今こそ挑戦!グローバルサウス環境ソリューション企業の日吉が挑む、インド南部の「水」ビジネス

2025年12月17日

創業70周年を迎えた環境ソリューション企業の日吉(本社:滋賀県近江八幡市)が、南インドのチェンナイで「水」市場に取り組んでいる。同社は、日本国内で環境分析や水処理事業を展開してきた老舗企業だ。人口増加と経済成長が続くインド市場に活路を見いだしている。水不足や環境規制の厳格化といった課題のあるインドで、現地法人「日吉インディア」を設立し、分析・維持管理・コンサルティングの三位一体でサービスを提供。競合がひしめく水処理市場で、チェンナイを拠点にナンバーワンを目指す挑戦が続いている。日吉インディアの黄俊卿ディレクターに話を聞いた。


日吉インディア社はチェンナイにオフィスを構えている(同社提供)

滋賀から、成長するインド市場へ

質問:
貴社の事業概要について。
答え:
1955年に創業し、70周年を迎える。主に、(1)水や大気などの環境試料や食品などの分析測定、上下水道や工場排水処理施設などのメンテナンス、(2)水処理に用いる工業薬品の提案販売、(3)廃棄物収集運搬処理や道路維持管理などを手掛けている。
質問:
インド事業に取り組み始めたきっかけは。
答え:
2011年にタミル・ナドゥ州チェンナイに日吉インディア(Hiyoshi India Ecological Services Pvt. Ltd.)を設立。事業を通じて国際貢献を実現するという目的がある。優秀なインド人材が社内で育っており、そうした人材が活躍する場として、インドに現地法人を設立した。日本は少子化が進み、環境市場が飽和しており、今後も衰退していく見込みである一方、インドは毎年7%程度の経済成長を遂げており、魅力的な市場だと考えた。

環境分析事業(金属分析)の様子(同社提供)
質問:
インドでの取り組みについて。
答え:
3つのサービスを提供している。(1)環境分析サービス事業(チェンナイ市内にラボを持っており、排水、飲料水や工業用水の分析を行っている)、(2)水処理施設の維持管理の請負事業(集合住宅、大学、ホテルや企業などの生活排水処理施設を維持・管理する。具体的には、工業団地や5つ星ホテルの生活排水、政府関連の浄水処理施設などを維持管理している)、(3)工事コンサルティング事業(インドでは水が不足しがちなこともあり、様々な水関連施設の新設工事がある。生活排水処理施設や工場排水処理施設の新設工事、あるいは飲料水をつくるための施設など、多様な新設・改修工事関連のコンサルティングを行う)の3つだ。これらを複合的に提供することもあり、下水道が通っていない施設に水処理設備を導入し、事業者に代わり維持管理を行うケースもある。顧客の上水施設内に逆浸透膜(RO膜)ユニットを設置し、ニーズによっては維持管理までを行う。

逆浸透(RO)膜処理装置(同社提供)

競合がひしめくインドの水処理市場

質問:
インドの水処理市場を、どう見ているか。
答え:
古い調査データにはなるが、2016年時点で水関連ビジネスの市場規模は2,400億ルピー(約4,080億円、1ルピー=約1.7円)で、年間15%成長の伸び率だった。新型コロナ禍でいったん落ち込んだが、最近の調査では19%の市場成長率と聞いている。自社の売り上げ構成でいえば、工事コンサルティングが約半分、維持管理が約3割。環境分析は少ない。加えて、日本本社のオフショア業務を請け負うこともある。直近では維持管理の仕事が増え始めている。常駐業務のためスタッフが必要となり、従業員数は41人まで増やした。チェンナイ周辺では、工場よりもホテル施設の需要が増えている印象があり、特に高級ホテルではしっかりした下水処理設備を使い、維持管理をしたいというニーズがある。老朽化した施設では設備更新のニーズもある。ホテルではランドリーの排水処理も付随してくることが多いので、併せて受注できることもある。

処理施設での維持管理事業の様子(同社提供)
質問:
コンサルティングの面では、どういった改善ニーズがあるのか。
答え:
当初は、慢性的な水不足の中で、「どのように水処理を機能させるか」という相談が多かった。そこから、設備の改修工事などの依頼が寄せられるようになった。最近は水処理の自動化へのニーズが高く、設備の運転・管理をする人員が不要な仕組みにかかる相談がある。どちらかといえば、日系企業の方が自社で管理する傾向にある。自社の社員で維持・管理しつつ、当社には専門家として、どのように維持管理するかを相談するといったニーズが強い。
質問:
顧客としては、日系企業が多いのか。
答え:
ローカルの企業や団体向けの売り上げが全体の8割を占める。日本人スタッフがいないため、日系顧客の獲得が十分に獲得できていない点は課題だ。その代わり、外国企業では韓国企業の進出が多いので、受注が進んでいる面もある。政府施設の場合は入札となる。地域的には、ベンガル―ル方面での新設工事などもあるが、大部分はチェンナイ周辺だ。
質問:
競合プレーヤーなど、競争環境について。
答え:
分析を手掛けている会社は、環境分析、食品分析、医療検査、材料分析なども含めると、登記上230社程度が存在する。ただし、その中で、競業となる環境計量事業所は30社程度で、減少傾向にある。分析には設備など莫大(ばくだい)な初期投資がかかるので、後発でシェアを獲得していくのは難しい。世界大手の試験・検査・認証機関のSGSが市場の43%を占有している。本市場は価格競争が激しく、単価も低いため、受託の検体数が少ないと利益がでない。なお、水処理施設の運営・維持については75社前後があり、無登録の企業、個人事業主もいる。
質問:
環境政策、環境規制は厳格化されないのか。
答え:
インドでは2019年に排水処理規制が厳格化され、基準も厳しくなった(窒素濃度が1リットルあたり10ミリグラム未満)。水不足の問題もあり、水を再利用しなければ需給が追いつかないからだ。他方、維持管理能力が追い付いておらず、基準値は作ったものの、達成できない面もあり、規制が緩和された。

チェンナイでナンバーワンになれる分野を探す

質問:
経営上の課題は。
答え:
インド南部で活躍する日本企業のほとんどはメーカーで、サービス事業を手掛けている企業は多くない。また、分析サービスは利益が少なく、厳しい業界だ。また、ほかの日系企業と同様だが、離職率の高さが課題だ。チェンナイには研究者が多く、人材も豊富だが、魅力的な待遇や成長できる環境を提示できなければ、人材は流出していってしまう。昇給率を高くしていく一方、顧客に同水準での値上げは受け入れてもらえない面がある。排水処理や下水処理は、製造や飲料用の施設に比べて資金が投じられにくい。環境に配慮するというよりは、基準を満たしていれば低コストの方がよいと考える企業の方が多いからだ。
質問:
今後の方針について。
答え:
新規開拓の営業に力を入れたい。特に営業力が不足していると感じており、品質にこだわる日系企業向けから受注したい。また、総合で業界のトップを狙うのは大変だが、一つでも尖(とが)った商品・サービスで、ナンバーワンを目指したい。チェンナイで、まだ提供されていないような分析サービス、ナンバーワンになれる分野を探す。
質問:
次に注目しているグローバルサウス諸国は。
答え:
当初はベトナムも検討していたが、現状ではインドで十分に成功しているといえず、インド事業をしっかりと成功させてから次の展開を目指したい。アフリカなど魅力的な市場もあるが、今は全身全力で日吉インディアを盛り立てたい。
企業基本情報
会社名 株式会社日吉
設立 1958年(創業1955年)
本社所在地 〒523-8555 滋賀県近江八幡市北之庄町908番地
資本金 2,000万円
従業員数 377人
URL https://www.hiyoshi-es.co.jp/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

取材日:2025年2月18日、10月24日

執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。2024年10月から現職。