今こそ挑戦!グローバルサウスイスラム教徒の礼拝用マット製造を支える、岡山市・浅越製作所の挑戦
2026年4月20日
浅越製作所(本社:岡山県岡山市)は1877年創業の老舗織機メーカーであり、現在は「プラスチックござ」製造用の機械を主力製品としている。販売先の99%は海外の企業が占め、「ASAGOE」ブランドは世界に広がっている。特に、プラスチックござ製造機械はイスラム教国における礼拝用マット向けとして高い評価を受けている。これまでアジア、中東、アフリカと幅広い地域に機械を輸出してきた浅越製作所だが、さらなる新規市場開拓にも意欲的だ。本稿では、同社の海外事業展開について、これまでの軌跡と課題、今後の展望を紹介する。代表取締役の浅越啓介氏と営業部主任の大野耕作氏に話を聞いた(取材日:2026年1月20日)。

織機技術を生かしプラスチックござの製造機械を一貫生産
浅越製作所はい草を取り扱う問屋として明治時代に創業し、昭和の初めには手織りで畳表の生地製造を手掛けていた。その後、手織りから機械化に移行し、1930年には畳表の自動織機を開発した。国内における畳需要の縮小を受け、1960年代以降、畳表とござ製造機械で培った織機技術を応用し、ポリプロピレン製のプラスチックござ製造機械の開発・販売に乗り出した。現在では、同社製品の販売先のうち99%が海外企業であり、プラスチックござ製造機械が同社の主力製品になっている。プラスチックござはフロアマットやベッドに掛けるマットなどとして活用され、その製造工程は(1)プラスチック糸の製造、(2)縦糸を織機に取り付ける準備、(3)織機による製織、(4)仕上げ(カットと縫製)の4つに大別される。浅越製作所では、これらの工程を支える織機やプラスチック糸の押出機を製造し、トータルパッケージで輸出している。岡山市の本社工場において一貫生産しているのが特徴で、部品の設計・加工や、必要に応じて加工機械までも自社で製作している。

「西へ西へ」と販路開拓、最大市場はナイジェリア
プラスチックござ製造機械の輸出は東南アジア(インドネシア、タイなど)向けから始まり、東アジア(中国や台湾)向けがメインだった時期もあった。しかし、これらの地域は早い段階で市場は飽和した。そこで浅越製作所は、南西アジア、中東、アフリカと、「西へ西へ」と販路を拡大してきた。中でも、プラスチックござ製造機械の主力市場になっているのは、イスラム教国だ。背景には、イスラム教徒が礼拝時に床に敷くマットとして、プラスチックござの需要が非常に高いことがある。
現在、浅越製作所が手掛けるプラスチックござ製造機械の最大市場はナイジェリアだ。ナイジェリアは2024年時点で世界6位の人口(2億3,268万人)(注1)を抱え、国民の半数近くがイスラム教徒だ。同社がナイジェリア市場に参入したのは2000年、海外商社からの連絡を受けて現地を訪れたことがきっかけだった。現地では政府関係者が同社製品に強い関心を示し、そこから市場が一気に広がっていったという。「情報を得てすぐに行動したことや、実際に現地に足を運んで市場を知ろうとしたことが成功につながった」と浅越氏は語る。
「提案力」を軸に、一度は諦めた市場に再挑戦
浅越製作所は、新たにエジプト、モロッコ、タンザニア市場への参入を目指している。ジェトロにも相談しながら選定したもので、アフリカ諸国の中でもGDPが上位で、イスラム教徒人口が多く、さらに貿易統計から織機の需要が高いと判断した3カ国だ。これらの国は、同社が最初にアフリカ進出を決めた際にも候補に挙がっていたが、当時は参入が難しいという結論に至った。その背景には、競争環境の厳しさがあった。
海外市場には、シリアやインド製など、日本製の半額以下で販売される低価格織機が多数流通しており、価格競争は厳しい。前述のアフリカ市場(エジプトやモロッコなど)でも、シリアやインド製の織機が広く出回っている。部品の模倣から始まり、模倣機の製造が拡大している状況だ。ただし、浅越製作所の織機は部品点数が1,500点前後と多く、完全なコピーは難しい構造になっている。それでも、「マットがよく使われている市場ほど、類似機械が既に流通しており参入が難しい。品質・性能が良いだけでは、価格が倍以上する機械を選ぶ理由にならないだろう」と大野氏は語る。こうした事情から、一度は進出を諦めた3カ国だったが、浅越製作所は再挑戦する考えだ。
そこで同社が目指すのは、最終製品まで見据えた「提案力」を武器に市場へ参入することだ。同社の機械は、縫製・裁断工程や色付け・パターン化の工夫によって多様なデザインのござを製造でき、そこからさらに派生した製品づくりも可能だ。実際、プラスチックござからカバンや座布団、ポーチなどを製造している既存顧客もいる。浅越製作所は、単に織機を提供するだけでなく、顧客のこだわりを汲み取り、製品開発を実現するための提案に注力している。エジプトやモロッコ、タンザニアでは、ハイエンド向けの新規事業に取り組みたいと考えるローカル企業を取り込みたいという思いがある。
アジア地域でも市場拡大目指す
浅越製作所はリスク分散の観点から、アフリカ市場に加えて再びアジア地域での市場拡大にも目を向けている。イスラム教国という共通項を踏まえ、現在はバングラデシュやアフガニスタンについて調査を進めている段階だ。バングラデシュでは国内で安価な織機が製造されているため参入障壁は高いが、市場そのものは確実に存在すると同社は実感している。アフガニスタンは過去にスポットでの販売実績があるため、参入しやすいと判断した。また、1970~1980年代に機械を納入したインドネシアでは、現在買い替え需要があるという。インドネシアは国内市場が大きいだけでなく、マレーシアなど周辺国にマットが輸出されていることから、市場は消えることはないと浅越氏は語る。買い替えにあわせ、新たな提案も行っていく予定だ。
グローバルサウスでの「つかみ」は好感触、その先は提案力・商品力で勝負
中小企業ながら積極的に海外市場に挑戦してきた浅越製作所。同社の市場開拓は、商社経由の紹介や顧客ネットワークの活用、DM送付、展示会出展など多様な手法を組み合わせて進められている。展示会では実機の展示が難しいため、原料や製品サンプル、映像などを活用し、製品の用途や付加価値を訴求している。プラスチックござは海外の市中でも見かける機会が多く、「このマットを作る機械だ」と説明すると、ある程度話が通じるという。また、輸出先の大半を占めるグローバルサウス諸国について、大野氏は「親日国が多く、『日本人が来た』『日本のものを持ってきた』というだけで、とりあえず話は聞いてくれることも多い」と語る。ただし、その先は商売であり、もう一度会ってみたいと思ってもらえるような提案力や商品力が必要だと同氏は指摘する。
グローバルサウス市場への展開は決して平たんではない。インターネット上では治安の悪化や政情不安といったネガティブな情報が拡散されやすいこともあり、出張に不安を抱く従業員も増えている。現在、海外営業の専任担当は2人と人員が限られており、新たな海外営業人材の確保・育成や社内での理解醸成は浅越製作所にとって課題となっている。さらに、特にアフリカでは資金回収リスクも無視できず、現地企業の支払い能力を慎重に見極める必要がある。小規模企業の場合、購入できる機械の台数も限られるため、事業として軌道に乗りにくいという現実もある。
それでも浅越製作所は、「当社のような中小企業にとって、海外展開にはある程度の勢いも重要。慎重に進め過ぎると何年もかかってしまう」(浅越氏)との考えのもと、さまざまな市場に踏み出してきた。資金回収についても、「当社が支援や助言をして改善されていくのであればよい」(同氏)として、小規模企業であっても将来性を見極めながら向き合っている。こうした実践的で柔軟な姿勢が、同社の海外事業を前に進めている。
イスラム教は世界の主要宗教の中で最も信者数の増加率が高く、いまや最大宗教のキリスト教に迫る勢いだ(注2)>。イスラム教徒による礼拝用マットの需要は、今後も増加が続くと見込まれる。「ASAGOE」ブランドが、世界中のより多くの人々の暮らしを支えていくことが期待される。
| 会社名 | 株式会社浅越製作所 |
|---|---|
| 設立 | 1939年7月(創業:1877年) |
| 本社所在地 | 岡山県岡山市南区箕島950-1 |
| 従業員数 | 33人 |
| URL |
https://www.asagoe.co.jp/recruit/index.html |
| 項目 | ナイジェリア | エジプト | モロッコ | タンザニア |
|---|---|---|---|---|
| 面積(平方キロメートル) | 923,773 | 1,001,450 | 446,000 | 95 |
| 人口(万人) | 23,268 | 10,780 | 3,808 | 6,856 |
| 実質GDP成長率(%) | 3.4 | 2.4 | 3.8 | 5.5 |
| 1人当たりGDP(米ドル) | 824 | 3,570 | 4,157 | 1,187 |
| 消費者物価上昇率(%) | 33.2 | 33.3 | 0.9 | 3.1 |
| 失業率(%) | 4.3 | 7.4 | 13.3 | 1.6 |
| 主要産業 | 農業、原油、天然ガス、通信等 | 製造業、卸売・小売業、農業、建設業、不動産・ビジネスサービス | 農業、水産業、鉱業、工業、観光業 | 農林水産、製造・産業等、サービス |
出所(ナイジェリア):
面積、主要産業:外務省
実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価上昇率:IMF
失業率:ナイジェリア国家統計局(NBS)<
出所(エジプト):
面積:国家情報サービス(SIS)
人口:エジプト中央動員統計局(2025年6月30日)
1人当たりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、 失業率:IMF
主要産業:外務省
出所(モロッコ):
面積、主要産業:外務省
人口:世界銀行
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:モロッコ高等計画委員会
1人当たりGDP:IMF
出所(タンザニア):
面積、主要産業:外務省
人口、実質GDP成長率、1人当たりGDP、失業率:世界銀行
消費者物価上昇率:タンザニア国家統計局(NBS)
- 注1:
-
世界銀行のデータ参照。
- 注2:
-
Pew Research Center “How the Global Religious Landscape Changed From 2010 to 2020
”
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ) - 2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。





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