抹茶ブームを経て本格的な普及段階に移行するASEAN日本茶市場
2026年5月18日
日本茶の輸出は、従来の欧米市場に加え、近年はASEANにおいても急速に存在感を高めている。世界的な抹茶ブームが市場拡大を力強く後押しする一方、原材料となる碾茶(てんちゃ)の供給制約や価格高騰など、新たな課題も顕在化しつつある。こうした中、ASEAN市場では抹茶を入り口としながら、煎茶やほうじ茶など他茶種への関心や、日本茶の品質・文化的価値を重視する動きが広がり始めている。本稿では、ASEANにおける日本茶需要の構造を整理し、国別の消費特性を踏まえながら、抹茶ブームの先に見据えるべき日本茶輸出の可能性を提示する。
なお、本稿で扱う主な日本茶の種類と特徴は以下のとおりだ。日本茶は、栽培方法や加工工程の違いによって、味わいや用途が異なる。
- 煎茶:日本国内で最も一般的に飲用されているといわれる茶種。日光を十分に当てて栽培した茶葉を蒸して揉み、乾燥させて作られる。この「蒸す」工程によって茶葉の発酵を止めるのが特徴で、これにより特有の鮮やかな色と風味が保たれる。
- 抹茶:遮光栽培によりうま味成分を高めた茶である碾茶を粉末状に加工したもの。鮮やかな緑色と濃厚なうま味が特徴だ。飲料としてだけでなく、菓子や飲料の原料としても幅広く利用されている。
- ほうじ茶:煎茶や番茶を焙煎(ばいせん)した茶で、香ばしさと低カフェインが特徴だ。
- 玄米茶:煎茶や番茶に炒った玄米を加えた茶で、香ばしさと軽やかな味わいが特徴だ。
日本茶の輸出先として存在感を増すASEAN市場
日本食への関心の高まりや健康志向の拡大を背景に、日本茶の世界への輸出額は右肩上がりで推移している。日本茶輸出促進協議会によれば、日本茶の輸出額は2015年の約101億円から増加を続け、約10年で7倍規模へと成長した。特に直近では、2024年の364億円から2025年には720億円へと拡大し、1年で約98%増とほぼ倍増している。
輸出先別に見ると、米国やEU、英国といった従来の主要市場は、数量・金額ともに引き続き堅調な拡大を示している。その一方で、ASEAN諸国向け輸出も近年急速に伸長しており、日本茶輸出先の構造はより多層化している。輸出量では、2019年にASEAN向けがEU加盟国向けを初めて上回って以降、この状況が継続しており、2025年もASEAN向けが2,495トン、EU加盟国向けが1,938トンと、ASEANがEUを上回っている(表参照)。
一方、金額ベースでは、依然としてEU向けがASEANを上回っており、市場ごとに異なる特性がみられる。すなわち、EUは高単価志向、ASEANは数量拡大型の市場だ。ただし、ASEAN諸国においても、経済成長や中間層の拡大を背景に、2025年の輸出単価は前年同期と比べて38%上昇しており、日本茶は高付加価値商品としての認知を徐々に高めている。
| 項目 | 輸出量(kg) | 輸出額(億円 ) | ||
|---|---|---|---|---|
| 2024年 | 2025年 | 2024年 | 2025年 | |
| ASEAN計 | 1,750,858 | 2,495,333 | 50 | 100 |
| EU加盟国計 | 1,266,499 | 1,938,903 | 649 | 1,394 |
出所:日本茶輸出促進協議会資料からジェトロ作成
世界的な抹茶ブームの裏にある抹茶依存のリスク
こうしたASEANを含む輸出拡大を強力に後押ししているのが、世界的な抹茶ブームによる粉末状茶の輸出量の急増だ。日本茶輸出促進協議会の報告によると、2025年の粉末状茶(抹茶を含む)輸出額は603億円となり、輸出額全体の84%を占めた。2024年実績の271億円から2倍以上の水準に達した。
急速に高まる抹茶需要は、輸出産業としての成長が期待される一方で、新たな課題も浮かび上がっている。静岡県内の茶商は「2025年は抹茶の引き合いが例年の数倍に増え、世界各国からバイヤーが訪れた。価格も3~4倍に上昇し、需要に対し供給が足りていない。世界中で抹茶の取り合いになっている」と指摘する。

抹茶の原料となる碾茶は、収穫前に遮光資材で被覆する必要があり、手間とコストのかかる栽培管理が求められるため、全ての農家が容易に生産できるわけではない。そのため、急増する需要に生産体制が追いつかず、国内供給の逼迫や価格高騰、品質確保といった構造的な課題が顕在化しつつある。また、近年の抹茶ブームを受け、煎茶から碾茶へと生産転換する農家もみられる一方で、抹茶ブームがどこまで持続するか不透明だとして、転換に慎重な姿勢を示す生産者もいまだ多い。抹茶ブームは一過性の現象ではなく、日本茶全体の裾野を広げる入り口商品として機能している。
こうした背景を踏まえ、ジェトロ浜松は、ASEANにおける日本茶の今後の展開可能性を検討するため、消費者の飲用行動や嗜好(しこう)、購入形態の違いを国別に把握することを目的として、ASEANの中でも所得水準、食文化が異なるシンガポール、タイ、ベトナムの3カ国を対象とし、「ASEAN(シンガポール・タイ・ベトナム)における日本茶消費者嗜好・購買行動調査(主要3カ国の国別分析)」を実施した。本調査では、今後試してみたい飲み方や茶種ごとの認知度などを把握し、抹茶に集中しがちな需要を相対化するとともに、各国における煎茶やほうじ茶など他の茶種の可能性を可視化した。
ASEAN3カ国における日本茶需要の特徴と国別の違い
アンケート結果によれば、日本茶への関心、認知度、購入意欲は、シンガポール、タイ、ベトナムのいずれの国でも高水準に達しており、日本茶ブランドはASEAN市場において十分に確立されていることが確認された。一方で、飲用シーンや購入形態、支持される茶種には国別の違いがみられる。
タイ:粉末商品やRTDの存在感が強く、アレンジのしやすさが重視される市場
タイでは、粉末商品やRTD(Ready To Drink)の存在感が強く、アレンジのしやすさが重視されている。飲用シーンは、仕事の合間やリラックス時が中心であり、ミルクや甘味を加えたアレンジ飲料への関心も高い。茶種別に見ると、抹茶の人気が突出しており、認知度、飲用頻度ともに他の茶種を大きく上回っている。本調査に加えてジェトロが実施したバンコク市内での店頭調査では、専門カフェ、ショッピングモール、高架鉄道(BTS)駅構内など、幅広い流通チャネルで抹茶商品が展開されていることが確認された。価格帯や提供形態も多様であり、コーヒーと並ぶ日常的な選択肢として受け入れられている。
ベトナム:煎茶を中心に、日常的に飲まれる日本茶が浸透する市場
これに対し、ベトナムでは日常的な食事とともに日本茶が飲用されており、煎茶の認知度が最も高い点が他国と異なる特徴といえる。玄米茶を含め、比較的幅広い茶種が浸透しており、飲みやすさや香り、食事との相性が評価されている。中高年層を中心に、日常飲料として安定した支持を得ていることが確認された。
シンガポール:抹茶と煎茶がバランスよく好まれ、品質が重視される市場
シンガポールでは、抹茶と煎茶の支持が拮抗(きっこう)しており、「飲みやすさ」や「苦渋味(くじゅうみ)の少なさ」といった品質面が重視されている。飲用シーンは仕事の合間やリラックス時が中心で、購入形態としてはティーバッグが主流となっている点も特徴だ。
以上の結果から、ASEAN市場における日本茶需要は一様ではなく、国ごとに異なる飲用習慣や価値観を背景に、茶種ごとに異なる役割を担いながら形成されていることが確認された。抹茶は3カ国共通で日本茶市場への入り口商品として機能している一方、煎茶はベトナムを中心に日常的な飲用茶としての地位を確立しており、ほうじ茶や玄米茶についても、用途や飲用シーンを明確にすることで段階的な受容拡大が期待される。

スタンド(ジェトロ撮影)

日本茶専門カフェ(ジェトロ撮影)
タイを起点に読むASEAN日本茶市場の成熟
前述のとおり、タイでは抹茶を中心とする日本茶需要が数量面で急拡大している。以下では、こうした輸出量拡大の先に、市場がどのような段階へ移行しつつあるのかを、現地関係者へのヒアリングを基に整理する。 まず、バンコク市内の日本茶専門店チャヤアンドコー(CHAYA & CO)では、抹茶ブームを契機に、日本茶を「体験」として提供する取り組みが広がっている。同店では、高品質な茶葉の直輸入に加え、入れ方や背景文化を紹介するワークショップを実施し、日本茶の価値を文化的文脈から訴求している。さらに、2026年2月には来客数の増加を受けて、カフェに隣接する茶室を増設した。代表のジッチャヤ・サラソムバット氏は「2025年に爆発的な抹茶ブームを迎えた後も、日常消費として定着している。最近では、ほうじ茶など焙煎茶への関心も高まり、抹茶にとどまらず幅広い茶種への需要が広がっている。健康志向層を中心に、日本茶の背景文化への関心も強まっており、出店に関する相談も増えている」と述べた。

一方で、抹茶需要の急拡大は、市場の成熟に伴う課題も浮き彫りにしている。抹茶ブームの前から日本茶を取り扱ってきた輸入事業者 Union Pの代表取締役社長ラジャプルック・パニッチ氏へのヒアリングでは、バンコクにおける日本茶市場の課題と可能性が示された。同氏は、「タイでは抹茶が広く普及する一方、表示の不一致や他国産茶との混在など、品質保証に関わる不透明性が依然として残る。品質水準に対して価格が大きく乖離する商品も確認され、産地や原料の出所や加工工程を含めたトレーサビリティの仕組みが求められている」と懸念する。こうした課題はあるものの、日本茶に対する関心は高く、適切な品質保証と情報提供が整えば、より安定的な市場成長が期待できると強調した。抹茶ブームは日本茶市場拡大の原動力となったが、今後の持続的な成長に向けては、茶種ごとの特性を踏まえたブランド戦略と、品質を裏付ける情報提供が一層重要になると考えられる(取材日時:2026年2月2日、2月4日)。

ラジャプルック氏(ジェトロ撮影)

(ジェトロ撮影)
抹茶ブームを経て多層化するASEANの日本茶需要
本調査および現地調査から、ASEAN市場における日本茶需要は、抹茶を起点として数量面で市場を大きく押し上げ、日本茶市場への入り口商品として重要な役割を果たしていることが明らかとなった。一方で、飲用シーンや購入形態、重視される価値は国ごとに異なり、さらに茶種ごとにも役割の違いがみられた。
このことから抹茶ブームを起点とした市場拡大は、ASEANにおける日本茶の本格的な普及段階への移行を示唆している。シンガポールの品質志向、ベトナムの日常飲用、タイの体験型消費という多様な需要が、ASEAN市場の多層的な普及段階を形成している。ASEAN市場は、日本茶に対する高い好意度を共有しつつも、実態としては細分化された需要構造を有している。さらに、タイ市場の事例が示すように、抹茶ブームを経て、市場は現在、品質や文化的価値を重視する段階へと移行しつつある。今後も成長が期待されるASEAN市場の開拓に向けては、茶種ごとの特性を踏まえたブランド戦略と、品質を裏付ける情報提供がこれまで以上に重要になると考えられる。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ浜松
杉山 希実(すぎやま のぞみ) - 2021年、ジェトロ入構。プラットフォームビジネス課を経て、2024年12月から現職。





閉じる





