバシビル
資本金 1億円(単体。2025年8月時点)
従業員数 182人(連結。2025年5月時点)
URL https://www.axelspace.com/ja/ 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

注1:
EO and GNSS Market Report 2024PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(26.5MB)による。市場規模は、Data RevenuesとValue-added service revenuesの合計額。 本文に戻る
注2:
コンステレーションとは、複数の人工衛星を協調させて1つのシステムとして動作させること。小型衛星コンステレーションの普及については、経済産業省資料「国内外の宇宙産業の動向を踏まえた経済産業省の取組と今後についてPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(5.4MB)」を参照。 本文に戻る
注3:
主なものに、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「経済安全保障重要技術育成プログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が挙げられる。 本文に戻る
注4:
同社の2026年5月期 第2四半期決算補足説明資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.7MB)を参照。 本文に戻る
注5:
「日・ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ」は、日本とブラジルが脱炭素社会の実現に向け、アマゾンの森林保全や劣化農地の再生、バイオ燃料などのクリーンエネルギー分野で包括的に連携する協力パッケージ。詳細は、外務省資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(633KB)を参照。 本文に戻る
注6:
地球観測衛星は、搭載されるセンサによって光学センサとマイクロ波センサに大別される。用途によってはこれらを併用することもある。詳細は、JAXAのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注7:
ブラジルの税制体系は非常に複雑で、税金の種類が非常に多く、関連法令は頻繁に発令・改定される。詳細はジェトロウェブサイト(ブラジル:税制)を参照。複雑な税体系の簡素化を目指す税制改革法案が2023年12月に成立した。詳細は、2024年3月21日付地域・分析レポート「待望の間接税簡素化法案が成立」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ海外ビジネスサポートセンターグローバルサウス課 課長代理
母良田 政秀(ほろた まさひで)
2009年、ジェトロ入構。農林水産・食品調査課、サンティアゴ事務所、ジェトロ・アジア経済研究所、ジェトロ名古屋などを経て、2024年8月から現職。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。