今こそ挑戦!グローバルサウス新素材「溶けにくい肥料」をグローバルサウスへ(TOMATEC)

2026年3月2日

TOMATEC(本社:大阪市)は東洋製罐グループの主力会社のひとつとして機能性材料を扱っている、1950年創業の素材メーカーだ。ほうろうなどガラスコーティング用途に使用されるフリットや、複合酸化物顔料(注1)を主力製品として、耐候性・耐熱性・耐薬品性といった機能を製品の表面に付与する素材で産業を支えてきた。また、環境・安全規制への対応を前提にしたカスタムメイド型の開発力も強みとする。フリットの派生商品として、微量要素肥料(Fritted Trace Elements:F.T.E)(注2)にも事業領域を広げ、近年はF.T.Eのグローバルサウス市場への海外展開を加速している。同社のグローバルサウスでの取り組みについて、田中浩一取締役、海外事業部の児﨑章憲課長(農学博士)、管理本部経営企画室の山根章吾課長代理に聞いた(取材日:2026年1月22日)。


左から、田中取締役、山根課長代理、児﨑課長(ジェトロ撮影)

後発だった肥料(F.T.E)がグローバルサウス向けの主力製品に

同社の歩みを振り返ると、海外展開のタイミングが製品群ごとに異なる。旧社名である日本フェローだった頃には、米国資本が10%入っていたことから、ライセンスや販売地域の制約が生じ、一定期間は海外展開を抑制せざるを得なかったが、2003年に契約を解消。社名をTOMATECへ変更して、同社は顔料・フリットを軸に海外拡販を本格化させた。中国では顔料工場とフリット工場をそれぞれ展開し、2006年には米国に販売会社を設立。さらに2012年にはインドネシアに生産拠点を構え、「Chinaプラス1」の位置付けで事業規模の拡大を図ってきた。

一方で、微量要素肥料「F.T.E」シリーズの海外展開は、同社の製品群の中では後発だった。F.T.Eは1958年から60年以上にわたり日本国内で販売実績を積み上げてきたが、肥料は国ごとの制度や農業慣行、流通構造と密接に結び付く商材であり、素材の輸出とは異なる難しさがある。国内市場が縮小する中、同社がF.T.Eの海外展開を本格化したのは2019年からだ。新型コロナ禍で一時停滞。2023年頃から再び動きを加速させたという。

F.T.Eの特長は「溶けにくさ」にある。一般的な水溶性肥料は地中の水で急速に溶解されるため、必ずしも栄養が作物に十分に吸収されずに地下に流出してしまう。それに対し、F.T.Eはガラス質のため水に溶けにくく、作物の根から分泌される根酸によって必要な微量要素がゆっくり溶出・吸収される仕組みで、施肥効果が長く持続する(図1)。年1回の施肥で効果が見込めるため、手間を減らせて過剰施肥も抑えやすい。水溶性肥料と比べると単価は高いが、散布回数など作業コストの削減、さらには収量増・品質向上まで含めた費用対効果では評価されやすい点が、同社が海外市場で訴求するポイントだ。途上国・地域では「肥料は多ければ多いほど良い」という経験則が根強く、結果として土壌が劣化する例もあるという。そうした課題に対し、適正施肥と持続可能な生産性向上を同時に提案できる、ユニークな素材としてF.T.Eを位置付けている。

図1:微量要素を含むガラスフリット(F.T.E)と水溶性肥料の違い
植物の根と土壌を描いた図。微量要素を含むガラスフリット(F.T.E)は、土壌中の酸や根酸によってゆっくり溶解する。水溶性肥料は、水に触れると急速に溶解し、地下へ流出する。

出所:同社提供

新素材のF.T.E、規制・競争・模倣リスクをどう乗り超えるか

F.T.Eの販売先(候補を含む)には、中国、台湾、韓国、オーストラリアといった近隣国・地域に加え、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、ウズベキスタンなどのグローバルサウス諸国でも力を入れている(図2)。海外展開で最初に立ちはだかるのは、各国の肥料規制だ。F.T.Eは新素材であるがゆえに、既存の登録制度の枠外になりやすい。例えば、F.T.Eのみの単剤肥料(注3)として登録を目指す場合、既存の規格に当てはまらず、「規格が見つからない」といわれることがある。インドネシアでは2024年に単剤としての肥料登録に成功したものの、登録までに約1年半を要した。溶解試験ができない、成分が検出されにくい、分析値が合わないなどの理由で審査が中断され、その都度、追加資料や試験設計の見直しが必要になったという。さらに栽培試験は現地の公的機関で実施したが、雨期の影響で試験区が雨に流され、栽培試験がやり直しになったこともあった。展開先国の選定では、まずは肥料規制を確認するという。

一方、いくつかの肥料を混ぜ合わせ複合肥料として現地メーカーと連携する場合、登録が比較的スムーズに進むケースもある。中国では、貴州省にてローカルの複合肥料メーカーにF.T.Eを原料として供給し、現地側主導で配合から登録(注4)まで進めてもらったところ、2週間程度で登録が完了した。複合肥料は既存規格の枠内で登録しやすく、現地企業が主導すると手続きが加速するという。従って、国ごとに単剤と複合肥料原料の両面で検討し、単剤の登録が難しい場合は複合肥料の原料として進めるかたちで戦略的に切り替える必要がある。

図2:F.T.Eの海外への取り組み状況
アジアおよびオセアニア地域の地図上に、FTE(微量要素含有ガラスフリット)の市場状況を示している。ウズベキスタンはFTE栽培試験計画中、タイはFTE栽培試験中。中国、韓国、台湾、インド、マレーシア、オーストラリアは上市済み。インドネシアは、FTE肥料登録済み。

注:「上市済み」の国・地域は、複合肥料として登録済みの国・地域。「F.T.E肥料登録済み」の国・地域については、単剤肥料として登録済み。
出所:同社提供

この切り替えを支えるカギとなるのが、パートナー選びだ。同社が重視する潜在顧客は、NPK(窒素・リン酸・カリウム)の複合肥料メーカーだ。F.T.Eを原料として供給し、現地でNPKと配合した製品として普及させることで、登録・流通のハードルを下げられる。ただし、パートナーは大きければ良いとは限らない。F.T.Eは使用量が少なく、10アール(a)(注5)当たり数キログラム程度で足りる。一方、一般的な肥料は同じ面積でも100キログラム単位で使用されることも多い。大手ディストリビューターは大きい取引量を好むため、取り扱いインセンティブと合わない場合がある。そのため同社は、農業資材の特性を理解し、少量でも価値を訴求できる中小規模の代理店や商社とネットワークを築くことが多いという。複合肥料メーカーも、大手より中堅規模の方が意思決定は早く、ロット感も合いやすいという。

競争環境の捉え方も特徴的だ。F.T.Eと同一商品の競合はほとんど存在しない一方、比較対象としては水溶性肥料が常に立ちはだかる。水溶性肥料は現地メーカーや、現地に生産拠点を持つ大手外資系企業の競争力が高く、資源を有する国では生産コストも低い。輸入品も含めて価格競争が激しい。従って同社は、価格で勝負するのではなく、適正施肥による収量改善や作業効率化、土壌の維持といった価値で顧客を説得する。そのために欠かせないのが「効果の見える化」であり、栽培試験の積み重ねを行っている。

新素材ゆえに、海外展開においては知財・模倣リスクも無視できない。ガラス質成分の配合は分析されやすく、コピー品が流通し得る。同社はNDAの締結、特許の申請、商標の確保などを組み合わせ、サンプル段階から防衛策を講じている。特にインドや中国では模倣が多いとの認識で、慎重に進めているという。さらに、海外展開を支える基盤として、同社は調達の多角化にも目を向けている。具体的には、サンプル評価を重ねながら原料サプライヤーの地政学リスクを避けた調達先の多元化を進めている。地政学リスクが高まる昨今、原料を安定的に購入できない事態を避けるため、裾野を広げる取り組みは、素材メーカーとしての生命線でもある。

「肥料売り」を超え、持続可能な農業のモデルを提案

同社が強調するグローバルサウス市場での成功のカギは、「肥料を売る」ことではなく「商材を知ってもらい、持続可能な農業のモデルを提案する」ことにある。新素材であるF.T.Eは、サンプルを配るだけでは評価されにくい。実際、同社は講演会や展示会を通じて、F.T.Eの認知獲得と理解促進に向けた活動を重ねてきた。インドでは日印食料フォーラムなどの講演会で登壇し、マレーシアでは展示会でプレゼンテーションを実施するなど、グローバルサウスでの広報活動を拡大している。

他方、エンドユーザーは農家であるため、普及段階では農家の理解を得た上で、現地で栽培試験をともに行い、土壌条件や水、気候の違いを踏まえた上で、効果を実感してもらう必要がある(図3)。インドではウッタル・プラデシュ(UP)州などの州政府の枠組みや、日本の農林水産省が主導するモデルファーム事業「J-Methods Farming:JMF」(注6)や経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(注7)」も活用し、実証と普及を同時に進めている。

図3:海外でF.T.Eが採用されるまでのステップ
FTE(微量要素肥料)の採用までの取り組みを示したフロー図。ステップ1は商品の説明で、粉状・顆粒・粒状のFTEが示されている。ステップ2は栽培試験で、農地で作業する様子の写真が掲載されている。ステップ3は生育・収穫調査で、農作物の収穫を調べる様子と、対照区とFTE使用区のニンジンの比較写真があり、FTE使用の効果が示されている。ステップ4は費用対効果の評価で、対照区とFTE区の指標値を比較した棒グラフが示され、FTEが高い数値を示している。ステップ5は採用で、採用検討・上市と記載されている。

出所:同社提供

次に重要なのは、土壌分析に基づく技術支援だ。微量要素は不足すれば生育が落ち、過剰でも土壌バランスを崩す。現地の土壌中の養分であるマンガン、亜鉛、窒素、リンなどの過不足を把握し、作物に合わせた製品の種類と施用量を提案できれば、農家の収量改善に直結しやすい。材料を供給するだけでなく、施肥設計や栽培管理の提案まで踏み込むことで、価格ではなく成果で評価される関係を構築できるという。

一方で、現地ビジネスでは商習慣や時間感覚の違いも大きい。試験の実施時期は現地側の都合で変わり得るほか、約束事の進め方も国によって異なる。同社の児﨑氏は「相手のルールに合わせることを心がけ、現場での粘り強い調整を重視している」という。特にインドでは低価格志向が強く、費用対効果の検討も欠かせない。だからこそ、収量や品質、土壌の改善といった効果をデータで示すことが重要になる。加えて、これらの取り組みが環境負荷を抑えつつ生産性を高める持続可能な農業につながる点を示すことで、農家にとっての総合的なメリットをより明確にできる。

次の注目国として同社が挙げるのは、ウズベキスタンだ。二重内陸国(注8)で物流制約が大きい一方、綿花など農業が基幹産業であり、水問題が構造的課題となっている。旧ソ連時代からの歴史を経て生産構造が変化する中、効率的な栽培と資源管理が求められる。大阪の繊維商社が綿花の買い付けにとどまらず、栽培段階からサプライチェーンに関与する構想を検討しており、その取り組みの中で同社のF.T.Eを活用した栽培試験を計画している。

素材技術を農業へ転用し、制度対応・実証・普及啓発を一体で進めるTOMATECの挑戦は、グローバルサウス市場を開拓する日本企業にとって示唆に富む。新素材の価値は、スペックだけでは伝わらない。現場での試験やデータによる効果提示、エンドユーザーに寄り添った提案、理解あるパートナーの選定を積み重ねることで、持続可能な農業と事業成長の両立を現実のものにしている。

企業基本情報
会社名 TOMATEC株式会社
設立 1950年
本社所在地 大阪府大阪市北区大淀北2丁目1番27号
従業員数 約500人(海外拠点含む)
URL https://www.tomatec.co.jp/ 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
参考情報:インド・ウズベキスタンの基礎情報(2024年)
項目 インド ウズベキスタン
面積(平方キロメートル) 3,287,263 448,900
人口(万人) 145,094 3,754
実質GDP成長率(%) 6.5 6.5
1人当たりGDP(米ドル) 2,697 3,113
消費者物価上昇率(%) 4.6 9.8
失業率(%) 8.1 5.5
主要産業 農業、工業、IT産業 綿繊維産業、食品加工、機械製作、金、石油、天然ガス

出所:
インド:
インド統計・計画実施省およびインド準備銀行(RBI)(実質GDP成長率、消費者物価上昇率)、世界銀行(1人当たりGDP、人口)、インド経済監視センター(CMIE)(失業率)、外務省(主要産業)
ウズベキスタン:
ウズベキスタン政府(面積)、ウズベキスタン大統領府付属統計庁(人口、実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価上昇率、失業率)、外務省(主要産業)

取材日:2026年1月22日


注1:
複合酸化物顔料とは、2種類以上の金属酸化物を焼成して形成される無機顔料。耐熱性、耐薬品性、耐候(光)性、安全性の高さが特徴。プラスチック、塗料、セラミックス分野で使われる。 本文に戻る
注2:
微量要素肥料(F.T.E)とは、微量ながら農作物の正常な発育に欠かせない6要素(マンガン・ホウ素・鉄・亜鉛・銅・モリブデン)をフリット化した肥料。 本文に戻る
注3:
単剤肥料とは、肥料成分を1つしか含んでいない肥料のこと。ここではF.T.Eのみを指す。 本文に戻る
注4:
「登録」は、各国の制度における登記・届け出・備案などの総称として記載。本文に戻る
注5:
10a(アール)=1,000平方メートル。 本文に戻る
注6:
インドUP州のモデルファーム事業は、農水省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注7:
新興国・開発途上国の社会課題の解決につながる、日本企業による製品・サービスの開発や実証・評価など、事業開発を支援する補助金。 本文に戻る
注8:
海に出るために少なくとも2つの国境を越えなければならない国。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。