変容する中国NEV市場とその各国への影響輸出と現地投資で進む海外進出
中国車載電池企業の戦略(後編)

2025年12月4日

前編では、中国電池メーカーの国内市場における応用分野への対応状況などを紹介した。本稿では後編として、新エネルギー車の普及に伴う中国電池メーカーの輸出と現地生産による海外市場開拓について紹介する。

世界市場で目覚ましい躍進を遂げている中国の新エネルギー車(NEV)とともに、電池メーカーの輸出が欧州を中心に好調に推移している。それに加え、欧州や東南アジアなどに生産工場を構える動きも活発化している。さらに、電池の蓄電システムや船舶、鉱山など自動車搭載以外に利用用途も広げている。ただし、米国の相殺関税などで先行き不透明感も漂う。

1~9月の電池輸出量は前年同期比45.5%増

中国汽車動力電池産業創新聯盟(CABIA)の発表によると、2025年1~9月における中国の電池(注1)輸出量は前年同期比45.5%増の199.9ギガワット時(GWh)で、総出荷量の18.7%を占めた(表1参照)。うち、NEV向けなどの駆動用電池は32.7%増の129.1GWhと、輸出の64.6%を占めているが、蓄電システムなどは76.3%増の70.7GWhと急伸している。なお、三元系電池とリン酸鉄(LFP)電池という2種類のリチウムイオン電池(LIB)はその輸出の大部分を占めており、他の種類の電池がわずか0.9GWhだった。

表1:中国2025年1~9月の電池輸出量(単位:GWh、%)
項目 輸出量 前年同期比
駆動用電池 129.1 32.7
階層レベル2の項目三元系電池 75.7 22.5
階層レベル2の項目LFP電池 52.4 51.8
階層レベル2の項目他の種類の電池 0.9 3.7
蓄電システムなど 70.7 76.3
階層レベル2の項目LFP電池 70.7 76.4
輸出 計 199.9 45.5

出所:中国汽車電池産業創新聯盟(CABIA)

CABIAは電池メーカー別の輸出量を明らかにしていないものの、公表したランキングによると、寧徳時代新能源科技(CATL)の輸出量が前年同期比37.9%増で首位を快走し、続いて比亜迪(BYD、同77.1%増)、中創新航科技(同84.2%増)、国軒高科(同61.8%増)の順となっている。電池大手各社は中国国内での過当競争や生産過剰などを背景に、海外に活路を見いだしているほか、欧米諸国が中国製バッテリー電気自動車(BEV)に対して関税を引き上げたことに伴い、中国自動車メーカーが海外生産を拡大していることも電池の輸出増の一因と考えられる。

CATLは2025年9月、ドイツのミュンヘンでNEV搭載のLFP電池「神行PRO」を発表した。「神行PRO」には同社最新の安全技術「NP3.0」を取り入れており、安全性が高く航続距離が長いほか、長寿命や急速充電など優れた特徴を持つという(2025年9月16日付ビジネス短信参照)。欧州市場向けの「神行PRO」は、「長寿命」と「超急速充電」の2モデルで展開される。欧州消費者の国をまたぐ長距離移動を想定した「長寿命」モデルは、航続距離が国際調和排ガス・燃費試験方法(WLTP)基準で758キロに達する。電池の寿命は12年または100万キロと、世界の乗用車向け電池で最長を誇るという。また、20万キロ走行後の劣化率はわずか9%にとどまり、欧州市場での長期リースに適した仕様だと強調した。そして、欧州の寒冷な気候にも対応する「超急速充電」モデルの航続距離は683キロだ。わずか10分の充電で航続距離が478キロとなり、欧州市場向けLFP電池の中で最速だという。さらに、寒冷地に適した特徴として、マイナス20度の環境でも、電池残量の20%から80%までの充電が20分で完了する。

CATLの海外市場での販売好調は、同社の業績に大きく貢献している。同社が公表した中間決算によると、2025年上半期(1~6月)の売上高は前年同期比7.3%増の1,789億元(約3兆5,780億円、1元=約20円)だった。うち、海外での売上高は21.1%増の612億元と、売上高の34.2%を占める。一方、中国国内の売上高は1.2%増の1,177億元と微増にとどまった。また、粗利率も海外は4.2ポイント増の29.0%で、国内の22.9%(0.1ポイント増)を上回った。

欧州を中心に輸出の拡大

欧州を中心とする主力市場への輸出は好調を維持している。業界団体の中国化学・物理電源行業協会(CIAPS)の発表によると、2025年1~9月の中国のLIB輸出額は前年同期比26.8%増の553億8,000万ドルに達した(表2参照)。ドイツ向けは29.9%増の102億6,500万ドルと全体の18.5%を占め、2025年5月から米国に代わって最大の輸出市場となっている。2位の米国向けは11.8%減の89億1,000万ドルと輸出全体の16.1%を占めた。上位国・地域別の前年同期比では、ドイツをはじめ、オランダ、フランス、スペイン、ハンガリーなどの欧州諸国がいずれも大きく伸びたほか、チリ、サウジアラビア、オーストラリア向けなども急拡大している。

表2:中国の上位国・地域別のLIB輸出額(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
輸出先 2024年1~9月 2025年1~9月
金額 順位 金額 伸び率
ドイツ 7,904 1 10,265 29.9
米国 10,106 2 8,910 △11.8
ベトナム 2,780 3 3,186 14.6
オランダ 1,822 4 3,064 68.1
韓国 2,716 5 2,569 △5.4
インド 1,518 6 2,495 64.3
オーストラリア 971 7 2,051 約2.1倍
日本 1,692 8 1,599 △5.5
サウジアラビア 400 9 1,388 約3.5倍
英国 1,167 10 1,264 8.4
フランス 674 11 1,236 83.4
チリ 263 12 1,181 約4.5倍
スペイン 890 13 1,176 32.2
ハンガリー 480 14 947 97.2

出所:中国化学・物理電源行業協会(CIAPS)

国際エネルギー機関(IEA)が2025年3月に公表した電池産業レポートでは、中国企業が世界で販売されている電池の約4分の3を生産していることを明らかにした。特に欧州連合(EU)での販売シェアは、2023年の28.2%から2024年の38.1%と約10ポイント上昇した。

目立つ現地生産への取り組み

中国電池メーカー各社は、輸出とともに、欧州や東南アジアなどに生産工場を構える動きも活発化している。

再生エネルギー大手の遠景科技集団傘下の遠景動力(AESC)は2025年6月、フランスに建設した「ギガファクトリー」が本格稼働を開始したと発表した。電池の年間生産能力はBEV約20万台分に相当するという。同社の電池を搭載した自動車大手ルノーのBEV「R5」が、フランス市場の販売首位を獲得したこともあり、「ギガファクトリー」で生産される車載電池は、ルノーを中心に欧州自動車メーカーに供給する見通しだ。

CATL子会社の寧波普勤時代(CBL)は2025年7月、インドネシアでニッケル精錬、電池サプライチェーンの構築などを手掛けるプロジェクトの着工式を行った。インドネシア国有鉱業会社のANTAMなど現地企業2社と共同で約60億ドルを投資する予定だ。電池の年間生産能力はBEV約20万~30万台分相当が計画されており、さらに蓄電システム分野にも参入する考えだ。CATLはドイツ、ハンガリーに構える電池工場を稼働させており、ステランティスと共同でスペインでも工場を建設している。

利用はNEV以外に広げる

急成長する中国の電池メーカー各社は、LIBの応用シーンをNEVから、太陽光・風力の発電を蓄える蓄電システム、鉱山機械、船舶などまで広げ、世界中の企業と提携しながら進めている。

国軒高科は2025年8月4日、同社製のLFP電池を採用した沖縄電力が、宮古島の宮古第2発電所に新設した蓄電システムの営業運転を7月30日に開始したと発表した。蓄電システムは日中に発電機や家庭の太陽光発電などから蓄電を行い、ピーク発生時に放電を行う仕組みだ。沖縄電力にとって初の蓄電システムは、定格容量が48メガワット時(MWh)、定格出力が12メガワット(MW)となっている。同蓄電システムには、高い安全性、長いサイクル寿命、優れた充放電スピードなどの性能を備えるという。

BYDの電池生産子会社である弗迪電池は2025年7月、オーストラリア鉱業大手のBHPと提携する覚書に調印した。両社は、大型採鉱設備および機関車向けの電池システムの開発と、急速充電インフラの整備で協力する見通しだ。BHPは鉱物輸送でディーゼル車両の代替手段として、BYDの商用車や小型車の導入を進めるほか、BYDが蓄電システム、電池リサイクル分野での技術ソリューションを鉱山事業に生かすことも検討するという。

CATLは2025年10月、デンマークの海運大手APモラー・マースクとグローバル戦略における協力覚書を締結した。CATLの電池技術分野における優位性を活用し、両社は電力システムの設計、エネルギー管理、電池リサイクルソリューションなどにおいて、マースクのコンテナ船隊、港湾システム、内陸輸送、倉庫の電動化を共同で推進する方針だ。一方、マースクもCATLの優先的なグローバル物流パートナーとなり、CATLに海運、空運、物流、倉庫・配送をカバーする一体的なサプライチェーンソリューションを提供するとした。

先行きに不透明感

国内の熾烈(しれつ)な競争を勝ち抜いて急成長する中国電池各社は、高い部材供給力とコスト競争力を生かし、海外市場での開拓も順調なようだ。ただ、いくつかの課題にも直面している。現時点で主流のLIBには、容量不足やレアメタルの使用などの課題があることから、より高いエネルギー密度を持つ次世代電池、とりわけ全固体電池に対する期待が高まっている。一方で、これらの分野では日本勢が開発で先行しており、中国電池メーカーにとって量産技術の確立や供給網の再構築が急務となっている。

もう1つの課題は、LIB産業に対する各国の不透明な貿易政策だ。米国は2025年7月、LIBの負極材などに使用される、中国原産のグラファイト(黒鉛)に対するアンチダンピング・補助金相殺関税の賦課を仮決定しており、一般的な税率が最高114.3%となった(2025年7月22日付ビジネス短信参照)。中国政府も2025年10月、LIBの製造に必要な設備、原材料、技術などの一部品目の輸出について、許可取得を義務付けると発表した(注2、2025年10月14日付2025年11月11日付ビジネス短信参照)。米中貿易摩擦の影響により、中国電池産業の先行きに不透明感が増している。


注1:
電池とは、主に新エネルギー車、蓄電システム向けのモノを指すが、電動アシスト自転車向けなどの小容量電池も一部含まれている。
注2:
11月7日、商務部公告2025年第70号において、当該措置を2026年11月10日まで暫定停止することが発表された。

中国車載電池企業の戦略

執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん)
2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。