今こそ挑戦!グローバルサウスインドを足場にASEAN市場へ踏み出す耕うん爪(太陽)
2025年12月17日
太陽(本社:高知県高知市)は、農業用トラクター後部に装着するロータリーに取り付ける耕うん爪のメーカーだ。2014年、初の海外進出先としてインドを選択し、現在は同国で耕うん爪を製造・販売している。インド進出の背景、現地での取り組み、今後の展望について、久松朋水代表取締役社長、浜重真平取締役、土居照明海外事業部次長兼海外推進課課長に聞いた(取材日:2025年11月21日)。

日系トラクターメーカーに先んじてインドに工場を設立
国内市場が縮小していく一方、人口増加の続く海外では農業が重要産業として成長が見込まれていたことから、同社は2012年頃より海外市場調査を開始した。当初は中国、タイも候補として検討したが、中国の安価な競合製品に対して差別化が難しいと判断。タイは魅力的な市場だったものの、現地生産には大型の設備投資が必要であり、当時は同社にとって投資規模に対する市場サイズが十分でなかった。
その中で注目したのがインドである。インドは世界最大規模のトラクター生産国であり、国内総販売台数は2012年時点で50万台超、2025年には100万台超へ倍増する見込みだ(図1参照)。加えて、モディ政権の「メーク・イン・インディア」政策開始のタイミングも重なり、追い風となった。
注:2025年は統計が存在する1~10月までのデータ。
出所:Tractor and Mechanization Association、Auto Punditzの発表からジェトロ作成
久松社長は「インドでは、主要原料である鉄鋼を国内調達できる点も進出の決め手となった。市場価格も中国より安定しており、開拓余地があると判断した」と語る。当時、日本の大手農業機械メーカー(OEM)はインドに販売拠点こそあったものの、製造拠点を持っておらず、太陽は現地企業向け販売を前提に工場設立に踏み切った。
2013年、同社はインドに会社を設立。デリーから約100キロのニムラナ工業団地(注1)に工場を建設し、2014年に操業を開始した。日系企業専用ゾーンに入居し、企業間で情報交換を積極的に行ったという。現在、インド法人の従業員は99人(うち日本人3人駐在)となっている(注2)。工場には最新の自動機を導入し、日本で開発した製品をテストマーケティングしつつ、インド市場に適合する約50種類の耕うん爪を製造。現地で製造が難しい高付加価値帯の製品は、日本から輸出している。
図2:ニムラナ工業団地日系企業専用ゾーンの入居企業
注:2025年9月30日時点。現在はニムラナ工業団地にある日系企業専用区画の工業用区画については、分譲が終了(2025年9月26日付ビジネス短信参照)。
出所:ラジャスタン州産業開発・投資公社(RIICO)提供データ、ジェトロ調査・ヒアリングを基に作成
黒字化まで6年、ランニングコストの確保が課題
中小企業にとって現地工場のイニシャルコストやランニングコストの負担は大きく、同社は資本金を4億から6億ルピー(約10億3,000万円、1ルピー=約1.72円)に増資してなんとか対応した。内部留保や借り入れを活用しながら、現在は無借金経営を実現している。
新型コロナ禍では、ロックダウンで工場が一時停止したものの、農業機械企業への操業許可が出た2020年5月上旬から生産を再開。手元の材料で製造し、在庫を販売したところ好調に推移し、2020年に黒字化を達成した。久松社長は「インドは黒字化まで平均5~6年と言われるが、当社も6年目で達成した」と振り返る。
営業活動はメーカー向けとアフターマーケットの両輪で実施している。アフターマーケットでは自社営業部隊を配置し、交換用耕うん爪の販売ネットワークを構築。インド南部は協力的な販売代理店が多く営業員は3人と少数だが、北部は販売実績が伸び悩むことから、東西2地区に分け、計15人の営業員を配置している。重点州を設定し、営業管理ツールを活用したリモート管理も行っている。
アフターマーケットの販売代理店の中には、低価格のローカル品を組み合わせて販売する企業も多く、太陽の製品販売を促すため、同社は年間インセンティブ制度を設定。一定の販売実績に応じた価格体系を適用し、未達の場合は契約継続を見直す仕組みを導入している。 主要なトラクターメーカーで最大手のマヒンドラ・アンド・マヒンドラ(M&M)が主顧客であり、同社はインドで約40%のシェアを有する。一方、2022年にはM&Mを除く多くの主要メーカーが新型コロナ禍での供給不安を契機に、耕うん爪の自社製造を開始した影響で売り上げが減少。インド国内での売り上げ減少分を補うべく、現在はインドからASEANへの輸出を目指した販路開拓に取り組んでいる。
展示会への出展も強化しており、隔年開催のEIMA農業機械展示会
には2013年から参加。ライバル企業からは「進出が早かった」と評されるなど、先行者メリットを活かした展開が奏功している。久松社長は「進出当時、イタリアメーカーも進出を検討していると聞いた。競合他社に先手を打てたことが大きかった。チャンスはその時に掴まないといけないと考える」と語る。

競争拡大の中で問われる品質力と運営改善
進出当時、主要競合企業はインド企業とイタリア企業を中心に10社程度だった。しかし、同社がインド市場に本格参入した後、イタリア企業は1社を除き市場から撤退し、現在の競合他社は主にローカル企業と中国製品となっている。競合企業数は50社に増加し、価格競争は一段と激化した。
その中で太陽は「多品種・少量生産・高付加価値」を強みに差別化を図る。オリジナルツイスト(ねじり)加工を施した同社製品は、イタリア製より約20%、ローカル品より約50%長寿命で、価格はローカル品比2割高に設定。当初は価格に対する反発があったが、耐久性が評価され普及が進んだ。「ローカルメーカーはボロン鋼を使用するが、当社はばね鋼SUP6(注3)を採用。強度・耐久性に自信がある」と土居次長は説明する。また、トラクターメーカーからは太陽の現地競合企業と異なり、納期やリードタイムを厳守することも大いに評価されている。
競合企業が販売するインド製の品質はばらつきが大きく、中国製も一定数流通している。一部製品は小型タイプで、インドメーカーでは技術的に製造できず中国から輸入されているケースもある。

一方、税制・法制度の頻繁な変更、資金回収の遅れ、労務管理、模倣品対策など、課題は多い。特にインドでは資金回収が大きな課題であり、資金繰りに苦労していたが、新型コロナ禍以降、前金制を導入して回収率の大幅改善につなげている。「中小企業の海外進出は社運をかけている。撤退となれば企業としての存続に関わる。失敗は想定しないが、資金繰りが悪化すれば継続が難しくなる」と久松社長は語り、操業開始後の国の財政的支援の必要性を強調した。
労務管理でも課題は多く、不正防止のため監視カメラやGPS管理を導入。定期的な実地確認をして、問題があればイエローカードを出して指導するなど、組織統制を強化している。模倣品対策も課題であり、過去にはインドに輸入された中国製の商標侵害や、最近ではインド製で2社からの特許侵害も確認されている。特許事務所と協議しながら侵害の警告を出して止めるなど、対策を強化している。
現在、同社はインド市場でシェア2位に位置し、まずはインド国内でのトップシェア獲得を目指す。その上で、ASEANをはじめとして世界への輸出展開も視野に入れている。久松社長は「製造キャパシティーには余力がある。販売網を広げ、インドから世界へ展開していきたい」と展望を語った。激化する競争環境の中で先行者優位と技術力を生かしてきた太陽の取り組みは、日本企業としては珍しい「インドを起点に世界へ展開し、グローバルニッチトップを目指す」モデルケースであり、グローバルサウス市場での新たな成長戦略を示すものといえる。
| 会社名 | 株式会社太陽 |
|---|---|
| 創業 | 1920年 |
| 設立 | 1953年7月 |
| 本社所在地 | 高知県高知市布師田3950 |
| 従業員数 | 147人 |
| URL |
https://www.k-taiyo.co.jp/ |
取材日:2025年11月21日
| 項目 | 2024年 |
|---|---|
| 面積(平方キロメートル) | 3,287,263 |
| 人口(万人) | 14億5,094万人 |
| 実質GDP成長率(%) | 6.5 |
| 1人当たりGDP(米ドル) | 2,697 |
| 消費者物価上昇率(%) | 4.6 |
| 失業率(%) | 8.1 |
| 主要産業 | 農業、工業、IT産業 |
出所:インド統計・計画実施省およびインド準備銀行(RBI)(実質GDP成長率、消費者物価上昇率)、世界銀行(1人当たりGDP、人口) 、インド経済監視センター(CMIE)(失業率)、外務省(主要産業)
- 注1:
- ニムラナ工業団地については、「ラジャスタン州日本企業専用工業団地(ニムラナ、ギロット)のご案内」を参照。
- 注2:
- 2025年6月時点。
- 注3:
- SUP6はシリコンマンガン鋼で、コイルばねや自動車用板ばね、耐衝撃用工具や他の機械部品、部材などに使われる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ) - 2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。




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