今こそ挑戦!グローバルサウスパラグアイをハブにコンクリート補強繊維の南米展開強化(萩原工業)
2026年3月9日
萩原工業(本社:岡山県倉敷市)は、ブルーシートの製造技術を基盤に、独自の加工技術を生かした事業多角化を進めてきた。その中でも、コンクリート補強繊維「バルチップ」は海外売上比率が約8割に達し、オーストラリア・中南米が主力市場だ。さらに近年は、パラグアイに近年設立した生産拠点をハブに、南米で道路の舗装事業を拡大している。同社の取り組みについて、特命役員で経営企画室長を務める吉田淳一氏に聞いた(取材日:2026年1月19日)。

半世紀以上海外事業を続ける萩原工業
- 質問:
- 事業内容とこれまでの沿革は。
- 答え:
- 1962年、い草を使用した畳表や花ござを扱う萩原商店から分社独立。その2年後には、「フラットヤーン」を開発した。フラットヤーンとは、ポリエチレン、ポリプロピレンのフィルムをスリット(短冊状に切断)し、延伸することにより強度を持たせた平らな糸だ。この技術をベースに、事業拡大を続けてきた。
- 現在の事業領域を大きく分けると、(1)合成樹脂事業と(2)エンジニアリング事業の2本柱だ。それぞれの概要は以下のとおり。
- (1)合成樹脂事業:生活資材として、産業用原糸や人工芝、粘着テープ原反(加工・裁断前のテープ)などを取り扱う。産業資材ではブルーシート、土のう、建築養生用シートなど建築・土木現場、農業、物流に不可欠な製品を手掛ける。このほか、合成樹脂素材で開発されたバルチップが主力製品だ。バルチップはコンクリート補強用のプラスチック繊維で、鉱山向け吹付コンクリートやインフラ工事(道路・鉄道など)で使用される。
- (2)エンジニアリング事業:産業機械の製造を行う。元々ブルーシートの製造機械も自社開発・製造していたことから発展した事業。現在の主力製品は紙・フィルムなどシート状の長尺巻物を巻き出し、任意の幅に切るスリッターだ。
- 質問:
- 海外事業の概要は。
- 答え:
- 日本のほかに、世界13カ国に子会社・拠点を持つ。海外売上比率は3割弱で、販売実績のある国・地域は欧米からアジア・太平洋、中南米から中東・アフリカまで全地域におよび、80カ国・地域を超える。
- 海外売上はバルチップと産業機械がメインだが、米国では合成樹脂製品である「メルタッククロス」の販売に注力している。メルタッククロスは、野菜や果物の包装袋の素材として使用されている。2025年に稼働したテキサス州の新工場で現地生産を本格化している。
- 質問:
- 産業機械の海外事業の状況は。
- 答え:
- 産業機械の輸出は1960年代から開始した。当初はフラットヤーン製造用機械を台湾に供給しており、徐々に東南アジアなど他の国・地域にも展開していった。現在の主力は前述のとおりスリッターで、中国、東南アジア向けの輸出が多い。食品用ラップフィルムや菓子・パンの袋、ペットボトルのラベルなど、食品包装用途が安定的な需要を支えている。特に東南アジアでは、現地に進出した日本の小売企業が「食品包装は日本のスリッターで加工したものを使いたい」というこだわりを持っているケースが多い。そうした小売企業のニーズを受け、現地の包装資材メーカーでの導入が増えている。
世界の鉱山・インフラ支えるバルチップ
- 質問:
- バルチップの特色と強みは。
- 答え:
- 前述のとおり、バルチップは鉱山や道路、鉄道などのコンクリートを補強するためのプラスチック繊維だ。従来のコンクリート補強材は鋼繊維や鉄筋が主流だったところ、プラスチック繊維の良さをアピールし、シェアを拡大したのが当社だ。鉄筋や鋼繊維は重量があるため、トンネルなどで落下することもあり、トラックがパンクしたりケーブルの被覆が破れて漏電したりといった問題の要因になっていた。しかし、プラスチック繊維は軽量でさびないことから、コンクリートを劣化させることもない。鉄筋や鋼繊維より施工が容易で、建設現場の作業効率を高めるメリットもある。さらに、バルチップ工法はサステナビリティーの推進にもつながる。コンクリート構造物の耐久性が向上し、「長寿命化」が実現できることに加え、鉄資源使用量の削減を通して二酸化炭素(CO2)の大幅な削減にも貢献できる。
-

バルチップの例(ジェトロ撮影) - 質問:
- 海外事業の状況は。
- 答え:
- バルチップは1995年に生産開始し、1990年代の終わり頃から海外向けに販売し始めた。バルチップ事業単体だと、海外売上比率は約8割に上る。主要市場は鉱業の盛んなオーストラリアおよび中南米(メキシコ、ブラジル、チリ、ペルー)だ。初めは代理店経由の販売だったが、後に代理店を買収し販路を強化した。
- 2025年には、ポーランド・ワルシャワの地下鉄やスペイン・バルセロナの地下鉄、オーストラリア・メルボルンの環状線といった欧州・オセアニア地域の鉄道プロジェクトに採用された。また、クウェートの空港建設プロジェクトなど中東市場でも採用が進んでいる。
- 質問:
- 海外市場での競争環境は。
- 答え:
- 当社製品の模倣が進み、競争が激化している。競合の性能も上がってきている状況だ。特に鉱山向けは、海外の大手企業や低価格帯の地場企業なども参入しており、世界的に競合の数が多い。一方、インフラ向けでは依然として当社がトップブランドだ。われわれのバルチップは性能が高く、少量投入で効果を発揮できる点が強みだ。また、前述のサステナビリティーの観点で取り組みが評価され、国内外で受賞歴もある。例えば、オーストラリアではバルチップが採用されたシドニーの鉄道プロジェクトについてCO2削減効果と優れた施工性が評価され、オーストラリア土木学会の2025年度環境優秀賞を受賞した。
- 質問:
- バルチップの生産拠点は。
- 答え:
- 日本でも少量は生産しているが、主力の生産拠点はインドネシアとパラグアイ。インドネシアはオーストラリア向けがメインで、日本からよりも輸送負担を軽減できる。パラグアイでは2022年に子会社を設立。2024年からブラジル、ペルー、チリ、ウルグアイといった周辺国向けに本格稼働を開始した。
パラグアイ拠点をハブに、南米ビジネスに弾み
- 質問:
- パラグアイに生産拠点を設立した理由は。
- 答え:
- 南米は鉱山向けバルチップの需要が元々あった。さらに新型コロナウイルス禍前後では、南米で物流倉庫の建設が進み、これに伴う需要が急増。コンクリートのひび割れが少ないことが評価され、ブラジルを中心にショッピングモールの床や工場の土間・床など、幅広い場面で導入が進んだ(2022年6月28日付ビジネス短信参照)。他方当時は、新型コロナウイルス禍での世界的な物流の混乱とそれに伴う輸送費の高騰や、中東情勢に端を発した国際物流への影響など、地政学リスクのもたらす不透明さがひときわ色濃い時期だった。こうしたリスクを回避する目的に加え、「現地でものづくりをしないと現地の情報は入ってこない」という考えの下、南米での地産地消を推進することにした。パラグアイを選んだ理由は、オペレーションコストの低さや、南米諸国の中で治安が良いと評されることが多い点などだ。
- 質問:
- 南米事業の状況はどうか。
- 答え:
- 製造から販売まで現地で一貫して行えるため、物流コストの削減と迅速な供給が実現できるようになった。さらに、拠点を置いたことでパラグアイの国内市場にもアプローチが進んだ。2025年、バルチップを採用したコンクリート舗装を使用する国道の工事がパラグアイで始まった。パラグアイでは、日本同様、アスファルトの道路が主流だったが、日本の経済産業省の支援の下で繊維補強コンクリートの国家規格策定が進んでいる。
- 質問:
- アスファルトの道路とコンクリートの道路の違いは。
- 答え:
- アスファルトは材料費などの初期費用は安いが、定期的に補修が必要。一方、コンクリートは導入コストがかかるが、耐久性がある材料のため補修費用がかからない。約25年経過した時点で、総コストはアスファルトがコンクリートを上回る。
- また、アスファルトは石油精製時に採取できるが、パラグアイでは十分な石油精製能力がなく、アスファルト舗装の原料は輸入に依存している。他方で、コンクリートの材料はパラグアイ国内でも製造や調達が可能だ。加えて、当社のバルチップもパラグアイ国内で生産しており、コンクリート舗装であれば国産資材を活用できる点がメリット。前述の国家規格化が実現すれば、バルチップのさらなる需要拡大が見込まれる。また、南米全体として道路の舗装率がまだ低く、他国への波及も期待される。
- 質問:
- 南米ビジネスにおける課題は何か。
- 答え:
- バルチップの原料を台湾からの輸入に依存しており、遠距離輸送によるコスト増や関税負担が課題になっている。また、輸送には海上航路の封鎖や通航制限、コンテナ不足など、不確実性が伴う。これらの課題をクリアできる手段は、メルコスール域内の原料へ切り替えること。ブラジルの化学メーカーが原料を生産しているが、同等の品質が担保できるかゼロから検証が必要だ。また、ブラジルからパラグアイへ原料を輸送する際、ブラジル国内の物流ルートに急勾配区間が存在する。こうした地形的制約により、内陸輸送コストが上昇する傾向があり、台湾から輸入するよりもむしろコストがかかる可能性もある。これらの検証も含め、今後考えていくつもりだ。
- 質問:
- 今後の海外事業の展望は。
- 答え:
- 引き続き、海外売上はバルチップが主力になるだろう。中でも、価格競争が激化している鉱山向けよりも、利益率の高いインフラ領域に主軸を置いていきたい。インフラ領域では、(1)代理店が営業して回る、(2)日本のゼネコンと連携し、ODA案件に随伴して展開する、という2つのやり方がある。特にODA案件で食い込んでいければと思っている。前述のとおり、中東のプロジェクトで実績が出つつあり、今後も増えていくだろう。インドも日本のODAや高速鉄道プロジェクトなど、案件に応じて参入の可能性がある。
| 会社名 | 萩原工業株式会社 |
|---|---|
| 設立 | 1962年11月 |
| 本社所在地 | 〒712-8502 岡山県倉敷市水島中通一丁目4番地 |
| 従業員数 |
1,292人(グループ全体) 545人(単体) (2025年10月31日時点) |
| URL |
https://www.hagihara.co.jp/ |
取材日:2026年1月19日
| 項目 | 2024年 |
|---|---|
| 面積(平方キロメートル) | 406,752 |
| 人口(万人) | 692.9 |
| 実質GDP成長率(%) | 4.2% |
| 1人当たりGDP(米ドル) | 6,416 |
| 消費者物価上昇率(%) | 3.8 |
| 失業率(%) | 5.7 |
| 主要産業 | 農業、製造業(自動車部品など)、電力 |
出所:面積・主要産業:外務省
その他の項目:世界銀行
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ) - 2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。






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