競争環境の変化
2025年のサウジアラビア自動車産業(1)

2026年7月1日

2025年のサウジアラビアは、石油部門の回復を背景に経済成長を維持し、自動車市場では乗用車・商用車ともに販売が増加した。高水準な金利環境が自動車ローンに逆風となる中、同国政府の積極的な財政出動やメガ・ギガプロジェクトの波及効果が市場を支え、プラス成長を維持した。

本稿では、トヨタ自動車や現代自動車が引き続き市場を主導する一方、中国メーカーの台頭や中位ブランドの拡大により一段と激化している競争環境について取り上げる。

サウジアラビアの自動車市場は拡大も、メーカー間の競争が激化

2025年のサウジアラビア経済は、石油部門が高い伸びを示したことを背景に、実質GDPは4.5%のプラス成長となった(2026年2月5日付ビジネス短信参照)。国際自動車工業連合会(OICA)によれば、同国の乗用車の販売台数は前年比約3.0%増の72万6,988台と増加した。商用車の販売も同1.1%増の10万556台となり、いずれも前年を上回った。また、サウジアラビアの国家産業開発センター(NIDC)によると、同国の自動車販売台数は2030年代半ばに100万台規模に達すると予測されている。

メーカー別シェア(表参照)を見ると、トヨタ自動車が27%で首位を維持したものの、前年(2025年8月6日付地域・分析レポート参照)からは5ポイント低下した。一方、韓国の現代自動車(15%)や起亜自動車(8%)、日産自動車(6%)などは、いずれも一定のシェアを維持している。トヨタのシェア低下の背景には、中国系ブランドが価格競争力の高い車種を積極的に投入していることに加え、厳しい金融環境が消費者の志向を価格重視へとシフトさせ、中国勢の拡大を後押ししている点が挙げられる。こうした状況を受け、従来強みとされてきたブランド力やリセール価値の重要性は維持されているものの、それのみで競争優位を確保することは難しくなりつつある。

同国の自動車ローン市場は、通貨の米ドルペッグ制により米国の金融政策に連動しており、足元では高金利環境が継続している。サウジアラビア中央銀行(SAMA)のレポ金利(注1)は4.50%(2026年5月時点)であり、一般的な自動車ローンの実質年率(APR)は、銀行の給与振り込み指定や信用条件によるものの、約4~7%台で推移している。こうした高金利環境の下、月々の返済負担が増加している。これにより、消費者の購買力が抑制され、関心は「ブランド」から「コストパフォーマンス」へとシフトしている。月額1,900リヤル前後(約8万円、1リヤル=約42円)の支払いで、より大型で多機能なモデルを選択できることから、乗用車は実利を重視する層にとって有力な選択肢となっている。

そのほか、中国メーカーなどは販売促進のため、ディーラー独自の金利0%キャンペーンや事務手数料免除などを積極的に展開している。こうした施策により、高金利環境という障壁を実質的に緩和し、中間層の購買意欲の取り込みを図っている。

同国の乗用車の市場価格を見ると、小型車の4万5,000~8万リヤル(約190万~340万円)に対し、中型車の8万~16万リヤル(約340万~670万円)が販売の中心となる価格帯を形成している。このことから、同国では中型車がボリュームゾーンを占めていることが分かる。中国勢は近年、エントリー層向けの低価格小型車で築いたシェアを土台としつつ、日本車と競合する8万リヤル前後の価格帯に、最新のコネクテッド機能や先進運転支援システム(ADAS)を搭載し、デザイン性や内装の質感も高めた中型スポーツ用多目的車(SUV)を戦略的に投入している。中型車セグメントは小型車に比べて価格は上昇するものの、SUVやEV、ハイブリッド車(HEV)など付加価値の高いモデルが多く含まれている。特に、新たに免許を取得した層やデジタル志向の若年層を中心に、「価格と付加価値のバランス」が車種選択の重要な基準となりつつある。

車種別では、セダン(シェア48%)とSUV(37%)が需要の中心を占める。同国では、涼しい時期に砂漠でキャンプを楽しむ「Kashtah(カシュタ)」という文化が根付いている。近年はSNS映えを意識したグランピング(注2)需要の高まりも相まって、若年層を中心にSUV志向が強まっている。

表:サウジアラビアにおけるメーカー・ブランド別販売台数シェア 注1:上海汽車(SAIC)はMGブランド、長城汽車はGreat WallとHAVALブランド、奇瑞汽車は捷途(ジェットア)ブランドで展開。 注2:端数処理の関係で合計が100にならない。

メーカー・ブランド名 シェア
トヨタ自動車 27%
現代自動車 15%
起亜自動車 8%
日産自動車 6%
フォード 5%
スズキ 4%
いすゞ自動車 4%
マツダ 3%
長安汽車(Changan) 3%
上海汽車(MG) 3%
吉利汽車(Geely) 2%
奇瑞汽車〔捷途(ジェットア)〕 2%
トヨタ(レクサス) 2%
長城汽車(HAVAL) 1%
ホンダ 1%
その他 12%

注1:上海汽車(SAIC)はMGブランド、長城汽車はGreat WallとHAVALブランド、奇瑞汽車は捷途(ジェットア)ブランドで展開。
注2:端数処理の関係で合計が100にならない。
出所:国家産業開発センター(NIDC)からジェトロ作成

サウジアラビア向け乗用車輸出、日本の小型が大幅増加、中型車は底堅く推移

主要国の2025年のサウジアラビア向け乗用車輸出を見ると、日本からの輸出は、排気量1,000cc以上1,500cc未満の小型車が前年比84.6%増の6,663台、排気量1,500cc以上3,000cc未満の中型車が同0.2%増の9万5,679台と堅調に推移したほか、3,000cc以上の大型車も同8.1%増の3万5,891台と増加した。中国からの輸出では、小型車が前年比3.9%減の13万3,585台とやや減少したものの、中型車は同28.2%増の10万1,706台と大幅に増加した。全体を見ると、日本は全ての車種で増加基調にある。中国やインド、米国、タイ、ドイツでは一部車種で増加がみられ、韓国の輸出は減少傾向にあるなど、国・車種別で動向の違いがみられる(図1参照)。特に中国からの輸出に関しては、小型車から中型車への需要シフトが顕著となっており、価格帯の上昇とともに市場の高付加価値化が進んでいる点が特徴的だ。

一方で、アフターサービスやメンテナンス体制の充実度は、ブランド選択における重要な要素となっている。販売後のサポートに強みを持つ日系メーカーは、引き続き一定の競争力を維持している。また、リセール価値も購買判断における重要な要素となっている。中古車市場が活発な同国では、耐久性やブランド信頼の高さから中古市場での評価が高い日本車は、総保有コストの観点から優位性を維持している。一方、中国車は価格や装備面での競争力を強みにシェアを拡大しているものの、リセール面では依然として課題が残る。例えば、中古市場での流通量がまだ少ないことから価格の変動が大きく、将来的な売却価格が見通しにくい点などが挙げられる。

図1:主要国・地域の対サウジアラビア乗用車輸出推移
乗用車の国別・車種別輸出台数を2023年から2025年で比較した棒グラフ。対象国・地域は中国、日本、インド、韓国、タイ、米国、EU、ドイツで、各国・地域について小型車、中型車、大型車の3区分が示されている。全体として、中国は小型車と中型車の輸出台数が最も多く、特に小型車は2024年に約14万台と最大規模となり、2025年はやや減少したものの依然として最大である。一方で中型車は増加傾向にあり、2025年には約10万台まで拡大している。日本は中型車の輸出が最も多く、2025年も約9万6千台とほぼ横ばいで推移している。小型車は規模は小さいものの増加しており、大型車も緩やかに増加している。インドは小型車が約12万台規模と多いが、近年やや減少傾向にある。韓国、EUは全体的に減少傾向が見られ、特に中型車の減少が目立つ。タイは中型車が増加している一方、小型車は減少している。米国とドイツは全体規模が比較的小さく、車種ごとの変動も限定的である。国ごとに車種別の動向に違いがあり、特に中国では小型車から中型車へのシフト、日本では中型車中心の安定した輸出構造が確認できる。

注1:便宜的名称として排気量1,000cc以上1,500cc未満を小型車、同1,500cc以上3,000cc未満を中型車、同3,000cc以上を大型車とした。
注2:EU(参考)を除き、小型車・中型車・大型車の2025年合計輸出台数が多い国順に列挙。
注3:EU(参考)にはドイツが含まれる。
注4:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)は独自の製品群ごとに分類しているため、Global Trade Atlasの輸出側統計を利用した。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

商用車市場で中型トラックへのシフトが進展

2025年の主要国の同国向け商用車輸出を見ると、各種プロジェクトの進展に伴い、供給国の勢力図に明確な変化が現れている。5トン未満の小型トラックでは、日本からの輸出が前年比約2倍の9,286台と大幅に増加した一方、中国は同50.3%減の8,460台、タイは同28.9%減の1万1,126台と大きく減少に転じた。また、5トン以上20トン未満の中型トラックにおいても、日本は前年比約2.2倍の2万61台と際立った伸びを見せた。中国も同約82.7%増の1,858台と大きく増加している。一方で、20トン以上の大型トラック市場では、中国が4,892台と引き続き最大規模を維持しているものの、前年比では減少しており、重輸送分野での優位性を維持しつつも調整局面にある(図2参照)。

商用車の需要構造の変化は、同国で進行するメガ・ギガプロジェクトの進捗段階の変化と密接に関連している。開発初期には、基礎インフラ整備や大規模な土木工事の段階で、中国製の安価な大型トラックが主に用いられてきた。しかし、足元では都市部での建設が進展し、2030年リヤド万博などを見据えた都市内物流やラストマイル配送(配達の最終区間)の需要が急増している。その結果、大型トラック中心の需要から、小型・中型トラックを重視する需要へと移行している。

こうした市街地での稼働では、取り回しの良さに加え、過酷な環境下でも故障率が低いといった耐久性に定評がある日本の中型トラックへの需要が高まっており、採用の拡大が進んでいると考えられる。物流・流通部門は同国の商用車需要の主要な牽引役となっており、道路貨物輸送が物流市場の約4割を占めるまでに拡大していることが、こうした中型トラック需要の増加を支えている。

今後も「ビジョン2030」の下で、配送効率を重視した車両の更新や運用効率の向上が進む見通しであり、大型分野で強みを持つ中国と、中・小型分野で存在感を示す日本では、用途に応じた市場のすみ分けが一層進むと見込まれる。

図2:主要国・地域の対サウジアラビア商用車輸出推移
主要国・地域別に商用車(小型・中型・大型トラック)の輸出台数を2023年から2025年で比較した棒グラフ。対象国は日本、インド、タイ、中国、EU、ドイツ、韓国、米国である。EUにはドイツが含まれている。全体として、日本は小型・中型トラックの輸出が大きく増加しており、特に中型トラックは2025年に約2万台と大幅に拡大している。一方で大型トラックは減少傾向にある。中国は小型トラックが大きく減少している一方、中型トラックは増加している。また、大型トラックの規模は依然として比較的大きく、重車両分野で一定の存在感を維持している。タイは小型トラックが減少しているが、中型や大型は一定の動きが見られる。インドは小型トラックが最も多いものの全体として横ばいに近い動きである。EUやドイツは全体的に規模が小さく、緩やかな減少または横ばい傾向が見られる。韓国や米国は輸出台数が少なく、変動も限定的である。商用車輸出は国ごとに傾向が分かれており、日本は中小型トラックで拡大、中国は大型分野で存在感を維持するなど、用途に応じた棲み分けが見られる。

注1:本稿では便宜的名称として、5トン未満を小型トラック、5トン以上20トン未満を中型トラック、20トン以上を大型トラックとする。
注2:EU(参考)を除き、小型トラック・中型トラック・大型トラックの2025年合計輸出台数が多い国順に列挙。
注3:EU(参考)にはドイツが含まれる。
注4:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)は独自の製品群ごとに分類しているため、Global Trade Atlasの輸出側統計を利用した。
出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成


注1:
国債などの債券を担保に現金を貸し借りする「レポ取引(現金担保付債券貸借取引)」において、担保金に付される金利のこと。 本文に戻る
注2:
「魅力的な、華やかな」を意味する「Glamorous(グラマラス)」と「Camping(キャンピング)」を掛け合わせた造語。 本文に戻る

2025年のサウジアラビア自動車産業

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執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。