変容する中国NEV市場とその各国への影響EV市場が一服する中、中国系EVメーカーが参入(メキシコ)

2026年3月26日

メキシコでは、バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)を合わせた、電気自動車(EV)の需要が年々高まってきた。それに応じて各国メーカーがさまざまなラインアップでEVを展開。中でも特に存在感を増しているのが、中国系メーカーだ。

しかし、2025年はBEVの販売台数を落とすメーカーが目立った。さらに2026年以降は、政府の通商政策により新たな課題に直面しそうだ。

本稿では、2025年の当地EV市場の概況と2026年2月までの中国系メーカーの動きについてまとめる。

中国メーカーが相次いで市場参入

BEV、PHEV、ハイブリッド車(HEV)について、2025年のメキシコ国内販売台数をみると、BEVは2万923台(前年比13.8%減)と減少した一方、PHEVが1万3,684台(同71.2%増)、HEVは11万2,117台(同21.8%増)と増加した(図1参照)。また、国内自動車販売台数に占める、xEV(BEV・PHEV・HEVの合計、いわゆる「電動車」)の販売比率は、9.8%(前年比1.5ポイント増)、ZEV(BEV・PHEVの合計)の販売比率は2.3%(前年比0.1ポイント増)だった。

BEVは2021年から伸びてきたものの、2025年に入り伸びが止まったかたちだ。一方で、PHEVやHEVは引き続き急伸し、明暗が分かれた。

図1:BEV、PHEV、HEVの販売台数(2016年~2025年)
2016年から2025までのメキシコ国内でのBEV、PHEV、HEVの販売台数およびxEVとZEVの国内販売全体に占める割合を示した図。2016年の販売台数はBEV254台、PHEV521台、HEV7,490台で、国内販売全体に占める割合はxEV0.5%、ZEV0.0%。2017年の販売台数はBEV237台、PHEV968台、HEV9,349台で、国内販売全体に占める割合はxEV0.7%、ZEV0.1%。2018年の販売台数はBEV201台、PHEV1,584台、HEV16,022台で、国内販売全体に占める割合はxEV1.2%、ZEV0.1%。2019年の販売台数はBEV305台、PHEV1,339台、HEV23,964台で、国内販売全体に占める割合はxEV1.9%、ZEV0.1%。2020年の販売台数はBEV449台、PHEV1,986台、HEV21,970台で、国内販売全体に占める割合はxEV2.6%、ZEV0.3%。2021年の販売台数はBEV1,140台、PHEV3,492台、HEV42,447台で、国内販売全体に占める割合はxEV4.6%、ZEV0.5%。2022年の販売台数はBEV5,631台、PHEV4,575台、HEV40,859台で、国内販売全体に占める割合はxEV4.7%、ZEV0.9%。2023年の販売台数はBEV14,045台、PHEV5,778台、HEV53,857台で、国内販売全体に占める割合はxEV5.4%、ZEV1.5%。2024年の販売台数はBEV24,283台、PHEV7,994台、HEV92,026台で、国内販売全体に占める割合はxEV8.3%、ZEV2.2%。2025年の販売台数はBEV20,923台、PHEV13,684台、HEV112,117台で、国内販売全体に占める割合はxEV9.8%、ZEV2.3%。

出所:国立統計地理情報院(INEGI)

さらに、2025年の自動車生産・販売台数を主な企業別にみる(表1参照)。中国系企業は近年存在感を増しているが、その中でも傾向が分かれている。メキシコ国内生産をしている江淮汽車(JAC)の生産台数は、前年比2.8%減の2万4,683台。国内販売台数は、前年比1.5%減の2万4,445台となった。また、輸入販売を行う中国企業では、吉利汽車(Geely)は前年比237.4%増の2万2,258台、長城汽車(Great Wall)は同6.1%増の1万5,336台だった。一方、MG Motorは同18.9%減、福田汽車(Foton)は同8%減となった。モーターネーション(BAICなど)(注1)は取り扱っていた長安汽車が2025年に販売会社をメキシコに設立したことが影響し前年比74.5%減となった。奇瑞汽車(Chirey/Omoda/Jetour)は同71.9%減となっているが、2025年4月以降、一部ブランドの国立統計地理情報院(INEGI)への販売台数登録が途絶えており、実態は不明だ。

表1:企業別の自動車生産・販売台数(大型バス・トラック除く)(単位:台、%)(△はマイナス値、ーは値なし) 注:系列ブランド込み。すなわち、例えばフォルクスワーゲンにはSeat、Audi、Porscheを含む。 いすゞは、「ELF100」「ELF200」「ELF300」についてだけ販売台数を報告している(そのほかは、大型車両として別途に報告)。 奇瑞汽車は2025年5月以降、販売台数をINEGIに届け出ていない。
企業名 生産 販売
2024年 2025年 2024年 2025年
台数 台数 構成比 伸び率 台数 台数 構成比 伸び率
GM 889,072 857,431 21.7 △ 3.6 205,043 198,153 13.0 △ 3.4
日産 669,941 658,536 16.7 △ 1.7 256,227 275,662 18.1 7.6
フォルクスワーゲン 526,535 482,295 12.2 △ 8.4 177,248 171,994 11.3 △ 3.0
フォード 386,776 417,280 10.6 7.9 54,209 55,891 3.7 3.1
ステランティス 419,426 396,281 10.0 △ 5.5 93,809 91,215 6.0 △ 2.8
トヨタ 245,007 310,152 7.8 26.6 124,685 129,184 8.5 3.6
ヒョンデ・キア 270,700 288,100 7.3 6.4 157,689 165,669 10.9 5.1
階層レベル2の項目起亜 270,700 288,100 7.3 6.4 104,384 111,172 7.3 6.5
階層レベル2の項目ヒョンデ 53,305 54,497 3.6 2.2
ホンダ 194,642 191,700 4.8 △ 1.5 43,337 41,157 2.7 △ 5.0
マツダ 209,303 174,524 4.4 △ 16.6 99,797 107,004 7.0 7.2
BMW 95,151 95,449 2.4 0.3 17,335 18,953 1.2 9.3
メルセデス・ベンツ 57,539 57,063 1.4 △ 0.8 12,905 10,663 0.7 △ 17.4
JAC 25,391 24,683 0.6 △ 2.8 24,826 24,445 1.6 △ 1.5
MG Motor 60,168 48,816 3.2 △ 18.9
スズキ 43,661 39,436 2.6 △ 9.7
ルノー 29,892 33,265 2.2 11.3
三菱自動車 24,706 27,994 1.8 13.3
吉利汽車(Geely) 6,596 22,258 1.5 237.4
長安汽車(Changan) 0 19,308 1.3
長城汽車(Great Wall) 14,455 15,336 1.0 6.1
奇瑞汽車(Chirey/Omoda/Jetour) 29,991 8,433 0.6 △ 71.9
スバル 3,321 4,436 0.3 33.6
モーターネーション(BAIC等) 10,497 2,680 0.2 △ 74.5
いすゞ 2,466 2,488 0.2 0.9
福田汽車(Foton) 2,456 2,260 0.1 △ 8.0
その他 9,003 7,938 0.5 △ 11.8
日系企業合計 1,318,893 1,334,912 33.8 1.2 598,200 627,361 41.1 4.9
合計 3,989,483 3,953,494 100.0 △ 0.9 1,504,322 1,524,638 100.0 1.4

注:系列ブランド込み。すなわち、例えばフォルクスワーゲンにはSeat、Audi、Porscheを含む。
いすゞは、「ELF100」「ELF200」「ELF300」についてだけ販売台数を報告している(そのほかは、大型車両として別途に報告)。
奇瑞汽車は2025年5月以降、販売台数をINEGIに届け出ていない。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)

年々中国企業の参入企業が増える中、一見すると伸び悩むBEV市場において、厳しい競争環境になっているようにみえる。しかし、当地の統計で留意しなければいけないのは、中国系メーカー〔比亜迪汽車(BYD)など〕)や米国系の一部(テスラなど)の一部、特にBEVやPHEVを販売するメーカーが、INEGIに販売台数を報告していないことだ(2026年2月4日付ビジネス短信参照)。つまり、公式統計だけでは中国メーカーの動きを把握しきれない。

そこで、各社の公式ウェブサイトから、メキシコでの販売活動を確認できた主要な中国系メーカーのBEV・PHEVの車種やその販売価格を表2にまとめた。INEGIに報告していない企業〔BYD、広州汽車(GAC)、ソーラーエバービークル(SEV)(注2)〕はBEVの車種が多いため、BEVを中心に販売していることが分かる。一方、INEGIに報告している企業群は、BEVとPHEVを両方販売しているケースや、PHEVを中心に販売する企業〔長城汽車(Great Wall)や奇瑞汽車(Chirey、Omoda、Jetour)など〕もある。

この表だけでは、各車種のBEVとPHEVの販売数を説明できないが、(1) BEVについて、INEGIのデータに反映されていない販売車種が多いこと、(2)販売台数だけでメキシコ市場を説明することが難しいことは少なくとも見て取れる。

表2:中国系メーカーの当地販売車種(BEV、PHEV、REEV) 注1:1メキシコペソ=約8.8円(2026年1月時点)。 注2:REEVは、Range Extended Electric Vehicleの略。モーターで車輪を駆動しつつ、走行中に内燃エンジンで発電が可能。 注3:Zeekerは吉利汽車が、JAECOOは奇瑞汽車が展開するブランド。それぞれのカテゴリーごとに分類した。
企業名 種類 主要な車種 販売価格(MXN)
比亜迪汽車(BYD) BEV SEALION 7/DOLPHIN MINI 5 Seats/YUANPRO/
SEAL AWD/SEAL RWD
399,800~949,800
PHEV ATTO 8/M9/SONG PLUS DM-i/KING DM-I
SHARK/SONG PRO DM-i
499,800~1,199,800
広州汽車(GAC) BEV AION UT Standard/AION UT ELITE/AION
Y GX/HTOTEC HT
419,900~999,900
PHEV GN8 PHEV 1,288,800
ソーラーエバービークル(SEV) BEV E-Nat/E-Tus/Friday/Friday 410 595,900~899,900
江淮汽車(JAC) BEV E10X/E30X 371,000~515,000
PHEV JAC6 PHEV/Traveler PHEV 599,000~899,000
MGモーター BEV MG4 ELECTRIC STYLE AT/MG4 ELECTRIC EXTENDED RANGE AT/IM LS7 ELITE/CYBERSTER TROPHY AWD 100 AÑOS/CYBERSTER 400KW 77 KWh TROPHY 499,000~1,399,000
吉利汽車(Geely) BEV GEELY EX5/ZEEKR X/ZEEKR 001/Zeekr 7X 699,990~1,129,000
PHEV GEELY EX5 EM-I GF 599,990
長安汽車(Changan) BEV CHANGAN DEEPAL S07(BEV) 799,000
PHEV EADO PLUS iDD/CS55 PLUS iDD 459,900~599,900
REEV CHANGAN DEEPAL G318/S05/S07/HUNTER E 819,900~1,009,900
長城汽車(Great Wall) BEV ORA 03 519,900
PHEV HAVAL H6 PHEV
POER 500 Híbrida Enchufable Premium/Luxury/Ultimate
774,900~1,171,900
奇瑞汽車(Chirey/Omoda/Jetour) PHEV Tiggo 7 PHEV CSH/Tiggo 8 PHEV CSH/T1 i-DM/T2 i-DM/JAECOO 7 ELEMental/JAECOO 7 INSPIRE 599,900~899,900
モーターネーション BEV SERES 5 EV 1,199,000
REEV SERES 5 MAX 1,199,000
PHEV DFSK E5 677,900

注1:1メキシコペソ=約8.8円(2026年1月時点)。
注2:REEVは、Range Extended Electric Vehicleの略。モーターで車輪を駆動しつつ、走行中に内燃エンジンで発電が可能。
注3:Zeekerは吉利汽車が、JAECOOは奇瑞汽車が展開するブランド。それぞれのカテゴリーごとに分類した。
出所:各社公式ウェブサイトからジェトロ作成(2026年1月時点)

次に、約2年前(2024年1月時点)に販価をまとめていた主要EV車種について(2024年1月9日付地域・分析レポート参照)、直近価格(2026年1月時点)と比べてみた結果が表3だ。なお、モデルチェンジしたり、メキシコでの販売が終了したりした車種が一部にあるため、全てを比較することはできなかった。2026年1月時点でも販売が続いている車種では、全体として販価据え置きまたは低下になっている。その要因として、技術革新などで製造コスト自体が下がった可能性もあるものの、中国系を含めEVメーカーのメキシコ参入が相次ぎ、当地市場を取るために価格競争に発展した結果とも考えられる。

表3:中国EVメーカー車種の販売価格の比較(ーは値なし) 注:2026年1月時点で各社公式HPから確認できなかった車種については記載していない。
完成車
メーカー名
(国名)
車種
(2024年1月時点)
販売価格
(2024年1月時点)
(MXN:メキシコペソ)
車種
(2026年1月時点)
販売価格
(2026年1月時点)
(MXN:メキシコペソ)
BMW(ドイツ) ix1 2024 1,330,000~ ix1 2026 1,159,900~
テスラ(米国) モデル3 881,900~ モデル3 1,029,900~
BYD(中国) ユアン プラス EV 799,000~
BYD(中国) YUAN PRO 579,800~
SEV(中国) E-Nat 615,900~ E-Nat 615,900~
GWM(中国) ORA 03 536,900~ ORA 03 519,900~
BYD(中国) ドルフィン 535,990~
BYD(中国) ドルフィンミニ 5シート
300km/380km
399,800~ / 415,800~
JAC(中国) E 10X 439,000~ E 10X 371,000~

注:2026年1月時点で各社公式HPから確認できなかった車種については記載していない。
出所:各社公式HPからジェトロ作成

さらに通商環境からも、中国系EVメーカーが低価格を維持しようとする姿勢がうかがえる。

メキシコ政府は2024年9月30日、販売を促進するためにEV車の一般関税率を0%にしていた措置を撤廃。10月1日から、乗用車には15%の一般関税がかかるようになった。そのため、図2のように2024年10月前に駆け込み輸入が発生していた。その直後は輸入台数が減少していたものの、2025年から再び増加傾向になっている。

中国メーカーは、ほとんどメキシコで生産しておらず、「軽量自動車新車製造企業登録(注3)」に基づく特別措置は受けられない。表3から推測すると、こうした中で一般関税がかかっていても、その上昇分を販価に転嫁せずに販売していたとみられる。つまり、中国車の販売戦略として、利益率を下げてでも市場を獲得するため、販売価格を維持または下げて販売していたことがわかる。

図2:輸入国別EV新車輸入台数の推移
メキシコにおける2024年1月から2025年11月までの月ごとの輸入国別EV新車輸入台数の推移を示した図。対象国は日本、米国、ベルギー、ドイツ、タイ、中国で、その他の国も含めた合計台数も示している。2024年1月は日本1,007台、米国152台、ベルギー111台、ドイツ70台、タイ1,709台、中国2,151台、合計5,204台。2024年2月は日本1,277台、米国228台、ベルギー334台、ドイツ56台、タイ1,636台、中国797台、合計4,398台。2024年3月は日本1,329台、米国343台、ベルギー281台、ドイツ9台、タイ907台、中国1,355台、合計4,282台。2024年4月は日本350台、米国298台、ベルギー316台、ドイツ168台、タイ860台、中国2,283台、合計4,282台。2024年5月は日本16台、米国523台、ベルギー143台、ドイツ273台、タイ3,179台、中国4,937台、合計9,126台。2024年6月は日本22台、米国221台、ベルギー243台、ドイツ300台、タイ1,199台、中国3,327台、合計5,473台。2024年7月は日本0台、米国195台、ベルギー289台、ドイツ245台、タイ600台、中国6,131台、合計7,500台。2024年8月は日本579台、米国284台、ベルギー289台、ドイツ105台、タイ267台、中国6,410台、合計7,941台。2024年9月は日本937台、米国162台、ベルギー269台、ドイツ351台、タイ450台、中国9,323台、合計11,502台。2024年10月は日本335台、米国22台、ベルギー0台、ドイツ108台、タイ538台、中国1,487台、合計2,496台。2024年11月は日本1,020台、米国236台、ベルギー3台、ドイツ63台、タイ12台、中国2,219台、合計3,558台。2024年12月は日本797台、米国122台、ベルギー2台、ドイツ116台、タイ342台、中国1,098台、合計2,516台。2025年1月は日本396台、米国140台、ベルギー0台、ドイツ161台、タイ1,235台、中国2,492台、合計4,433台。2025年2月は日本964台、米国92台、ベルギー0台、ドイツ135台、タイ883台、中国3,011台、合計5,099台。2025年3月は日本683台、米国44台、ベルギー0台、ドイツ200台、タイ500台、中国8,529台、合計9,957台。2025年4月は日本743台、米国33台、ベルギー0台、ドイツ338台、タイ1,065台、中国6,475台、合計8,692台。2025年5月は日本648台、米国126台、ベルギー0台、ドイツ365台、タイ2,367台、中国6,055台、合計9,605台。2025年6月は日本567台、米国189台、ベルギー32台、ドイツ235台、タイ1,520台、中国3,680台、合計6,254台。2025年7月は日本56台、米国71台、ベルギー56台、ドイツ204台、タイ444台、中国11,458台、合計12,306台。2025年8月は日本355台、米国121台、ベルギー12台、ドイツ219台、タイ96台、中国4,593台、合計5,526台。2025年9月は日本596台、米国139台、ベルギー1台、ドイツ180台、タイ400台、中国1,065台、合計2,439台。2025年10月は日本385台、米国162台、ベルギー54台、ドイツ216打、タイ736台、中国3,223台、合計4,798台。2025年11月は日本0台、米国31台、ベルギー109台、ドイツ149台、タイ486台、中国6,128台、合計6,904台。

出所:GLOBALTRADE ATLASからジェトロ作成

さらなる一般関税引き上げでEV販価は上がるのか

しかし、その戦略をも揺るがす可能性があるのが、メキシコ政府による一般(MFN)関税率の大幅引き上げ(2026年1月6日付ビジネス短信参照)だ。その結果、自動車(完成車)には50%の一般関税が賦課されることになるため、企業にとっては非常に大きな負担となる。

実際にMFN税率引き上げのコスト分を販価に転嫁していくのか、今後の各社の動向に注目が集まっている。

この点、長安汽車(Changan)は現地紙のインタビューで、「2026年の販売に向け、在庫を積み増している。これにより、競争力のある価格で、メキシコ市場を確保し続ける」とした(「エル・エコノミスタ」紙2025年9月24日付)。また、メキシコ電動車促進協会(AMIVE)のルマン・カルモナ・パレデス代表は、「MFN税率引き上げが必ずしも中国から輸入されたEVの販価上昇につながるわけではない。中国企業には、影響の一部を吸収できる十分なマージンがあるため、価格上昇は限定的になり得る」との見方を示した。

一方で、カソ・イ・アソシアードス(コンサルティング会社)のアルマンド・ソト社長は、一般関税の価格引き上げ圧力の中で「BYDグループ、MG、GWMなど、メキシコにグローバルな体制を持つブランドは事業を継続できる。しかし、独立系輸入業者はより厳しい環境を乗り切れない可能性がある」と指摘した(「エクスパンシオン」紙1月23日)。

中国メーカーは虎視眈々(たんたん)と直接投資を狙う

中国系EVメーカーによるメキシコへの投資案件には、2024年に計画が発表されていたものの、2025年に入って白紙撤回または修正されたケースが相次いだ。その背景には、2024年10月にクラウディア・シェインバウム大統領が就任し、米国で2025年1月にトランプ政権が発足するなど、中国車を取り巻く通商環境が一変したことがある。

中国企業は現状をどう捉えているのだろうか。プレスリリースに基づく公式見解こそないものの、各種報道から引き続きメキシコへの投資に関心を示していることがうかがえる(表4参照)。

例えば、BYDは2024年、メキシコへの投資計画を具体的に発表していたが、米国関税政策などによる不確実性の高まりから2025年7月に投資計画を保留にした。一方で、閉鎖が決まった大規模自動車工場の引き継ぎ先の入札において、BYDとGeelyが手を挙げているという報道もある。各社は引き続きメキシコへの進出を狙っている状況だ。

表4:中国EVメーカーのメキシコに向けた投資に関する報道(2025年1月~12月)
企業名 報道内容
BYD 2025年7月、2024年に発表していたメキシコへの投資計画の延期を発表。しかし2025年11月頃には、投資に関して改めて前向きな姿勢を示した。
長安汽車(Changan) 2025年9月、メキシコへの投資に関心を示した。
奇瑞汽車(Chirey) 2025年12月、「2026年以降も引き続きメキシコへの投資に関心がある」ことを示した。
MG Motor 2024年に発表していたメキシコへの投資計画に関して、2025年8月、改めて投資継続の意思があることを示した。

出所:各種報道から作成

メキシコのEVインフラ整備が急務

メキシコ・エネルギー省(SENER)配下の国家電力管理センター(CENACE)は2024年2月、国家電力系統開発プログラム(PRODESEN)を発表。当プログラム上、2038年までに640万台のEVが走行するまでに市場規模が拡大すると予測している。

しかし、EV利用は2025年時点で、都市部に集中している。メキシコの全32州のうち、4州の占める割合がBEVで68.1%、PHEVで62.4%に上っているのだ(図3参照)。

EV利用が都市部以外にも広がるには、メキシコ全土でのEV充電スタンドの拡充、莫大(ばくだい)な電力消費をまかなえる発電能力の強化、などのインフラ整備が急務だ。

図3:BEV、PHEV、HEVの州別販売台数
メキシコにおける州別の2023年から2025年のBEV、PHEV、HEVの販売台数・全体に占める割合を示した図。メキシコシティ、ハリスコ州、ヌエボレオン州、メキシコ州、その他合計の数字と車種ごとの全体に占める割合を記載している。2023年のBEVはメキシコシティ5,585台で39.4%、ハリスコ州746台で5.3%、ヌエボレオン州943台で6.7%、メキシコ州2,644台で18.7%、その他合計4,254台で30.0%。同年のPHEVはメキシコシティ1,848台で32.0%、ハリスコ州641台で11.1%、ヌエボレオン州572台で9.9%、メキシコ州489台で8.5%、その他合計2,228台で38.6%。同年HEVはメキシコシティ11,443台で21.0%、ハリスコ州5,031台で9.3%、ヌエボレオン州6,027台で11.1%、メキシコ州7,078台で13.0%、その他合計24,789台で45.6%。2024年のBEVはメキシコシティ10,084台で41.5%、ハリスコ州1,520台で6.3%、ヌエボレオン州1,422台で5.9%、メキシコ州3,654台で15.0%、その他合計7,610台で31.3%。同年PHEVはメキシコシティ3,042台で38.1%、ハリスコ州707台で8.8%、ヌエボレオン州750台で9.4%、メキシコ州768台で9.6%、その他合計2,727台で34.1%。同年HEVはメキシコシティ20,434台で22.2%、ハリスコ州8,059台で8.8%、ヌエボレオン州9,601台で10.4%、メキシコ州12,583台で13.7%、その他合計41,349台で44.9%。2025年BEVはメキシコシティ8,571台で41.0%、ハリスコ州1,637台で7.8%、ヌエボレオン州1,574台で7.5%、メキシコ州2,461台で11.8%、その他合計6,680台で31.9%。同年PHEVはメキシコシティ4,129台で30.2%、ハリスコ州1,476台で10.8%、ヌエボレオン州1,433台で10.5%、メキシコ州1,495台で10.9%、その他合計5,151台で37.6%。同年HEVはメキシコシティ25,455台で22.7%、ハリスコ州8,730台で7.8%、ヌエボレオン州11,642台で10.4%、メキシコ州16,109台で14.4%、その他合計50,181台で44.8%。

出所:国立統計地理情報院(INEGI)

メキシコ・エレクトロモビリティー協会(EMA)の報告によると、2025年12月時点で、充電スタンド数は全国で、民間部門(EV所有者の自宅、販売ディーラー・企業など)で5万2,666カ所、公共ステーションが4,060カ所ある。データを公開し始めた2024年7月以来、民間・公共ともに設置数が増加傾向にある。他方で、充電スタンドをさらに増やすには、民間部門に加えて、政府によるイニシアチブが必要になる。しかし現状では、目立った動きがない。

発電能力の強化についても、やはり課題含みだ。増え続ける電力需要に対して、国営企業の電力庁(CFE)だけでは発電能力に限りがある。当面は、2025年3月に施行した新電力部門法(LSE)により民間事業者の参入機会を明確化できるかが注目される(2026年1月26日付地域・分析レポート参照)。ただし、発電所の設置には時間がかかるため、いずれにしても急激な電力供給増加は望めない。

このように、メキシコのEV市場には不確実性が高く、急激に伸びる要因が少ない。ただ、中国EVメーカーは当地市場獲得に向けて着実に動いており、慎重とはいえ、進出も進めようとしている。

中国企業の一般関税への対応に加え、メキシコ政府のインフラ整備に向けた動きに今後も注目したい。


注1:
モーターネーションは、北京汽車(BAIC)やセレス(Seres)など、中国車の輸入販売を行うメキシコ企業。 本文に戻る
注2:
SEVは、ソーラーエバー(Solarever)グループ(中国のソーラーパネルメーカー)が設立したEVメーカー。2024年、当国ドゥランゴ州に生産拠点を建設する計画を発表した。 本文に戻る
注3:
軽量自動車新車製造企業登録制度は、メキシコで完成車の生産を行う事業者に対し、完成車の無関税輸入割当(生産台数の10%)の恩典を与える制度。登録するためには、車両総重量8,864キログラム以下で、関税分類が8702項、8703項(ただし8703.10号を除く)、8704項のいずれかに該当する新車の製造業者であり、直前の年度において、メキシコで前記カテゴリーの車両を5万台以上生産した実績がある、という要件を満たす必要がある。詳細は、「外資に関する奨励」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
原 大智(はら だいち)
2021年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援課、販路開拓課、ジェトロ富山での勤務を経て、2025年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
阿部 眞弘(あべ ただひろ)
2017年、ジェトロ入構。サービス産業課、商務・情報産業課、イノベーション促進課、ジェトロ山口を経て、2022年9月から現職。

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