変容する中国NEV市場とその各国への影響中国自動車生産地の移り変わり
湖北省の自動車産業と日系企業の動向

2025年12月4日

2024年の中国の自動車生産台数は前年比3.7%増の3,128万2,000台、販売台数は4.5%増の3,143万6,000台で、16年連続で世界一の自動車の生産台数と消費量となっている。国内の生産地域について、2010年代までは海外の完成車メーカー(OEM)と合弁会社を設立するような中国大手自動車メーカーが本拠地を置く各省市自治区の生産台数が多かった。しかし、2021年以降、新エネルギー車(NEV)の新興メーカーが登場し、比亜迪(BYD)の生産拠点が各地に拡大するなどして、主要な生産地域に変化がみられる。本稿では、中国国内の主要自動車生産地域の移り変わりと、中部地域の主要生産拠点である湖北省の自動車産業の状況を、日系企業の動向も踏まえ報告する。

自動車生産地域の移り変わり

これまでの中国の主要な自動車生産地域として、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)、米国のゼネラルモーターズ(GM)と合弁を組む上海汽車集団が本社を置く上海市、VWやトヨタ自動車(以下、トヨタ)と合弁を組む第一汽車集団が本社を置く吉林省、マツダ、米国のフォードと合弁を組む重慶長安汽車が本社を置く重慶市、日産、本田技研工業(以下、ホンダ)と合弁を組む東風汽車集団が本社を置く湖北省、ドイツのダイムラー、韓国の現代自動車と合弁を組む北京汽車集団が本社を置く北京市、トヨタ、ホンダと合弁を組む広州汽車集団が本社を置く広東省、GMと上海汽車集団の合弁会社の上海通用五菱が本社を置く広西チワン族自治区などが挙げられる。しかし、近年は、蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(以下、小鵬)など、NEVの新興メーカーが登場し、BYDの生産拠点が既存の集積地以外にも拡大するなどして、主要な生産地域は変わりつつある。

各メーカーの生産地の多様化のほかに、自動車生産統計の集計方法が変更されていることも、生産地域に変化が生じている理由の1つとして挙げられる。国家統計局による自動車生産統計は従来、工場の所在地にかかわらず、当該メーカーの本社所在地の省に全ての生産台数を計上していた。2021年以降、国家統計局は完成車の製造活動拠点を法人と見なした現地統計を推進するようになり、2021年から2024年にかけて中国各地で順次実施した(「第一財経」2025年8月13日)。2025年からは、国家統計局による自動車生産統計は、以前の集計単位である企業の本社所在地ではなく、実際の生産地のある省・市・自治区を生産地として統計に計上するよう完全に変わった(「河南日報」2025年4月11日)。

表1:中国の自動車主要生産地域の移り変わり (単位:万台)

2010年
省市自治区 生産台数
上海市 169.9
吉林省 164.2
重慶市 161.4
湖北省 157.8
北京市 150.3
広西チワン族自治区 136.6
広東省 134.8
その他 751.7
合計 1,826.7
2015年
省市自治区 生産台数
重慶市 260.9
上海市 243.0
広東省 239.4
広西チワン族自治区 229.4
吉林省 208.1
北京市 202.4
湖北省 196.4
その他 870.72
合計 2,450.3
2020年
省市自治区 生産台数
広東省 313.3
吉林省 265.6
上海市 264.7
湖北省 209.3
広西チワン族自治区 174.5
北京市 166.0
重慶市 158.0
その他 981.1
合計 2,532.5
2024年
省市自治区 生産台数
広東省 570.7
安徽省 262.0
重慶市 254.0
江蘇省 225.0
山東省 183.8
上海市 180.7
陝西省 175.4
その他 1,304.0
合計 3,155.6
2025年1-9月
省市自治区 生産台数
安徽省 240.4
広東省 208.8
重慶市 193.1
江蘇省 178.6
山東省 176.1
陝西省 145.9
浙江省 132.7
その他 1,129.2
合計 2,404.7

出所:国家統計局のデータを基にジェトロ作成

表1を見ると、2010年から2020年までは、海外OEMと合弁会社を設立した中国自動車メーカーが本社を置く上海市、吉林省、重慶市、湖北省、北京市、広東省、広西チワン族自治区が上位を占めていた。しかし、多くの都市で新しい集計方法が適用された2024年になると、吉林省、湖北省、北京市、広西チワン族自治区は順位を落とし、代わって安徽省、江蘇省、山東省、陝西省などが上位にランクインした。さらに、2025年1~9月の累計生産台数では、上海市も順位を落とし、浙江省が順位を上げたほか、2020年までは上位にランクインしていなかった安徽省が広東省を抜いて生産台数トップとなった。

湖北省の自動車生産の状況

湖北省は自動車生産台数で、2010年の第4位から、2015年には第7位に順位を下げた。それでも年間200万台近い生産台数があり、2020年には再び第4位となり、生産台数も200万台を超えた。しかし、2024年には順位を落として第10位、2025年1~9月では第13位となり、生産台数の順位は下落傾向にある(表2参照)。

自動車産業の調査会社マークラインズによると、湖北省に製造拠点を持つ主な乗用車メーカーは以下のとおり。

  • 東風汽車集団〔生産は東風汽車の自主ブランド(嵐図などEVも含む)〕
  • 東風汽車集団とホンダとの合弁の東風ホンダ汽車(以下、東風ホンダ)
  • 東風汽車集団と日産自動車との合弁の東風汽車(以下、東風日産)
  • 東風汽車集団と米ステランティスの合弁の神龍汽車
  • 上海汽車集団と米ゼネラルモータースの合弁の上汽通用汽車
  • 吉利汽車(生産している車種は、傘下のロータスブランドのEV)
  • 長城汽車〔生産はTankなどスポーツ用多目的車(SUV)やピックアップトラック〕

湖北省の生産台数を支えているのは、東風汽車集団とその合弁企業の工場で、生産地域としての位置付けは、東風日産と東風ホンダの生産台数に左右されるところがあった。2社の生産台数が東風汽車集団の生産台数に占める割合は、2017年に60%を超え、2020年には73%に達した。これによって、前述のとおり、同時期の湖北省の自動車生産台数は全国4位と上位を維持していた。しかし、割合が2022年に65%、2023年に63%、2024年に57%と徐々に減少すると、湖北省の順位も5位、7位、10位と下落した。2025年1~9月には49%まで減少し、湖北省の順位は14位まで低下した(図、表2参照)。

図:東風汽車集団の生産台数に占める東風日産と東風ホンダの割合
2016年から2024年、および2025年の1月から9月までの東風汽車集団における日産とホンダの生産台数 シェアを示す積み上げ棒グラフ。東風日産は、2016年36%、2017年39%、2018年43%、2019年45%、2020年43%、2021年39%、2022年37%、2023年35%、2024年34%、2025年1月から9月31%。東風ホンダは、2016年18%、2017年22%、2018年24%、2019年27%、2020年30%、2021年27%、2022年28%、2023年28%、2024年23%、2025年1月から9月18%。その他は、2016年46%、2017年40%、2018年33%、2019年28%、2020年28%、2021年33%、2022年36%、2023年37%、2024年44%、2025年1月から9月51%。

出所:東風汽車集団の生産販売台数発表資料を基にジェトロ作成

表2:中国の省市自治区別の自動車生産台数の湖北省の順位

年月 順位
2016年 6位
2017年 4位
2018年 4位
2019年 4位
2020年 4位
2021年 4位
2022年 5位
2023年 7位
2024年 10位
2025年1-9月 14位

出所:国家統計局のデータを基にジェトロ作成

湖北省の日系サプライヤーの状況

湖北省には、東風日産や東風ホンダ向けのサプライヤーが集積しており、2社の東風汽車集団の生産台数に占める割合の低下の影響を受けるなど、武漢市をはじめとする湖北省の日系企業は厳しい状況にある。武漢市日本商工会の会員企業(2025年7月時点で157社)の半数以上が自動車関係の企業(サプライヤー、物流企業など)だが、2025年7月に実施した景況感実態調査では、景況感の悪化を示す回答が半数を超えた(2025年9月26日付地域・分析レポート参照)。景況感の悪化を受け、2025年の投資額を2024年と比べて増加させるとの回答は10%にとどまった。また、湖北省の事業環境について、「非常に満足」「満足」の回答の合計は51%だった。2025年1月のアンケートの64%から、今回は10ポイント以上低下した上、「改善が必要」の回答が49%と半数に迫った。

このような苦境下でも、新たな取り組みを行う日系自動車部品企業もある。自動車部品企業A社は、自動車部品の鉄製部品のプレス技術や設備を生かして、EVに搭載する車載電池メーカーとのビジネスを模索している。自動車バッテリーの発火への対応として、車載電池パックをアルミから鉄にする動きに対応するものだ。自動車部品企業B社は、合弁相手の中国企業の営業力を生かして中資系OEMからの受注を開拓しており、競争は厳しいが、海外独資のサプライヤーより幅広く仕事ができているという。自動車部品企業C社は、主にガソリン車関係の部品を製造しており、中資系OEMの輸出向け車両に部品が使われている。プラグインハイブリッドやレンジエクステンダーEV(注1)など、ガソリンエンジンを使用するNEV向けの部品の受注が増えており、ガソリンエンジン周りの部品の急激な受注減は避けられているという。

ただし、日系企業が苦労する要因は、受注先の生産減少以外にもある点に留意したい。在中国日系企業では、中資系とのビジネスを模索する動きもある一方で、取引条件の厳しさや、発注先変更の速さなどの厳しさに直面している。本社も含めた社内での検討の結果、中国企業とのビジネスを行わないと決めたサプライヤーもある。具体的には、部品の入札が半年ごとに行われるため、材料をあらかじめ調達しておかないと納期に間に合わないが、入札に失敗した場合には在庫を抱えてしまうことになるなど、中国企業側のリスクを押し付けられる場合があるという。さらに、BYDなどは部品の内製化を進めており、最初は受注できても、内製化が進むことで、買いたたかれる恐れもあるなどの声も挙がる(注2)。

湖北省に関連するOEMの動き

東風汽車集団と日産、ホンダの合弁関係でも動きがある。東風日産は、2025年4月にNEVの新モデル「N7」の販売を開始し、8月には引き渡し台数が月間1万台を突破した。2025年7月には、東風汽車集団と日産が輸出業務の合弁会社を設立し、年間10万台レベルの輸出を目標にするとしている(2025年7月3日付ビジネス短信参照)。一方で、東風汽車集団が東風本田発動機の持ち株50%を売却し、これを広汽ホンダが取得することが決定した。これは、広汽集団、ホンダ、東風汽車集団の3者協力モデルに大きな転換をもたらす機会になる可能性がある(2025年10月15日付ビジネス短信参照)。

湖北省の自動車生産台数は、東風汽車と東風日産、東風ホンダの生産台数減少に伴い、中国国内でも順位を下げている。一方、NEV関係では生産増加の動きがみられる。東風汽車集団では、NEVブランドの嵐図の生産販売台数は既に月間1万台を超えている上に、台数は増加傾向にある。このほか、小鵬は2021年4月に、武漢経済技術開発区管理委員会と、年間10万台の生産能力を持つ完成車工場建設などのプロジェクトに調印した。2025年4月には工場が完成し、政府関連部門の検収段階にある(「財聯社」2025年4月17日)。また、マークラインズによると、新興EVメーカーの小米汽車科技(以下、小米)が武漢市漢南区で2026年に生産を開始する予定だという。小鵬、小米などが生産を開始することで、湖北省の自動車生産台数が増加し、中国国内における主要生産地域としての順位が再び上昇する可能性もある。


注1:
航続距離延長を目的に、発電機として小さなエンジンを搭載したEV。
注2:
在湖北省日系企業6社へのヒアリング結果を基に取りまとめ。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所長
高橋 大輔(たかはし だいすけ)
1997年経済産業省入省、国際関係、エネルギー・環境関係部署、製造産業局自動車課(2016~2018年)を経て、2018年6月から2022年8月までジェトロ・上海事務所、2024年7月から武漢事務所に出向し現職。