今こそ挑戦!グローバルサウスブラジルで伸びる低コスト農業ナビ(農業情報設計社)
2026年2月12日
農業情報設計社(本社:北海道帯広市)は、2014年に設立したアグリテック企業だ。スマートフォン(スマホ)と低価格GPS機器を使って、トラクター作業で「真っ直ぐ・等間隔な走行」を支援する農業機械用ガイダンスナビアプリ「AgriBus-NAVI」をはじめとする「AgriBus」シリーズを開発する。
同社によればアプリは既に140カ国以上で利用され、ダウンロードのほとんどが海外だという。同社の濱田安之代表取締役に、最大市場となったブラジルでの手応えと課題、次の一手を聞いた(取材日:2026年1月15日)。

スマホ×GPSで導入障壁を下げ、海外を前提に事業設計
濱田氏は農研機構(注1)の研究者としてソフトウエア開発やスマート農業に携わった後、独立して同社を立ち上げた。「研究で培った技術を現場の農家に実際に使ってもらえるかたちにしたい」という思いが、起業の出発点だったという。その上で、事業として成立させるための市場規模を見積もったところ、日本市場だけでは累計で2~3億円規模にしか届かず、国内だけでは成長余地が限られていることが見えてきた。そこで、「海外市場を最初から考えないと生き残れない」と判断し、創業当初から海外展開を前提に据えた。
同社の農業機械用のガイダンスナビアプリの特徴は、シンプルで低コストに徹した点にある。大掛かりな専用機ではなく、スマホと比較的安価なGPS機器を活用し、農家の導入障壁を下げた。「高くて重厚な機械ではなく、スマホで農作業のサポートが得られる」ことを価値に据え、農家の熟練度に左右されにくい運転支援を実現してきたという。
アプリが支持される要因に、現場のムダを減らす機能がある。作業軌跡の見える化により、施肥・防除(注2)など跡が見えにくい作業での撒きすぎやかけ忘れを防ぐ。「真っ直ぐ・等間隔な走行」ができれば、肥料や薬剤を約5~10%節約できるという。加えて「1本飛ばし」作業で枕地(注3)の切り返し回数を減らし、燃料・二酸化炭素排出の削減や機械負担の軽減にもつながる。最終的には自動操舵(そうだ)へ、低コストでできるところから段階的に自動化を進める設計が特徴だ。

言語対応でブラジルでの爆発的拡大を生むも、有料転換が壁に
2015年、アプリを英語・日本語の2種類でローンチした。デジタル配信プラットフォーム経由でのアプリ配信によって、日本のみならず一気に海外へ届けることができた。広告を大きく打たない時期でもダウンロードは伸び、当初から中南米の比率が高かったという。
最大市場がブラジルになった背景について、濱田氏は「正直たまたま」としつつ、ブラジルの市場性については「農業は基幹産業で、中小規模の農家が約120万存在する。当社製品のターゲット層が多い点は非常に有望で、日本全国の全農家数に相当する規模感だ」と見る。特に、2019年にポルトガル語版を投入した途端、ブラジルでのダウンロードが爆発的に増加。さらにスペイン語対応でアルゼンチン、コロンビア、メキシコなどへもユーザーが広がった。現在、アプリのダウンロード総数は260万ほどだが、その約3分の1をブラジルが占め、中南米地域で半分に達するという(図)。
強力なユーザーベース
出所:同社提供
一方、ユーザー数の拡大と収益化は別問題だ。濱田氏は「ビジネスとして沢山儲かっているわけではない」と率直に語る。同社のビジネスモデルは、(1)無料から始められるアプリのサブスクリプション、(2)自動操縦用の後付けハンドルなどのデバイス販売、(3)農家向けの種まき作業の早遅を指標化したデータの提供の3本柱を掲げる。アプリ単体のダウンロードは伸びても、ブラジルのアクティブユーザーは7~8万人程度。無料ユーザーの有料化が進まないことに頭を悩ませているという。
同社の収益は、約3分の1から半分程度が日本でのハードウエアの売り上げだという。一方、グローバルサウスでハードウエアを展開する上で留意すべきなのは、制度対応だ。特にブラジルでは関税が高く、輸出すると価格が本体の倍以上になり得る。無線設備の技術基準への適合を証明する電波関連認証について、同社は2020年9月にGPS・GNSSレシーバー(注4)でブラジルの電気通信庁(ANATEL)から承認を取得し、販売に向けた大きな関門を1つ越えた。だが、海外でハードウエアを売ることになると、価格競争力の確保に加え、故障時の保守・交換、問い合わせ対応など売った後の体制づくりが購入の前提条件になりやすい。実際、数年前にブラジル拠点の設立を検討したものの、コストとサポート体制の面から断念した経緯があるという。
競争環境は厳しい。ハードウエア一体型の自動操舵・高精度測位は中国勢が急速に成長しており、開発体制の差がスピードを生む。「中国には開発者150人規模の企業もある。当社の開発者は3人と少数」と語り、勢力図が既に塗り替わっていることに危機感を示す。また、スウェーデン系のヘキサゴン傘下で、ブラジルに拠点を置く「ヘキサゴンアグリカルチャー
」は、現場で手厚いサポート体制を構築している。一方、ハードウエアの販売には年間数億円規模の売り上げがないとサポートの人件費がまかなえないため、同社はアプリで勝負する。ただし、アプリの競合も十数種あり、今後は生成AI(人工知能)の普及で類似アプリがさらに増える懸念もあるという。
価格改定と機能高度化に加え、現地ネットワークで収益化を進める
同社のアプリは比較的リーズナブルなものの、それでもグローバルサウスではお金を出せない農家が多いという現実がある。濱田氏は「農家に直接課金するのは難しい」と語る。さらに「(アプリを使っているが)どうしてこんなに儲かっていないのか」とユーザーからいわれることもあるという。
アプリ単体のマネタイズに向けた一手は、(1)価格設計の見直しに加え、(2)アプリの機能向上、(3)現地のネットワークを活用した販売網構築を同時に進めることだ。 第1に、価格改定だ。グローバルサウスでは購買力の差が大きく、同社は地域別の価格改定を試す。世界一律だった価格を見直し、グローバルサウスは通常価格の3分の1、アフリカは4分の1程度を目安として設定する考えだ。
第2に、アプリ側の価値を引き上げ、払う理由を厚くすることだ。濱田氏は、直進ガイダンスや作業軌跡の可視化といった基本機能に加え、衛星画像解析と組み合わせ、生育の弱い部分を狙って追肥できるような新たな機能開発を進めている。同社が重視するのは「ユーザーの満足度を守る」ことだ。同社はアプリ評価を高水準で維持している点が強みだという。技術の歩みを止めず、必要とされるポジションを守り抜く姿勢を示した。
第3に、現地ネットワークを使って販売網を構築することだ。アプリの直課金は難しくても、農家との接点を持つ現地の農業機械メーカーと組めば、(1)セット販売や顧客サービスの一環として提供し、利用料をB2B的に回収する、(2)大規模農場への導入を起点に周辺へ波及させる、といった回収の仕組みが作りやすくなる。また、肥料の売買や農機の貸し借りなどの日々の取引に踏み込む設計により、利用料を回収しやすい収益モデルの構築を視野にいれる。普及のボトルネックになりがちなICTリテラシーについては、説明動画の拡充に加え、現地インフルエンサーを活用した啓発もアイデアとして挙げる。加えて、ブラジル農牧研究公社(Embrapa)との連携も深めており、2026年2月にはEmbrapaと連携して現地展示会での発表を予定している。将来的にはブラジル最大級の農業展示会「アグリショー」への出展も視野に入れる。
さらに濱田氏が「最もセンシティブ」と語るのは、データ保護だ。国・地域ごとに規制が強まる中、現地体制やガバナンス整備にはコストがかかる。「問題にならないようにやっている」という段階から、事業拡大に耐える管理体制づくりに進めることが欠かせない。
次の注目国・地域としては、穀物地帯として重要なウクライナ、そしてケニアなど東アフリカを挙げた。アフリカは大規模プランテーションと小規模農家の二極化が進むが、将来、与信やマイクロファイナンスまで含めて日常の取引に寄り添う形に進化できれば、小規模農家でのアプリ利用が加速すると見る。タイやベトナムでも公的事業を通じた実証に関わっており、地域特性に合わせた普及モデルを探る考えだ。
ユーザーは世界にいる。次に問われるのは、現地で回る収益モデルと、持続可能な運用体制の構築だ。濱田氏の言葉を借りれば、グローバルサウス攻略は「地道にやるしかない」営みだ。ローカル言語対応と品質、制度対応、そしてパートナー戦略。これらを同時並行で磨き上げられるかが、グローバルサウスでの成長を左右しそうだ。
| 会社名 | 農業情報設計社 |
|---|---|
| 設立 | 2014年 |
| 本社所在地 | 北海道帯広市西8条南40丁目1番6号 |
| 従業員数 | 4人 |
| URL |
https://agri-info-design.com/ |
取材日:2026年1月15日
| 項目 | 2024年 |
|---|---|
| 面積(平方キロメートル) | 850万9,380 |
| 人口(万人) | 21,258 |
| 実質GDP成長率(%) | 3.4 |
| 1人当たりGDP(米ドル) | 10,247 |
| 消費者物価上昇率(%) | 4.62 |
| 失業率(%) | 6.6 |
| 主要産業 | 製造業、鉱業(鉄鉱石他)、農牧業(砂糖、オレンジ、コーヒー、大豆他) |
出所:実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率(ブラジル地理統計院)、1人当たりGDP(ブラジル中央銀行)、主要産業(外務省)
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ) - 2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。




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